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第76頁目 呼び捨てでお金取るの?

「っだぁ!?」


 俺は何故かミザリーに杖で思いっきり頭を叩かれていた。金額の事で思案していた俺は予想外の痛みに頭を抱える。前も言ったけど……鱗が陶器みたいなので保護されてるとは言え、強く圧迫されたら痛い事には変わり無いのだ……。


「(だ、大丈夫!?)」

「(大丈夫……だから、手を出すなよ?)」

「(う、うん。)」

「歳上に向かって呼び捨てするなんていい度胸だよ! ミザリー”さん”だろ?」

「す、すいません。ミザリー……さん……。」

「ふん、わかりゃあいいんだよ。」


 いきなり叩くか普通!? クッソー! 老害め! 俺がいなかったらミィに殺されてたかもしれねえってのに!


「嬢ちゃん、どうだい。もし一人じゃ難しいってんなら手伝うよ。」

「い、いえ。今着終えた所です。」

「見せてごらん。」


 乱暴に仕切りを退けるミザリー。しかし、雑な登場とは裏腹に、そこから表れたのはとても美しき妖精であった。黄色い服も良いけど、赤も似合うんだなぁ。


「うわぁ……そ、その、凄くお綺麗ですよ……!」


 へぇ、ルウィアが自ら女性を褒めるのは恐らくそうそうある事ではない。自分がどうこう言わずともこれだけで今のマレフィム、いや、アメリの美しさが伝わるのではなかろうか。


「な、何故でしょう。少し照れてしまいますね……。」

「本当に綺麗だよ。それを着ている間はもっと厳重に護衛しないとすぐにさらわれちまいそうだ。」

「……他に褒め方は無いのですか?」

「え? 高値で売れるって事だぞ? わかりやすい褒め方だろうが。」


 そんな抗議にミザリー”さん”とマレフィムがため息を吐く。


「(本当クロロって……はぁ……。)」


 お前もか……ミィ。金額って数字で表せるんだからわかりやすいだろうに。


「旦那に足りないのは女にケツを蹴られる経験だね。嬢ちゃん、今日からちゃんと蹴り上げてやんな。」

「……そう致します。」

「蹴り上げられる? 俺が?」

「……その、ソーゴさん。今回の件は僕もちょっと……。」


 総スカンじゃないか。たたかう? いや、にげる。


「そんな事より、ミザリー! …………さん。」


 呼び捨てにした途端、強烈な視線で俺を睨みつけるミザリー。俺は、その視線にまるで眉間を超威力のデコピンで弾かれたが如く目を伏せて萎縮してしまう。痛みなんて無いのになんなんだこの恐怖は……!


「会計だろ。金は持ってきたかい? 約束通り払って貰うよ。そして、値段はこっちで付けさせてもらう。今回は服、二着で……。」


 どうにも口を挟める様な雰囲気ではない。ここでとんでもない額を出されたらどうするか。それだけは決まっている。俺は恐怖心を忘れようと、姿勢を正した。


「……八万ラブラだね。」

「はっ……! ………………は?」

「……八万、ですか?」

「で、で、でも、最初は十万か十五万だって……!」


 俺は肩透かしを食らい、マレフィムはぎこちなく疑念をいだき、ルウィアは狼狽えながら前回との差を問い詰めている。どういう事だ? 二十万くらいの数字は出てきてもおかしくないと思っていた。それなのに十万を下回る八万? なんで?


「言ったろ。あの時点じゃただの概算がいさんだって。無い物に値段なんか付けられやしないのさ。そして今、商品があり、客である旦那等がいる。その結果値段が八万になった。それだけの事さね。」

「し、しかし! この出来の服をたった八万で受け取る等……!」


 マレフィムは納得がいかないらしい。俺は安ければ安いで良いとは思うのだが、まぁ、少しモヤモヤする感じはある。


「うるさいねえ……。その服の価値なら、作ったわたしが見積もった限り三十五万から四十万ラブラはするさね。」

「……!?」


 三十五? 四十? 冗談じゃねえぞ。そんな額流石に払えねぇ……! どうにかしてでもマレフィムに諦めて貰うしか無い値段だ!


「でもね。……旦那等に買って貰う価値が三十万くらいはあったのさ。」

「……え?」


 戸惑いと疑問が交じる声を出したのは俺だ。俺等に買って貰う価値?


「わたしの店『ミザリーの仕立て屋』はね。服も値段も客も全部わたしが選ぶ店なんだよ。亜竜人種も不変種も友人と呼ぶ竜人種の旦那。大事に使われた鞄。便利屋の仕事ぶりも耳に入ってきたよ。旦那等、『欲炎よくえん』に入ってるのかい?」

「……?」

「……い、いえ、『欲炎よくえんの輝き』には入ってないです。」


 ルウィアはこの質問の意味が汲み取れたらしい。『欲炎よくえんの輝き』ってなんだか小っ恥ずかしい名前だな。組織の名前なんだろうか。


「ほーぅ。それなのに随分な活躍だったね。とにかく、私は旦那等にそれだけの価値を付けたって事さね。わかったかい。」

「……よ、よくわからないです。」

「そうだな。俺等の服が三十五万か四十万で、俺等の価値が三十万なら五万でもいいはずだ……!」

「そ、ソーゴさん!?」


 俺の意見を責める口調で名前を呼ぶマレフィム。わからないのか? ミザリーは俺等を見込んで安くしてくれるって事だろ。それならうんと見込んでもらった方がお得じゃねえか!


「へへっ……そういうこったよ。五万ラブラでも良いとは思ったんだけどね。三万の差はわたしを呼び捨てした分だよ。」

「ぐっ!?」


 そ、そこかよぉ~……。そこは見逃して欲しい……!


「謝るから! どうか五万に!」

「やーなこったね。」

「ソーゴさん!! これ以上見苦しい真似はよしてください!」

「く、くそぉ~!」

「ほーら、さっさと八万ラブラを寄越し!」


 マレフィムは黙って自分の懐から虚石うつろいしを出して支払いの意思を示す。それに応えるミザリー。そして、光はミザリーの持つ虚石に吸い込まれていくが……。ミザリーがすぐに虚石からエーテルを吐き出す。


「二万ラブラ多いよ。わたしゃ詐欺師なんて呼ばれたくないんだ。」

「……で、ですが!」

「嬢ちゃん、それは服の修理代にとっておき。今度は涙が枯れるくらい素敵にしてやるからね。」

「…………。」


 マレフィムはミザリーの仕事を評価していた。ミザリーの付けた値段、マレフィムの付けた値段。それは確たる違いがあり、決定権はミザリーにある。それだけだ。だが、ただその一点が気に入らないのだろう。


「ほら、商品を受け取ったならさっさと帰りな。もう用は済んだろう。それとももう一着作るかい? ヒッヒッ……。」


 俺の中でもすっかりミザリーという人間は先日までの印象とは別人になっていた。黙り込むマレフィム。浮かぶエーテル。居辛そうなルウィア。……とりあえず店から出るか。


「なぁ――。」

「行きましょう!」


 そうはっきりと言ったのはマレフィムだった。どうやら何かに納得したらしく表情もキリッとしている。


「ミザリー様、この服が何処か解れてしまった時にでもまた来ます。」

「ヒヒッ……そうしな。」

「では帰りますよ! ソーゴさん! ルウィアさん!」

「あ、あぁ……っておい、このエーテルは……!?」

「それは鞄の修理代です! 私だってそのお金は受け取りません!」

「…………ったく、強情な嬢ちゃんだよ。」


 こっちを見もせずに自分の着ていた黄色い服を手にとって出口へ向かうマレフィム。それをやれやれといった様子で見送り、虚石で浮いた二万ラブラ分のエーテルを吸い取るミザリー。この勝負、マレフィムの勝ちだな。


「また来な。」

「……また来る。ほら行くぞ。」

「あ、はい……!」


 ドアチャイムの音がしみじみとこの結末を飾る。誰も損しちゃいないし、いいよな。



*****



「セクトー! 待たせたなー!」


『キューィ! キュアアアッ! キュアッ!』


 元気良く俺の呼ぶ声に応えるセクト。俺に対する怯えは少し減ったようだ。そして、俺達はついに……えっと……テラ、なんとかってとこに行く準備が整った。時刻はまだ昼前。空は曇りなき晴天。出発するにはなんとも良いタイミングだ。


「……ローイス、ラビリエ、ただいま。セクトも、待たせたね。」


 そのローイスとラビリエって亡くなったルウィアの両親の名前なんだよな……それ知っちゃったせいかなんか凄い呼び辛いわ……。


「それでは……すぐに、出発しますか?」

「あぁ、行こうぜ。」

「ですね。」


 俺は胸を張って引き車に向かって歩く。企みがあるのだ。こいつらは俺がアニマで魔法を使えるようになっている事を知らない。そこを俺がしれっと魔法で荷台に乗れば俺を称えざるを得ないはずだ。見てろ! 俺の渾身の魔法を!


「ふん!」


 翼を大きく広げ、俺の重い体を持ち上げる程の強力な水流を翼に向け……顕現! 


「ぅわっ!?」

「な、何事ですか!?」


 大きく派手な水飛沫を上げて、スーパーマンの様に前足を伸ばす俺をゆっくりと上に押し上げる水鉄砲。間違っても翼膜を突き破らない様に、太い水鉄砲にしたのが仇となったのか威力が弱い気がする……というかなんか視界がぼんやりするな……。だが、今の状態はまるで遊園地に数百円いれて子供を乗せる乗り物である。チープなBGMが流れていたら我先にと子供が群がってくるだろう。


「(クロロ! 昨日、魔法を使いすぎたせいで遅発性の精神損傷が起きてるはずだよ! 無理しないで!)」


 精神損傷? これもなのか? うぅ……朦朧とするけど、自力で荷台に……!


「おっし……! はぁ……はぁ……。」

「す、凄い……! こんな威力の神法を使えるなんて……!」

「なんと無駄な使い方なんでしょう……おかげでせっかくの新しい服がびちゃびちゃですよ……。」

「どうよ……!?」

「どうよじゃありません! これでは身体を冷やしてしまいます!」

「ぼ、僕は少し気持ち良いですけどね……。」


 マレフィムはご立腹だが、魔法で顕現した水だし放っておけばマナに還るだろう。でも、身体を冷やしちゃうのはまずいか……。


「アメリ、いいからこっちこいよ。」


 俺は透かさずミィにお願いをする。


「(ミィ、マレフィムの服の水分とってくれよ。)」

「(えぇ? ちょっと服だけっていうのは肌と近すぎて危ないんだけど……あ、そうだ。)」

「……なんです? うわ!? え!? ぁ……温かい……。」


 突如ミィの触手が伸びてマレフィムを絡め取る。そして、ミィに包み込まれてしまう。どうやら、ミィ自体が人に丁度いい温水になっているらしい。


「乗り込みましたか? もう出しちゃいますよ?」

「あぁ! いいぜ!」

「それでは出発します……!」


 大きい音のする鞭を叩くルウィア。セクト、反撃とかしてこないよな……? そんな心配をよそに急発進する引き車。


「ぅわあー!」

「ぬぉっ!? い、いきなりだな!」


 落ちたりなんてしないぜ! だが、タムタムに来た時とは比べ物にならない加速度だ。


「セクト……! ほ、本当に力が強いですね……!」


 車を引くエカゴット二体が三体になったんだ。単純に考えて馬力は五割増しである。そりゃ、引き車を軽々と動かせる訳だ。勢いの良い出だしってのは結構結構!


 防寒具も手に入ったし、ガレージに戻る途中食料も少し買い込んだ。これなら問題ないだろう。その、テラ……なんとか。後で、名前聞き直そう……。

ご清覧ありがとうございました。

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