エピソード 1ー4 喪失しちゃった
恐そうな部分がありますが、恐そうと思った時点より恐い展開にはなりませんのでご安心を。
習得したファイア・ボルトでなにをするか?
それは……ローズとの契約の破棄だ。
という訳で――俺はファイア・ボルトの使い方を確認する。
まずは……対象をイメージ。……イメージ。それは自殺にも等しい行為。恐怖に支配された俺はイメージを霧散させて、不老不死のスキルを再確認する。
……大丈夫、ちゃんと生き返れる。
だから、あとは使うだけ。精神力に高い補正もあるんだし、恐怖耐性もある。それになにより、さっき感じた恐怖に比べればマシなはずだ!
俺は自分を叱咤して、対象をイメージ。
「ファイア・ボルト」
使用する意志を持って呪文を唱えたことで、自分の真下に光り輝く魔法陣が展開されていく。その魔法陣が書き上がるのを確認。ファイア・ボルトを起動した。
刹那、喉元でファイア・ボルトが炸裂。喉元から血が止めどなくあふれ出る。けれど、気が狂いそうな痛みを感じたのは一瞬。直ぐに意識が遠くなっていく。
そして――
恐怖耐性がBからAにランクアップしました。
貴方は死亡しました。
ログが更新されるのと同時、俺は――絨毯の上に大輪の赤い花を咲かせて倒れ伏した。
気がつけば――モノクロに染まった世界、俺は自らの遺体を見下ろしていた。なんと言うか……思いっきりMMOとかで見かける死亡画面である。
でも、意識が残っている。
つまりは、肉体的には死んだけど、自分という存在は死んでいない。不老不死のスキルが機能している証拠だろう。
ひとまずは安心だな。
問題はどうやって生き返るかと言うことだけど……と、視界の隅に、デフォルメされたメディアねぇが、ヘルプと書かれた木製チックなパネルを持って浮かんでいた。
取りあえず、怪しいのでスルーして、不老不死のスキル詳細を――うおっ!? デフォルメされたメディアねぇが迫ってきた!?
しかも、触れないから押し返すことも出来ない!?
……あ~分かった、分かりました。ヘルプに頼るから、ちょっと離れてくれ。
諦めてそう考えると、デフォルメされたメディアねぇ。大雑把に略してデフォルメぇがコクコクと頷いて距離を取り、持っていたパネルにあらたな文字を表示した。
ええっと、なになに?
今すぐ生き返りますか? はい/いいえ
選ぶだけで良いのか。
それじゃ「はい」って、手がないんだけど、どうすればと思った瞬間、「はい」の部分がタップされたように強調された。
直後、デフォルメぇが消えて、虚空からメディアねぇが出現。クルリと一回転しつつ、俺の目前に舞い降りる。ティアードスカートのミニを履いているせいで、ひるがえったスカートの奥に白いレースがちらっと見えた。
「……見ました?」
スカートの裾を押さえて顔を赤らめている姿が――なんだか意味が分からない。恥ずかしがるなら、ロングスカートにすれば良いのに。
「でも、柚希くんはミニスカートが好きですよね?」
「……好きだけど」
「じゃあ役得を楽しめば良いと思いますよ」
そうかもしれないけど、それを本人に言われるのはどうなんだろうなぁ。
「――っと、あまり時間がありませんね。すぐに生き返らせますね。それと、今回は大丈夫ですけど、生存できない環境で死んだら、復活してもすぐに死ぬから気をつけてください」
「あぁ……なるほど。それは気をつけるよ」
「それと、復活直後から二十四時間のクールタイムが発生します。そのあいだに死んだら、今の状況でクールタイムが終わるのを待つことになるので気をつけてくださいね」
「了解だ」
「それでは、素敵なヤンデレライフを。わたくしは、柚希くんをずっと見ていますから」
メディアねぇが両手を広げて魔法を使用。周囲がキラキラと光り、俺の意識が修復された身体に引き寄せられていく。
ほどなく、俺は床に寝そべっていた。どうやら、自分の身体に戻れたらしい。
「……と言うか、素敵なヤンデレライフってなんだよ。あと、ずっと見てるとか恐いっての」
メディアねぇの場合、あんまり悪意は感じないんだけどさ……なんてことを考えつつ、上半身を起こしてみるが、特に違和感とかは見当たらない。
どうやら、死んだら健康な身体に戻るみたいだ。それに、絨毯に広がった血の跡とかも綺麗に消えている。至れり尽くせりだな。
あとは――っと、ステータスウィンドウと念じてウィンドウを表示。バッドステータスの項目から、【ローズとの契約:E】が消えているのを確認した。
これで部屋から出られる。
俺は――自由だ!
と言うことで、ドアノブを回して部屋の外へ。
周囲に誰もいないことを確認して、廊下を早歩きで進み、エントランスへと向かう――途中で、部屋から出てきたローズと出くわした。
のおおおおおおおおおっ!?
「……あ、れ? ユズキお兄さん!? どうやって部屋の外へ出たの?」
これはヤバイ。色々とヤバイ。
ローズとの契約は無効化しているけど、それに気付かれたら警備の人とかを呼ばれるかもしれない。なんとか誤魔化して時間を稼がないと!
「どうやったのかは知らないけど、お願いだから――」
「そ、そんなことより! ローズは着替えに行ったんじゃなかったのか? 見たところ、服を着替えたようには見えないけど!?」
なんて、退出した理由である「着替え」が、ごく一部の布だけであることに俺は気付いている。その上で、あえてそんな質問をして、ローズを動揺させようという作戦だ。
そして、そんな思惑どおりにローズは恥ずかしそうにもじもじと身体を揺すり――
「えっと……その、ね。下着が濡れちゃったから脱いだんだけど、ユズキお兄さんはどんな下着が好きなのかなと思って……えっと、どっちが好き、かな?」
そう言ってローズが両手を俺に見えるように持ち上げる。それぞれの手には、白いシンプルな布きれと、黒くてひらひらの布きれが揺れている。
……もしかしてショーツ? と言うか、脱いだんだけど――って、それはまさか、今は履いてないってことですか!?
俺よりたぶん一つか二つくらい年下の、金髪ツインテールの美少女。愛らしい容姿の彼女は、ゴシックロリータを身に付けていて、その下は……履いてない。
なんと言う……衝撃。
――って、俺が動揺してどうするううううううっ!
「えっと……ユズキお兄さん? お願いだから、教えて」
「そんなの、ローズの愛らしい容姿で、じつは履いてないって方が良いに決まってる!」
「……ユズキお兄さんの、えっちぃ……」
うぅむ。恥ずかしがるローズが最高に可愛い。………………………………って、ちがああああああああああああぁぁぁぁあああうっ!
俺はなにを馬鹿正直に答えてるんだ!?
――い、いや、今のも違う。馬鹿正直に本心を曝け出した訳ではなく、ローズにお願いされたから、ローズとの契約が発動しただけで……って、契約は解除したんだった!
えっと……ええっと、そう! ローズとの契約が切れていないと誤魔化すために、心にもないことを言っただけ! だけだから――っ!
はあはあ、ちょっと落ち着け、俺。とにかく、理由はなんであれ話を逸らしたんだ。このまま上手く誤魔化して、ローズから逃亡を……
「ところでユズキお兄さん」
「うん?」
「どうやって部屋から出たのか知らないけど、お願いだから部屋に戻ろ?」
「…………………………」
俺の今までの苦労が。いや、苦労というか自爆しただけだったけども。
なんと言うか……凄くあれだけど、契約が解除されているのは直ぐにバレるだろう。こうなったら多少強引にでも逃げるしかない。
だから――と、俺は深呼吸を一つ。
「悪いな、それは出来ないんだ」
もうローズの言いなりにはならないと、抵抗の意を示す。
「え、嘘!? 魔眼による契約を破ったの!?」
「ああ。だから――ごめんな」
色々と申し訳ないことをしたという気持ちはあるし、ローズとのめくるめく甘美な日々はちょっと魅力的だけど――いやなんでもない。
とにかく、飼い殺しは嫌なので、俺は身をひるがえして逃げようとする。
「待って、ユズキお兄さん、ちょっと待って!」
慌てたローズがしがみついてくるが、俺は「だが断る!」と、即座にその腕を振り払――はら、払えない!? な、なんで!?
「……あれ? ユズキお兄さん?」
ローズもすぐに振り払われてしまうと思っていたのだろう。意外そうに俺を見ている。けど、一番驚いているのは俺の方だ。
ローズとの契約は破棄できたはずなのに、どうしてだよ――と、大混乱。
そんなとき、ふと、視界の隅に映り込んでいるログウィンドウに気がついた。
そこには、フェミニストの効果により、女性に危害を加えることは出来ません。と表示されて――あああああって、そうだった!
契約なんかよりヤバイ、バッドステータスを抱えてるんだった!
ヤバイヤバイ、どうする? どうすれば、この状況から逃げ出せる?
「ええっと……ローズ、放してくれないか?」
「……もしかして、ユズキお兄さん。私の手を振り払えないの?」
「そ、そそそ、そんなことはない!」
「じゃあ、私の手を振り払う気がないってこと?」
「ええっと……それは」
イエスと答えても、ノーと答えても詰む気がする。どうする、どうするよ俺と焦っていると、ローズが妖艶な微笑みを浮かべた。
「やっぱり、ユズキお兄さんは私の手が振り払えないんだね。うぅん。もしかして、私だけじゃないのかな?」
「な、ななな、なんのことだ!?」
「ふふっ、私、分かっちゃった。ユズキお兄さん。フェミニストのスキルを保持してるでしょ? それも、とぉ~っても高ランクの」
「なんでそれを――っ」
思わず悲鳴を上げ、カマを掛けられたんだと気づいて口を閉じる。だけど、既に手遅れだった。ローズは「やっぱりそうなんだぁ」と妖艶な微笑みを浮かべた。
「それじゃ、ユズキお兄さん、部屋に戻ろうね」
腕にギューッと抱きつかれる。普通ならちょっと困る程度の――だけど俺にとっては完全に詰んだ状態。もはや逃げる手段は残されていなかった。
「ぐぬぬ……」
しかも、さっき騒いだせいで、メイド達が何事かと集まってきた。もはや、この状況を打開するのは不可能だろう。こうなったら、ここは素直に従って、次の機会うかがうべきだ。
「えっと……その、逃げようとしてごめん、俺が間違ってた」
「……ユズキお兄さん?」
俺が急に順応になったので、ローズは戸惑うように俺を見上げた。
「その、ちょっとした気の迷いだったんだ」
「そう……だったんだね。うん、良いよ。私はユズキお兄さんのことが好きだから、約束を破って部屋から出たことも許してあげる」
「……ローズ、ありがとう」
今までのヤンデレは、もっと自分勝手だった。たとえば俺を殺した陽菜乃なんかは『私の望まないことをするなんて、絶対に許さない』といった感じだった。
だから、少しだけ、ほんの少しだけ、ローズはチョロ可愛いと思った。
だけど――
「でも、私にあんなことまでしたのに、途中で逃げようとするなんて……お仕置きだよ? 今度は、絶対逃げられないようにするからね?」
「……え?」
戸惑う俺の目の前で、ローズが穏やかな表情で「スリープ」と呟く。その直後、ローズを中心に魔法陣が展開され――
「おやすみなさい、ユズキお兄さん」
俺は眠りに落ちた。
「……ここは?」
ぼんやりと目を開く。そこには最近見た覚えのある天井。どうやら、監禁されていた薄暗い部屋に連れ戻されたようだ。
ローズはどこに――と、ベッドに手をついて起き上がろうとする。だけど――ベッドにつこうとした手は空を切った。
「あれ? なんでベッドに触れな……い……」
その先は口にすることが出来なかった。ある可能性に気がついてしまったからだ。
そこにあるはずのベッドに触れない理由。考えられる理由はたった二つ。
一つは、ベッドが幻の類いであること。
そしてもう一つは、触れようとしている手こそが幻であること……と、恐る恐る視線を向ける。そこに映るのは……ベッドだけ。
俺が動かしているつもりだった右腕は存在していなかった。
俺は、まさかと思って首を動かして身体を確認する。そして理解したのは、右腕どころか、左手も、そして両足すらも存在していないと言う事実。
「……え? ちょ……マジで?」
慌てて手足をばたつかせる。その感覚はたしかにあるのに、反動がなにもない。俺はベッドの上で、芋虫のように腹筋でばたついただけだった。
のおおおおおっ!? ダルマ、ダルマになってる! って言うか、起き上がれないよ! 両手両足を失った状態をダルマとか言うけど、起き上がれませんよ!?
おっおおち、落ち着け俺! 今はそんなどうでも良い情報は無視だ! こんな時は……そう! 手のひらに人と書いて飲み込む――その手がなかったあああああああっ!
焦る俺の耳に、ガチャリと扉の開くことが届いた。
そして――
「ユズキお兄さん、そろそろ目が覚めた――」
「――ロ、ロッ、ローズっ!」
「うわぁ、びっくりした。そんなに怒った声で、どうかしたの?」
戸惑いの声を上げつつ、俺の視界に入り込んでくる。そんなローズをきっと睨みつけた。
「どうしたもこうしたも! 俺の手足をどうしたんだ!?」
「あぁ、手足のこと? ユズキお兄さんが逃げないように、眠らせているあいだに魔法で切り落としたんだよ?」
「きりっ――本当に、切り落としたのか? そう見える幻覚とかじゃなくて?」
恐怖耐性があるからだろうか? 一時はパニクったものの、比較的冷静に受け答えをすることが出来た。そして、だからこそ、ローズの行為に対して怒りを抱く。
だけど――
「切り落としたのは事実だけど、ユズキお兄さんが大人しくしてくれたら、ちゃんと生やしてあげるから、心配しなくても大丈夫だよ?」
「……………………生やす?」
なにそれどういうことと尋ねると、どうやら手足の欠損なんかを治す魔法があるらしい。
「……ローズはそれを使えるのか?」
「もちろんだよぉ。じゃなかったら、いくら私でも、ユズキお兄さんの手足を切り飛ばしたりしないよぉ」
「……いや、普通は再生できたとしても、軽々しく切り飛ばしたりはしないと思う、ぞ?」
それとも、まさか、復活や回復魔法が存在する世界なので、『手足もいじゃったっ。てへっ』的な反応は、世界観的に普通……な訳ないか。
……ないと良いなぁ。
「ところで、ユズキお兄さん……」
「……ええっと、なぜ俺に上にのしかかってくるんでしょうか?」
なんとなく嫌な予感がしたのでローズを押しのけたい。けど、残念ながら手が存在していないので抵抗は出来ず。ローズはなんなく、俺に覆い被さった。
「私、ユズキお兄さんのことが好き。ユズキお兄さんはそうじゃないかもしれないけど……それでも、私の気持ちは変わらないから」
「えっと……それは、その……悪い気はしない、けど……」
いや、悪い気はしないじゃなくて! 俺はなにを言っているんだと自己嫌悪に陥っているあいだにも、ローズは濡れた瞳で俺を見つめている。
「それで……その、ね。はしたないって思われるかもしれないけど、さっきユズキお兄さんにくすぐられてから……分かるでしょ? だから……私の初めて、もらって」
「いや、待て! そんな軽々しく。って言うか、ローズは貴族の娘だろ!?」
「大丈夫、責任はちゃんと取るから!」
「それは普通、俺のセリフだ!」
「ホント? 嬉しい!」
「いや、今のは言葉の綾というか――って、ちょっと、服を脱がすな! って、聞いてる? 聞いてますか!? にゃあああああああああああああああああああああああああっ」
抵抗むなしく、俺はローズに辱められてしまった。
それから――三時間あまり。ローズはようやく満足したのか、手足を欠損している俺を抱き枕のようにしてベッドに寝転んだ。
……なんと言うか、色々と凄かった。ローズも初めてだと言ってたんだけど……たがが外れてからがが特に凄かった。
どれくらい凄いかというと、俺がわずか三時間で快楽耐性のスキルを習得してしまったくらい凄かった。やったね俺、快楽に強くなったよ!
……うん、わりとシャレになってないな。
ちなみに、俺の手足はいまだに欠損したままなんだけど――
「はぁはぁ。ユズキお兄さんも触って、私に触ってよぉ~」
「手がないから、むーりー」
「そんなぁ……」
とか言うやりとりがあったので、手を再生してもらえる日は意外と近いかもしれない。
……なんか色々おかしい。
ちなみに、賢者タイムになって気付いたんだけど、死んで復活したら完全な状態に戻るので、ローズの気まぐれを待つ必要はない。
不老不死のクールタイムが消化されたら、リトライして逃げるつもりだ。
なお、クールタイム消化まで、あと……三時間くらい。今が22時くらいなので。深夜の1時くらいにクールタイムが消化される計算だ。
「……なあ、ちょっと良いか?」
俺を抱き枕にして休んでいるローズに向かって尋ねる。ローズは汗ばんで張り付いた髪を指で払い、俺の顔を覗き込んできた。
「なぁに、ユズキお兄さん。もう一回、して欲しくなった?」
「……いや、違うから。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
艶っぽい声で紡がれたセリフは全力でスルー。ローズがこの数時間で急に色っぽくなったとかは絶対に考えない。考えないって言ったら考えない。
「聞きたいこと? これからのことなら、私がお世話してあげるから、なんの心配もいらないよ? 着替えも、ご飯も、それ以外の欲求も全部、ぜぇんぶ、私にお任せ、だよ?」
……ゴクリ。
正直に言うとさ。俺は今までヤンデレに迫られまくってて、だけどヤンデレの誘惑に負けたら取り返しがつかないと、ずっと我慢してたんだ。
だから一度一線を越えてしまうと、自制が……いやいや、落ち着け。ここでローズに陥落したら、このまま監禁される一生になるから。
「き、聞きたいのは、俺の手足を奪った方法だよ。一体なにをどうやったんだ?」
綺麗に切り落とされたというかなんと言うか、本来あるはずの痛みがないのだ。いや、手足を切り落とされた経験はこれが初めてだから、痛みがあるはずって言うのは予想だけどさ。
「あぁ、ユズキお兄さんの手足を切り落としたのは私の魔法だよ。眠らせてるあいだに手足を切り落として、素早くヒーリングで傷口を塞いだんだよ」
「……なるほど。ヒーリングで欠損は再生されないのを利用したのか。……と言うか、そんな魔法を持ってたなら、襲撃されたときになんで使わなかったんだ?」
「あぁ……うん。その魔法は、さっき使えるようになったばかりだからね」
「……さっき?」
「ユズキお兄さんに魔眼を使ったりしたときだよ。これは私の予想だけど、ユズキお兄さんって、物凄く総合評価が高いでしょ?」
「総合評価? あぁ、ステータスのことか、たしかに高いけど……?」
一般人で5,000くらい。駆け出し冒険者で10,000くらいからだって言ってたけど、俺は称号やらなにやらで100,000の大台に乗っている。
でも、それがどうしたのだろうと思って尋ねると、総合評価が高い相手に様々な行為をすると、各種スキルの習得や上昇がしやすいらしい。
つまり……あれか? 俺に睡眠薬を盛ったり、俺の手足をもいだり、俺の心や体を弄ぶことで、ローズの能力が急激に上昇していく……?
も、もしかしなくても、早くこの状況をなんとかしないと、ヤンデレチート娘ができあがってしまうんじゃないか……?
えっと……他人の能力を確認する方法は……たしか、鑑定があったな。と言うことで、俺は鑑定スキルを発動。ローズに対して使ってみた。
【総合評価】:26,800
総合評価しか見れないのは……鑑定スキルがFだからか。
これじゃ詳細は分からないけど……総合評価だけで十分にやべぇ。既に、普通の女の子ではありえない総合評価になってやがる。
クールタイムが終わったら、すぐに逃げ出さないと。
「ふふっ、どうしたの、ユズキお兄ちゃん。ローズのことが欲しくなっちゃった?」
「いやいや、なってないから!」
と言うか、マジでこれ以上成長されるのはヤバイ。俺の能力は、称号とかヤンデレとかで妙に総合評価が高いだけで、実質的な強さで高いわけじゃない。
対してローズは魔法など、直截な戦闘力が上がってる可能性がある。これ以上成長されたら、フェミニストのスキル以前に、どうやっても対抗できなくなる。
なんて思っているのに――
「それは残念。でも、良いよ。ユズキお兄さんがローズの虜になるまで、なんどでも、どんなことでも、いっぱい、い~っぱい、して、あげるから……ね?」
ローズによる辱めはまだまだ終わらない。
――それから二時間ほど経過。
「はぁ……凄かったぁ。ユズキお兄さんのことが、もっともっと、好きになっちゃった。今日はこのまま、ユズキお兄ちゃんと一緒に寝ても良いよね」
汗でぐっしょりになったゴスロリを脱ぎ捨てたローズが、俺を抱き枕にして眠ろうとする。だけど、まだ不老不死のクールタイムが残っている状態で寝られるのは困る。
俺が生き返るときこそ、ローズにはぐっすり眠ってもらわないと困るからな――と言うことで、俺はローズに向かって言い放った。
「俺はまだ満足してないから、延長戦だ」
「ふえぇぇぇっ!? え、えっと……それは、その……私と、もっとしたい、ってこと?」
「他になにがあるんだよ。俺は動けないから、ローズが頑張ってくれよ? 俺のお願いなら、どんなことだってしてくれるんだろ?」
……我ながら凄いことを言ってるなと呆れる。そして、自分で言って興奮してきた。ローズを疲れさせるのが目的だけど、それ以外の感情がないって言えば嘘になりそうだ。
なんて考えていると、ローズは真っ赤になりながらも……こくりと頷いた。
「その、ユズキお兄さんがそう言うなら……私、一生懸命、頑張る、ね」
――という訳で更に一時間が経過。俺は快楽耐性のスキルがEになった。
ローズはもう限界とばかりに、ベッドの上に転がる。
「はぁ……はぁ。もう、なにがなんだか、分からないよぅ」
「なにを言ってるんだ。まだまだこれからだぞ?」
「え、え? あ、あの……私、もう、動けない……」
「頼む、ローズ。俺のして欲しいこと、全部してくれるんだろ」
「はうぅ。お、お兄さんに、そんなこと言われたらぁ、私、ことわれないよぅ」
と言うことで……更に一時間。
軽く限界突破したローズは、気絶するように眠ってしまった。
結局、クールタイムが終わってから一時間ほど過ぎているし、なんだかんだと言ってローズの総合評価が上がってしまった可能性があるけど……俺が不老不死を使うときに、ローズが万が一にも起きないようにするために必要な行為だった。
だから別に、初めての経験に加えて、一生懸命に頑張るローズの虜になったとか、そう言う理由じゃない。ないったらないのだ。
……凄かったけど。
それはともかく、不老不死のクールタイムは消化した。
これで一度死ねば、五体満足な状態に復活できるけど……ローズは先ほど眠ったばかり。レム睡眠から、ノンレム睡眠に陥るまで、個人差はあるけどおよそ三十分程度のはず。
俺は息を殺して、三十分ほど経過するのを待った。
ちなみに、ローズはふらふらにはなっていても、俺が魔法を使う可能性を考えていたのだろう。眠る前に俺に猿ぐつわを付けてしまった。
だけど、こんな時のため――に取ったわけではないけど、俺には無詠唱がある。という訳で、俺はファイア・ボルトを自分に指定。魔法陣の展開を始める。
……って言うか、光の魔法陣が思いっきり目立ってるな。今はローズが眠ってるから問題ないけど、無詠唱で相手に気付かれずに一瞬で起動――とは行かないみたいだ。
――無詠唱のランクを上げたらいけるのかな?
少し気になるけど、魔法陣の展開が直ぐ終わったので、確認は後回しだ。俺は即座に無詠唱でファイア・ボルトを起動。
可能な限りローズに気づかれないように威力を抑え――自分の首を吹き飛ばした。
やがて、自分の死亡ログが流れ――モノクロの世界へと移行する。
と言うか、ローズに気付かれないように威力を絞ったおかげで即死できなくて、わりと本気で死ぬかと思った。
いや、死んでるし、正しくは死ぬほど痛かった……も違うな。死に際が痛かった?
ともかく、俺はローズが目覚めていないのを確認して、不老不死のスキルによる復活を選択する。直後、虚空からメディアねぇが短いスカートの裾をひるがえしてふわりと降り立った。
「柚希くん――夕べはお楽しみでしたね」
うっさいわっ!
……って言うか、あれか。メディアねぇにずっと観察されてたのか。とんだ羞恥プレイだな。なんかもう、感覚が麻痺して動じなくなってきたけど。
「そのうち、あらたな刺激を求めるようになるんですか?」
ならねぇよ。って言うか、思い浮かべたこと全部伝わるのって話しづらいな。
「なら、伝えたいことは声に出すイメージにしてください。それで上手くいくはずです」
伝えたいことだけ声を出すようなイメージ、ね。じゃあ逆に、伝えようと思わなければ伝わらない感じかな? テステス、テース。
伝えないようにイメージしながらあれこれ考えるけど、メディアねぇの反応はない。上手く遮断できてるみたいだな。じゃあ逆に伝えようと思えば……
「えっと……こうか?」
「はい。そうして意識して頂ければ、伝えたいことだけ伝えられます。それにしても、いきなりヤンデレに監禁されるなんて、さすが柚希くんですね」
「……そうなるように仕組んでおいて良く言うよ」
ぼそっと突っ込みをいれる。だけど、メディアねぇは小首をかしげた。
「……仕組んでませんよ?」
「え……?」
「ですから、仕組んでません。わたくしは基本的に見てるだけで、そういった干渉はしていませんよ。ですから、いきなりヤンデレの女の子に出会ったのは、柚希くんの運です」
「マジか……」
ちょっと絶望しそうになった。
「っと、あまりしゃべってる時間はなさそうなので、さっそく復活させますね。頑張ってください。わたくしは、貴方をずぅっと、見ていますから……」
メディアねぇが両手を広げて魔法を使用。俺の肉体が修復され……俺の意識は再び、再生されたばかりの肉体へと戻された。
……ふう。手足があるって素晴らしいな。
俺はローズを起こさないように、ゆっくりと身を起こしてベッドから降り立つ。そうして猿ぐつわを外し、念のためにとローズの寝顔を見るけど、まったく起きる気配はない。
さすがに、疲れ切ってるみたいだ。
「……ローズ、ごめんな」
恐怖耐性のせいか、はたまた手足すらも再生できる世界だと理解しているせいか、ローズに手足を吹き飛ばされて監禁された事実は、とくにトラウマになるような感じではなかった。
それどころか、初めての相手に情を感じていないと言えば嘘になる。だから、そんなローズを置いていくことにも罪悪感はあるんだけど……
俺はヤンデレが嫌いだ。
人の話を聞かず、こっちの都合をまるで考えてくれない。そうして自分の価値観を押しつけ、自分勝手な理由で俺や父を殺した存在だから。
ローズがまったく同じだとは言わないけど……部屋でずっと飼い殺しにされるのは絶対にごめんだ。だから俺は行くよ――と、眠るローズの頬を優しく撫でつける。
そして、今度こそ、先ほどは忘れていた気配察知のスキルを起動して廊下へ。周囲に見回りがいないことを確認しつつ、屋敷からから脱出した。
こうして、追いかけてくるローズから逃げつつ、普通の女の子とのスローライフを目指す、俺の異世界での生活が始まった。
おかげさまで、今日は総合週間ランキング56位に入ってます。また、総合月刊ランキングにも手が届きそうなところまで来ました。
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