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この異世界でも、ヤンデレに死ぬほど愛される なろう版  作者: 緋色の雨
第三章

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エピソード 1ー2 それぞれの夢

新作、無知で無力な村娘は、転生領主のもとで成り上がる

https://ncode.syosetu.com/n6607eo/

無知で無力な村娘が、転生領主の元で様々なことを学んで成り上がっていく物語。

内政や、転生領主達とのヒューマンドラマを描いています。

しばらくは連続投稿するのでよろしくお願いします!

 バーク商会の会長が帰って数日経ったある日。俺がアトリエで洋服のデザインしていると、おもむろに部屋の扉がノックされた。

「……はいはい、空いてるよぉ……」

 クラウディアがサーシャ辺りが、服飾の話を持ってきたのだろう。そう思った俺はデザイン画に筆を走らせながら、上の空で返事をした。

 その結果――


「ユズキお兄ちゃ~ん」

「リ、リスティスちゃん!?」

 甘ったるい声を耳にして顔を上げた俺は思わず仰け反った。部屋の入り口にたたずむ青い髪の女の子、クラウディアの妹を目にしたからだ。


「えへへ、いま少し良いかなぁ?」

 淡い色のワンピースをひらひらさせながら歩み寄ってくる。

「お、俺を押し倒そうとしたら悲鳴を上げるからなっ!?」


 かよわい乙女のごとくに自分の身を掻き抱く。そんな俺を見て、リスティスちゃんは「襲ったりしないよぅ」と頬を膨らませたが、決して冗談ではない。

 リスティスちゃんはしっかりヤンデレ化している。そして、まだ幼いこともあって色々と抑えが効かない。リスティスに襲われ掛けて、窮地に立たされたのは記憶に新しい。


 普通なら、物理的に止めれば済む話である。だけど俺は俺はフェミニストのバッドステータスを所有していて、女性に危害を加えることが出来ない。

 このフェミニストのスキルがやっかいで、拘束を振りほどくような行為も対象となってしまうのだ。……エッチに責め立てたり出来るくせに、なかなか謎な判定である。

 それはともかく――


「襲わないなら良いけど……なにか用事か?」

「うん。ボクね、ユズキお兄ちゃんにお願いが二つあるの」

 リスティスちゃんの赤い瞳が、お願いを聞いて欲しいと、訴えかけるように俺を見る。

 ……むぅん。優しくしてあげたいけど、俺にとっては本気で危険人物なんだよなぁ。どうしようかと考えていると、「ダメ、かな……?」とリスティスちゃんの顔が悲しげに歪んだ。

 クラウディアの妹と言うだけあって、面影がある。そんなリスティスちゃんに悲しげな顔をされては、ダメなんて言えるはずがなかった。


「仕方ないな。取り敢えず、どんなお願いか言ってみろ」

「わぁい、ありがとう。一つ目は……その、えっと……頭を、撫でて欲しいの」

「……頭を撫でれば良いのか?」

 それくらいなら――その瞬間に手を掴まれたりしないのなら問題ない。万が一手を掴まれたりしたら、すぐに悲鳴を上げる。そんな心の準備をしてから、リスティスに手を伸ばした。

 けれど――


「あ、ちょっとだけ待ってね」

 リスティスちゃんは待ったを掛け、小声で「ステータスオープン」と呟いた。その直後、リスティスちゃんの頭に乗っかるように、ステータスウィンドウが表示された。


「お待たせだよ~」

「……いや、お待たせって」

「頭、撫で撫でして欲しいの」

 どう考えても、頭ではなくステータスウィンドウを撫でて欲しいという意味。

 前回、ヤンデレ化して襲いかかってきたリスティスちゃんをあしらうために、ステータスウィンドウ責めをして誤魔化したんだけど……もしかして、依存症になったのだろうか?

 ……ありそうな気がする。


「……ダメ?」

「うぅむ……」

 頭を撫でるのはかまわない。ステータスウィンドウを撫でるのも……まぁ、そこまで問題ではない。しょせんはステータスウィンドウに触れるだけだからな。

 と言うか、ヤンデレに拒絶が一番危険なのだ。自分に被害が及ばない範囲で相手の要望を叶える。これがヤンデレと上手く付き合うコツ。

 頭を撫でるくらいはしてあげた方が良い。そう思うのだけれど……


「……ホントに、俺のことを襲ったりしないか?」

 心配してるのは、そのことだ。

 襲われたら全力で悲鳴を上げるつもりだけど、クラウディアに切り落とされそうになるのも、それを避けるのに自爆するのもごめんである。

 特に自爆。いくら生き返ることが出来ると言っても恐いし痛いので、出来れば勘弁して欲しい。俺を襲わないと約束できるのなら、頭を撫でても良いと念を押した。


「大丈夫だよぅ。ボクも、クラウディアお姉ちゃんに怒られるのはもう嫌だもん……」

 リスティスはそう言って、ブルリと身を震わせた。ヤンデレを怯えさせるとは……さすがはクラウディアである。

 ともあれ、俺はリスティスを信じることにした。それで騙されたら全力で悲鳴を上げる。そんな風に決断して、俺はステータスウィンドウごと、リスティスの頭を撫でることにした。


 俺に頭を撫でられながら、リスティスが甘い声を漏らす。幸いにして、リスティスがそんな俺の手を掴んでくるようなことはなかった。それどころか、頭を撫でられて気持ちよさそうに目を細めている姿は、普通の女の子って感じなんだけど……うぅむ。

 そんなことを考えながら、俺はリスティスが満足するまで頭をなで続けた。



「はふぅ……凄かったよぅ」

「満足したのならなによりだ。それで、もう一つのお願いはなんなんだ?」

 リスティスのサラツヤヘヤーを堪能した俺は、あらためてリスティスに問いかける。


「あのねっ、実はボクにデザインの仕方を教えて欲しいの!」

「ふむ……?」

 デザインというのは、洋服のデザインのことだろう。それを、俺に教えて欲しい、と。


「リスティスちゃんは、デザイナーになりたいのか?」

「うん。お姉ちゃんと一緒に洋服を作りたいの」

「あぁ……なるほど」

 デザイナーがデザインをして、パタンナーがデザインから型紙を作る。クラウディアはパタンナーを目指すと言っているので、その相方を目指すと言うことだろう。


「ボクね、ずっとお姉ちゃんと一緒に、お父さんやお母さんのお手伝いをするのが夢だったの。だけど……あんなことがあって」

 リスティスちゃんが顔を曇らせる。

 ケイオス伯爵家の流通を操作され、ウェルズ洋服店は経営難に陥った。クラウディアは奴隷として売られ、リスティスちゃんも政略結婚の道具となるところだった。

 そのことを言っているのだろう。


「だからね、もう夢は叶わないんだって……でも、ユズキお兄ちゃんが救ってくれた! だからボクは、もう一度夢を追いかけようって思って。それで、ユズキお兄ちゃんに……」

「そうだったのか……」


 いまのリスティスちゃんは、以前の俺と同じだ。ヤンデレ化した母親のせいで、一度は夢を諦めなければいけなかった。そんな俺と同じ。

 俺は、メディアねぇのおかげで、また夢を追いかけることが出来た。出来るのなら、リスティスちゃんにも手を差し伸べてやりたい。


 リスティスちゃんがデザイナーとして活躍するようになったら、俺とクラウディアを取り合うことになる。それを想像すると色々と不安もある。

 けど、俺がパターンを教えたクラウディアと、デザインを教えたリスティス。そんな二人が、俺の想像も出来ないような服を作る。

 そんな未来を想像すると、凄くわくわくしてしまう。

 だから――


「良いよ。リスティスちゃんに、デザインの仕方を教えてあげよう」

「ほんとっ!?」

「こんな嘘はつかないって」

「やったぁ! ありがとうっ! ユズキお兄ちゃん、だから好きっ!」

「お、おぅ……」


 クラウディアの妹だけあって可愛らしい。どこまで綺麗になるのか、将来がとても楽しみな女の子ではあるが、俺的には恐くてしょうがない。

 ヤンデレ化していないクラウディアでも、あんなに危険なのに……ヤンデレ化しているリスティスちゃんの好感度を上げていったら、一体どんな風になってしまうのだろう……


「ユズキお兄ちゃん、ユズキお兄ちゃん!」

 ぴょんぴょんと跳ねながら、システムデスクを回り込んで俺の真横に回り込んでくる。俺はいつでも悲鳴を上げれるように身構えながら「どうしたんだ?」と問いかけた。


「あのね、さっそくデザインの仕方を教えて欲しいの!」

「え、いまからか? 別に良いけど……どんな服をデザインしたいんだ?」

 もちんん、本来であれば先に学ぶことがたくさんあるのだけど……いきなりそういう下積みをさせてもやる気が出ないかもしれない。と言うことで、まずは目標を決めてもらう。


「えっとねぇ……最初はお父さんとお母さんの服を作りたいの!」

「おぉ、なるほどね」

 妹がデザインをして、姉が形にする。そうして出来た服を、両親へのプレゼントにする。俺には出来なかったことだから少し羨ましい。


「ねぇねぇ、どうしたら良いの?」

「……そうだなぁ。どういった用途で着る服を作りたいんだ?」

「ん~、休日に着られるような服が良いなぁ」

「ふむふむ」

 いわゆる普段着、もしくは外出着。どんなデザインでも問題はないけど……自由度が高い分だけ、デザイナーとしての技量が顕著に表れそうだ。


「ちなみに、いつまでに作りたいとかはあるか?」

「うぅん、特にないよ。急いで作るより、ちゃんとしたのを作りたいかな」

 ずいぶんとしっかりしているな。

 まずは軽い気持ちで服を作ってもらって、もっとしっかりした服を作るには――って流れで学んでもらおうと思ったのだけど、この分なら最初からしっかり教えても平気そうだ。


「そういうことなら……そうだな。デザインは実際の服を見たりしてセンスを磨きながら、とにかく自分のデザインを描いてみること」

「……え、たくさん書かなきゃダメ?」

「枚数は重要だな」


 個人差はあるが、努力なくして人は成功しない――と言うのが一般的だ。

 もちろん、世の中には例外もいる。

 ちなみに、俺もこの世界では例外の部類に含まれる。ただ俺の場合は才能がどうのという意味ではなく、元の世界で見たデザインの知識があるからだ。

 デザインが出尽くしたとも言われた世界で新しいデザインを作るのと、この世界で通用する目新しいデザインを作るのでは、圧倒的に難易度が違う。

 もちろん、目標は元の世界でも通用するようなデザインを作ること、なんだけどな。


 それはともかく、デザイナーを目指すのなら、たくさんデザイン画を描くのが近道。そんな風に言われたリスティスちゃんは困ったような顔をした。やる気はありそうだったのに、努力をするのは嫌だったりするのだろうか?

 なんて思ったりもしたのだけれど、それは俺の勘違いだった。


「えっと……その、土に絵を描くとかでも良いかなぁ……?」

 そこまで言われた俺もさすがに気がついた。この世界に植物紙はなく、あるのは羊皮紙や木簡のようなコストの高いものだけ。絵を何枚も描くというのは、経済的に難しかったのだ。


 植物紙を作りたいところだけど……さすがにいきなりは出来ないだろう。そうすると……あぁ、あれがあったな。


「えっと……練習するための道具は、なんとか出来ると思う。クラウディアのボディを作った職人さん辺りに連絡を取りたいんだけど、ウェルズさんなら知ってるかな?」

「えっと……出来ればお父さんやお母さんには内緒にしておきたいから」

「あぁ……そうだよな」

 俺が使うと言えば問題はないと思うけど、念には念を入れるか。


「なら、サーシャなら大丈夫か?」

「うんうん。サーシャお姉ちゃんなら大丈夫だよ!」

「サーシャお姉ちゃん? ずいぶんと仲が良いんだな」

「サーシャお姉ちゃんは、昔からずっと優しいんだよ?」

「ふむふむ」


 サーシャにとって愛するクラウディアの妹だからな。ヤンデレな面に目をつぶれば、俺から見ても可愛いし、サーシャが可愛がるのも良く分かる。ヤンデレじゃなかったら、俺も安心して可愛がるんだけどなぁ。……いや、妹として、だぞ?


「じゃあ、デザインを練習するための道具はこっちでなんとかするとして、それまでは、他の勉強をしてくれるか?」

「もちろんだよ!」

 元気よく頷く。良いなぁ……やる気に満ちあふれてる感じだ。俺も、リスティスちゃんくらいの歳の頃は、同じように服飾の道を目指して頑張ってたんだよなぁ。

 うん。リスティスちゃんには是非とも頑張って欲しい。


「それで、なにを勉強すれば良いの?」

「そうだな。まずは色々なデザインを見ること。それに、パタンナーとしての知識、かな」

「デザインを見るのは分かるけど……パタンナーとしての知識も必要なの? それは、クラウディアお姉ちゃんのお仕事を取ることにはならない?」

 リスティスちゃんは不安そうな顔をする。


「ならないよ。相手がどういう作業をしているか分からないと、頼むのも上手く出来ないだろ? だから、クラウディアだってデザインの勉強はしてるんだぞ」

「へぇ……そうなんだ。分かった、ボクもパタンナーのお仕事を覚えるね!」

「うんうん。まずは、クラウディアやサーシャの作業を見せてもらうのが良いと思う」

「うん、分かった~」


 遠回りに見えて嫌がる人もいるんだけど、リスティスちゃんは素直だなぁ。ヤンデレだからって警戒してたんだけど、姉や両親に対する思いの方が強いみたいだ。

 ……うん。服飾の道で成功するという夢は変わらないけど、自分が教えた子達が、服飾の道で活躍するのもありだなって思う。

 第二の夢として、俺も出来る限りの協力をしよう。



 ――という訳で、部屋を退出するリスティスちゃんに、サーシャを呼ぶようにお願いした。

 それからほどなく。


「――お嬢様との仲を見せ付けてくださると聞いて飛んできました!」

「そんなことは言ってねぇよ」

 ノックもしないで、サーシャが部屋に飛び込んできた。

 と言うか、リスティスが呼びに行ったのに、なぜ俺とクラウディアがそういうことをしていると思ったのか……恐いから、たしかめるのは止めておこう。


「……では、なんのご用でしょう?」

 あからさまにがっかりされてしまった。

「そんな顔をするな。リスティスちゃんが、クラウディアと一緒に服を作りたいそうなんだ」

「まぁ……それはそれは」

 少し驚く素振りを見せた後、どこか嬉しそうな顔をした。リスティスにお姉ちゃんと呼ばれるくらいだし、リスティスの夢も知っていたのだろう。

 やっぱり、ヤンデレなだけで、根は優しい女の子なのだろう。


「それで、私はなにをすれば良いんですか? 作業現場を見せるのはもちろんかまいませんけど。それだけなら、わざわざ呼んだりはしませんよね?」

「ああ、実は蝋板を作ってもらいたいんだけど、どこに頼めば良いか分からなくてな」

「蝋板……ですか?」

「聞いたことないか?」

「ええ。蝋……と言うことは、クラウディアお嬢様を辱めるための道具でしょうか?」

「ちげぇ」

 蝋から一体なにを想像したんですかねぇ。いや、予想はつくけど。


「サーシャは、デザインが上達するコツはなんだと思う?」

「それは、色々なデザインを見て、たくさんデザインをすることじゃないですか? ……あぁ、なるほど。それで蝋の板、ですか」

「そういうことだ」


 蝋をならした板に、棒で引っ掻いて文字を書く。本来はメモに使う物だけど……デザインの練習くらいには使えるだろう。

 もちろん、本当は後に残せる方が良いんだけどさ。


「それでしたら、クラウディアお嬢様のボディを作った職人がいますので、その人に頼んでおきますね。数は……いくつ必要ですか?」

「そうだなぁ……サーシャ的にはどうだ? 自分には必要だと思うか?」

「もちろん、出来るなら欲しいです」

「なら人数分と、一つ、見栄えの良いのを余分に作ってもらってくれ」

「かまいませんが……」

 余分に作る理由が気になるのだろう。問いかけるような視線を向けてくる。


「サーシャが知らないってことは、少なくともこの島にはないんだろ?」

「なるほど、ローズ様へのプレゼントですか」

「……いやまぁ、否定はしないけど」

 一応、こういう便利な物があるから、量産して売ると良いぞという提案が目的だ。

 ブラッド家は、ウェルズ洋服店への資金援助を約束してくれたけど、そのブラッド家だって別にお金が有り余っている訳ではない。

 ウェルズ洋服店の拡大を考えるのなら、打てる手は打っておかないとな。

 

 

前書きにも書きましたが、

新作「無知で無力な村娘は、転生領主のもとで成り上がる」を、この投稿と同時にアップしています。

https://ncode.syosetu.com/n6607eo/

以前短編で上げた物語の完全バージョンで、無知で無力な村娘が、転生領主の元で様々なことを学んで成り上がっていく物語。内政や、転生領主達とのヒューマンドラマを描いています。

しばらくは連続投稿するのでよろしくお願いします!

上のURLをコピペか、作者名から飛ぶことが出来ます!

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