エピソード 2ー1 ギルドの受付嬢がヤンデレのはずがない
俺はブラッド伯爵家のお屋敷から脱出することに成功した。
だけど、グラン島は、その全域がブラッド家の領地とのこと。いくら写真がなく、情報伝達の遅い世界だとは言え、いつかは見つかってしまうだろう。
なので、俺は街で情報を集めて、この島から脱出する方法を探した。そして見つけた脱出方法は一つだけ。大陸とグラン島を行き来する船に乗ることだ。
でも、誰でも船に乗れるわけじゃない。船に乗って領地を出ることが出来るのは、貴族か許可のある商人。そして、Dランク以上の冒険者だけだそうだ。
つまり、島から逃げ出すには、商人か冒険者になる必要がある。と言うことで、俺は迷うことなく、冒険者になることを選んだ。
理由はいくつかあるけど、冒険者であれば、SPによる能力の習得という利点を存分に生かすことが出来る。頑張れば俺つえぇ展開も夢じゃない。
……相手がヤンデレ娘じゃなければ、な。
ちなみに、冒険者を選んだのには、体質も理由に入っている。ヤンデレに襲われても抵抗できないので、ヤンデレから護ってくれる仲間を見つけようと思ったのだ。
――という訳で、俺はアイテムボックスに入っていた金貨を使い、乗合馬車を使って隣の大きな街へと移動。その街にある冒険者ギルドへとやって来た。
手前が受付や、依頼が張り出された掲示板などなど。奥には酒場のようなスペースがあり、冒険者らしき人々で賑わっている。
街を歩いていたときにも思ったけど、人間の他に、モフモフのミミや尻尾がある人間――いわゆる獣人もちらほらと見える。なかなかに多様な種族がいる世界みたいだ。
「いらっしゃい。見ない顔だけど、冒険者ギルドは初めてかしら?」
やって来た受付。凛とした声を発したのは、耳の長いお姉さんだった。エルフなのだろうか? いわゆる美人系のお姉さん……なんだけど、お姉さん――つまりは女性。
この受付、もしかして……ヤンデレ?
いやいや、常識で考えれば分かることだ。受付と言えば、ギルドの顔。そんな受付のお姉さんが、ヤンデレなんてありえないっ!
――と、以前の俺なら思っただろう。
けど、ローズと出会って色々な経験をした……変な意味じゃないぞ? 経験をした俺は、今までの俺じゃない。
たとえ受付であっても、ヤンデレでないとは言い切れないと警戒する。
青いサラサラの髪。そして切れ長の眉に、少し細い瞳。知性的な面持ちの女性で、とても狂気を抱えているようには見えない。
けど、外見でヤンデレかどうかを判断できないのは経験済み。
なにか、ヤンデレかどうかを判断できる情報は……と視線を巡らせた俺は、彼女の豊かな胸の少し上にネームプレートが付けられていることに気がついた。
受付代表 シルフィー
私はヤンデレではありません
なるほど、ヤンデレじゃないと書かれているのなら安心だ。
……って、なんで、そんなことが書いてあるんだ?
「えっと。どうかしたの?」
「いえ、そのプレートに書かれているのはなにかなと」
「あぁこれ? ヤンデレじゃない証明ね。ギルドの受付がヤンデレなんてありえないんだけど、書いておかないと心配する人がいるからね」
「……はぁ、そう、なんですか?」
ヤンデレかどうか心配する人……? そんな心配をするのは、世界広しといえど俺くらいだと思うんだけど……他にもいるんだろうか?
……ま、まぁいいや。なにはともあれ、ヤンデレじゃないというのなら安心だ。
「それじゃ、冒険者の登録をしたいんですけど」
「冒険者の登録ね。なら、登録料は銀貨一枚よ」
「分かりました。ではこれで」
俺は懐に入れていた銀貨を一枚取り出し、受付のお姉さんへと手渡した――が、お姉さんに銀貨ではなく、手を握られてしまった。
「お、お姉さん?」
「とても繊細な手ね。冒険者になって、この手を傷つけるなんてもったいないわ。私が一生養ってあげるから、冒険者なんて止めて私のうちにこない?」
ちょおおおおおっ、彼女がヤンデレじゃないって証明を出したの誰だよっ!? どうみても、ヤンデレな感じだよ。強引に手を振り払うことは出来ないし、大ピンチだよ!
「えっと……その、すみません。俺は冒険者になりたいので、手続きをしてくれませんか?」
ここでダメとか言われたら、周囲に助けを求めようと覚悟を決める。だけど、幸いにして、受付のお姉さんは「それは残念ね」と銀貨を受け取り、手を離してくれた。
「それじゃ、冒険者としてのプレートを作るから、名前を教えてくれる?」
「は、はい。……それじゃ、ユ……いや、ミナセでお願いします」
ローズの追っ手を警戒して、名前ではなく苗字を名乗っておく。まあ……それがなくても、名前を名乗る勇気はなかったと思うけど。
「ミナセくんね。少し変わってるけど、素敵な名前ね。私はシルフィーよ。困ったことがあったら、なんでもお姉さんに相談してね。手取り足取り教えてあげるから」
「……て、手取り足取り?」
いや、丁寧にと言う意味であり、今回は必要以上に丁寧にと言う意味なんだろうけど……先日、文字通り手と足を取られて色々教えられたので、思わず身震いをしてしまった。
「それじゃ、ステータスを確認させてもらうわね。この水晶に手を置いてくれる?」
シルフィーさんはカウンターの上に、コトリと水晶の乗せられた道具を置いた。
「そのステータスの確認って、もしかして、全部見られるんでしょうか?」
ぶっちゃけ、総合評価十万超えだけでも見られたら騒動になる気がする。ましてや不老不死とか女神メディアの寵愛を受けたとか異世界からの旅人を見られた日には……
「ふふ、心配しなくても大丈夫よ。犯罪に関わるような危険な称号やスキルがないか確認するだけだから、それ以外のスキルが表示されることはないわ」
「なるほど。そういうことなら……」
俺は水晶に手のひらを押し当てた。直後、水晶が真っ黒に染まり、警報がギルド全体に鳴り響く……って、なにごと!?
「お、おい、あれ見ろよ」
「嘘、水晶が真っ黒よ! あの人、なにをやったの!?」
周囲にたむろっていた冒険者達が事態に気づき、あたりは騒然となった。あれ、なんかヤバイ予感がするけど、どうしたら良いんだ?
「――何事だ!?」
受付の奥から、がたいの良いおっちゃんが飛び出してきた。
「あら、マスター。なんでもありませんよ?」
「水晶が真っ黒に染まってなんでもないはずあるか! まさか重犯罪者か!?」
「え!? ちょ、待ってください。俺は別に犯罪なんてしてませんよ!?」
「犯罪者は大抵そう言うんだ! そこの冒険者達、報酬を出すから、この少年をすぐに引っ捕らえ――へぶぅ」
引っ捕らえろと周囲の冒険者に指示を出す寸前。マスターと呼ばれていたおっちゃんは、シルフィーさんの持つ、束ねた羊皮紙で顔面を叩かれ、強制的に口を閉じさせられた。
「ミナセくんに手荒なまねをしたら、私が許しませんよ?」
「……は? シ、シルフィーはなにを言っているんだ? 彼は重犯罪者だろ?」
「違います。人の話はちゃんと聞いてください。それとも聞こえてないんですか? だったら、その耳に風穴を開けますよ?」
美人なお姉さんがすました笑顔で、さらっと毒を吐く。それに対して、ギルドマスターとおぼしきおっちゃんは顔を引きつらせた。
「ど、どうしたんだ、シルフィー。いつもと様子が違うんだが……」
「私のことは良いですから。この判定結果を見てください」
「水晶を黒く染めたステータスか? ええっと、なになに……ヤンデレに死ぬほど愛される:SSSだと!?」
ざわっ、ざわわっ! と、さっきまで以上に周囲がざわめいた。
ええっと……これは、あれか? SSSのスキル保持者とか凄ぇ! あいつはこれから有名になるぞ、今のうちにお近づきになっておこう! とか、そう言う……
「お、おい、聞いたか? ヤンデレに死ぬほど愛されるの保有者だぜ」
「ああ、しかもSSSだと。災害級のスキルじゃねぇか!」
「やべぇ……近づかないようにしないと」
……うん、知ってた。
そして予想どおり、さささっと、周辺の女性――ばかりか、男性も後ずさっていく。そうして周囲に残ったのは、ギルドマスターのおっちゃんと、シルフィーだけになった。
「シルフィーお前も、下がれ。こいつは俺が担当する」
「え、嫌ですよ。ミナセくんは私のところに来たんだから、私の担当ですよ? と言うか、これからずっと、私がミナセくんの専属です」
「――馬鹿なっ!? まさか、もうヤンデレ属性を覚醒させられたのか!? いくら災害級のSSSとは言え、日中ならそこまでの効果はないはずだろ!?」
……なにやら、酷い言われようである。
いや、相手からしてみれば、恐ろしい伝染病のキャリアが、人混みの中にやって来た感じなのかもしれないけどさ。
それにしても、日中ならってなんだろう? 夜になったらスキルの効果が上がる――なんて説明はなかったはずだけど。
「おい、今の聞いたか? シルフィーさんもヤンデレだったみたいだぞ?」
「マジかよ! 彼女だけは、ヤンデレじゃないって信じてたのに!」
「いやでも、あいつのスキルで覚醒させられたんじゃないか?」
「だからだよ。それはつまり、潜在的にヤンデレだったってことだろ!」
ふと気がつけば、俺達と遠巻きにしている連中から、シルフィーさんに対するあれこれが聞こえてくる。これ、どう考えても俺のせいだよ。
……なんか申し訳ない。
「ここで話すのはまずいな。少年、シルフィー。続きは奥の部屋で話すぞ」
有無を言わさぬ勢いで、俺は奥の部屋へと連れて行かれることとなった。目立たないという目標は見事に失敗した訳だけど……なんか、想定していたのと色んな意味で違う。
連れてこられたのはギルドの奥にある会議室。俺はマスターとシルフィーの向かいの席に座り、マスターにじーっと見られていた。
「さて、少年。いくつか聞きたいことがある」
重苦しい沈黙を破り、マスターが口を開くが、
「――ミナセくんです」
シルフィーがマスターに詰め寄った。
「む、な、なんだ?」
「で す か ら、少年ではなく、ミナセくんです。ちゃんと名前で呼んでくださいね」
「うっ、む。ミナセくん、か?」
「ええ、そうです」
ヤンデレが恐いのか、はたまたシルフィーさんがもともと恐かったのか。満足気に笑うシルフィーに対して、マスターは顔を引きつらせている。
「それで、あ~、ミナセくんか?」
「ミナセで良いですよ」
おっちゃんに、くん付けで呼ばれるのは気恥ずかしいと提案をする。マスターも同じように感じていたようで、助かると頷いた。
「では俺もグレイブと呼んでくれ」
「グレイブさんですね。それで、聞きたいことと言うのはなんでしょう?」
「うむ。まずは一つ目の質問だ。ミナセはグラン島出身ではないな?」
「え……」
なんでバレたんだ? ステータスは、怪しいスキルだけをチェックすると言ってたはずだけど……実は、他の項目もチェックしてたのか? それとも、称号も引っかかったのか?
「その反応、どうやらアタリのようだな」
「……カマを掛けたんですか?」
やられたと、唇を噛む。その瞬間、
「そうなんですか、マスター?」
ずずずっと、シルフィーがグレイブさんに詰め寄った。その瞬間、グレイブさんの顔が恐怖に引きつっていく。
「い、いや、落ち着け。彼のような存在が前からこの島にいれば噂にならないはずがない。だからそうだと思って確認しただけだ。決して悪意を持って騙したわけじゃない!」
「……なら良いですけど」
必死に否定するグレイブさんに対し、シルフィーさんはそう言って椅子に座り直した。
許されたグレイブさんは、ほっとため息をつく。
その瞬間――
「……次はないですよ」
シルフィーさんがぼそりと付け加え、グレイブさんはびくりと身を震わせた。
なんなんだろうな。このなんともいえない状況は。
俺的には、シルフィーさんのヤンデレが、俺に危害を加える感じじゃなくて、ちょっと安心した……なんて、かなり毒されてるな。
取りあえず、このままじゃ話が進まなそうなので、「それで、どうしてそんなことを聞くんですか?」と続きを促す。
「あぁ、そうだったな。聞きたいのは、ミナセの目的だ。なにが目的でこの島に来た? 冒険者になろうとしているのはなぜだ?」
「個人的な理由……じゃダメですか?」
なんとなく尋問されている気がしたので、答えをはぐらかす。グレイブさんにもそれは伝わったのだろう。渋い表情を浮かべた。
「むう。では単刀直入に聞こう。ミナセは我がギルドを潰すつもりか? もしそうだとしたら、我々はミナセを捕らえなくてはならんが?」
「ふぁっ!?」
ギルドを潰す? なんでそんな風に思われたんだ? そんなつもりは一切ない――と、言い訳は口にする暇がなかった。
シルフィーが再びグレイブさんに詰め寄ったからだ。
「……マスター? さっき、私、言いましたよね? 次はないって」
「いいいいや待て、落ち着け! 彼が危険人物でなければ問題ない。だが、もし危険人物だったら捕らえるのは必要な処置だ! それくらい、シルフィーだって分かるだろう?」
「……………………」
「な、なにか言ってくれないか?」
「………………………………」
「うぐぐ。で、ではこうしよう。捕らえた場合は、ミナセの身柄をキミに任せよう。キミの部屋なりどこへなり監禁して、好きにすると良い。それでどうだ?」
「それなら問題ありませんね」
「――ありますよね!?」
俺は思わず悲鳴を上げる。
せっかくローズから逃げてきたのに、今度は別のヤンデレの手によって監禁とか冗談ではない。と言うか、旅の先々でヤンデレに拉致監禁される生活とか斬新すぎだ。
俺は二人に向かって断固抗議した。
「まぁまぁ、落ち着きたまえ。拘束するのはあくまで、キミの素行に問題があった場合だ」
「ミナセくんは私の心を奪ったので、問題ありありです。今すぐ拘束しましょう」
あぁぁぁぁ。さっきまで俺の味方をしてたのに、シルフィーさんが一瞬で敵に回ってしまった。自分に被害がなければいいやとか思ってたから、罰が当たったんだろうか?
「と、取りあえず、俺にギルドに敵対する意志はありません。むしろ、なぜそんな疑いをもたれたのか、教えて欲しいくらいです」
「……ふむ。キミは、我がギルドの人気受付嬢、シルフィーの現状を見た上で、そんなことを言っているのか?」
「すみません、俺が悪かったです」
思わずテーブルに額をこすりつける勢いで謝った。
「ふむ……取りあえず、ミナセはギルドに敵対する意志がないと言うことで良いのか?」
「はい、それはもちろんです」
グレイブさんの問いかけに対して、まっすぐに目を見て答える。
「……分かった。ミナセがそう言うのなら信じよう」
「信じて、くれるんですか?」
信じて欲しいとは思っていたけど、あっさり信じてもらえるとは思ってなくて驚く。
「冷静に考えたら、ミナセにギルドを潰せるはずがないからな」
「ええっと?」
どういう意味だろうと首をひねる。するとグレイブさんはシルフィーさんをチラリ。
「どう考えても、尋常ではない被害を受けるのはギルドではなく、ミナセだろうからな」
「ぐぅ……」
正論過ぎでぐぅの音しか出ない。
「という訳で、だ。ミナセをギルドメンバーとして受け入れる。もちろん。シルフィー以外の受付嬢には近づかないなど、いくつか制約は付けさせてもらうがな」
「分かりました。寛大な対応、ありがとうございます」
「よし、決まりだ。シルフィーもそれでいい……か?」
グレイブさんの語尾が不安げだったのは、シルフィーが俺を監禁したがっていたからだろう。はっきり言って、俺も恐かったんだけど……
「ミナセくん、時々で良いからギルドに顔を出してくれますか?」
「え、それは、うん。もちろん」
将来的には島を出るつもりだけど。なんて言えるわけもなく、俺はこくりと頷いた。なんか、思いっきり死亡フラグを立てた気がするけど……死んでも生き返るからいいや。
そんなわけで、シルフィーさんは「それならかまいませんよ」と了承してくれた。
「よし。それではシルフィーは、ミナセの冒険者登録をしてきてくれ」
「分かりました。さっそく登録してきますね」
シルフィーさんが会議室を出て行った。それを見届け……俺達は揃ってため息をつく。
「ミナセ、シルフィーが迷惑をかけてすまんな」
「え、どうしてグレイブさんが謝るんですか? 謝るのは俺の方ですよ。俺のスキルで、シルフィーさんをヤンデレ化させてしまった……ってことですよね?」
「たしかにミナセの【ヤンデレに死ぬほど愛される】のランクは規格外だが、ヤンデレ化の対策をするのはギルドとして当然だからな」
「対策を取るのが当然、ですか?」
「冒険者ギルドには、色々なやつが集まるからな。同系列のスキルを持ってるやつは他にもいるさ。もっとも、ミナセほど高ランクなのは初めてだがな」
「なるほど……」
と言うか、ヤンデレなメディアねぇが作った世界だけあって、ヤンデレが社会問題になってるんだな。ある意味では予想どおりだけど……いや、さすがに斜め上だわ。
「それに、いくらヤンデレに死ぬほど愛される:SSSとは言え、誰彼かまわずシルフィーのようになるわけじゃないからな」
「……そう、なんですか?」
「ああ。誤解されがちだが、スキル保持者に好意を抱いていなければ、ヤンデレ化したとしても、あんな風になることはないからな」
「あぁ……そっか」
言われてみればその通りだ。
【ヤンデレに死ぬほど愛される】は、ヤンデレから向けられる好意を増幅する能力がベースで、周囲の人間をヤンデレ化させる効果がある。
でも、シルフィーさんに他に好きな人がいたりすれば、仮にヤンデレ化したとしても、そのヤンデレ行為が俺に向くことはない。
つまり、ローズやシルフィーさんが俺に対してヤンデレ化したのは、スキルだけが原因じゃないってこと。嬉しいような、悲しいような……微妙な感じである。
「そういう訳で、ヤンデレ化を防げなかったこちらに落ち度がある。なにか困ったことがあれば、便宜を図ることくらいはしよう」
「こっちのスキルが原因なのに、そう言われると非常に心苦しいんですが」
「気にするな。それで、なにか困ったこととかはないか?」
「……なら一つだけ。冒険者としての仲間を募集したいのですが」
「――悪いがそれは無理だ」
「即答!?」
さっき便宜を図るって言ったのに、それはないよと落ち込む。
「いや、冷静に考えてくれ。ヤンデレが引き起こす惨劇に巻き込まれると予想できていて、仲間になろうとする男がいると思うか?」
「……思いませんね」
「では、一緒にいたらヤンデレ化すると予想できるのに、ミナセに近づこうとする女性がいると思うか?」
「それも思いませんね」
「だろう? むろん、ミナセを気に入ったヤンデレなら喜んで仲間になるだろうがな」
「それはさすがに……」
ヤンデレから護ってもらうのが目的なのに、ヤンデレを仲間にするとか本末転倒すぎる。
……うん、八方塞がりだな。遠くない未来、ローズの差し向けた追っ手が来る可能性が高いのに、このままじゃローズにお持ち帰りされてしまう。
「……なにか方法はありませんか?」
「方法、か。あえて言うのなら、奴隷を購入するくらいだな」
グレイブさんから聞かされた方法に、「あぁ……」と、俺は唇を噛んだ。