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この異世界でも、ヤンデレに死ぬほど愛される なろう版  作者: 緋色の雨
第三章

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エピソード 4ー2 世界は、ヤンデレを中心に回っている

「これは一体なんの騒ぎだ」

 ハロルド殿下の部屋。姿を見せたウォルト国王陛下が厳かに言い放った。ローズやシルフィーがその場に膝をついてかしこまるのを見て、俺は慌てて同じように膝をつく。


「父上、お聞きください」

「うむ、話してみよ」

「この者が俺の部屋に押し入ってきたばかりか、俺を突き飛ばしたのです。しかも、俺に逆らうとも宣言しました。どうか、こいつを今すぐ、反逆の罪で捕らえてください!」

 勝手なことをと反論したいところだけれど、おおむね事実でもある。

 もちろん、素直に処刑されるつもりも、クラウディアを差し出すつもりもないけれど、ウォルト国王陛下がどんな反応をするかが分からない。

 まずは様子を見るべきだと、俺は沈黙を守る。


「ふむ。押し入ったというのはお主か、顔を上げよ」

「……はい」

 俺はゆっくりと顔を上げつつも、直視はしないようにウォルト国王陛下の首辺りに視線を向ける。そうして沈黙していると、ウォルト国王陛下は「ほぅ?」と声を漏らした。


「お主はユズキだったな。我が息子はこう申しているが、なにか言い分はあるか?」

「あります」

「ふむ、ではその言い分を申してみよ」

「ハロルド殿下が、そこにいる娘、私のパートナーを連れ去ったのです」

「――連れ去ったのではありません。奴隷の娘を召し上げたのです。しかも、その男には、望みの金額を支払うとも言った。それを拒絶したのはその男です」

 俺の説明を遮るように、ハロルド殿下が口を開いた。


「まあ待て、ハロルドよ。わしはいま、この者の話を聞いているのだ」

「……失礼しました」

 少し不満気にしながらも、ハロルド殿下が沈黙した。どうやら、ウォルト国王陛下は話の分かる相手らしい。もしかしたら、俺の言い分を理解してくれるかもしれない。


「ユズキよ。ハロルドは奴隷の娘だと申しておるが、パートナーと言うのはどういう訳だ?」

「服飾のパートナーという意味です。私がデザインをして、彼女が形にする。彼女を連れて行かれては、ラクシュ王女殿下のドレスを作ることが出来ません」

 情ではなく、必要性を訴える。しかも、同じ王族のために必要だと口にした。それが功を奏したのか、ウォルト国王陛下は「なるほど……」と呟いた。

 そして――


「ハロルドよ。そこの娘が気に入ったのは分かる。美しく、清楚。それで押しに弱そうで、どこまでも自分の色に染めることが出来そうな生娘。そんな娘を、自分の思うままに育てたいと思うのは無理もない。だが、彼女はラクシュが必要としておる。今回は諦めるが良い」


 俺はたぶん、なんともいえない顔をしていただろう。

 ウォルト国王陛下が、クラウディアを諦めるように説得してくれているのはありがたい。ありがたいんだけど……生娘。いや、分かるよ。クラウディアは黙って微笑んでいたら、純情で奥手な女の子にしか見えないからな。

 とはいえ、それを指摘しても事態がややこしくなるだけ。そう思って、俺は無言で二人のやりとりを見守ることにした。


「お言葉ですが、父上。父上のおっしゃることにはまったくもって同意ですが、俺がそれだけで、城に招いた客人の所有物を召し上げたりはいたしませぬ」

「ほう、他に理由があるというのか?」

「はい。彼――ユズキが『ヤンデレに死ぬほど愛される:SSS』の持ち主であることを、父上はご存じでしょうか?」

「うむ、その件であれば、報告は受けている」

 報告受けてるのかぁ……いや、いくらこの場内では無効化されると言っても、非常に危険なスキルには変わりないからな。報告くらいしてても無理はないか。


「ハロルドよ。分かってはいると思うが、ヤンデレ化はする方に罪がある。ヤンデレ化系統のスキルを持っているからと、彼を非難することは出来ぬぞ?」

「ええ、もちろん存じております。ただ……そこの娘は、そんなユズキと共にいるにもかかわらず、いまだヤンデレ化しておらぬのです」

「ふむ。それはつまり、ヤンデレ化耐性を持っていると言うことか?」

「ええ、しかも聞けば、Sランクである、と」

「――なんだと!?」

 始終落ち着いた様子で受け答えしていたウォルト国王陛下が、いきなり声を荒げた。そしてそれと同時。背後に控えていた近衛兵達も一斉にざわめく。


「ヤンデレ化耐性:Sという奇跡の能力に加え、美しい容姿と服飾の才能を持つ。彼女がどれだけ貴重な存在か……父上には説明するまでもないでしょう?」

「……うむ、たしかにその通りだ」

 不味い、と思ったときには遅かった。俺寄りの発言をしていたウォルト国王陛下が、ここに来てハロルド殿下に同意してしまった。


 けれど……無理もない、とは思う。この世界にはステータスウィンドウが存在する。それはつまり、能力の遺伝が目に見えて分かると言うことだから。

 より良い血統を求めるのは当然の感覚なのだろう。


 奴隷だった頃のクラウディアは、衰弱の呪いやら、ラングの思惑やらが絡んだ結果、売れ残っていたようだけど……いまのクラウディアはあらゆる面で優秀だ。

 こうなってしまっては仕方がない……と、俺は最後の手段を選ぶ覚悟を決めた。


「ユズキよ、聞いての通りだ。すまぬが、クラウディアをハロルドに譲ってやってくれ」

 頼んでいる体を為してはいるが、決して断ることは許されないだろう。だから、俺はウォルト国王陛下の問いに答える前に、ローズとシルフィーに視線を向けた。


 目で問いかけるのは、本当に良いのかと言うこと。それに対して、二人は一瞬の迷いも見せずに、こくりと頷いた。

 俺はそんな二人に心から感謝しつつ、ウォルト国王陛下に視線を戻す。


「……申し訳ありませんが、そのお話はお断りさせていただきます」

「――貴様、国王陛下に逆らうのか!」

 近衛兵やハロルド殿下が気色ばむ。けれど、ウォルト国王陛下は、それを手振りで制した。


「ユズキよ。お主にとって理不尽なことを申しているのは分かっておる。だが、これは国にとっても必要なことなのだ。お主が望むだけの報酬を与えるので、従ってはくれぬか?」

 正直、意外な反応だった。

 ハロルド殿下にしえも、高圧的ではあるけれど、この世界のルールは守っている。そしてウォルト国王陛下にいたっては、それ以上の譲歩をしようとしてくれている。

 この世界において、道理を曲げているのは俺。出来ることであれば、その気遣いに答えたいところではあるのだけれど……


「たとえ世界を敵に回しても、クラウディアは渡さない」

 俺はウォルト国王陛下の目を見て、静かに立ち上がった。これより先は、国王陛下と相対するのではない。俺から大切な人を奪おうとする敵との相対だ。

 だから、これ以上敬うことは出来ないと立ち上がり、ウォルト国王陛下を真っ正面から見つめる。そんな俺の覚悟に気圧されたのか、ハロルド殿下や近衛兵達が息を呑んだ。


「……残念だ。お主のように強い意志を持つ者は少ない。お主が望むのであれば、お抱えの服職人として仕えさせたものを」

「俺も約束を果たせず残念です。ラクシュ王女殿下には、俺が約束を果たせなかったことを謝っていたとお伝えください」

「……うむ。たしかに伝えよう」

 ウォルト国王陛下は頷き、静かに入り口まで下がった。それと入れ替わりに、近衛兵達が俺を取り囲もうとするが……それより先に、ローズとシルフィーが俺の両隣に立った。


「……ローズ、どういうつもりだ?」

 口を開いたのは、ウォルト国王陛下。まさか、ローズまでもが敵対するとは思っていなかったようだ。その瞳には、驚きの色が滲んでいる。


「私は、ユズキお兄さんと共に歩むと決めておりますので」

「……そうか、ヤンデレ化しているのであったな。であれば、隣の娘も同じか?」

「はい。エルフ族のシルフィーと申します」

「貴族の娘に加え、エルフの血族を従えているのか」

「従えているのではありません。共にいるのです」

 いや、むしろ追い回されているのが正解だけど――とは、口に出さない。


「……複数のヤンデレに慕われながらも、監禁されることなく活動している。……本当に驚きだ。……近衛兵達よ。彼らを殺すことなく捕らえよ」

 ウォルト国王陛下が静かに告げた。それに呼応するように、近衛兵達が抜刀する。

 そして――


「――お待ちください、お父様!」

 凜とした声が響いた。

 ウォルト国王陛下の背後。開きっぱなしだった扉の側に、お付きのメイド、フィーミアを従えたラクシュ王女殿下がたたずんでいた。


「ラクシュよ、お主も話を聞きつけてきたのか。ドレスを欲するお主の思いを無視する訳ではないが。高ランクのヤンデレ化耐性を血族に取り込むことはなによりも重要。すまんが――」

「いいえ、そのような話ではありません。彼に手を出せば――この国が滅びます」

 ラクシュ王女殿下の言葉は予想の斜め上だったのだろう。ウォルト国王陛下を初めとした者達は、その言葉が理解できないといった面持ちで沈黙した。


「……この国が滅ぶだと。なにを言っているのだ?」

「父上、このような戯れ言を聞く必要はありません!」

 いぶかしむむウォルト国王陛下の隣で、ハロルド殿下が声を荒げる。けれど、ラクシュ王女殿下は少しも取り乱さなかった。

 ただ、「貴方が見聞きしたことを話しなさい」と、同行しているフィーミアに命令を下す。


「はい。単刀直入に申し上げます。精霊アルミス様が……ヤンデレ化いたしました」

「――なんだとっ!?」

 クラウディアがヤンデレ化耐性:Sだと聞いたときと同じくらい。あるいはそれ以上の驚きだったのだろう。部屋が一気にざわめき始める。


「フィーミアよ、それは事実なのか? なにかの勘違いではないのか?」

「ステータスウィンドウを確認した訳ではありません」

「では――」

「――しかし、アルミス様はユズキ様を我が物にせんと、ローズ様方の飲み物に秘薬を盛り、更には魔法を使って、狂い死にさせようといたしました」

「ふむ……」

 ヤンデレ化以外による理由を探しているのだろう。ウォルト国王陛下は口元に手を当てて考える素振りを見せる。


「それが事実なら、アルミス様はたしかにヤンデレ化しているが……」

「お待ちください、父上! それが事実なら、彼がここにいるはずがありません」

「ふむ。ハロルドの言い分ももっともだ。アルミス様がその者に固執しているというのなら、無事に戻ってこられるはずがない。フィーミアよ、その点をどう説明するつもりだ?」

「それは、ユズキ様がアルミス様を退けたからです」

 フィーミアが淡々と告げた。

 それは到底信じられない内容だったのだろう。周囲の者達は、なんとも言えない表情を浮かべた。そんな中、ウォルト国王陛下はラクシュ王女殿下へと視線を向ける。


「ラクシュよ。フィーミアに発言を許したのはお前だ。彼女の発言に責任を取れるのか?」

「ええ。わたくしは、フィーミアのことも、そしてごしゅ――ユズキ様のことも信じておりますから。フィーミアの発言は、わたくしの発言と思っていただいて結構ですわ」

 自らの使用人や、俺を信じると宣言した。

 その姿は凜々しくもあるのだけれど……いま、どう考えてもご主人様って言おうとしたよな。心臓に悪いから止めて欲しい。


「……事実だと申すか? しかし、ただの人間にアルミス様を害することは出来ぬ。どうやって退けたと申すのだ?」

「わたくしは現場にいた訳ではありませんから……フィーミア、説明の続きを」

「はい。私も途中から気を失っていたので、過程を見た訳ではありません。ですが、アルミス様はこうおっしゃっておりました。ユズキ様は『女神メディアの祝福』を所持している、と」

「――馬鹿なっ! この者が女神様の祝福を受けていると申すのか!?」

 ウォルト国王陛下やハロルド殿下はもちろん、沈黙を護っていた近衛兵達もがざわめく。


「女神の祝福だと、まさか」「いや、しかし、彼はヤンデレに死ぬほど愛される:SSSと言う希有な能力を持っている」「なるほど、ヤンデレの女神に好かれる素養があるな……」

 そんな声が聞こえてきた。


「アルミス様は、ユズキ様への同行を願いました」

「なんだと!? それで、どうなったのだ!?」

「ご安心を。ユズキ様が思い直すように説得してくださいました。しかし……」

 フィーミアは言葉を濁した。それ以上はあまりにも不吉な未来で、口にすることすら憚られるから――と言った表情だった。


「お父様に重ねて申し上げます。ユズキ様に手を出すのは止めてください。でなければ、この国は遠くない未来に聖域を失うでしょう」

 誰かがゴクリと生唾を飲み込んだ。


「……にわかには信じがたい話だが、確認はせねばなるまい」

「父上、このような与太話を信じる必要はありません!」

「与太話かどうかは、彼のステータスウィンドウを見れば分かることだ。……という訳でユズキよ。誠に勝手な頼みだが、お主のステータスを見せてもらえるだろうか?」

「それ、は……」

 もしかしたら、このまま平穏に解決できるかもしれない。そんな風に思い始めていた俺は、ウォルト国王陛下の提案にうめき声を上げた。


 女神メディアの祝福があることを証明するのはかまわない。そして、ヤンデレに死ぬほど愛される:SSSがあるのは既に知られているので隠す必要はない。

 けれど、女神メディアに見初められたり寵愛を受けたり、あげくは不老不死だったり。どう考えても、国王陛下に見られたらヤバイ能力が多すぎる。


 クラウディアを助けるためなら、この世界を敵に回してもかまわない。その思いに偽りはないけれど、出来れば平和に解決したいというのが本音。

 はてさてどうしたモノかと考えていると、シルフィーが神秘的な光に包まれた。

 

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