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サンタに捧ぐ贈り物  作者: 春野わか
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Ep2 decorate the Christmas tree

「凄い!これなら合格間違いなしよ」


「この儘オーディション会場に行くのもなあ」


 特殊メイクを施したマシューはサンタクロースそのものだった。

 頬も膨らませている為、声のトーンも少し可笑しな事になっている。


「始めが肝心なのよ。その格好で審査員の関心を惹きつけたら、後の審査なんてオマケも同然。腰を屈めて猫背気味にね。動作はゆっくりと。マシューの熱意を伝えて! 」


 クインのお祖父さんのダンスと歌を動画で見て、キレ過ぎないようにテンポと音程を少し外す練習を散々してきた。


「今更だけど俺、一次審査で何時も落とされてるから二次審査の内容知らない」


「ホントね!今更だけど何とかなるわよ」


 クインは苦笑しながら大らかに励ました。

 正直余り励ましになっていないが、ともかくやるしかないと気持ちを奮い立たせる。


 ダンスと歌の練習だけじゃない。

 ジムにも通って体力作りに励んだ。

 足の踏ん張りは特に大事だとエアロバイクに跨がり漕ぎまくった。

 お陰でいい体に仕上がり、風呂上がりに鏡の前でポージングを決めてはウットリと眺めた。 

 だが残念ながら鍛え上げた体は今は肉襦袢で覆われ、披露する機会を得ない儘ガンガン燃焼していた。


「ともかく頑張って! 」


 クインの励ましを背に受け、オーディション会場の前にタクシーで乗り付ける。

 もう戦いのゴングは鳴らされているのだ。

 老人の動作を心掛けてタクシー代を支払う。

 二十代の青年だと運転手に見破られずに済んだようだ。


 会場の待合室には大勢の参加者が犇めきあっていた。

 この国は都市部に人口の85%が集中している。

 特に南西の海岸部に。

 その為、クローバーカンパニーの国内の支社も南西部に密集し、会場にいるのは他の支社の知らない連中ばかりだった。


 その中に見知った顔を見付けた。

 ワイヤレスイヤホンで音楽を聞きながら

体を揺らしているのはマーケティング課のトムだ。

 始めは緊張から体が揺れているだけかと思っていたら、どうやら音楽に合わせて踊って

いるようだ。


 聞いているのはクリスマスソングだろうか。

 それにしても、あれはダンスとは言えない。

 ただ揺れているだけだ。

 いや、でも彼は去年もサンタ役に選ばれている。

 想像を絶する程のダンススキルの無さを披露しなければ合格出来ないのだろうか。

 自信が揺らぎ、マシューはジングルベルを口ずさみながらトムを真似て体を揺らしてみた。


「Hi!君、ダンス上手いなあ。俺はトム」


 トムが近付いてきて手を差し出してきたので握り返す。

 柔らかくて温かい手だ。


「俺はジョン……そんな……君程じゃないよ」


 自分のダンスとトムのダンスの何処に違いがあるのか分からなかった。

 それに咄嗟に偽名を名乗ってしまった。


「あれ?君、何処かで見たような」


 同僚に正体を隠す必要はないが、やはり不自然さが滲み出てしまっていたのかと焦ってしまう。

 マシューは真っ黒なサングラスをしてマフラーでぐるぐる巻きにして特殊メイクを隠していた。


「ああ!俺の叔父さん。そうそう、叔父さんに雰囲気似てる。君みたいな年いってる人珍しいな」


 少し失礼だが、本物の年寄りではないから怒るのも変だ。

 曖昧に笑ってみた。


「ここ熱いね。喉渇かない?まだ時間あるから外で休憩しようよ」


 確かに熱い。

 肉襦袢の下は汗だくだった。

 水分補給の必要性を感じてトムの提案に乗る事にした。

 部屋の外にある自販機にトムがコインを入れ、ガコンと音がして落ちたペットボトルを差し出してきた。


「いいのかい? 」


「いいって!遠慮しないで」


 お言葉に甘えてとキャップを捻ると茶色の泡が吹き出す。

 コークだった。

 二人並んで椅子に腰掛けコークを飲んだ。

 冷たい泡が口の中で弾け喉の渇きを癒してくれる。

 もう一仕事終わった気分だ。


「オーディションは初めてかい? 」


 聞かれて一瞬迷った。


「いや、何回か。落とされてる」


「俺は二回受かってる。でも今年はダメかもしれないな」



 



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