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第79頁目 ファンタジーかよ?

「……なんも起きねえな。」

「良い事ではないですか。」

「こ、このまま無事に通り過ぎたいんですけど……。」


 あれから数日。『テラ・トゥエルナ』の首都『グレイス・グラティア』に用は無いので、その周辺で魔物が暴れているなら近寄らなければいいという単純な解決策を講じる事にした。ただ周辺という言葉だけでは範囲が曖昧過ぎて安心は出来ない。なので警戒しながら進んでいる訳だが、そうなるとどうしても気疲れしてしまうのである。


「ベスが怯えてたり、異様に見付からなかったりする訳でもねぇし……。」

「草木も堕腐化だふかしていませんしねぇ……。」

「草木? そうか、草木にもアストラルはあるもんなぁ…………だったら魔物って、周りに生えてる草をずっと狙ってたりすんのか?」


 思わず周りに生えてる草を毟りまくるゾンビを想像してニヤけてしまう俺。意識が無いなら草原が砂漠になるまで頑張ってくれそうだ。面白い。


「草木を狙ったりもしますけど、基本は動き回って活発的なアストラルを狙うそうです。でも、周りに動くアストラルがいなければ容赦なく草木も刈り取るとも聞きます。草木も堕腐化したら大変でしょうね……。」

「げぇっ……森で植物が魔物になったらそれこそ一瞬で拡がりそうだな……。」

「そ、そうですよ……! だから魔物が出たら一大事なんです……!」


 ここぞとばかりに魔物の怖さをアピールするルウィアだが、それを今話された所でなぁ……。魔物が居そうっていう推測に至れる要素は、他の人と擦れ違わなくなった事くらいか……。


「その魔物が居るって感じは一切感じ取れないしなぁ。ってかこんだけ移動してて村とかが見当たらない事の方が怖いんだが、この国田舎過ぎないか?」


 池、林、沼、森、そういうのはあった。逆に言えばそれしかない。目に映る植物の密度が変わるばかりで、後はベスの群れとかそんな感じ。人は何処にいるんだよ……。


「この『テラ・トゥエルナ』が”静寂の国”と呼ばれる所以です。全種族の中で最も長寿命と言われている植人種の木本種もくほんしゅ。対して、そこまで長くもない寿命である植人種の草本種そうほんしゅ。彼等は性質の違う種族ですが、両方とも穏やかでのんびり屋という性分は共通しています。その性分故に殆どの人が動かないのですよ。」

「植物ってそんなイメージがあるよな。」

「私達に警告をしてくれた方みたいな活発な植人種はそうそういないんじゃないでしょうか? タムタムでもあまり見ませんでしたよね。」

「そうだな。獣人種ばっかりだった。」

「えっと……オクルスでもそんなに見たこと無いですね……。」


 じゃあ、今まで俺達が通り過ぎた木や花も人である可能性がある訳か……。下手に歩けねえな……。


「この国って散歩するだけで人殺しになる可能性があるんだな……。」

「いえ、危害を加えられそうになると避けるそうですよ。それを言うならベスを狩る時確認もせず撃ち殺す方がよっぽど危険です。」

「……一理ある。」

「そ、そうですよね。もしかしたら、昨日食べたあのベスも……。」

「やめろ、やめろ! それを考え始めたら果物しか食えなくなるだろ! 狩りっていうのそういうもんなんだよ! 嫌なら金を稼げ、金を!」


 まず、一々人かベスかなんて確認している間にそいつ逃げるからな? 飢えて死にたくないんだったら、自分と仲間以外の価値はかなり低く見積もらないと罪悪感に溺れちまうぞ。


「(……おかしい。)」


 和やかな雰囲気に水を差す様に意思を表すミィ。その語気は決して柔らかくなく、俺に警戒を促すようなものだ。


「(どうした?)」

「(……仲間の気配を感じないの。)」

「(……仲間?)」

「(うん。言ったでしょ。この世界は精霊がいっぱいいるの。私はそれを感じ取る事が出来る。でも、なんだかさっきから仲間の気配を感じないの……。)」


 会ったばかりの頃、そんな事を言っていた気がする。ミィは万能だ。正直、こんな存在が他にも沢山いるとは信じ難いのだが、冗談を言っている様な雰囲気ではない。


「(それはそんなにおかしい事なのか?)」

「(うん。いない場所とかはあるかもしれないけど、急に数が減るのはおかしい。間違いなく何かが――。)」

「(……ん? ミィ……? ミィ?)」


 急に途切れるミィの声。不審に思い、俺は自分の身体を見回す。定位置にミィはいないが……水滴……? 足元に小さい水溜りが出来ている。


「……ミィ?」

「(どうしたのですか?)」

「(ミィが返事をしてくれないんだよ。)」

「(ミィさんが?)」


 車体を揺らし進み続ける引き車。水溜りは揺れる荷台に連動して波紋を作り、右へ左へ重力から逃げるようにその面積を広げていく。ミィは何処へ行った? まさかこの水がミィな訳ないよな……?


「(おい……ミィ、巫山戯るのはよせ。……返事をしろ……? おい……。)」


 不安が色濃くなっていく。灯る焦燥感。


「ヤメテエエエエエーーーーーーーーーーーーッッ!!」


 突如聞こえたそれは、ミィの声ではなく、遠くから聞こえた女性の声だ。それに続く何か重い物が壊れ、倒れる音。逃げる小動物の叫び声。どうやらこの音は、今引き車が向かっている方向からしているみたいだ。ただ事ではないあの叫び声。それを聞いて、ここにいる全員がこう思い浮かべたはずだろう。



 ――魔物が出た、と。



「ど、ど、どうしましょう!?」

「に、逃げ――。」


 逃げよう。そう提案しようとした。


 いいのか?

 

 あの声は恐らく人の声だ。


 いや、喋った事もない。ただのベスだ。


 本当にそう思う? 


 本当だ!


 見殺しにしてもいいのか?


 死ぬとは限ら――。




 衝撃。




「うわああああああああああ!?」

「うおおお!?」

「ひゃあっ!?」


 無意味な問答を掻き消す様な轟音と土煙が俺達の行く先を阻む。急停車の勢いで前にふっ飛ばされそうになる俺。そして、前方からは石の飛礫や、砕けた木片が俺の全身を叩く。


『キュアアアアアッ! キュゥアッ! キュイアッ!!』


 興奮するエカゴット達が張り合うように吠える。


 何が起きた? 何かデカい岩みたいな塊が横から引き車の前を飛んでいって……。


『キュイーン……キュウーン……キュジジッ……。』


 抉られた地面の先から聞こえる機械の駆動音の様な音。そして、濛々と立ち込める粉塵の中で確たる存在感を放つ8つの――閃光。


 徐々に露わになっていくその全体図。四つずつの脚部が生えた楕円形の円盤を両脇に浮かばせ、8つの目を光らせる化物は卵型の本体をピクリとも揺らさずにゆっくりと吹き飛んできた方向へ進む。


 金属のボディに人工的なフォルム。俺の身体の倍以上……五メートルくらいの高さだな……こいつは俺の思考回路がイカレていなければ間違いなくロボットだ……!


「ご、ご、『ゴーレム』!?」

「暴走している様です……! 引き車もエカゴットも無事ですね? 早くこの場から退きましょう!」

「『ファイ』! 止まって! お願い! 逃げて!!」


 俺が呆気に取られている間にも事態は複雑になっていく。あの吹き飛んできたロボットの行く手を少女が阻み止めようとしているのである。


「あ、あれって……!?」

「おそらく先程の声は彼女の……!」


 身体に蔦植物を巻き付けてワンピースの様にしている桃色の髪の少女とあのロボットは何か関係があるようだ。ロボットも少女を気にしているのか踏み越えようとせず、少女の前で歩みを止める。


「『ファイ』! 大丈夫なの!? あいつは追ってきてないみたい! 今なら逃げられ……キャッ!?。」


 まだ土煙が晴れきっていない向こうで、眩い程の輝きが放たれる。それは、無慈悲にも少女を背後から焦がさんと瞬く間に飛来するが、少女を救おうと手を引く者が……。



 ――ルウィア?



 だが、ロボットも見ているだけではいなかった。俺の目には微動だにもしていない様にしか映らなかったのが、そのロボットは障壁を張っていたのだ。まるで、その神の悪戯とも言えそうな”破壊”を知っていたかの如く。


 衝撃は、無い。


 その障壁は、いとも容易く閃光を跳ね返し、持ち主へ送り届ける。目を襲う煌き。大地を震わせる衝撃。俺は今、一つの物語を見ているのだ。耳に障る爆音が鳴り響く。あの”破壊”は届いたのだろうか?


 少女は自分がそのロボットに守られたという事を理解したのか、命の燃える方角を見る。轟々と盛る大炎が長閑な風景に傷痕を遺し、気付けば俺を含め全員が黙り込んでいた。少女は炎を、俺達は物事全てを固唾を呑んで見守っている


『ギギッ…………ギギギガッ…………。』


 沈黙はじんわりと殺された。軋む金属、崩れる土塊、折れる樹木、猛火の中の奴はまだ死んでいない……! その時、炎の中震える影は、瞬時に宙へと跳ね上がった。その姿をしっかりと捉える事は出来なかったが、推測できる事が一つある。


「…………逃げ……た……?」


 少女は膝から崩れ落ちる。


「はぁ……はぁ……。」

「えっ!? ぁ、あの……! 大丈夫ですか……!?」


『キュゥゥゥゥーーーーーン………………。』


 息の荒い少女を心配するルウィアと、ロボット? あいつはやっぱり味方なのか。少しだけど”態度”を見る限り、感情もあるみたいだ。かなりデカいロボットだけど……本当にこの世界の文化水準がわからなくなってきた……ビルで驚いてたのが馬鹿みたいじゃないか……前世よりよっぽど進んでるよ……。


「……だ、大丈夫。少し気が抜けただけ。……えっと、君は?」

「えっ、あっ、そ、そのっ……!? ぼ、僕、ルウィアっていいます……。」

「私はアロゥロ。アロゥロ・ラゥアト。……ありがとう。助けてくれたんだよね?」

「え? いやぁ……あはぁ……。」

「大丈夫ですかーッ!?」


 おい、馬鹿マレフィム。心配は間違ってないけど馬鹿かマレフィム。いや馬鹿は俺か……。とりあえず俺も引き車を置いてマレフィムと一緒にルウィアの元へ駆け寄る。なんか怖いのでロボットの下は迂回した。


「あ、アメリさん、ソーゴさん。」

「君たちはルウィア君のお友達?」

「お友達っていうか、旅の仲間だな。」

「えぇ、私はアメリ、この方はソーゴです。」

「私はアロゥロ・ラゥアト、この子は『ファイ』だよ。」


『キュウーーン……。』


 アロゥロが紹介してくれたのは当然隣に立っているとんでもないデカさのロボットである。間近で見ると本当に凄い迫力だ。蜘蛛型……だよな? どう見ても……。ってか本体が円盤と繋がってないけど……それ浮いてんの?


「この『ゴーレム』はファイというのですね。見るのは初めてですが……これは凄い……。」

「ぼ、僕も初めてみました……。」


 『ゴーレム』が多分ロボットって意味なんだろう。そして、皆がそれを知っているという事はこの世界において一般的に知られている知識だという事もわかる。つまり、このファイと呼ばれているロボットはイレギュラーな存在ではないという事だ……。


「ファイは怖くないよ。私のお願いもちゃんと聞いてくれるし、とっても優しいんだ。」

「あれほど威力のある魔法を跳ね返す姿を見た後ですと、どうしても警戒してしまいますね……。」

「……普段ならあんな事絶対しないんだよ。でも、襲ってきたもう一体のゴーレムから私を守ろうとして……。」

「……え、えっと、よく見えなかったんですけど、逃げていったのもゴーレムなんですか?」

「……うん。ここ最近『グレイス・グラティア』の辺りで急に現れたらしくて、そこから色んなとこに出ては破壊の限りを尽くすみたいなの。」

「……それじゃあ……!」


 あの男達が恐れていたのは魔物ではなく、ゴーレムだったのかもしれない。でも、ベスのゾンビみたいな魔物とゴーレムを間違えるなんて事があるのか……?


「君たちは商人さん……かな?」

「……は、はい! あ、あの、こちらに向かう途中グレイス・グラティアの近くで魔物が暴れてると忠告してきた人と会いまして……その、そちらを避けてマーテルムへ向かっていたんです……!」

「それは多分魔物じゃなくて、あのゴーレムの事かな……。あいつもファイと同じ種族なの。」

「なるほど……では、虫人種の魔物と勘違いした訳ですね……テラ・トゥエリアの王は何故この事態を放置しているのでしょうか?」

「放置はしていないんだよ。でも、あいつは何故か急に現れて、急に消えるから誰も追えないの。」

「そういう事でしたか……ゴーレムは謎が多いですからね……。」


 未だ燃え続ける森を見る。もう大分土煙が晴れてきたおかげで、先程の跳ね返した一撃が如何に凄まじい威力だったのかが確認出来た。……まるで渇望の丘陵でドダンガイと戦った後の様な荒れ具合だ。これが目の前で起こった事なのか……。


 『ゴーレム』ってなんなんだ? 俺達は無事に村へ行ければそれで充分なんだが?


 


ご清覧ありがとうございました。

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