#4 ブジン
大幅に改稿することもありますが、物語に関係しそうな時は連絡します。あまり関係なさそうと判断した場合にはひっそり改稿してることもありますのでお許しください。
俺が自分が前世では成宮翔という高校生だったと自覚したのは5歳の頃だった。
そこからは4年ほど経過して今は9歳だ。精神年齢が高いためか勉強や戦闘の特訓など全然苦ではなかった。なんなら、以前よりも身体能力や記憶の定着力などが明らかに数段上がっており、すぐにいろいろなことができるようになるため努力することは楽しかった。
もちろん精神年齢こそ違うが友達もできた。その中でも幼馴染のサリーは毎日のように遊んでいる。そして10歳のスキルをもらえるという儀式まであと1ヶ月まで迫っていた。
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俺はこの世界で普通の平民の家で生まれた。この世界でもと言った方がいいのかもしれないが。
そして驚くべきことがあった。俺が生まれた家はごく普通の一般家庭だと思っていたのだが、その血筋というものがこの世界ではブジンと呼ばれる、俺たちでいうところの東洋人のようなもので、このホルム王国では特別な少数の一族らしい。
ブジンは黒髪で、珍しいのは珍しいがブジン以外でも黒髪はいるらしい。
ブジンは容姿が珍しいため特別なわけではなく、ブジンは魔法ではなく気功と呼ばれる独自の術を用いて戦闘を行う。その上ブジンは例えば【気功術(上)】や【身体能力上昇(上)】などのスキルを持つことが多く、その戦闘力をより高めている。
よって、ブジンは戦闘能力や身体能力が極めて高いため、少数の一族であっても世界最大のホルム王国ですらまともに戦争をすれば大損害ということで、ホルム王国は戦闘になる前に和平の条約を結んだ。その条約ではブジンの一族はホルム王国に属するということが示されている。つまりは条文の中ではただのホルム王国の民ということだが、ただの平民として扱って反感を買えば物理的に大損害を受ける可能性があるので、実質的な貴族のような扱いを受けていた。
歴史で言えば、ブジンの領地は昔ホルム王国の中の特別自治区であり、ブジン族にも王のような存在がいたらしいのだが、戦闘に飢えた一族であり、大人しく政をすることができなかった。
ある時は隣国と戦争になった時に王は最前線で戦ったり、地方の街に巨大なドラゴンが出た時は王の象徴であった丁髷を、持っていた小刀で思いっきり切って「もう王様やめる!」とか言って戦いに行ったらしい。当時、王は腕っ節の強さで決めたらしいのでドラゴンは王一人でボコボコにしたんだとさ。
そんな戦闘狂いなことがあって、ホルム王国の王も不必要ということで特別自治区を取り払った。そんな事実もあり、ブジンは恐れられていた。そのことをブジン一族自身も分かっており当時の特別自治区の領土をでて他の人たちと交流することというのはなかったのだ。
ただ、そういう暮らしを続けていくと問題点が出てくる。ブジン同士の交配のしすぎで血が濃くなりすぎたのだ。ここでは医学がそこまで発達していないため、遺伝子の話など理解されるわけもないだろうが、それでも血が濃くなりすぎると危険ということは本能的に理解しているらしい。
ここ数百年で先天性の遺伝子疾患が増え、幼くして亡くなる子どもが出てきた。そんな中なにも対策をせずにいるうちに、全盛期には1万人ほどいると言われたブジンも2000人ほどに数を減らし、そのほとんどを老人が占めているいった事態に陥っている。
そこで、俺の両親はどちらもブジンなのだが子供には外の世界に出てもらおうということで、かつての自治区から出てエルムという地方の街に移り住むことにした。幸い俺と4歳の妹には今のところ先天的な疾患(血友病など)もなさそうで、現在は両親は冒険者を収入源としながら過ごしている。
両親は恐ろしいほど腕があるので、だいぶ裕福な暮らしができている。よって平民でありながらそこらへんの平民とは違うし、貴族にしかない名字も俺たちには皇という名字がある。
貴族のパーティーとかにもいくことだってあったらしいし、ブジンで興味がある人はあまりいないが政治に参戦しようと思えばそこそこの発言力はあったらしい。
なぜ、過去形で話しているのかというと、ここ最近ブジン対策専用の魔法である「気功封じ」などが開発されたらしくブジンを狩って発言力を抑えようという動きもあったり、戦争ではそれを使われて殺されてしまったり、この前も対策魔法を使ってのブジン狩りが行われブジンでもトップ層の数人が手にかけられた。
こちらは政治に関わろうとすら思っていないのに、勝手に向こうが怖がって攻撃してくるなんて酷い話だ。
さらにそれによってブジンは弱いとか倒せるものなどと思われるようになってきている。
だが、弱いものが死ぬのは仕方ないとか戦って死ぬことは本望の精神の人たちばかりなので、ブジンもそれに対して報復したりしない。それがさらにブジン狩りを増長させているのだと思う。
ただ、それでも魔物に対しては相変わらず強く強い魔物が出るたびに狩りにだされる。
そんな都合のよい使われ方をされて良いのだろうか。俺は甚だ疑問だ。
ただ、そんな中にも味方はいる。貴族の一部にもブジンの再盛を考えて支援するものもいるし、例えばこの俺たちが暮らす街エルムは、狂った王がドラゴンを倒して救った街でありその節ですごくブジンに対して恩があり、俺たちが暮らしててもものすごく親切にしてくれる。そんな街が俺は本当に好きだ。
そして、ブジンのみんなももちろん大好きだ。だから俺は決めた。あいつらと会うためにシュート帝国に向かうのはもちろんだが、対策魔法を打ち破って倒したい。
って、対策魔法を打ち破ると考えている時点で俺にも戦闘狂の血が流れてるのかもしれないな。
♢♢♢
「さてと、そろそろ行かなきゃな。」
本日の勉強も終えて、そろそろおやつの時間になりそうだという頃、本を閉じて準備をする。
自分の部屋を出て外に出ようとすると、居間で黒髪の二人、妹の皇舞とその遊び相手をしている母親である皇理恵がいた。
「あら。もういくの?」
「そうだね。そろそろ行かないとサリーが遅いって怒っちゃうからね。」
「モテモテな男の子は困るわねえ。」
「まあね。俺は罪な男だよ全く。」
キザに髪をかきあげる。
「どうしてこんなにお調子者になっちゃったのかしらねえ。マイちゃん。」
妹の舞に尋ねる。
「にーには調子者?じゃなくてやさしい!」
全く答えにはなっていないのだが、その微笑ましい光景に思わず母と俺は笑ってしまう。
「たしかに、遊び盛りの年なのにしっかり勉強もするし訓練もするし、妹に悪戯されても怒ったりしないしなんか大人っぽいところはあるわよねえ。」
内心ギクっとなってしまい「はは、そうかな?」とぎこちなく笑った。
「そんな大人っぽいところがいいのかもね。女の子は年上の余裕とかある人とかを好きになりやすいしねえ。」
「まあそんな分析はいいよ!じゃあ行ってくるから!」
俺は木の扉を勢いよく開けて飛び出していった。
「気をつけなさいね!翔!」
「にーにいってらっしゃい〜」
二人に手を振られながら見送られた翔は近くにある幼馴染のサリーの家に向かった。
そう。おそらく仕組まれたことなのだろう。
前世と同じ名前の翔の物語は始まったばかりだ。