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異国記  作者: 鍋谷葵
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異国記 上

作者の異国に対するあこがれを詰め込んでみました。

前後編合わせると長い小説ですが、最後まで読んでくれると私としてはありがたいです。

 私は時代的に見ればまだまだ目新しい全金属低翼双発の剥き出しのジュラルミンが銀色に輝く中型旅客機に乗り、母国から乾燥帯に位置しながらも恵まれた多数のオアシスと歴史的大河によりリゾート地として世界に名を馳せている独立したばかりの中東の国へと、西洋が東洋に持つ植民地を泊まり止まり、四日と十六時間の長旅を経てやってきた。都会の喧騒から離れ、この異国の土地へと身も心も休めに私は母国を離れ、この田舎臭くも熱狂的な国へ来た。

 本来の目的は、ゆとりに満ちた洋風休暇では無い。私本来の目的は、仕事のために、西側に行く経由地としてたまたまこの国に来ただけである。しかし、気分は大切である。例え、仕事であろうとも僅かな気の緩みは許容されなければならない。元来、東洋人は働き過ぎなのだ。休養の心持ちを持たねばならない。

 しかし、先程空港の職員に腕時計を渡し、時差を直してもらったのは、休養の心持ちからかけ離れている。時間を一々確認するのもだ。普段の忙殺が身に染みている。これほど憎いことは無い。


 私はどっちつかずだが、浮かれ気分である。

 そんな私の持ち物は、旅用トランクケースだけだ。中身も、質素な物しか居れてきていない。着替えの肌着が数着、一ダースの煙草、数枚のハンカチと一束のちり紙、仕事に必要な書類類の纏まったファイル。大層な持ち物など要らないのだ。しがらみは、母国へ置いてしかるべきものである。必要なしがらみは、最低限度のもので良い。

 必要以上の物は、この国で買えばよいのだから。この砂と、土レンガの粗末でありながらも生活の活気を母国よりも感じさせる家々と、熱狂的な商人や職人と、国に活気と農業の恵みをもたらす大河にオアシスと、オリエンタルな音楽と香辛料の香りに包まれたこの国で、西洋と東洋を隔てる内海と乾燥する大陸を潤す大河の河口に臨むこの都市にて。

 

 しかし、いやはや砂漠の気候は、温帯に暮らしていた私には酷く堪える。唇は乾燥により不快な感触を示し、肌には砂埃がまとわりついて厭わしいざらつきが感じられる。また、日差しも強く、私が普段から着用しているとび色のハンチング帽では到底太刀打ちできない。また、スーツと革靴もこの暑さには、あまりにも締め付けが過ぎる。そのせいで、私がこの国に着いてから初めて買った産物は、麦藁帽と、混じりけのない鮮やかな藍色リネンで作られたワンピースの様な、ゆったりとし、通気性抜群な、ひざ下まで隠れるこちらの伝統的な衣服。そして、ゴム底で緑色の麻で織られたサンダルとなってしまった。

 まさか、異国に来て初めて買う物が衣服と靴になるとは、出国するときには思っても見なかった。あの時の私は、もっと実用性の無いロマンの詰まった産物を異国の彩色と芳香溢れており、肌が薄黒い異人が、日々の生活のために混みごみとしているバザールにて買うと思っていた。だが、実際はバザールに行き、その喧騒と想像以上の雰囲気を目の当たりにしたが、購入した物と言えば、実用性しかないロマンの一つも詰まっていない産物だ。もっとも、これら伝統的な物品にもロマンを感じ得ることは出来る。感性は、未だ都会の喧騒に削られていないのだ。

 そして、この予想だにしない買い物のおかげで、この異国で過ごす時間を楽にした。

 なるほど、業に入っては郷に従えというのは、正しい言葉である。無論、生活基盤を乾燥帯に置いている人々が普段着として着用している衣服なのだから、適応していない訳無いのだ。この国の人々は、どこに行っても(私が見たのはこの国の首都、そのごく一部であるから正確とは言えない)、どの性別でも、私の様な服と靴を纏っているのだから。ごく、当たり前に定着しているモノだ。

 例え、常識的な考えがあろうとも、私は堅苦しいスーツと靴下からの解放は、古くから伝わることわざがいかに的を射ているのか、身を持って気付かせてくれた。やはり、先人の知恵というのは間違っていないようだ。それは、この気候帯に住む人々の生活からも言えることである。乾燥し、満足な水も得られず、暑さに悶えるようなこの厳しい気候をどうやって生き長らえるか、苦を少なくして暮らす向きを安定させられるのか、これら諸問題に対して一歩ずつ歩みより、合理的な様式を見出し、後世の世に繋ぐという大業を成してきた先人の意志は間違っていない。どこに暮らしている民族であろうともだ。

 これが人間の進化であるのかもしれない。動物としての進化を知恵で代用した人間にしかできないある種、一神教の神の意志に適合した進化なのだろう。『主なる神は土の塵で人を造り、命の息をその鼻に吹き入れられた。そこで人は生きた者となった』と言うくらいなのだから。おおよそ、一神教の神は土くれの生物に、これ以上の進化を求めていないのだろう。だが、人は知恵の実を食し、肉体的な進化では無く、知識的な進化を迎えた。そして、エデンの園から追放された。

 いや、こんな話はどうだって良い。そんな堅苦しい宗教、現代において生活に信仰心を迫害されてしまった事柄は、私の肩を重くするだけだ。今は何のしがらみも無い休暇を送れるのだから、無垢な心でこの身をこの乾ききった地に落ち着かせよう。


 さて、先程バザールに行き、落ち着いた身なりにはなった。スーツも靴下も今や、右手に持つトランクケースの中に収められている。ようやく、私は母国のしがらみから抜け出せたような気がした。もっとも、右手の仕事の書類の一切合財を忘れることは出来ない。

 ともあれ、一端は身を落ち着かせよう。この国に着いてから、未だ腰を預けることが出来ていない。ホテルのチェックインまで時間はまだある。身体は疲れているが、予定されたホテルは未だ開かず。いくら、大学を卒業して四年余りの若人であろうとも、四日と十六時間の空の旅は体に堪える。我が社が造った旅客用飛行機ながら思うが、あれは乗り心地が悪い。今度、設計局のやつに言っておこう。いや、我が国の工作技術の限界か? 双発の振動が身体に伝わり過ぎるなんてのは。

 仕事に対する愚痴は良いのだ。とかく、今はどこか座れる喫茶店の様な場所に行かねば。私の身体は、休息を欲している。


 私は休息の地を求めて、しばらく首都一番の大通りを歩いた。左右の歩道は異人にであふれ、その間に広がる未舗装の道路には砂塵で薄汚れたトラックや、小麦やデーツ、丸々とした西瓜をこれでもかと載せ、私と同じような服を着た異人の男が乗る痩せた牛の粗末な荷車などが砂埃を立てながら通り過ぎてゆく。もっとも、多いのは荷車であり、トラック少ない。我が母国と同じである。

 そんな共通的もある。だがしかし、いや、やはりと言うべきか、未だ私の様な東洋人をこの年で見出だせていない。見かけるのは、豪奢なシルクの薄着を身に纏った肌の白い異人かこちらに住んでいる異人ばかりである。もっとも、この地は西方から来る方が近いためこれは仕方が無いことである。だが、一人というは少々寂しい。先ほどまで、しがらみから逃れることを是としていた私が思うのは、いささか筋が違うであろう。されど、同族が如きつながりが無いと心持ちは寂しくなるのは致し方ない。

 心持ちの下落が起こりながらも私は、砂塵と私よりも頭一つ大きい男たちの雑踏でいまいち先の見えない歩道を歩く。左は車道の喧騒、右は人々の喧騒で心落ち着かせるには、中々向かない。返って疲労が溜まる。いや、この国に喧騒なく静けさを求めることは無意味なのかもしれない。なるほど、通りでリゾート地だ。奢侈を狂乱を嗜むには、十二分すぎる。

 だが、今の私は静けさを欲す。

 ならば、どうすべきだろうか、果たしてこのまま人気流されて、大通りの終わり、リゾート地であり我が旅箱のある臨海地までずるずると行くのが答えであろうか。それとも、右に連なる商店にて喧騒の中、心落ち着かない時間を過ごすのが答えであろうか。優柔不断な私は答えの定まらないまま、あちらこちらを見流して、人気に流されて行く。

 そんな目的のための行動が定まらない私に、一つ不思議なことが起きた。


「こっちへ、どうぞ東洋の人」


 喧騒の中でも、はっきりと聞こえる母国の言葉が、低い女性の声が、私の耳に届いた。

 どこから?

 雑踏の中であれば、そうした疑問が生まれるかと思ったが、不思議なことにそんな当然の疑問が生まれることは無かった。私は、衝撃と共に私に声を掛けてきた、いや、正確に言えば私にとって見えていないが手招きする誰彼の方へと歩み寄る。私から見て右側、商店が立ち並ぶ内の一店では無く、店の入る土レンガの建物と建物の間、薄暗き空間へと足を運ぶ。私を招く声は、そこから淀むことなく掛けられたことを何となく私は直感的に理解できたから。

 そうして私は、私よりも背の高い異人たちを掻き分けて、路地裏へと入ってゆく。おおよそ、路地裏の中にも建物、住居があることは察せられた。華やかな通りの裏には、生活の生気が立ち込めていることは、私が巡ってきたどの国でも同じなのだから。そして、この見聞由来の世界的な常識(私の主観に過ぎない)の想像通り、通りの裏には生活を見出した。

 整然と管理された大通りとは異なり、そこは複雑に入り組んでいた。

 私の様な東洋人であれば四人、図体の大きい異人であれば三人ほどしか通れない通路をやっとのことで維持し、それを挟んで所狭しと建てられた土くれの二階建ての住居と木製の扉、それら建物の間に張り巡らされた粗い麻縄、そしてそこにかかる色鮮やかな衣服、長い年月使われていたことが錆び付いた滑車と朽ちかけた木材から察せられる共同の井戸、鼻に付く異臭と住居の窓から香ってくる夕餉(ゆうげ)の香辛料の香り、こちらを興味深そうに見つめる先程までこの狭き路地にて、サッカーをしていた上裸で、茶こけた頬を見せる同じような顔と身長の五人の少年たちの汗の臭い、そしてありとあらゆる家庭から立ち上る黒色の煙。大通りを歩いていた際には、見ることも嗅ぐことも出来なかった煙が路地裏には霧のように立ち込めている。

 この路地裏は、この国の一般市民の生活が全て並べてあった。私は、どこか故郷が懐かしくなった。私が焦がれた光景だ。庄屋の息子が憧れては、決してならない憧れた光景だ。

 違う。私が魅かれたのは、こうした雰囲気では無い。私がここに来た理由は、誰かに声を掛けられてだ。一体、私に声を掛けた者は何処へ?


「こっちよ。異邦人さん、こっちこっち」


 私の耳に、私を招いた女性の声が再び届いた。そして、私は声を発生源へと視線を向けた。そこは、所狭しと並べられた土レンガの雑多な一つの住居である。私を呼びかける誰彼の姿を私は、私が立つ場所から見ることは出来なかった。立ち込める煙のせいである。

 だが、私の視覚が認識できなくとも感覚的には認識できた。果たして、それがどうしてなのかは私にも分からない。異国の神にでも、憑りつかれたのかもしれない。もしくは、異国の情緒が私に魔術をかけたのか。もっとも、そんな神秘的なことがこの世に起こるかどうかは、神職に就いておらず、信仰心すら薄い私には判断しかねる。私に分かるは、揚力、流体、空気抵抗、摩擦、その他物理学だ。生業の他、分かることは何もない。適当なことが言えるかもしれないが、それは全て戯れ言に過ぎない。

 ともかく、私は私を呼ぶ声へ歩み寄る。狭い通路を歩きながら、異臭の間を潜り抜け、私はそこへ着いた。声の出所は、他の住居と変わらない小窓のついた質素な扉がついた土くれの住居であり、何ら他の住居と変わった様は無い。建築様式も何もかもが同じである。


「こっちよ」


 そして、小窓からは私を招きよせた声が聞こえる。入ってよいのだろうか? いや、初見の、しかも異邦人たる私が勝手に異人の住居に入るなど不躾が過ぎる。相手が、出てくるまでこの場で待っていた方が良いだろう。良識的な判断だ。それに、もし、この部屋にて私を招く者が、盗賊的な者であったら非力な私はどうすることも出来ない。暫しの間、ここで待とう。

 しかし、私の配慮は要らなかったらしい。私が、この小窓付きの質素な扉の前に立つと、扉は内側へと開かれた。そして、中からは、焦茶色の瞳で、背丈は私より少し小さいくらいの艶やか黒髪を肩にかかる程度まで伸ばし、真っ白なワンピースを身に着けた若き女性が現れた。ふっくらとした健康的な肉付きと鼻の高さは、なるほど東洋人とは、似ても似つかず、西洋と東洋の間の神秘を感じさせる。

 私はこの女性に見惚れてしまった。そのため、暫時、麦藁帽を手に取り頭を下げることが出来ず、無礼にも立ち尽くしてしまった。

 だが、無礼極まりない私にも異人の女性は、我が母国の言葉で自然な笑みを浮かべながら優しく語りかける。


「大丈夫よ、安心して。私は娼婦でも無ければ、盗賊でも無いわ」


 この言葉に、見惚れるさしもの私も立ち直り、麦藁帽を手にとって恭しく頭を下げた。この聡明なる人に、私は毅然と礼儀を払わなければならない。疑いの心など捨て去り、整然と頭を下げる。

 しかし、彼女は私のこの対応に愉快を見出したようだ。彼女は私の礼儀を見ると、この国特有の活気ある笑い声を上げた。バザールでも、大通りでも聞いた、品が無くも原始的な魅力に溢れて魅かれる女性の高い笑い声である。


「そんな畏まった挨拶をしなくても大丈夫よ! この国の人は、皆堅苦しい態度が好きじゃないからね。貴方の国ではそうかもしれないけど、この国は適当な挨拶を交わせばそれで万事解決よ」


「それは、どうも見聞になった」


 私は彼女の言葉に、少々顔を赤くした。だが、こうした恥を感じることこそが一番の無礼かもしれない。郷に入っては郷に従えであろう。ならば、私は頭を上げて彼女と顔を合わせよう。

 下げた頭を上げて、私は彼女に向かって一つの知識を得たことに対する謝辞を述べた。彼女の言うこの国儀礼に従った手短で、なるべく親近感がわくような柔らかな口調で。

 だが、私なりの配慮は彼女の期待に、もしくはこの国の儀礼に当てはまらなかったらしい。彼女は、私の言葉を聞き終えると、やはり品の無い大きな声で私を笑った。しかし、やはり、その笑いは異文化を嘲笑する雰囲気は無かった。むしろ、異文化を愉快の加減と同時に迎合する様子であった。異文化である私の仕草から、私の中に眠る異国の情緒を見出そうとしているのかもしれない。いや、もしくは私の身に我が母国の文化的に沁みついている感覚が呼び起こす恥から来る幻想なのかもしれない。もっとも、校舎であれば私は、恥の中に本物の恥を見せているのだが。

 果たして私が、どちらを感じているのかは私にも分からない。計量不可である。なるほど、私には分からないのだ。すなわち無知である。私は、無知であることを理解した。そうであれば、私は一つの予測に基づいて、自分勝手ながら異国の女性に我が母国の情緒を伝えよう。


「無理に合わせなくも良いのよ。まだこっちに来てから間もないだろうし、無理やり異文化を身体に合わせなくても、こっちの人は貴方みたいな外国人に慣れているから大丈夫。ただ、少し深い会話をしたいならもう少し口調を柔らかくした方が良いわ」


「それはどうして?」


「貴方、どこか学者みたいですもの。大体、この国に来る学者っていうのは、人文学か考古学の人よ。そうした仕事には現地の人の協力が必要不可欠でしょう」


「なるほど、そう言うことですか。いや、しかし、私にその心配は無用です。私の仕事はそれら人類の叡智を調べ、後世に伝える仕事ではありませんので。私の仕事は、数字で鳥を創る仕事でありますから」


「飛行機?」


「そうです。飛行機です。私は飛行機の設計の仕事をしています。東洋の島国にて、孜々(しし)として美しい飛行機を創っています」


 どうやら私に対してのある種のお節介は、彼女の勘違いによるものらしい。納得である。異邦人、しかも初見たる私に対して緊密に接してきたのは、こうした理由なのか。

 しかし、言い方も悪いがこのような観光業ばかりに投資し、国民生活の基盤にかかわる教育にも力を入れていない文明に疎い国の一女性がどうしてこの国の見られ方に知っているのか私には気になって仕方が無い。加えて、彼女は私の言葉から飛行機を見出した。いや、それ以上にどうして彼女は我が国の言葉を喋れるのであろうか? 理解できるのであろうか? どうしてこの庶民の生活の中に身を投じていて、額があるのだろうか? 私には気になる。


「そう。だから、固い喋り方なのね。あの人みたいに。数字を突きまわしている人は誰も彼も……」


「あの人?」


「私の夫よ。私の夫は、西の大帝国が支配する東南植民地で経理の仕事をしているの。砂糖やらジュードやらの収穫高と出費を計算したりするね。けど、仕事内容から察するに中々酷い性格よ。私が世間話をしようとすると仕事の邪魔だとキッと睨みつけて、けれどこっちが忙しいときは傲慢にお茶をねだったりね。女の愚痴よ。けれど、仕事の型にはまる前、まだ若くて文筆家を目指していた頃のあの人は、良かったんだけどねえ。私の話をずっと聞いてくれてねえ……」


 彼女は腕を組み、眉間に皺を寄せると思い悩ましそうに言葉を濁した。この国は、妻が夫の愚痴を公然と言うことに恥を感じないのか? 素晴らしい自由主義だ。しかし、理性的にそう感じようとも私は、どこかこの愚痴をむず痒く感じる。おおよそ、我が精神に宿る不自由な女性束縛の思想が、彼女の言葉を過敏に受け取り、うごめいているせいであろう。精神的後進性にも関わらずだ。

 私は恥ずかしさを覚えた。列強とも並べられる国の一国民、しかも国立の大学を出た(本当はこのような腹立たしい自称など使いたくないが)所謂、奢侈の生活に身を置く者が、精神的には独立したばかりの国の一国民に精神的遅れを取っているなど恥ずべきことである。豊かな身の上に、学習の機会を与えられ、新たなる社会を創造すべき人間が、古い慣習に囚われ続けている状況はあまりにも醜い。機械の放棄。心童なり、されど身は大人。

 しかし、私は今、彼女からこの精神的後進性の醜さを学んだ。もはや、二度目の恥は無い。あるべき自由主義的精神を心に宿さなければならない。私は反省を胸にし、異国の新風を体に受けよう。


「それは酷くつまらないことですね」


「分かってくれるのね。まあ、飛行機何て夢のある乗り物を創っているんだから植民地で数字とにらめっこしてるあの人とは違うものね」


「いや、それもまた仕事です。例え夫の仕事をつまらない仕事と思っていてもそれは生業です。ですから、本質的には誰彼の仕事に差異は無いんです」


「硬いことを言うのね。東洋人の貴方によく似合ってるわ。とりあえず、いつまでも立ちっぱなしって言うのも何だかは入って頂戴」


「では、失礼」


 私は自分なりの仕事に対する観念を彼女に告げると、彼女はどこか不服気にしながらも私を煤煙と不快臭の満ちる細い裏道から、それを妨げてくれる部屋へと案内された。無論、それを無下にすることなく私は彼女に従うがままに、この家へと入る。やはり、我が母国とは異なり、異国らしく家庭には土足で上がるようだ。慣れないことだが、風習に慣れるしかない。



後半も読んでいただけるとありがたいです。

ご覧いただきありがとうございます。

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