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44.骨肉の争い

「お前はまるで最初から全てを見透かすかのように先手を打ち、行動しておる。教えてくれ。妻を失わぬ為にどうすべきか……頼む」


 あら。入宮二日目にして、初めて素直になられましたか。意外と早かったですね。それ程に妻を失いたくないからでしょう。


 二度の人生では春と芸を売り、三度の人生とも仲睦まじい両親に恵まれましたからね。このように情へ訴えられるのと弱いのです。


「その妻は現在どのようにお考えなのです? 陛下と離縁し、俗世と離れたいとお考えですか?」

「初めはそう申していた。しかし……私が縋った。そして一年の猶予を得た」

「一年ですか。その間にどうされると?」

「子が出来ねば……離縁し、新たな貴妃を迎えよと……」


 皇貴妃の言葉を思い出し、苦しくなったのでしょう。陛下は辛そうに顔を顰めました。


「左様ですか。陛下は子が出来れば万事解決とお考えで?」

「……いや、それはない。私は九番目の末皇子で母は嬪だ。母の生家は侯爵となっている。だが元は遠縁の子爵家。美しいと評判だった娘を養女に迎え、嬪として入宮させたのだ。私の下には皇子が数名いた。本来の母の身分に加え、義理の生家が不正を糾弾されて衰退した事も影響し、帝位から最も遠い継承順位とされた。そんな私が何故、帝位についたか知っておろう?」

「ええ。まず一つ。陛下の上のお年の皇子様方が潰し合いをなさり、暗殺が横行した為に、陛下が物心つく頃には幾人かお亡くなりになられていたとか」


 陛下が皇帝となる経緯は、なかなかに複雑です。


「ああ。それもあり、継承権も最下位で野心もないと意思表示をする必要があった」

「風家に養子となる前の丞相の生家に身を寄せていたのは、その為ですね」

「ああ、母の計らいだ。しかし母は後宮に留まる事を余儀なくされた。恐らく巻きこまれたのだろう。俺が都から出て暫くした頃、食事に毒を入れられて殺されておる」

「皇子の半分以上が亡くなってからは、義父が風フォン家の別邸へと、陛下を強制的に引き取りました。私もその際、フォン家に養子入りしています。」


 陛下の言葉に、丞相が補足を入れていきます。


「残りは謀反を画策したとして、縁故関係にあった貴妃と嬪の皇子が連座で処刑された」

「残った皇子は燕峰雲(エン フォンウン)大尉の叔母」


 大尉というと、主に皇都の守備を任されている三公のお一人です。西の蘭花宮の主、青蝶(チンディエ)貴妃の父親ですね。


「当時の皇貴妃が産んだ皇子と、陛下だけとなりました。帝位を継いだのは、皇貴妃の生んだ皇子です。三年後に流行病で身罷(みまか)られました。男子を成す前でしたから、残る陛下が帝位を継いだのです」

「皇女も他国に嫁いだ姉と妹の二人いる。個人的な親交はないがな」


 そうですね。元より陛下のご兄弟姉妹は、なかなかの骨肉争いを繰り広げてらっしゃいました。そもそも親しくなどできなかったのでしょう。いつ寝首をかかれるか、わかりませんから。他国へ嫁いだというのも、先代の皇帝陛下が無理矢理進めた縁談だと聞き及んでおります。


「陛下の姪にあたる皇女が一人おられます。陛下が帝位を得た際、賜姓降下(しせいこうか)しました。今は政権と引き離した辺境でお暮らしに」


 陛下が即位した頃なら、産まれて二つかそこらです。幼女を嫁がせて臣籍降嫁とするのは、外聞が悪かったのでしょう。


 預け先は、確か劉蔚芳(リュウ ウェイファン)大将軍の親類だったはず。普段から国境(くにざかい)の各地を周り、警備に明け暮れていると噂される御人です。


 要は、血筋を悪用して謀反を起こす者に利用されないよう、臣下の養女にして監視と保護を任せたという事です。


 そして陛下と丞相は、それだけ大将軍を信用しているのが窺い知れますね。


「私が定位を継ぐ前から、この地位は血生臭い。当然だ。複数の貴妃や嬪には、それぞれに生家の事情が絡みつく。皇帝が複数の者達と交わり、幾人も子を成せば帝位争いが必ず起こる。俺がどれほど治世を安定させようと、亡き後は再び国が揺れるだろう。先帝の時が、帝国史上最も激しい争いだった。臣下も認めざるを得ない程、国は混乱したからな。それ故に、俺が即位して暫くは夫人がユーだけでも認められていたのだ。だが何年も世継ぎが出来ねば、話は変わる。少なくとも臣下達はな」


 それはそうでしょうね。他国に嫁いだ皇女の子を養子にはできません。下手をすれば、他国が攻め入る隙を作ります。


 陛下の姪であり、先帝の皇女は、確か私と同い年。どこかへ嫁ぐにしても、嫁ぎ先そのものの選定が難しいのです。私もそうですが、子を成し、安全に出産するは、まだ早いのですから。

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