【第11話】恐怖の巣窟
まるで地を這う芋虫のように蠢く人間の溜め池。
彼等に意思は感じられず、
それは、お゛ー、とか、あ゛ー、みたいな呻き声を出しながら、もぞもぞと犇めいていた。
そんな中に僕はふと、顔見知りを見つけてしまう。
「ねえアズサ、あそこにいるの……御者さんじゃない?!」
それは間違いなく、あの時一緒に商売をしたブラクリーの御者だった。
アズサが駆け寄り、御者の体を揺すって呼びかける。ーーしかし
「駄目……白目剥いて痙攣してる。
これは……毒?それも私たちが飲まされた痺れ薬より強烈な……モンスターの毒」
「モンスター!?」
「どうやら此処は、唯の洞窟じゃあなさそうね……」
洞窟の中はかなり広くて、まるで地下迷宮の様に入り組んでいた。
ーーー
暫く探索を続けていると、僕は暗闇の先に僅かに輝く光を見つけた。
「アズサ!向こうに明かりが見えるよ!」
(もしかして出口かも!)
「ちょっとレイン、待ちなさい!」
明かりの方へと走って行くと、
そこにはぽっかりと開けた空間……謎の部屋?ができていた。
ぐるりとその部屋を見回してーー
「!!」直後に僕は悲鳴をあげた。
「キャーーー!」
「どうしたのレイン!」
駆け寄るアズサ
そこには地面いっぱいに、びっしりと生えた光る苔。
「何よレイン、ただの光苔じゃない」
明かりの正体は光る苔だった。けど
「ち、違う……」そうじゃなくて
「アズサあれ!」「え?」
僕は部屋の向こうを指差した。
「こ……これは……!」
そこには壁一面に人間の女性が、手足を固定された状態で、壁に磔にされていた。
10人……いや、20人はいるだろうか、
彼女達は天井から伸びるよくわからない管で口を塞がれ、そのお腹は風船の様にパンパンに膨らんでいた。
「酷い……」
その異常な光景に戦慄を覚える。
これは一体……
するとアズサが「苗床……」と小さな声で呟いた。
「な……苗床?
それってキノコとか野菜を育てる為の……」
「ええ、でもこれは恐らくモンスターの……
レイン、私ね、これに似たものを本で見たことがあるわ」
アズサはそう言って彼女達の方を見る。
「モンスターの中にはああやって、捕えた獲物に自分の卵を産みつけて、そうやって繁殖する種がいるんだって、これがその苗床であるのなら、あの膨らんだお腹の中には……」
「そ、それって……」ゔっ!
「レイン!」
僕はあまりのおぞましさに吐き出した。
やばい……やばいよここ……!
じゃあここは……そんなやばいモンスターの巣穴ってこと?!
アズサが僕の背中をさする。
「そうねレイン、こんな所……長居してちゃ精神がどうにかなっちゃうわ。とにかく出口を探してここから出ましょ。
だからレイン……頑張って正気を保って」
震える体、唇を噛み締めて
僕は声無く頷いた。
ドクン!「う゛ごっ!」
「「!?」」
部屋から出ようとしたその時だった。突然苗床の1人が声を上げ、ビクン!と体を動かした。
「うそ……この人、ひょっとして生きてるの?!」
その苗床生きていた。アズサはそのことを知っていた。
「苗床は幼体を育てる栄養容器。だから一応殺されず生かされてはいるけれど……まさか!」
体を激しく拗らせて、それはもがく様に暴れ始めた。
「あ゛ごっ!う゛、お゛ぉん゛……ぐお゛!」
獣の様な唸り声、口が塞がっているから……
「ど、どうすれば!?」
「レイン!その苗床から離れて!」
「でもアズサ……この人凄い苦しんでるよ!」
「今の私たちじゃどうすることもできないわ!
それより早く、この現象はーー」
「あ゛ーーーお゛ーーーあ゛ーーー!」
ひいぃっ……!
もはや人間とは思えないその声に、僕は恐れ慄き恐怖する。
ボコボコと彼女のお腹が波うって、内部からかき回されるように隆起する。
そしてーー
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!」
ぶしゅーーーー!
破裂寸前のタンクに穴が開き、破水して飛び散るしぶきと共にーー
バシャン!!
『ギィ…
ギィイ゛ィ゛イ゛イ……!!』
1匹のモンスター、その幼虫が産み落とされた。