【フリー台本】喫茶店を作りたい彼女とのデートはいつもお家デートで……
//SEカップをテーブルに置く音
お待たせ、コーヒー淹れたよ。
これはエチオピアの豆。モカだよ。
モカといえばフルーティーな酸味が特徴だから、苦いのが得意じゃない君でもイケると思うんだけど……どうかな?
……美味しい?
本当!?
やったっ!
じゃあ私も、いただきます。
//コーヒーを飲む
//独り言を呟くように
うーん、香りはいいけど、ちょっと酸味が単調だな。少しブレンドに手を出してみるのが……。
いや、安直に豆に手を加えるよりも、まずはドリップで味の改良を試みてからにした方が……。
よし、とりあえずもう一回淹れよう。
――え? ああ、私が飲むから大丈夫だよ。君はゆっくり好きなペースで飲んでてね。
さて、改めて豆を挽いて……。
//豆を計量し、挽く
ふぅ、淹れるとしますか。
//ポットにお湯を入れ、ネルドリップを始める
んー? うん、話しかけても大丈夫だよ。
これ? これはドリップって言って、コーヒーの淹れ方の一つだね。
豆も、粉も、焙煎や挽き方を完全に同じ状態にしても、このドリップによってコーヒーは大きく味を変える。それは湯温や湯と粉それぞれの量、注ぎ方で変わってくるの。
だから、このドリップが最高に上手いコーヒー屋には、時として最高級の価値がつく。
かもね。
もちろんドリップだけで味が決まるわけじゃない。
豆の選別、焙煎の度合い、豆の挽き方……
なんならその先がドリップじゃない方が、良い味になることもたくさんあるでしょう。
そこまで含めて吟味して、毎日より良いコーヒーを、よりバリエーション豊かに淹れられるようになりたい。
もっと香り高く、もっと苦く、いやもっと甘みを……なんて欲求に合わせて、手法を変えて淹れていくと、変幻自在の黒い液体が出来上がる。
まるで魔法みたいだよね。
でもね、いろんな抽出方法がある中でもらドリップは私にとって特別。
この、自分の手で味を抽出しているという感覚は、何にも代えがたいものなの。
//カップを置く音
さ、出来た。
さてさて、コーヒーくん、君はどーんな香りでどーんな味なのかなあ?
うふふふふふ……。
――え! 君も飲んでくれるの?
やった、嬉しいな。
じゃあいただきまーす。
//コーヒーを飲む
うーん、香りは悪くなく、酸味に苦味が合わさって単調さは無くなった。けど、代わりにさっきより苦味が強くなっているから、さっきとはまた好みが別れるところだね。
ふぅん、蒸らしをさっきみたいにするとこうなるのか……。
――君は二杯目の方が好きだった?
ホント!? 私も二杯目の方が好きなの!
でも、君苦味はあんまりだと思ってたからちょっと意外。
酸味と合わさった感じがよかったのかな?
次君に淹れるときの参考にするね!
ふふ、こうやってまた新しく、君のことを知ることができたね。
好きなことを通して好きな人を知れるのは、なんだか嬉しい。
よっし! もう一杯練習するぞー。
んー? コーヒー? そりゃ楽しいよ、だって飲んでくれる人がいるんだもん。
飲んでくれる人がいるから、私はこうして夢に突き進むことができるの。
……君がいるからだよ?
君が隣にいてくれるから、私はコーヒーに夢中になれる。
私は当然コーヒーを愛しているけれど、同じように君のことも愛している。
君が美味しいと言ってくれたり、苦いと言って眉間にしわが寄ってたり、酸っぱいと言って不思議そうな顔をしていたり、そんな全てが嬉しくてたまらなくて、その思い出は私のかけがえのない宝物なの。
好きなもので好きな人を喜ばせられたら……無敵じゃない?
//少し自信なさげに
でも……嫌に思ってたりは、しない?
こんなまともなデートとしないで家でコーヒーばっかり淹れてる女、冷めたりしない?
君がもっと恋人らしいことをしたいなら、私もなんとか時間を作るし努力するから、だから、その……
――え? 夢に向かう情熱的なところが魅力的?
コーヒーの話をしてるときの、目が輝いている感じが大好き?
//慌てたように
うわ、わ! 急にそんなこと! 恥ずかしいじゃんか!
ちょ、ちょっと、こっち見ないで! いいからっ!
//呟くように
うわぁ顔あつうっ……絶対いま顔赤くなってる、おかしくなりそうなぐらい嬉しい……。
……ねぇねぇ
もう、こっち見てヨシ。
ぎゅーっ!
……私も大好き。
っっっーーーめっちゃ幸せ! エネルギーが湧いて出てきた!
よーし練習だ、また淹れるぞー!
これからも無敵のコーヒーを作ってやるぞー! おー!