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この異世界でも、ヤンデレに死ぬほど愛される なろう版  作者: 緋色の雨
第三章

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エピソード 2ー2 国王陛下の忠告

 船旅は順調で、翌日にはケイオス領にある港に到着。そこからグランツさんの案内で、王都へと馬車で向かう。そうして数日。俺達はなにごともなく、王都へとたどり着いた。


 グリア神聖王国の王都というだけあって、大通りは活気に満ちあふれている。さすがに王都と言うだけあって、他の領地よりも発展しているようだ。

 そんな大通りを馬車で進み、向かった先は王城。入り口で手続きと持ち物検査などを終えて、ようやく城の中へと入ることが出来た。



 グランツさんに案内されたのは、ソファとテーブルがあるだけのシンプルな部屋。どうやら、待合室の類いのようだ。

「さっそくラクシュ様にお知らせして参りますので、この部屋で少しお待ちください」

「分かりました」

 グランツさんを見送り、俺とローズとクラウディア。それにシルフィーの四人は、思い思いの席に座って、時間を潰すことにした。


 それから、使用人が用意してくれたお茶菓子なんかを摘まんでいると、不意にクラウディアが「……あれ?」と首を傾げた。

「どうしたんだ?」

「いえ、なんかログウィンドウにメッセージがあって」

「ログウィンドウ?」

 なんだろうと、俺は視界の隅に表示されるログウィンドウに目を向ける。そこには『ヤンデレに死ぬほど愛される:SSSの一部の能力が無効化されました』と表示されていた。



「あぁ……これが、城にあるヤンデレ化対策か」

 一部というのが気になるけど……聞いた話からして、周囲の人間のヤンデレ化を促進させる能力が無効化されているのだろう。

 これと言って、自覚はないけど……なんとなく幸せな気分だ。なんて思っていたのだけれど、クラウディアが「ご主人様ぁ……」と悲しげに俺の袖を掴んで来た。


「なんだ、どうしたんだ?」

 そういや、クラウディアはヤンデレスキルを持っていない。バッドステータスの緩和の影響を受けるスキルなんて……あ。

 そういえば、クラウディアはバッドステータスを所持していた。クラウディアの所持しているバッドステータスは『押しに弱い』『快楽に弱い』『恥ずかしがり屋』の三つ。

 その三つのランクが下がって悲しげにしてるのは……


「クラウディアのえっち」

「ふえっ!? ち、ちちちっ、違いますよ!?」

 クラウディアは、両手を振って全力で否定するが……その慌てぶりは、そうだと肯定しているようなものだ。なので俺は、ニヤニヤと笑ってみせた。


「むぅ、違うって言ってるのに、ご主人様のイジワル」

 ぷくぅと、頬を膨らませるクラウディア。その姿は可愛いけど……なるほど、たしかに反応がいつもと違う。いつものクラウディアなら、真っ赤になって俯いていたはずだ。

 思ったよりも、スキルの効果が影響しているみたいだな。この分だと、いつもみたいな羞恥プレイは難しいかもしれない。……いや、羞恥プレイが出来なくても、クラウディアがエッチなことに変わりはないので、あまり困らない気はするが……


 それはともかく――と、俺はドキドキしてローズの横顔を盗み見た。クラウディアでこれなら、ローズはヤンデレじゃなくなっているかもしれないと思ったからだ。


「……どうしたの、私の顔をじっと見て」

「いや……」

 これは、どっちだ? 貴族服を身に纏い、悠然と微笑んでいる。綺麗な女の子という雰囲気を醸し出しているけど……いつもと変わらない気がする。

 ……いや、ぱっと見がそう見えるだけで、内面は変わっている可能性も!


「なぁ、ローズ。ローズは俺を監禁したいと思うか?」

「え、させてくれるのなら、屋敷に戻って部屋を手配するけど?」

「……しょんぼりした」

 いつもと変わらないじゃないですか、ヤダー。


 考えてみれば、ローズは普段から監禁したい衝動を抑えている訳で……ランクが一つや二つ下がっても、表面上は変わらないと言うことか。

 それだけ、普段のローズが俺のためにヤンデレを抑えてくれていると考えるべきか、それだけローズのヤンデレが高ランクだと考えるべきか……微妙なところだな。


 ちなみにシルフィーは……と視線を向ければ、いつもと変わらぬ笑顔で微笑まれてしまった。なにか言われた訳ではないし、その笑顔が狂気に満ちている訳でもないが……

 うん、こっちも変わってなさそうだ。


 こうして三人の反応を見る限り、バッドステータスの緩和はあまり期待できないな。あんまり信用しすぎないようにしよう。

 とまぁ、そんな感じで待っていると、グランツさんが戻ってきたのだが――


「……国王が俺達と会いたがっている?」

「はい。ラクシュ様とお会いになる前に、ぜひ会いたいとウォルト様がおっしゃっています」

 一体どういう要件だろうと、俺は意見を求めてローズに視線を向ける。


「ウォルト国王陛下はヤンデレじゃないよ」

 ローズが小声で教えてくれたのは、俺の不安を払拭する一言だった。

 しかし……そうか。ヤンデレ化が社会現象になっているがゆえに、重要な役職の人ほど、ヤンデレ化してない人が多いんだな。


 思い返せば、ギルドの受付嬢も、ヤンデレなんてありえないとか聞いた記憶がある。……もっとも、そう言い切ったシルフィーは、その直後にヤンデレ化したんだけどさ。

 ただこの城では、俺のヤンデレに死ぬほど愛される:SSSのヤンデレ化させる効果は無効化されているはずなので、現時点でヤンデレじゃない人間は安全だろう。


 ……いや、クラウディアしかり、ヤンデレじゃなければ安全かといえば、そうとは言い切れないのだが。そこまで心配していたら、この世界では生きていけない。

 ということで、呼ばれた俺と――俺一人では色々と不安と言うことでローズに同行してもらい、二人でウォルト国王陛下に謁見することになった。



 案内されたのは謁見の間。

 石造りの広いフロアで、正面には階段がある。顔を上げていないので分からないが、恐らくはそこに国王陛下がいるのだろう。


「――面を上げよ」

 跪いて頭を下げていると、厳かな声が響いた。その声に従って顔を上げると、数段ある階段の上。玉座に座る初老の男がいた。


「陛下、お初にお目に掛かります。ブラッド家の長女、ローズでございます」

「――お初にお目に掛かります。ウェルズ洋服店のユズキと申します」

 ローズの自己紹介を耳にして、俺は慌ててその後に続く。言ってから、わざわざウェルズ洋服店と言う必要があったのだろうかと、やくたいもないことを考えた。


「ふむ。お主達がユズキとローズか。噂はかねがね聞いている」

「……噂、ですか? それはもしや、私が所有するスキルの件でしょうか?」

 俺は思わず冷や汗を流した。夜会で出会った貴族の娘達をヤンデレ化させた。ヤンデレ化が貴族社会で問題になっていると聞かされたいまでは、わりとガチで不味いことをしたと思う。


「そう警戒せずとも良い。スキルのことは聞いているが、ヤンデレ化した者が未熟なだけ。お主を咎めるつもりはない。安心するが良い」

「……そう言っていただけると助かります」

 この世界では、ヤンデレ化する方が悪いと言う風潮。それは理解していたけど、やっぱり不安に思っていたのだろう。俺は国王陛下の言葉を聞いて安堵した。


「噂というのは、ブラッド家が主催した夜会で、ドレスを披露した件だ。ローズが身に着けていたのは、実に素晴らしい出来だったと聞いている」

「……光栄です」

 俺は頭を下げ、感謝の言葉を伝える。とはいえ、いまのは伝聞。実際に見て褒めてくれた、ラクシュの言葉の方が嬉しいんだけどな。



「さて、お主を呼んだ要件だが……まずは確認したいことがある。我が娘はお主が夜会で披露したドレスを見て、自分にも作って欲しいと申し出た。その点について相違はないな?」

「はい。そう聞いています」

 持って回った言い方、一体なにを言われるんだろうと、俺はドキドキする。

 そんな俺に対して、ウォルト国王陛下は厳かな口調で、「ラクシュには色々と要望を言われるだろうが……王女にふさわしいドレスを作ってくれ」と告げた。


「えっと……それはもちろん、全力を尽くします」

 予想に反して、内容がごくごく当たり前のことだったので戸惑う。もちろん、顔には出さなかったつもりなんだけど……俺の反応は予測済みだったのだろう。

「いまは分からずとも良い。しかし、わしの言葉を忘れぬようにな。これは要望ではなく、命令であると心得よ」

「分かりました。先ほどのお言葉、心に刻んでおきます」

「うむ。その点を忘れずにいてくれるのなら、多少のことには目をつむろう」

 ……多少のことって、なんだ? 俺がなにかやらかすと思われているのだろうか? 良く分からないけれど、ここは「分かりました」と頷いておく。


「うむ。期待に応えてくれたならば、わしからも褒美を用意しよう。だが、もし期待に添えなかった場合は……いや、これは口にする必要のないことだな。期待しておるぞ」

 いま、さり気なく脅迫された気がする。

 とは言え、作ったドレスが原因で国王陛下の不興を買ったら、デザイナーとしての未来が絶たれるのは想像に難くない。満足してもらえるように全力で取り組もう。



 ――結局、国王陛下の要件はそれだけだった。そして、謁見の予定はずっと詰まっているそうで、俺達は早々に退出を促された。


「なあ、さっきの陛下の言葉、どういう意味だと思う?」

 クラウディア達が待っている待合室へと戻る途中、俺は隣をあるクローズに問いかける。

「ん~もしかしたら……だけど。ユズキお兄さんがデザインした私のドレス、スカートの丈がちょっと短かったでしょ?」

「あぁ……なるほど」

 俺からしてみれば、ほんの少し足が出ている程度で――この世界のドレスから見るとわりと大胆。お姫様には露出が多すぎると言えなくもない。

 国王陛下が俺のデザインしたドレスの噂を聞いていれば、納得できる話だ。


「でも、その程度なら心配しなくても大丈夫かな」

「そうだね。要望を聞きつつデザインすれば――」

 と、ローズがセリフを飲み込んだ。廊下の向かいから、数名の男が歩いてくる。それに俺が気付くのとほぼ同時。ローズが俺の袖を引いて廊下の端に。

 若い男だったが、恐らくは目上の人なのだろう。ローズに併せて、軽く頭を下げた状態で待機する。そうして男達が通り過ぎるのを待っていたのだが……


「誰かと思えば、ローズではないか。久しいな」

 男が目の前で足を止め、ローズに話しかけた。

「ご無沙汰しております、ハロルド殿下」

 ローズの返事を聞いて、男が王子であることを知る。ただ、俺が話しかけられている訳じゃないので、俺は軽く頭を下げたまま、二人のやりとりを聞いていることにした。


「相変わらず美しい……が、聞くところによればヤンデレ化したそうだな」

「はい。ご期待に添えず申し訳ありません」

「ヤンデレ化は世の常だからな。気にすることはない。だが……残念だとは持っている」

「もったいないお言葉でございますわ」

 高貴な者同士の会話――だが、どこか親しげな雰囲気がある。そんな風に思いながら待っていると、ほどなくハロルド殿下は立ち去っていった。

 俺はその後ろ姿が完全に見えなくなるのを見送ってから、ようやく緊張を解いた。


「……驚いた。王子が普通に廊下を歩いてるものなんだな」

「王の子供はたくさんいるからね」

「なるほど」

 そういえば、ラクシュは十二番目の娘だと言っていた。となると、ざっと20~30は王の子供がいてもおかしくない。……うん。覚えきれる自信がないな。

 ひとまずはラクシュ姫殿下と、ハロルド殿下だけ覚えておこう。


「ところで、ハロルド殿下と知り合いだったみたいだけど?」

「うん。私はほら、ユズキお兄さんと出会うまではヤンデレじゃなかったから。色々なところから、縁談の話があったんだよね」

「いまはないのか?」

「貴族の妻が真っ先に求められるのは、非ヤンデレであることや、ヤンデレ化耐性のスキルを持っていること。教養や血筋は二の次だからね」

「なるほど……そこまで、ヤンデレかどうかの影響が大きいんだな」

 想像よりも、ヤンデレのあれこれに対する重要度が高い。

 非ヤンデレや、ヤンデレ化耐性持ちの女の子がどれくらいいるかにもよるけれど、クラウディアのことは本当に注意しておいた方が良さそうだ。


 ――と、そこまで考えてふと気付く。さっきはスルーしそうになったけど……


「もしかして、ローズはハロルド殿下にも求婚されていたのか?」

 思い返せば、さっきのやりとりはどこか親しそうだった。そして、ハロルド殿下はローズがヤンデレ化したことを残念だと言っていた。

 ローズもまんざらじゃなさそうだったし、もしかしたら……


「大丈夫だよ」

 ローズがおもむろに微笑んだ。俺は意味が分からなくて首を傾げる。ローズはそんな俺の腕を軽く抱きしめ、耳元に唇を寄せてきた。

「縁談はたくさんあったけど……私が受け入れたのも、受け入れたいと思ったのもユズキお兄さんだけ、だよ」

 耳元で囁かれ、俺はゾクリと身を震わせた。



 そんなこんなで、ヤンデレ姫殿下と会うことになった。

 彼女専用のサロンで待っているとのことで、服飾に関係のあるクラウディアと、護衛を兼ねたローズを連れて、俺はラクシュ姫殿下の待つ部屋の前へとやって来た。

 ノックをするとほどなく、中からメイドさんが現れ「ラクシュ王女殿下がお待ちです。どうぞお入りください」と答えた。その言葉に従い、俺は部屋の中に足を踏み入れる。


 ――そうして、俺が目にしたのは幻想的な光景。

 窓辺から差し込む午後の光に染まり、蜂蜜を流し込んだかのように金色に染まる部屋。ふわふわの絨毯の上に置かれた丸いテーブル席に、可愛らしい女の子が座っていた。


 艶やかなプラチナブロンドに、健康的なブルネットの肌。あどけなさが残る小顔には、吸い込まれそうな蒼い瞳。総じて清楚そうな美少女が、来客である俺達を見つめている。

 エキゾチックな美少女は、ぷっくりとした唇を開き、熱い吐息を漏らした。


「……お待ち、しておりましたわ。わたくしのご主人様。……どうかこの淫乱プリンセスを、エッチな奴隷として、はぁ……飼って、くださいませ……っ」

 清楚な見た目のお姫様の口から紡がれたのは、透き通った音色のマゾチックなセリフ。それを耳にした俺は……無言で扉を閉めた。

 

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