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サンタに捧ぐ贈り物  作者: 春野わか
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 難関のサンタ役オーディションに二回も受かっているとサラリと口に出来るトムの体が、二倍三倍に膨れ上がって見えた。

 コイツにあって俺に無いものはなんだ。

 

「受かる為の秘訣とかあるのかい?審査前にこれだけはしておけ、みたいな」


「うーん。そうだなあ──」


 答えを求めるせいか間が長く感じられた。


「トイレに行っておく事だね。後は当たって砕けろしかないよ」 


 溜めが長い割には大した答えではない事にがっかりしたが、親指をぐっと上に立ててニカッと笑うブラウンの瞳は澄んで美しかった。


「そろそろ戻ろっか」


 トムともう少し話していたくなった。

 何故、彼はサンタになりたいと思ったのだろう。

 いや、その前にトイレだ。

 肉襦袢が邪魔で上手くジッパーを下ろせない。

 どうにか用を足したが、危うく男の印を挟み掛けてヒヤッとする。

 手を洗わなければ。

 これまた一苦労だった。

 大事の前にはトイレに行っておくという事の重要性を身に染みて感じた。


「今から番号呼びます。1番から15番までの人はA室に移動して下さい。16番から30番までの人はB室に行って下さい」


 部屋に戻って暫くすると案内係りが入ってきて参加者達に告げた。

 マシューは44番だった。

 

「トム、君は何番だい? 」


「48番!WAO!!緊張してきたぞ。またダンスと歌の練習しないと」


 この調子だと次には呼ばれるだろう。

 後の方の順番でなくて良かったと胸を撫で下ろす。

 待たされ過ぎたらチキンハートが持たない。

 マシューもトムに習って身体を揺らして緊張を解していく。

 トムは歌も下手だった。

 でも何故か耳に心地好い。


「何人ぐらい受かるんだろう」


「年によって少し違うみたいだよ」


 ドアが開いた。


「31番から45番までの人はA室に。46番から60番までの人はB室に行って下さい」


「俺はAだ。じゃあ、お互い頑張ろう! 」


 トムは軽く拳を突き出してファイティングポーズをして見せると直ぐに背を向け行ってしまった。

 

「44番の方、サングラスとマフラーを取って下さい」


 マシューは特殊メイクを施している事を思い出した。

 おずおずと取った瞬間、案内係の目が大きく見開かれ、唇を突き出し慌てて引っ込めた。

 

 若者が多い中、年が行き過ぎてると驚いたのだろうか。

 見た目だけなら参加者全員並べてみても自分こそサンタだと胸を張れる。

 でもクインは、本物の年寄りではダメだ、スピードや体力が求められているから若者が選ばれるのだと分析していた。


「混乱してきたぞ──」


「何か言われました? 」


 マシューの呟きを聞き止め案内係りが振り向く。


「いいえ……何でもないです」


 どうして俺はこんなに間抜けなんだ。

 いや、俺は間抜けだがクインは賢い女性だ。

 彼女の導き出した答えに間違いがある筈がない。

 ともかく見た目で審査員を圧倒。

 若さと体力アピールは、その後だ。


 取り敢えずマシューは自分ではなくクインを信じる事で『じしん』をどうにか取り戻した。


「左から順番に氏名と年齢を言って下さい」


 審査員は長いテーブルを前にして五人並んで座っていた。

 マシューの心臓は踊り全身に血を忙しなく送り出した。

 右心房から左心室へ、弁膜べんまくを震わせ、ポンプのように血液を吸い上げ送り出す。

 普段は意識する事のない右心房、右心室、左心房、左心室、心臓のメカニズムを身をもって理解した。

 要は死ぬ程緊張していた。


 心なしか、審査員の視線が自分に集中しているように思えた。

 やはり老け過ぎと思われているのだろうか。

 若さをウリにした方が良かったのだろうか。


「44番の方、名前と年齢を」


「年齢……そうだ年齢……」


「マシュー・クローバー、年は26歳」


 彼が名乗った直後、審査員が一斉に唇を突き出しヒューっと口笛を鳴らした。

 その中の一人が両手を上に上げ「ジーザス! 」と天井を仰ぐ。


「貴方はクローバー家の?あのマシューなの? 」


「全然分からなかったよ。驚いたな。最初に入ってきた時から、うわ!サンタだって!本当にマシュー? 」


「はい……曾祖父はジョセフ。去年も落とされたマシューです」


「オーマイガッッ!! 」


 質問した審査員が溜め息を洩らしながら大きく首を振る。

 マシューは審査員達の大袈裟な反応に戸惑った。


「良く化けたな。それ、特殊メイク? 」


 審査員達の関心はマシューにのみ向けられ、他の参加者ほったらかしで質問を次々と投げ掛ける。


「詐欺だーー!特殊メイクに頼るのはズルイ!俺はこの日の為にフライドポテトを死ぬ程食べて体を作ってきたんだ! 」


 突然誰かが叫んだ。




 


 


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