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74.性悪と癇癪女〜巧玲side

「そう、上手くやったのね」

「はい、(シュー)嬪」


 あの役立たずの筆頭女官を追放した後、この(ファン)とかいう女官を筆頭女官に据えた私の判断は正しかったみたい。


 椅子に腰かけて床に伏して報告するのは、文すらまともに届けられない、生家があの性悪貴妃と同じ爵位と気に障る格下女官。


 そんな替えのきく者を筆頭女官に据えたのは、もちろん(わざ)と。

私の世話を直接する女官達は、幼い頃から教育を施された、高位貴族ですもの。

彼女達を煽り、この者に無体を強いる場を提供しましたの。


 ほら、あの元筆頭女官のように察しの悪い女官が多くて、時々だけれど癇癪を起こしてますでしょう。


 時にはこうして生贄を用意し、私への鬱憤を晴らさせてあげておりますわ。

良い主でしょう。

宮の力の均衡を保つ秘訣でしてよ。


 あの目の上の瘤、凜汐(リンシー)貴妃の世話を、幼い頃からして学んだ処世術。

私の癇癪など、あの女と比べればよっぽどマシ。

あの女はこれまでに癇癪を起こして、下女や下級女官を何人か消してますもの。


 丞相……晨光(チャンガン)様だって昔は石をぶつけられたりして、それはお可哀想でしたわ。

そんなおあの方をお慰めするのが私の役割。


 氷の麗人たる、冷たさを感じる笑みしか向けられなかったけれど、あんな素敵な方をお慰めできる事は密かな楽しみ。

少なくとも義妹となったあの女より、私には弛んだ微笑みでしたのよ。


 いつしかあの女まで横恋慕してきたのは、義妹とはいえ同じ邸で寝食を共にしている以上に腹立たしかったわ。

石をぶつけたり、傲慢に命令ばかりしていたのに、本当に勝手で傲慢な女。


 とはいえ腐っても(フォン)家の令嬢。

皇帝陛下に嫁がされるのは決定事項。

それに義妹ですもの。

お兄様に嫁げるはずもない。


 何よりずっとお慰めしていた、侯爵令嬢の私は、あの女よりも、この世のどんな令嬢よりもお兄様に相応しい。

いつかお兄様に嫁ぐ為だけに、あの女とも友好な関係を保ちましたのに……なのに!


 私を嬪に推したのはあの女!

推挙したなんてふざけてますわ!

私がお兄様に嫁ぐつもりなのが気に入らなかった?!

お兄様に歯牙にもかけられていないのに、勘違いしている私が哀れだから?!


 あの方に想われていた私が気に入らなかっただけ!!

陛下に相手にされない自分を認めたくなくて、私を同じ立場に、いえ、貴妃より格下の嬪に据えて馬鹿にする事で慰めたかっただけ!


『いつか陛下に下賜される可能性は……あるのでしょうか?

晨光(チャンガン)様がそう願えば、陛下は叶えて下さいますか?』


 入宮した日、私は挨拶を終えて部屋から出ようとしたお兄様の背に、泣き縋りながら尋ねましたわ。


『過去にそうした例はあります。

陛下は皇貴妃以外に興味は持たれませんが、そうですね……。

貴女が陛下のいくらかの恩恵を得、私が他の官吏達が認める何らかの手柄をもってして望めば、下賜される可能性はあるでしょう』


 お兄様は縋りつく私の手を慰めるようにぽんぽんとしてから、優しく外して振り向く事なく出ていかれました。


 以来、私はあの方が手柄をたてられるよう、後宮の情報を流しながら、陛下の目に止まるよう努力してまいりましたわ。


 そして性悪を使っ癇癪女を貶めて追放か、上手くいけば公に処断する方法を考えつきましたの。


 とはいえ気晴らし用の女官が、あの性悪に取り入れるとも思ってなかったのだけど。


 生家の爵位が同じだった事に加え、身の安全がかかっていた分、真に迫った泣き落としでもしたのでしょう。

手ぶらで戻れば他の女官達がどうするかわかっていたはずですもの。


 あの性悪は私達と違い、謀られない処世術や人の使い方を知らないよう。

歴史の浅い伯家ですもの。

当然ですわね。


「渡してあげて。

褒美でしてよ。

お望み通り、筆頭女官からも外してあげますわ」


 戸の近くに立っていた女官に命令し、手にしていた風呂敷包みを伏したままの下級女官の前に置かせる。


 そろそろと顔を上げ、包みを開ければ、あの性悪の装飾品の数々と、この者が失った給金分の銀。


 卑しい下級女官に相応しい笑いを浮かべ、媚びた視線を向けてきたわ。

 

 この者は給金の大半をあの性悪に奪われ、金に困ってましたものね。

下級の者は痛い目に合わせた上で、こうやって金で釣って言う事をきかせるものですわ。


「ほら、相応しい場に戻りなさいな」


 久々に満足した気持ちで優しく声をかけてやる。

罠にかかった性悪と癇癪女を想像しながら。

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