#3 さようなら(友人side)
「どこでしょうかここは?」
美しい黒髪を纏う海奈は上体を起こした。あたりを見渡すと、桜、玲二、奏、太一が地面?に転がっている。
どう言う状況かは飲み込めないが、とりあえず彼等を起こそうと立ち上がった。
「桜さん!桜さん!起きてください!」
桜を必死に揺すると目がゆっくりと開いた。
「ここは?どこ?」
桜も状況が飲み込めていないようだが目を開けてくれたので一安心だ。
「なんだ?」「ここは?」
などと同じような反応で奏以外は気がついたようだ。
「奏!奏!起きて!」
桜も頭が働くようになってきたのか、奏を必死に揺すって起こそうとする。すると、努力も実り奏も目を覚ました。
「眩しい…」
「よかった!目を覚まして!」
「ここはどこなの?」
「わかりませんが、地球ではなさそうですね。」
この言葉を皮切りに全員がキョロキョロあたりを見渡すが、白い空間がただ無限と言えるほどに続いているだけだ。
「俺たちは確か…トレーラーに跳ねられたんだよな?」
太一が恐る恐る先程までの記憶を口にする。その様子はあまり現状を受け入れていないようだ。
「僕もその記憶が最後だよ。痛さとかを感じる前にここに居たって感じ。」
玲二が太一に続いて同じ記憶を発する。その言葉に全員が頷き一同は全員同じ認識であることを確認した。
「と言うことは俺たちは死んで、ここは天国ってことなのか?」
「の割にはなんもなさすぎるけどね。」
「本当に君たちは呑気なこと言うね。」
太一と桜の他人事のような掛け合いに思わず玲二がツッコミを入れてしまう。
「そういえば翔ちゃんは!?」
翔だけちゃん付けで翔以外の人間にはさん付けをし、いつも丁寧な口調の海奈が思わず声を荒げて翔を探す。障害物は何もないためすぐに確認できるがどこにも居ない。
「本当だ!翔はどこなんだよ!」
緊張が走る空気の中、金髪の少女が言葉を発した。
「翔は多分生きてる。だからこの空間にいないんだと思う。」
「生きてるってどう言うことですか!?」
海奈が奏の両方を強く掴み焦った様子で尋ねる。
「い、痛いよ。」
海奈はハッと我にかえって掴んでいた肩をゆっくり離していった。
「す、すみません。取り乱しました。」
「いいよ。焦る気持ちもわかる。」
奏は口角を少し上げて
「あのね、トレーラがこっちに向かってきた時、咄嗟に翔を押したの。もしかしたら翔だけでも助かるかもしれないと思って。」
「で、今ここにいないってことはきっと助かったんだと思う。」
「そう言うことでしたか。助かったんですね。」
海奈は嬉しげな、又は悲しげなとどちらとも取れるような表情で涙を一筋落とした。
翔だけでも生きてることに希望を持つのか、もう2度と翔とは会えないと悟って絶望するのか、全員が強烈なジレンマの状態にあったのは言うまでもないだろう。
「でも、きっと翔なら僕たちの分まで楽しんで生きてくれるよ!」
「案外俺たちのことをすぐ忘れるかもな!」
海奈は慌てて反論する。
「そ!そんな人じゃないですよ翔ちゃんは…」
段々と語尾にかけて小さくなっていく。
「はいはい。ご馳走様。いつもお腹いっぱいですよっと。」
桜が茶化すように海奈に向けて言った。
「そんなんじゃないですから!」
フフフと奏は笑った。
「さようなら。翔。今までありがとう。」
奏が言ったが口に出さずともみんな同じ気持ちだった。下にはたくさんの涙が滴り落ちた。
完全に目の水分が枯れ切った頃、全員の目には先ほどとは違い、絶望ではない希望が宿っていた。
「でも俺らはここで一生過ごすってことなのか?一人よりは退屈しねーだろーけどよ。」
いつのまにかあぐらをかいて座り込んでいた太一はゴロンと寝転がった。
「一生ってもう終わったんだけどね。」
桜もそれに合わせて膝を抱え込んで座る。
「そういえばそうだな。じゃあなんて言うんだ?永遠?」
「そうだね。僕たちがここにいることが、新しい命を授けられたってことなら一生ってことでいいかもね。」
玲二自身は冗談を言ったつもりで、座り込もうとした。その時だった。
『鋭いですね。正解です。』
「うわ!なに!?光球が喋った!」
桜が叫んだ。
『喋っていると言うか脳内に言葉を送っているのです。はじめまして。私はソーサラーという神です。』
「もう何も驚きませんよ。もう何も。」
そう言いながらも驚いている様子が海奈の速くなった鼓動が教えてくれている。
♢♢♢
そこから、やはり私たちはトレーラーに跳ねられて死んだこと。転生すること。そしてその世界とスキルのことなどソーサラーという神様に教えてもらった。正直翔のいない世界で生きる意味、頑張る意味というのは見つからないが、みんながいてくれたおかげでなんとか支え合って頑張れそうだ。
転生先はそれぞれ違うらしいが、記憶も引き継いで国も同じだし、全員貴族の子供としてくれるそうなのですぐに集まれそうだし大分優遇されたんだと思う。スキルもいいのをくれるらしいし。
『それでは、皆さん集まってください。一斉にですがスキルを与え、そのまますぐに転生してもらいます。』
それを聞いて、みんながぎゅっと集まって次会う時までの寂しさを埋めるように「手を繋ごう!」と太一が言い、一つの輪になった。心なしか隣の玲二の手は汗っぽい。これから先が不安なのだろうか?不思議がるように奏は金髪を揺らし首を傾げる。
「こりゃまた不憫だねえ。」
太一がそう言い桜に小突かれる。
なんのことだろうか?まあいいか。
『それでは。いきます!』
ソーサラーの光の球体が分裂して様々な色になってみんなの体に取り込まれていく。
金色の光だ…。綺麗。あったかい。
そうぼんやり眺めていると徐々に体が薄くなっていくのがわかった。
そろそろいく時間なんだね。それぞれ二個ほど色のついた光の玉が入っていき最後の光に玉らしきものが私の前に現れた。それは、黒より暗く深い冷たそうな球体であった。
「なにこれ?」
どう見ても良くなさそうな球体で私は不安になる。
それは、急加速して私の心の奥深くまで入っていった。とても冷たく苦しく何かの罰を受けているかのようだった。
「うう」
苦しそうに小さく唸り声をあげる私を見て隣で手を握っていた玲二は手を離して、
「これはどういうことなんだ!?説明しろ!」
と普段は温厚で優しいはずの玲二が冷静を欠いて、ソーサラーのオリジナルの光の球の方に駆け寄ろうとする。
しかし、玲二は先に転生したのか完全にこの空間から存在が消えてしまった。
他のみんなも同じように声を上げるが先に消えてしまった。
苦しい。苦しい。とても苦しい。が、私はこの状態を説明してもらうよりも先に重要な話を聞くことを忘れていた。それは、私が生きる意味の一つでもある一人の人間の話だった。
とてつもなく重く感じる声帯を開く。掠れた声で。
「ねえ。翔はちゃんと助かったの?」
ソーサラーは返答に少しの間を開けた。その間は私にとっては恐怖と不安でしかなく、その後に頭に響いた文章は、苦痛で頭が回らない私をさらに混乱させるものだった。
『その呪いが君の罪だ。』
そのまま私はこの空間から消えていった。