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【第9話】黄昏に怯えた町

「はい寄ってらっしゃい見てらっしゃい!

 翡翠の国(ナターリア)の皆さんちょいと見ていってくださいな!我らさすらいの旅商人!そしてこの場に有らせまするはーー」


 道行く人たちは足を止め、馬車の周りにはちょっとした群集、人溜まり。


「か弱い娘と見誤る事なかれ!

 こちら銀髪の美少女!SSランクの勇者様だーー!!」


 ()()()()()()()って……そう言うことだったのか!

 こ、この僕が客寄せに、お店のダシにさせられた……!


「勇者様だってさ!しかもSSランク!」


「この子が?とてもそうは見えないが」


「でも職業(ジョブ)は確かに勇者ってあるし、このランク証も本物だろ?」

「確かに、よく見たら貫禄を感じる気がする!」「何となく瞳が神秘的ね!」

「記念にサインでも貰っとけ!勇者様!握手してください!」


 うぅ…人に沢山見られてる……

 いつの間にか行列、※それも握手の列までできてるし……!


「いや〜売れる売れる!さすが、勇者様のお墨付きは違うね!」


「みっ……見せ物じゃない!……です…ょ…」

「ほらレイン、笑顔!笑顔!


 握手とサインは5000ゴールド、

 1万ゴールド以上お買い上げの人には無料(サービス)にするよ!」


 アズサもノリノリだ……

 それもそうか、なんたってすっぽかした運賃代ががかってるんだ、僕も頑張らないと……とはいえ


 騙してるみたいで何だか心が居た堪れない。


 だってこの値段、商品ぜんぶ吹っかけだ。


 しかし思わぬ大繁盛、商品はどんどん売れていった。



 そしてあっという間に時間は過ぎて

 夕暮れ時


「こっちはもう完売ね、レイン、また荷台から商品持って来て!

 そろそろ日も沈み始めたし、タイムセールでもして売りきりましょ!」

 額の汗を手の甲で拭いながら、アズサがそう口にした時だった。


「何?もう日が沈むって?」


 客の動きがぴたりと止まる。

 すると突然


 ゴーーーン!

  ゴーーーン!


 !?

 教会の鐘が町中に、大きな音を立てて鳴り響いた。


「いかん、もう黄昏時じゃ!」

 すると急に周りの客たちがざわつき出して、


「急げみんな!撤収だー」

「え、ちょっと?お客さん?!」


 それは一瞬の出来事だつた。


 ドタドタと走り出す客たち、それは土煙を上げながら、

 まるで蜘蛛の子を散らすがごとく、屋台を埋め尽くしていた人溜まりは瞬く間に消え失せて、


「アズサ、もう積荷には商品無いみたい。……あれ?」


 店の前でぽつりと立ち尽くす2人の姿、教会の鐘が鳴り終わる頃、沈む夕日を背景(バック)にして、


 屋台はこれにて閉店となった。



 ※※※※※※※※※※


「がはははは!こりゃ笑いが止まらんよ!こんなに売れたのは初めてだ!」


 御者は今日の売り上げを見て大満足。


「お前たちよくやった!これから冬になるし、懐が暖かいのは嬉しいね!」


「それじゃあ約束通り、売り上げはいくらか分けて貰うわよ?」

「おうよ持っていけ!お嬢ちゃんたちを荷台に乗せたのは正解だった!また会おうぜ」


 御者と別れると、もう日はすっかりと落ちていた。


「そういえばレイン、私たち朝からなにも食べていなかったわね」


 言われれば今日は1日中働き詰めで……

「そうだよアズサ、もうお腹ぺこぺこだよ」

「じゃあ今夜は特別、お金も沢山入ったことだし、御馳走でもたらふく食べましょ!」


 え、本当!?


 僕はその言葉が嬉しくて、スキップしながらお店を探す。

 だって御馳走なんて、もうずっと食べてなかったもの!


 しかし「closed」「閉店」「またあした」


 夕飯時の筈なのに、店という店はどこもかしこも閉まっていた。

 そんなことある??


 それどころか町の建物はみんなしっかりと施錠され、窓もカーテンや雨戸で厳重に目隠しされていた。


 外だって僕たち以外通行人はおろか、ネズミ1匹すら見やしない。


「奇妙な町ね」

「かくれんぼかな」

「どこにも鬼がいないじゃない」


 店が無いなら仕方がない。


 2人で常備していた干し肉を食べながら、せめて今夜泊まれる宿は無いかと探していると、


 アズサが突然、僕の手を繋いで呟いた。


「……尾けられてるわね」


「えっ!?」

「走るわよレイン!」


 僕とアズサは走り出す。

 すると、それに合わせて、複数の足音が追ってきた!


 本当だ、アズサに言われるまで気づかなかった……!

「アズサ、これって一体」

「私にもわからない」


 アズサは路地裏に入って巧みに撒こうとするも、足跡は執拗に追いかけてきて離れない。


「何なのよこいつ等!」「!?アズサ、前!」


 しまった!

 気が付くと、僕たちは何人ものローブ姿の男たちに囲まれていた。


「勇者御一行……だな?」

「だったらなによ」


 じりじりとにじり寄るローブ達。


「くく……どうやら情報は本当だったらしいな」

「しかし驚いたぜ……本当に2人とも女とは、しかもどちらも上物だぜ」


 ここは大人しくした方が賢明ね、そうアズサが僕に視線を送る。


 ローブ達の腰には湾曲した三日月形の小刀(カランビット)


「さあ勇者様、我々と一緒に来てもらおうか」

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