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この異世界でも、ヤンデレに死ぬほど愛される なろう版  作者: 緋色の雨
第三章

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エピソード 1ー5 ご褒美とおしおき

 この異世界でも、ヤンデレに死ぬほど愛される。一巻発売中です!

 本屋で物凄く目立っている紫のがそうです!

 カリンのお店からウェルズ洋服店に戻ると、サーシャが俺を出迎えにやって来た。

「お帰りなさい、ユズキさん。お客さんがいらしてます」

「……お客さん?」

「ええ。ギルドの使いを名乗る方で、いまはクラウディアお嬢様が対応してくださっていますが、ユズキさんに話があるそうです」

 ……ギルドの使いってことは、シルフィーかな。



 と言うことで、サーシャに買ってきた生地をしまっておくようにお願いして、ローズと一緒に、応接間へと向かう。そこには、なにやら妙に緊張した様子のクラウディアと、いつもと変わらぬ受付姿のシルフィー。それに見知らぬ中年男性が一人、席に座っていた。


「お帰りなさい、ユズキくん。それにローズ様も」

「久しぶりだな、シルフィー」

「ええ、しばらくぶりね。今日は、ユズキくんに会いたいという人を連れてきたわ。王都よりの使者で、グランツさんよ」

「お初にお目に掛かります、ユズキ様。私はラクシュ・グリア様の命によって参りました、グランツと申します」

 恭しく頭を下げる。グランツと名乗った男のセリフを聞いた俺は、ラクシュ・グリア様って誰なんだろうと思ったのだけれど――


「ラクシュの使者ですって!?」

 声を荒げる。金髪ツインテールを振り乱して怒るローズの姿が珍しくて、俺は少し驚いた。

「ローズの知り合いなのか?」

「え? あぁ……そういえば、ユズキお兄さんには言ってなかったね。ラクシュと私は遠い親戚なの。黙っててごめんね?」

「いや、別に良いけど……」

 ヤンデレじゃあるまいし、交友関係を全部教えろなんて言うはずないだろ――と思った俺は、肝心なことに気付いていなかったのだけれど、それに気付くのはもう少し後の話。


 俺はクラウディアに席を一つズレてもらい、グランツさんと向かい合うように座る。そしてそんな俺の隣に、ローズが座ったのだが……やはりグランツさんを警戒しているようだ。

 遠い親戚という話だけど……あまり仲が良くないのかもしれない。


 後でローズに確認するとして、まずはグランツさんの確認だ――と、俺はさり気なくグランツさんの身なりを観察する。

 中肉中背のグランツさんが身に付けるのは、これまたとりとめのない服。だけど、決して安物という訳ではない。恐らくは、目立たないことを第一に考えているのだろう。

 ローズは警戒しているようだけど、立ち居振る舞いもしっかりしているし、決して嫌な客という訳ではなさそうだ。


「それで、ローズの親戚が、俺になんの用事なんですか?」

「はい。ラクシュ様は、ユズキ様の制作したドレスに興味をお持ちです」

「……光栄です」


 ウェルズ洋服店が立体的なドレスを作ったという噂が、貴族のあいだで広まりつつあるらしい。だから、新しい物好きな貴族からの注文は多い。

 それは光栄なことではあるのだけれど……その多くは、噂を聞いて興味を示してくれているだけで、実際に俺のドレスを見た上で、欲してくれている訳ではない。


 立体的なデザインのドレスという表現が一人歩きしているのだろう。ローズに作ったドレスのレプリカを目にした結果、思っていたのと違うと、注文を取りやめた者もいる。

 完成品を見てもらうまでは、素直に喜べないというのが現状だ。


「実は、先日おこなわれたブラッド家の夜会にラクシュ様も出席なさっていたのです」

 グランツさんは俺の不安を取り払うように、その言葉を口にした。

 もしかしたら、俺の不安を読み取っていたのだろうか? 分からないけど……なんだか、凄くやり手の使者という気がしてきた。


「ラクシュ様は、俺の作ったドレスを目にした上で、興味を持ってくれているのですか?」

「ええ。実際のドレスを見て一目惚れしたそうです。ですので、デビュタントに着るための、オンリーワンのドレスを作って欲しいとおおせです」

「そう、ですか……」

 デビュタント。ざっくりと言えば淑女として、社交界に正式デビューするお披露目。その一生に一度の、特別な機会に俺のデザインしたドレスを欲してくれている。

 わりと――いや、かなり嬉しい。俺はかなりやる気になった。


「一からデザインするとなると、いくつか希望を聞く必要があります。それに、一般的な洋服を作るより、詳細な採寸のデータが必要となるのですが……」

 立体裁断でフルオーダーともなれば、本人のボディを作るのが理想。

 少なくとも、何度もやりとりをする必要があるのだけれど、その辺りについてどう考えているのかと尋ねたところ、グランツさんの真剣味が増した。


「ここからが相談なのですが……ラクシュ様は、ユズキ様を屋敷に招きたいとおおせです」


「――ダメよ」

「――ダメですっ!」


 ローズとクラウディアが間髪入れずに言い放った。わりと焼き餅焼きなクラウディアはともかく、ローズまで反対するとは珍しい。

 なんて思ったのは、この瞬間までだった。


「ユズキお兄さん、分かってるよね? ラクシュは夜会に出席してたんだよ?」

 ローズが耳打ちをしてくる――けど、もちろんそれはさっき聞いた。だから、それがどうしたのかと首を傾げたのだけれど……そんな俺に向かって、ローズは呆れたように続ける。


「忘れたの? ユズキお兄さんが娘達の前に出て、なにが起きたか」

「――あっ」

 思い出した。思い出してしまった。

 貴族令嬢達はドレスに感動して、それを作った俺に対して好感を抱いていた。そして夜会は当然ながら夜に開催される。

 つまりは、ヤンデレタイムに、好意を持ってヤンデレに死ぬほど愛される:SSSを持つ俺と接触した。貴族令嬢達の多くがヤンデレ化して、俺を監禁したいだのと言い出したのだ。


「ま、まさか……?」

「ちょっとだけ、ちょっとだけで良いですから監禁させてください。ドレスもちゃんと作らせますから――とか叫んでた娘達の中に、ラクシュもいたはずだよ」

「のぉぉぉぉ……」


 も、もしかして、ドレスが目当てじゃなくて、俺が目当て?

 い、いや、あの日にヤンデレ化したのだとしたら、切っ掛けは俺の作ったドレス。結果的に俺の監禁が目的でも、原点はドレスを気に入ったから――って、慰めになってねぇよっ!


「すみません。ドレスを作ることはお受けすることが出来ますが、出向くというのは――」

「――お待ちください」

 お断りさせてくださいと俺が口にするより早く、グランツさんは待ったを掛けた。


「ユズキ様は、ブラッド家の現状をご存じですよね?」

「……ローズの家の現状? ケイオス家にちょっかいを掛けられている件ですか?」

「ええ。実は、その件で――」

「グランツ! 私の家のことを、ユズキお兄さんに勝手に話すことは許しません」

 ローズが一喝して、グランツさんのセリフを遮る。グランツさんは失礼しましたとすぐに引き下がったのだが――俺は、聞き流すことが出来なかった。


「グランツさん、その話、俺に聞かせてください」

「それは……」

 グランツさんは、俺の隣へと視線を向けた。ローズに許可を取って欲しいと言うことなのだろう。それが分かったから、俺はローズに向き直る。


「……ローズ、聞いても良いよな?」

「えっと、それは……」

「……今夜、たくさん可愛がってやるから」

 耳元で囁く。途端、ローズは表情を蕩けさせたが――ぶんぶんとかぶりを振って、更にはぱんぱんと自分の頬を叩いた。


「それでも、ダメだよ」

「……どうして?」

「だって、ユズキお兄さんに心配掛けたくないし」

「だったら、話すべきだな。俺は既になにかあると知ってしまったし、このまま隠された方が心配するよ。だから、教えてくれ。ローズのことが心配なんだ」

「~~~っ」

 ローズは顔を赤らめて身もだえした末に、グランツさんへと視線を向け「恨みますからね」とちょっと拗ねた口調で言い放った。


「と言うことで、教えていただけますか?」

「分かりました。実は――」

 そうしてグランツさんの口から語られたのは、ある意味では予想通り。そして予想より少し斜め上の状況だった。


 俺の中では、ケイオス伯爵の長男であるアレスがローズにちょっかいを掛けた結果、やり込められて引き下がったという認識だった。

 だけど、どうやらケイオス伯爵は上手く言い逃れたようで、貴族のあいだでは、どっちもどっち的な認識となりつつあるらしい。

 つまり、他の貴族は敵になっていないが、味方にもなっていない。本来は被害者であるはずのブラッド家は、孤立無援の状況にあるらしい。


「……ローズ」

 話を聞き終えた俺は、重要なことを隠していたローズに非難の視線を向ける。俺に心配掛けたくないという気持ちは嬉しいけど……やっぱり、少し腹立たしい。

 俺には無関係。もしくは、俺にはなにも出来ないのなら、隠すのも理解できる。けど、無関係ではないし、まったくなにも出来ない訳でもない。


 だから、罪悪感にまみれた顔で黙り込むローズの耳元で、「今夜はおしおきだからな」と囁いた。その瞬間、ローズはびくりと身を震わせたが、すぐに驚いた顔で俺を見上げた。

 おしおきも、たくさん可愛がるのも、内容的には変わらないと気付いたからだろう。


「ローズの考えは分かってる。それが俺のためだと思ったんだろ? でも、そうじゃない。そうじゃなかったって、分かってくれたはずだ。だから……次は教えてくれよな?」

 そうしてくれるのなら、俺は怒ったりしないとの思いを込めてローズの頭を撫でた。


「ユズキお兄さん……うん、分かった。今度からはちゃんと相談するね。だから、その……今夜はたくさん、おしおきして欲しいなぁ」

 濡れた瞳で俺を見上げる。もちろんだと答えていると、反対の隣に座っていたクラウディアに脇腹を抓られてしまった。

 もちろん、クラウディアにはご褒美を上げるから許してください。


「――コホン」

 咳払いを耳にして、俺は慌ててグランツさんに向き直る。

 たぶん、俺達のやりとりが聞こえていたのだろう。グランツさんは真面目な表情を保っているが、その隣にいるシルフィーさんは苦笑いを浮かべている。


「すみません、話を続けていただけますか?」

「……かしこまりました。ラクシュ様は、ユズキ様が来てくださるのであれば、ブラッド家に肩入れしても良いとおおせです」

「……なるほど」

 俺がローズを大切に思っていることも織り込み済みな訳か。グリア家というのがどれだけの力を持っているかは知らないけど、物言いから考えてそれなりに期待は出来るだろう。

 ローズのことを考えれば、行くべきかもしれないと気持ちが揺らぎはじめた。


「俺が行くかどうか決める前に、確認したいことがあります」

「お聞かせください」

「一つ目は俺の持つスキルです。ヤンデレに死ぬほど愛される:SSS。このスキルがあるため、おいそれと人の多い場所に出向く訳には行かないのです」

 この世界的には、ヤンデレは発症する方が悪いという風潮なので、俺が出向いたことで誰かがヤンデレ化したとしても、俺が公式に咎められることはない。

 とは言え、やはり気遣いは必要だと思うのだ。


「なるほど、その件でしたら心配はご無用です」

「……心配はご無用?」

 既に全員ヤンデレだからとか言わないだろうな。さすがにそれは嫌だぞ。


「その手のスキルの効果を無効化するマジックアイテムがございますので。対策はしっかりと為されています」

「あぁ……なるほど」

 そういえば、ギルドにもヤンデレ化に対する対策があるとか言ってたな。

 シルフィーさんはそれでもヤンデレ化したんだけど……シルフィーさんやローズがなにも言わないところをみると、対策のレベルが違うのだろう。


「じゃあもう一つ。どうして俺に出向いて欲しいと言っているのですか?」

「ラクシュ様が出向かないのは、そうそう出かけることが出来ない立場にあるからです」

「ですが、ドレスを作るだけなら、採寸データとかを届けてもらうだけでも可能ですよね?」

「そうなのでしょうね。ですがラクシュ様はこうおっしゃっていました。実際に会って色々と話した方が、きっと素敵なドレスが出来るはずだ――と」

 それを聞いた俺はもっともだと思った。なにより、より良いドレスを作るために必要なことをしようとする相手に、俺は好感を抱いた。


「では、最後の質問です。俺の身の安全は保障されるのですか?」

「ラクシュ様はたしかにヤンデレ化して、ユズキ様を監禁したいとおっしゃっています」

「おっしゃってましたかぁ……」

 やっぱり行くのはありえないかもしれないと思い直したのだが――


「ですが、ラクシュ様は決して、監禁はしないとおおせです。必要であれば、誓約書を作ってもかまわないともおおせでした」

「え、それは……」

「ヤンデレの本性を押し殺してでも、貴方の制作したドレスを手に入れたいと。それほどまでに、貴方の制作したドレスに惹かれておられるのです」

「――っ」

 殺し文句だった。


 俺は、ヤンデレがどれだけ自分の衝動に忠実か知っている。ローズやメディアねぇ。それにシルフィーさんだって、ヤンデレの衝動に身を任せている。


 だけど……ラクシュはそうじゃない。

 ヤンデレとしての衝動を抑えてでも、俺の作るドレスが欲しいと願っている。もしかしたら、他の誰よりも、俺のドレスを気に入ってくれているのかもしれない。

 そんな風に思って、胸が高鳴ったのだ。


「ユズキお兄さん、ダメだよ。なにを考えているかは想像できるけど、そんな約束なんて、いくらでも破棄できちゃうんだから」

「……それは、たしかに」

 アレスの件で思い知らされた。平民の証言なんて、貴族の意見で簡単に消されてしまう。俺やウェルズ洋服店の誰かが訴えたところで、知らぬ存ぜぬと貫くことは出来るだろう。


「ラクシュ様はそれも予測済みでした。ですから、ローズ様にも同行していただきたいと」

「私に立会人になれって言うの?」

「ええ、必要であれば、その右目の力を使ってもかまわない――と」

 あぁ、これはダメだ――と、思った。

 俺の作ったドレスを、手段を選ばず手に入れようとしてくれている。それが凄く嬉しくて、嬉しくて。だから、そんな少女の申し出を断ることは出来ない――と、そう思ったのだ。


 もちろん、本当は分かっている。俺の作ったドレスはそこまでずば抜けている訳じゃない。

 この世界では知られていない技術と、地球の優れたデザインのアレンジ。更にはこの世界でも珍しい生地があったからこそ、この世界基準でハイレベルなドレスになった。

 率直に言ってしまえば、俺自身が凄いわけではない。それは分かっている。

 だけど、それでも、嬉しいことには変わりない。


「ローズ、頼む」

「ユ、ユズキお兄さん。ユズキお兄さんの気持ちは優先したいけど、本当に危険だよ? 私でも、守り切れるか分からないよ?」

「それでも……お願いできないか?」

「……も、もぅ、仕方ないなぁ」

 照れくさそうなローズが可愛い。ともあれ、ローズはついてきてくれるのなら心強い。あとは……と、俺はクラウディアに視線を向けた。


「あたしに、お留守番をしてろ……なんて、言いませんよね?」

 クラウディアが不安げに俺を見上げてきたので、大丈夫だよとその頬を撫でつけた。

「前にも言っただろ。クラウディアには、普通のヤンデレから守って欲しいって。クラウディアも、俺と一緒についてきてくれ」

「……ご主人様。分かりました、お任せください!」


 フェミニストで女性に抵抗できない俺は、ただの女性が天敵になり得る。クラウディアを奴隷として買い取ったのは、そんな女性から身を守るためだった。

 だけど、それを理由としたのは……建前だ。俺がクラウディアを置いて行きたくないだけ。

 ウェルズ洋服店のことも気になるけど、そっちにはサーシャがいてくれる。いま注文されている服のデザインは終えているので、その後の作業はサーシャに任せておけば安心だ。


 そして、俺の夢は、服飾の道で大成すること。そしてそのためには、ブラッド伯爵家の協力が必要不可欠だ。だからまずは、ラクシュ・グリアという娘を味方に付ける。

 と言うことで、俺はクラウディアとローズを連れて――あれ?


「そういえば、行き先はどこなんだ?」

「どこって……王都ですよね?」

 クラウディアがなにを今更的な口調で言い放つ。それを聞いた俺が「なぜに王都?」なんて思ったのは一瞬。すぐに思い至ってしまった。

 そういや、この国はグリア神聖王国って名前だったな――と。

 

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