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この異世界でも、ヤンデレに死ぬほど愛される なろう版  作者: 緋色の雨
第三章

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エピソード 3ー3 魂すらもむちゃくちゃに

 ――貴方は死亡しました。


 そんなメッセージがログウィンドウに表示されている。モノクロに染まった世界で、俺は自分の遺体を見下ろしていた。

 少し視線を動かせば、アルミスがローズやクラウディアに対してなにか言っている。

 声は聞こえないが、俺に対するなにかだろう。まだ本格的な拷問は始まっていみたいだけど、時間がないのも事実だ――と、心の中でメディアねぇを呼んだ。


 直後、モノクロだった世界に、ふわりとブルーとピンクのコントラストが舞い降りた。

 桜色のロングヘアーに、胸もとが大きく開いた水色のドレス。濃紫の瞳で俺を見つめるのは、書籍版にしか登場しないメディアねぇの本当の姿。

 女神verなメディアねぇだった。


「ふふっ、貴方だけの女神お姉ちゃんですわよ。――と言うか、そんな時間はないのでは?」

「分かってる。直ぐに生き返らせてもらいたいところだけど――このままじゃ、アルミスには勝てないかもしれない」

 アルミスの再生能力を考えると、生半可な攻撃は通用しない。魔力切れに追い込むか、一撃で殺すしかないだろう。

 だけど、いまの俺じゃそこまでの技量はない。何回もチャレンジすれば、可能性はあるかもしれないけど、次に不老不死の力を使えるのは二四時間後。

 二人が拷問を受けているいま、チャンスは一度しかないと思うべきだ。

 だから――と、ステータスウィンドウを開いた。そうしてバッドステータスの項目を選び、フェミニスト:SSの項目に指を伸ばす。


「――柚希くん、それがどういうことか分かっているのですか?」

「分かってる」

 バッドステータスは、ランクを上げることでSPを回収することが出来る。フェミニストのランクをSSSにすれば、5,000ものSPが入る。

 その代償として、俺は女性に対して危害を及ぼそうという考えすらなくなる。つまりは、女性の言いなりになると言うことだ。

 だけど、それでも――


「ローズやクラウディアを救うには、これしか方法がない」

 力強く言い放ち、迷わずフェミニストのランクをSSSにアップした。そんな俺の思いっきりの良さに驚いたのだろうか。メディアねぇが目を見開く。

 そんなメディアねぇを横目にしながら、俺はどのスキルを習得するか考えを巡らせた。


「そこまで二人のことが大切なんですね」

「まぁ……な」

 クラウディアはヤンデレではなく、俺と共に服飾の道を歩みたいと言ってくれた。

 ローズはヤンデレだけど、アルミスみたいなヤンデレとはまるで違う。俺に好かれるために手段を選ばないきらいはあるが、ちゃんと俺の意志を汲んでくれている。

 俺は、ローズやクラウディアと、この世界で生きていきたい。

 だから――


「あの二人は、なんとしても助ける」

「その代償として、柚希くんの意志が失われるんですよ?」

「アルミスは対象じゃないんだろ? だったら問題ないさ。俺は、みんなを信じてるからな」

 アルミスをなんとか出来れば、バッドステータスのランクを下げる果実が手に入る。そうしてランクを下げれば、フェミニストによる問題は振り出しに戻ることが可能だ。

 二人なら、必ず俺を元に戻してくれると信じている。


「……そこまで二人のことを信じているんですね。少し、羨ましいです」

 メディアねぇがちょっと悲しげに呟いた。それを聞いた俺は少しだけ驚いて――

「馬鹿だな。信じているメンバーには、メディアねぇも入ってるに決まってるだろ」

 そう言って、少しだけ笑った。


「……え?」

「分からないのか? 俺はもうフェミニストのランクをSSSにあげている。いまの俺は、二人を守るために行動しているけど……」

 メディアねぇが『ローズやクラウディアを見捨てて、自分の側にいて欲しい』とでも願えば、きっと俺の意志は上書きされるだろう。

 だけど、メディアねぇはそんなことをしない。

 そう信じているから、迷わずスキルを習得できたのだ。


 沈黙が流れる。メディアねぇがいまどんな顔をして、なにを考えているのかは、ステータスウィンドウに意識を集中している俺には分からない。

 俺はただひたすらに、どのスキルを習得するかを考える。


 女神メディアの祝福による能力アップがある状態で、スピード等は互角だった。だから、死亡によって効果が消滅していたら、身体能力を上げなくてはいけないかもしれない。

 そんな心配もしたのだけれど、幸いにして女神メディアの祝福の効果は持続している。時間も、まだ二〇分以上あるし、そっちの心配はしなくても良いだろう。


 そうなると……と、俺は長剣のスキルをEからSにまで引き上げることにする。

 それに必要なSPは5,100で、フェミニストを上げて得たSPは5,000。だけど、最近のあれこれで溜まっていたSPを消費することで、足りない分を補うことが出来た。

 ついでに、残っているSPを使って柔術を習得、さらにEにまで上げた。これで、俺の近接系の戦闘スキルは以下のようになった。


 長剣:E>S  / 近接戦闘マスタリー:E  / New柔術:E


 さっきまでは届かなかったけれど、これならきっと届くはず。いや、二人を救うためには、絶対に届かせなきゃいけない。

「メディアねぇ――」

 呼びかけた瞬間、メディアねぇが俺の首に抱きついてきた。


「……愛しています」

「俺も愛しているよ」

 メディアねぇの腕の中、俺は穏やかな口調で応えた。


「……それは、わたくしを傷つけないため。フェミニストの効果による答えですか?」

「そんなことはないよ。もちろん、最初から好きだった訳じゃないけど。少しずつ、メディアねぇに惹かれていったんだ」

 再び、自然な気持ちで応える。その言葉すらも、フェミニストの影響を受けているかもしれない……けど、いまの俺にはそんな疑問すら浮かばなかった。

 そして――


「柚希くん。わたくしと…………いえ、わたくしに、格好いいところを見せてくださいね」

「――あぁ、任せておけ」

 応えると、メディアねぇが呪文を唱え始めた。その直後、俺の意識は光に包まれ――修復された自分の身体へと舞い戻る。


「くくくっ、お前達は精神が壊れるまで、なぶり続けてやる。そうして、我の伴侶となるユズキにちょっかいを掛けたことを後悔するが良い」

 ヤンデレ全開のセリフをのたまいながら自ら下腹部にある紋様に指を這わせ、悦楽に身をゆだねたような表情を浮かべていた。そんなアルミスが、ハッと俺の方を振り返った。


「――なっ!? 自分で復活しただと!?」

 驚きに目を見開く。俺はその隙に落ちていた長剣を拾って立ち上がる。


「お主、どうやって復活したのじゃ!?」

「さぁな」

 教える義理はない。むしろ、動揺を誘った方が得策だと意味深な笑みを浮かべて見せた。


「くっ、まさか復活系のスキルを持っているとは。計算外じゃが……連続使用は出来まい。もう一度殺してくれるわ!」

 アルミスが自らの右手を水の触手へと変化させ、俺めがけて振るう。

 だけど――遅い。

 正確に言えば、俺の速度が上がった訳でも、アルミスの速度が下がった訳でもない。けれど、アルミスの動きには、大きな予備動作が存在している。

 長剣スキルがSになった副次的な効果なのだろう。アルミスの攻撃は無駄が多すぎて、いまの俺には、どんな攻撃が来るか見え見えだった。


 迫り来る水の鞭を、余裕を持って斬り飛ばした。その瞬間、アルミスが苦悶の表情を浮かべて体勢を崩す――が、

「その手には乗らない」

 俺は淡々と言い放ち、油断なく剣を構え直した。

 アルミスが水の精霊かなにかで、水で形成した触手を斬られても大したダメージにならないのはもう理解している。だから、油断はしない。

 確実にアルミスを倒して、ローズやクラウディアを助ける。それが、メディアねぇの願いであり、ローズやクラウディアを傷つけない選択。

 だから――


「お前は、ここで死ね」

 俺は油断なく緩みなく、一歩、また一歩とアルミスに接近していく。

「――くっ、なぜじゃっ、なぜ我の寵愛を受けようとせぬ!」

 激高したアルミスが右腕を振り上げる。その直後、斬り飛ばしたはずの水の触手が再生して、一斉に襲いかかってくる。

 斬り飛ばしてもすぐに再生するが、俺は襲い来る水の触手をことごとく斬り伏せていく。


「くっ、これならどうじゃっ!」

 アルミスの左手までもが水の触手に変化、更には背中から羽が生えたかのように水の膜が広がり、その先々から水の触手が伸び、俺へと襲いかかってくる。

 その数はちょうど十。すべての水の触手が、独立した動きで襲いかかってくる。そのすべてを、俺は長剣で払い、あるいは斬り裂き、決して自分のもとには寄せ付けない。


「なぜ、なぜそこまで強くなった! なにがどうなっているのじゃ!」

 攻めているのはアルミス。だが、俺はそのすべてを捌きながら、アルミスへと接近していく。そうして距離が詰まるにつれ、アルミスの顔に余裕がなくなっていく。


「なんだ、なんなのじゃ、お前は! くっ、仕方ない、あの女達を殺されたくなければ――」

 アルミスは最後まで言い切ることが出来なかった。アルミスが俺から意識を逸らした一瞬の隙に俺が距離をつめ、アルミスの下腹部、紋様の中心を貫いたからだ。

 いままで通りであれば、ダメージを受けながらも再生していた。

 けれど――


 アルミスはうめき声を上げ、力なく膝をついた。

「……なぜ、だ。我の紋様が核になっていると気付いて、いた……のか?」

「お前は、何度もその紋様に触れていたからな」

 だから、怪しいと思っていたのは事実。だけど、確信があった訳じゃない。これでダメなら、アルミスが消耗するまで、何度でも切り刻むつもりだった。


「そう、か……お主は、我をみてくれて、いたの……だな……」

 苦しげな表情で、けれど、まるで恋人を見るような目で俺を見上げている。そんなアルミスを左手で突き飛ばし、下腹部に突き立てていた剣を引き抜いた。

 剣を引き抜いた傷口から鮮血――ではなく、澄んだ水があふれてくる。


「あぁ……お主のそういった顔も……」

 アルミスは液状化しつつある右手を俺に伸ばしながら、まるで穴が空いた風船のようにその姿を失ってゆき――やがて、水たまりだけを残して消滅した。


 それを見届けた俺は、泉の中へと踏み込み、ローズやクラウディアを捕らえていた水の触手を切断。二人を岸辺へと運んだ。

 一番恐いのは、二人が既に同時に死んでいること――だったのだけれど、幸いと言うべきか否か、二人は荒い息をしているだけで生きている。

 それに、これといった傷も見当たらない。少なくとも、死の危険はなさそうだ。

 問題は――


「ローズ、クラウディア、しっかりしろ」

 傷つけないように、そうっと二人の身体を揺する。ほどなく、ローズが艶めかしい声をこぼし、ゆっくりと瞳を開いた――が、瞳の焦点が合っていない。


「ローズ、大丈夫か? 俺が分かるか?」

 生きてはいても、精神が既に壊れているという危険もある。頼むから、ちゃんと答えてくれ。そんな風に祈りつつ、ローズに向かって呼びかける。

 その甲斐があったのか、ローズの瞳に少しだけ光が戻った。

 そして――


「ユズキ……お兄さん?」

「ああ、俺が分かるか?」

「……うん、大丈夫――っ」

 起き上がろうとしたローズが、体勢を崩して倒れそうになる。俺はとっさに腕を伸ばして、その華奢な身体を抱き寄せた。


「――ひゃんっ」

 とたん、ローズが艶めかしい声を上げる。

「……ローズ?」

「んんっ。だめ、感覚が鋭くなってて、ユズキお兄さんに触れられただけで……」

「っと、悪い。地面に下ろすな」

 これ以上触れない方が良いだろうと下ろそうとするが、ローズは俺に抱きついてきた。


「……ローズ?」

「あの水の触手に魂をなぶられて、凄く痛くて――痛いだけで、全然気持ちよくなくて。ユズキお兄さんに触ってもらえれば、気持ち良いのにって、だから、いま触れられて――」

「――ご主人様ぁ、あたしも、もう、我慢できないです」

 いつの間に起き上がったのか、クラウディアが俺の背中に抱きついてきた。


「あぁ……凄い。ご主人様に抱きついただけで、ステータスウィンドウを弄り倒されてるときと同じくらい。うぅん、その何十倍も凄い……」

「ええっと……二人はなにを言ってるんだ?」

 二人は、水の触手に魂を締め上げられる感覚に苦しんでいたはずだ。だから、少しでも負担を和らげる。そうしなければいけないのに、なにを言われているか分からない。

 そうやって混乱する俺に、クラウディアが耳元で囁く。


「水の触手になぶられてるとき、ずっと思ってたんです。物凄く痛いって」

「……だから、触られるのは嫌なんじゃないのか?」

「違います。こんな感覚が鋭い状態で、ご主人様に弄り倒されたらどうなっちゃうのかって、ずっと想像してて……だから、もう、我慢できないんです」

 ここに来て、ようやく二人がなにを言わんとしているか理解した。そんな俺に対して、背後からはクラウディア、そして正面からはローズが、俺の耳元で囁く。


「ユズキお兄さん。私とクラウディアの――」

「身も心も、魂すらも。むちゃくちゃに、して、ください」

 切なげに囁く女の子が二人。

 そんな二人を傷つけない。そのために、俺はその申し出を受け入れた。

 

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