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71.遺書〜静雲side

「初代皇帝がまだ国王だった頃の古い文献に書かれた逸話だ。

かの皇帝が唯一臨んだ娼妓は、嫉妬した後宮の嬪や女官達によって貴金属を盗まれた。

しかし何かしらの紋を証拠として盗んだ者達から多額の示談金を得たそうだ」


 その言葉にハッとして見上げる。


「その紋が恐らく指紋。

それは壷から取った紋だ。

医官と薬官以外の紋は2つ。

既に元筆頭女官の物は照合されている。

最後の1つは誰の紋であろうな。

あの貴妃が既に手にしたそれ以外の紋は複数の者に確認させ、正確に描かれた写し絵である事、実際の指と同じ紋であり、個々に違う事は限りなく正しい検証の判断材料であると承認された。

古い文献を読み解きたがる考古を専攻する者が知れば嬉々として飛びつき、芋づる式に後宮で起きた()()が明るみになりかねる由々しき事態となろう」

「あの者が何故そのような事を知って……」


 呆然と呟く私に、しかし今度は侮蔑するかのような視線を投げかけて鼻で嘲笑われ、頬が羞恥に染まる。


「未だに事の重大さと優先すべきが何たるかわからんか。

その問いに何の意味がある。

その紙に描かれた指紋が誰の物か公になっているかをお前は真っ先に気にするべきではないのか。

お前はこれより後、病気療養との名目により嬪の地位を廃される。

この宮でかつて筆頭女官だった者は事の重大さを感じて首を括ったぞ」

「……は?」

「筆頭女官が()()で行った事であり、ウー嬪は無関係。

生家の連座だけは許して欲しいと遺書があったのだ。

お前はどうするか見物だな」


 絶句してしまう。

独断?

違う……全ては私の命令で……。

数日前まで……共に過ごして……え、嘘でしょう?


「しかし私とて鬼ではない。

長らく娘が実の妹のように可愛がり、後宮へ嬪として迎えて牡丹宮近くの夏花宮に住まわせたのだ。

女官達は既に一所に集めて閉じこめた。

2日後には()()する」

「な、何を……そのような事が許されると?!」

「ならばお前がその者達に筋を通させ、命の対価を差し出させた後に()()を下せ。

この宮で()()()()()()()()()()()()()が出る前にな」


 それはつまり……この宮を封鎖した後全ての者達の口を封じるという……。


 既に殺気を隠そうともしないおじ様は本気でそう宣言しているのだと直感した。


 恐らく入宮してから私に仕えてくれていたあの筆頭女官はおじ様……()()()に消された。

私との連座を防ぐ為に彼女1人に罪を被せて……。


「浅はかな者を(リン)家が後ろ盾になり続けると思うな。

陛下の寵を得ている皇貴妃にまで咎が及ぶ。

子を授かれぬ皇貴妃に代わり、せめて借り腹にと思ったのが間違いであった」

「お、お許しを!

必ずや……」


 体がガタガタと震え、そんな私を冷めた目で見つめながら更に絶縁を告げられ、本能的に縋ろうと立ち上がるも鋭く殺意をこめた眼光に立ち竦む。


「皇貴妃の舎妹としてしか陛下は相手にしておらず、しかし他の貴妃や嬪より優位な立場でありながら未だに伽にすら呼ばれず。

更には反逆罪に等しき行為をしておいてその自覚にも乏しいとは甚だ情けない。

そのような者が(ウー)の姓を名乗る事を皇族の守護者たる誇りを持ち、長年陞爵を断り続けるかの名家がこのままにしておくかな」


 そう言うが早いか今度こそ踵を返した。


「お待ちになって、おじ……ひっ……」


 以前から親交があり、おじ様と呼ぶ事を長年許されてきたはずの私の呼びかけは完全に無視され、軽く振り返って魔力を纏った威圧を受けた。


 言葉は悲鳴にかき消え、足がもつれて転んでしまう。

けれどそんな私を助け起こす事もなく、捨て置いて立ち去ってしまった。


 ややもして、この国の四公たる司空という権力と後ろ盾から打ち捨てられたのだという実感がジワジワと胸の内に大きな荒波を立てる。


「そんな……あ、そん……あ、ああああああ!」


 そして……真実を知らされれば生家の(ウー)家からも見放されるのだという恐怖に思わず叫んでしまう。


 (ウー)家は皇族を守護してきた事にこそ誇りを持ち、それを当然としてきたが故に陞爵を辞し続けた由緒正しき家門。

だからこそ陛下の寵を得て長年皇貴妃を務めるお姉様を守るよう、リン家が後ろ盾となり夏花宮の嬪となれたのだから。


 皇族を害そうとした私は……肉親に名実共に消されかねない。

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