【プロローグ】勇者様のドラゴン退治
ヴァスギニア領から離れた洞窟で、僕たち勇者パーティーは討伐レベルSランクのドラゴンと戦っていた。
「火吹き攻撃が来るぞ!みんな退避、ピンチはチャンスだ!回り込んで一斉攻撃!!」
あそこで指示を出しているのが剣士ルーク。
Aランク。
ドラゴンの炎をギリギリで躱して剣の一撃をお見舞いする。
「くっ……!やはりSランクは伊達じゃないな、鱗の一つ一つが尋常じゃなく硬い!」
「無茶しないでルーク!急所でも一発じゃ仕留められない、私が奴の気を逸らす!
ファイヤボール《十連射》!」
炎魔法が得意な魔法使いエルナ。
Bランク(上位)。
弾幕を振り払ってドラゴンの尻尾がエルナの体をなぎ倒す。
「うあっ……!!!」
「エルナ!!」
「ルーク!エルナは私に任せて、あなたはドラゴンを!エルナ、すぐに回復魔法で癒して差し上げますわ!
風の精霊よ、少女を癒す力を我に!
精霊の歌!」
風の回復魔法を使うのは僧侶のリリア。
Aランク。
そして遠く離れた安全地帯で剣を磨いているのがこの僕、
勇者レイン。SSランク!
僕は内心イライラしていた。
たかがSランクのドラゴン一匹になに愚図愚図やっているのか、僕は早く家に帰ってドラゴン退治の名誉をお父様に褒めて頂かないといけないのに、これでは日が暮れてしまうよまったく。
「おい、まだドラゴンは倒せないのか!鎧も盾も、トドメを刺すこの剣さえも、綺麗に磨き終えてしまったじゃないか!」
「ぐっ……レイン!ドラゴンはSランクだ!スライムとは違う!倒すなんて簡単に言わないでくれ、それにいつまでそこにいるつもりだ!?俺たちは4人パーティーだろ、手を貸してくれ!」
チッ……!ルークのやつ、最近口答えする様になって来た。気に入らない!
「無駄口を叩いている暇があったら一撃でも多く攻撃を当てろよルーク!だからお前はAランク止まりなんだよ!僕が言っていることは間違っているか?ほら正論だろ!はい論破!」
ふん!貧民街育ちの成り上がりが五月蝿いんだよ、僕が領主であるお父様に頼んでやってこのSSランク勇者レイン様ののパーティーに入れてやったってのに!
お!ドラゴンの一撃がルークの横っ腹に入ったぞ!
ざまぁ見ろ!
あーあ、リリアが傷を癒してる、放っておけばいいのに、無駄な魔法を使うとその大きな胸が縮んじゃうよ?知らんけど。
お人好しなのも考えものだな。
エルナの炎魔法は派手だけど正直あんまり強くないんじゃないのか?
養成学校魔法科きっての天才児だって聞いたし顔が可愛くて好みだったから選んだけど正直期待外れ!
後で説教タイムだな、涙目で唇を噛んでる顔がまた可愛いんだ、優越感も得られて最っ高☆
そうこう言っているうちに戦いは大詰めを迎えたらしい。なんだ、やればできるじゃないか。
僕のアドバイスのおかげだな。
「ドラゴンの反撃が鈍くなって来た!みんな頑張れ!もう少しだ!『鋼の剣よ、秘めたる力を解放せよ!我ルークの意思と共に、いま目の前の敵を薙ぎ払わん!』
強化斬撃《一撃特化》!!」
「援護するよ!ルークの一撃、邪魔はさせないんだから!
ファイヤボール《全射出》!!」
「お二人とも!全力で突き進んでください!
風の精霊よ、螺旋の渦で邪悪を縛り、慈愛の風で戦士たちを護って!
精霊の息吹!!」
剣士ルーク、魔法使いエルナ、僧侶リリアの同時攻撃がドラゴンに炸裂する。
「「「三位一体!!!」」」
「グオオオオオ!!!」
攻撃を食らったドラゴンの巨体がぐらりと崩れ、
ドラゴンは土煙を上げて崩れ落ちた。
「おお!よくやったお前たち!最後はこの僕がトドメを刺す!」
「いや、レインもうドラゴンは……」
待っていた待っていた!この時を待っていたんだ!ヒャッホウ!僕は嬉しさのあまり遠く離れたドラゴンに全速力で駆け寄った。
「くたばれドラゴン!成敗してくれる!とやあ!!」
ギィーンー〜ー………バキン!!
鈍い嫌な音が洞窟に響いた。
「あ……ありゃ、剣が折れた……宝石であしらった最高級のロングソードが……お気に入りだったのに……!お気に入りだったのにィ!!」
ショックだ……とても残念すぎる!
僕はとてもブルーな気持ちになった。だがSSランクの勇者だ、こんなことで涙は流せない。(ちょっと出ちゃったけど)
「み、見ろ!剣は折れたがその衝撃でドラゴンは退治された!これはそういうことだ!剣はまたお父さんに買って貰えばいい!なんせ僕はドラゴン退治の英雄なんだから!なあルーク?」
「あ、ああ、そうだなレイン、その通りだ」
そうだ、そうともさ、僕は英雄になったのだ。
……しかし、何だかルークの言葉に誠意が感じられない様な気がした。
他の2人もなんだか妙に冷めた感じだ、気に入らない。
「あぁそうだ、反省会がまだだったな」
「反省会?なんだレイン、ドラゴンは倒したじゃないか」
「ルーク、お前手を抜いていただろ?」
「は?」
「剣の一撃が軽いんだよ、僕レベルの勇者になると見て分かっちゃうんだよね。腰が入ってないって言うか、それとも実力不足?それならAランクからBランクに降格しなきゃな、それが嫌なら帰ったら走り込み10時間だ!勿論帰る時もお前だけ馬に乗るのを禁じる!いいね?」
「な……そんな無茶なレイン!何か感に触ったのか?だったら謝る!考えなおしてくれ!」
ふん!焦ってる焦ってる。
「それとエルナ、お前はなんか期待はずれだよ」
「ど…どう言う意味よ」
「そういう反抗的な口の聞き方もそうだけど、気に入らないね!魔法使いの天才児だとか何とか過大評価されちゃってさ、今まで可愛いから見逃してたけどもうお終いだよ。
お前明日から僕に対しての挨拶は全部土下座にしろ。そうすればしばらくこのパーティーに置いておいてやるよ」
「な、何様よあんた……!」
ふん!もう泣きそうになってやんの!プライドズタズタにされてどんな気持ち?ねえどんな気持ち?
「はい、最後にリリア」
「あの……私はいつもみんなの事を」
「帰ったら僕に至福のマッサージ2時間コースを頼むよ。ドラゴン退治で疲れちゃってさ」
「え、でもレインさんには怪我ひとつお見受けしませんが……私の魔法なんて必要ないじゃありませ「僕はあそこから走って来たんだよ?もう足がくたくたさ!それともなに?僕の言うことが聞けないっての?」
「レインやめてくれ!みんな頑張ってドラゴンを倒したんだ!疲れも溜まってる、無茶なペナルティーはよしてくれ!」
「ルーク!また君は僕に口答えするのか!」
「いいんですルーク!わかりました勇者レイン様、喜んでその命を受けますわ」
「わかれば良いんだ、ああでもちょっとイラついちゃったからさ、時間は自由タイムにさせてもらうよ。それと全身揉みほぐしで頼んじゃおっと!」
「はい……仰せの通りに」
はーあ、スッキリした!僕は3人を先導して洞窟を出た。青い空の向こうから伝書鳩が1枚の手紙を咥えて飛んできた。
お父様が心配して手紙でも運ばせてきたのだろうか、まったく、心配性だなお父様は」
「ルーク!お父様からだろ?適当に返事を書いて送り返しておいてよ。ドラゴン退治の英雄、今から帰ります。お祝いの用意して待っててねって」
「ああ、わかったよ」
ふふん♪今夜はお祭りだ!楽しみだなあ♪
るんるん♪
「……レイン、少しいいかな?」
「ああん?何?」
「とても大事な話だ、よく聴いてくれ」
なんだルークのやつ、改っちゃって。
「勇者レイン、君をこのパーティーから
追放する!」