エピローグ
社交界でローズのために作ったドレスが高評価を得たことで、ウェルズ洋服店はブラッド家の支援を得ることになり借金を返済。
クラウディアは引き続き、俺の性奴隷を続けることになった。
そして、貴族達から様々な注文を得ることで、ウェルズ洋服店は大忙し。俺もドレスやタキシードの製作を手伝うべく、ウェルズ洋服店に舞い戻っていた。
ちなみに、帰還したその日は、クラウディアやその両親に泣くほど感謝されて大変だったけど、今はそんな空気も落ち着き、みんな必死に服の製作に取り組んでいる。
そして俺は、自分に貸し与えられた作業部屋で、花をかたどった髪飾りを作っていた。
カリンがレース生地まで作っていたのだけど……さすがにシンプルなデザインしかない。その分、装飾に工夫を凝らして髪飾りを作っていく。
とは言え、俺の裁縫技術はそこまで高くない。根性でカバーと言いたいところだけど、気合いだけで補えるほど服飾の道は甘くない。
だから――と、俺は女神メディアの祝福をアクティブにした。根性では補えなくとも、スキル補正で技術は補えるのである。
「ユズキお兄ちゃん、ユズキお兄ちゃんってば」
黙々と作業を進めていると、不意に身体を揺すられて我に返る。気がつけば、俺の目の前に、リスティスちゃんがいた。
俺は作りかけの髪飾りを脇にどけて視線を向ける。
「どうしてここに?」
「どうしてここにじゃないよ。なんども呼んでるのに返事がないから心配したんだよ?」
「あぁ、ごめんごめん。ちょっと作業に集中してたみたいだ」
「もぅ……そういうところ、お父さんとおんなじだね」
「ウェルズさんも、作業に没頭することがあるのか?」
「いっつもだよ。夕食だって、全然こないから、ボクが呼びに行ったりしてたの」
「へぇ……」
やっぱり、ウェルズさんも服飾が好きなんだな。
クラウディアを借金のかたに売り飛ばしたりした親だから――って、最初は色々と思うところもあったんだけど、今は少しだけ理解できる気がする。
「ありがとうね、ユズキお兄ちゃん」
「ん、急になんの話だ?」
「もちろん、ボクを助け出してくれたことだよ」
「それなら、もうお礼を聞いたはずだけど」
「うん。でも、まだなにもお礼をしてなかったから」
「そんな気にしなくて良いぞ。リスティスちゃんが攫われたのはそもそも、俺が原因みたいなものだしな」
俺がウェルズ洋服店の立て直しを計画したから、レニス洋服店が邪魔をしようとした。その結果、リスティスちゃんが攫われた訳だからな。
「お礼なら、お姉ちゃんや両親に言うと良い。凄く心配してたからな」
「もうみんなにはお礼を言ったよ。そうしたら、みんなユズキお兄ちゃんのおかげだって。聞いたよ。うちのお店を建て直すために頑張ってくれたんだよね?」
「……まあ、俺の夢でもあるからな」
服飾の道に進むのが俺の夢だったから、今こうして頑張っている。
ウェルズ洋服店にこだわる必要がないのは事実だけど、クラウディアの実家だし、既にこの島の各地にお店を持っている。
善意と言うよりは、損得勘定の方が大きいと思うのだ。
「それでも……凄く感謝だよ。だから――」
気がつけば、トンと肩を押されて押し倒されていた……って、はい?
「……リスティスちゃん?」
「ボク、ユズキお兄ちゃんにお礼を出来るものが、なにもないの」
「そんなの、気持ちだけで大丈夫だぞ?」
「うぅん。それじゃ、ボクの気が済まないの。だから……ボクの身体を好きにして良いよ」
「……はぁっ!? いやいやいや、そんなことしなくて良いから!」
状況を理解して、慌ててリスティスちゃんをはねのけようとする――が、フェミニストの効果で、リスティスちゃんを退けることが出来ない。
と言うか、なに、どういうこと? まさか、ヤンデレ化したのか?
今まで大丈夫だったのにどうして――と、無意識にログウィンドウに視線を向けた俺は、女神メディアの祝福の効果が残っていることに気付く。
つまり、今は夜で、俺はヤンデレに死ぬほど愛される:SSSの持ち主で、攫われていたリスティスちゃんを救い出して好感度は上がっている。
そこに、女神メディアの祝福の効果で、スキルのヤンデレ化などは三割増し。さらに、リスティスちゃんは精神高揚の効果まで影響を受けているはずだ。
「と、取りあえず、落ち着こう。落ち着いて俺の上から退こう」
「ダメだよ。そうしたら、ユズキお兄ちゃん逃げちゃうでしょ?」
「に、逃げないって。と言うか、逃げるつもりだったら、とっくに押しのけてるだろ」
「そんなこと言っても無駄だよ。ユズキお兄ちゃんがフェミニストのスキル持ちだって、ボクも知ってるんだからね?」
「な、なぜそのことをっ!?」
いや、なぜもなにも、クラウディアが教えたんだろうけど……奴隷契約は解除されているとは言え、俺の不利益になることを人に教えるようなことはしないと思ってたのに!
「あのね。ユズキお兄ちゃんはフェミニストのスキルを持ってて、目を離したらヤンデレに襲われるから、リスティスも気をつけてあげてねって」
にゅあぁ……クラウディアさん。俺の秘密を教えた事情は理解したけど、完全に人選ミスですよ。その相手に、今まさに襲われていますよ!
「と、取りあえず落ち着け。リスティスちゃんはまだ子供だろ?」
「子供じゃないよ。もう、結婚だってする予定だったんだから」
「いやいやいや、それはそれでヤバイから」
借金を肩代わりを条件に、レニス洋服店の息子と結婚する予定だった。
愛のある結婚ではないし、既にご破算になる予定の政略結婚ではあるのだけど……現時点では人妻になる予定のある幼女を寝取るとか、背徳的すぎてヤバイ。
そう慌てふためく俺に対して、リスティスちゃんはぽつりと呟いた。
「でもユズキお兄ちゃん、ヤバイエッチが好きなんでしょ?」
え、なにどういうこと?
「このあいだ、クラウディアお姉ちゃんと言ってたよね。『こんなところじゃ誰かに見られちゃいます』『そのヤバイのが良いって思ってるんだろ?』って」
「………………そ、それは、一体どこで?」
「作業部屋で、クラウディアお姉ちゃんとエッチしてたときの話だよ?」
「ぎにゃあああああああああっ」
みーらーれーてーたーっ!?
い、いや、カリンが見ているのを承知で及んだりもしたし、サーシャさんにも見られていたけどさ。まさか幼女のリスティスちゃん――クラウディアの妹に見られてたなんて!
「それに、その後、ローズ様ともこっそりしてたよね。『クラウディアに見られたらヤバイからダメだって』『そう言いつつ、ユズキお兄さんの、すっごく興奮してるよ』って」
「うああああああっ!?」
それはヤバイ、わりとマジでヤバイ。クラウディアは焼き餅焼きだから、こっそりしてたとかバレたらマジでヤバイ!
「と言うことで、ボクの身体を好きにしちゃって良いよ?」
「だーかーらーっ、子供がそういうことを言わない!」
「だって、その方が背徳的でしょ?」
「それはそうかもしれないけど――って言うか、なんでそういう知識があるんだよ!?」
リスティスちゃんはまだ幼い。いくらこの世界では結婚できる年齢だとしても、そんな偏った知識があるのはおかしいと思うのだ。
「カリンお姉ちゃんから聞いたの。カリンお姉ちゃんのお店の倉庫でもしてたんだよね? そっちのお店でもしてるはずだから、見てみると良いって色々と教えてもらったんだよ?」
「あーいーつーかーっ!」
いや、実際にいたしていた俺達が悪いんだけども、幼女になんてことを教えるんですかね。
……いや、そんなことよりも、まずはこの状況をなんとかしないと。
誰かに助けを……いや、ダメだ。ウェルズ夫妻が来たら目も当てられないし、クラウディアに見られたら、今度こそ切り落とされるかもしれない。
ここは自力でなんとかしなければ!
「えっと……ほら、俺にはクラウディアがいるから」
「大丈夫、お姉ちゃんには内緒にしておいて、あ げ る から」
「うぉい。俺が言いたいのはそういうことではなく、浮気がダメだって言ってるんだ」
「え? でも、ローズ様ともしてたよね?」
「そ、それは、その……」
むぐぐ。困った。なんと言い訳をするべきか。
「ボク、二人が大丈夫なら、三人だって大丈夫だと思うなぁ」
「そういう妥協をすると、そのままずるずる行っちゃうからダメだ!」
「もぅ、ユズキお兄ちゃんは、素直にボクのお礼を受け取れば良いんだよ!」
「そんなお礼の押しつけは望んでない!」
「ボクがお礼をしたいんだって!」
言うが早いか、リスティスちゃんは上着をすぽんと脱ぎ捨ててしまった。上半身はキャミソールっぽい下着のみで、下はスカートという姿で俺に馬乗りになっている。
状況が悪化してる。こうなる前に、誰かに助けを求めるべきだった――と思うけど後の祭り。こんな状況を誰かに見られたら、絶対に誤解される。
もしクラウディアに見られたら……き、切り落とされるのだけは止めて! 俺はまだ再生の魔法が使えないからっ! 死んで生き返るまで生えてこないから!
……がくがく。こ、こうなったら手段は選んでいられない。
「リ、リスティスちゃん、俺にステータスウィンドウを見せてくれないか?」
「え、ボクのステータスウィンドウ?」
ローズのときと同じ方法で逃げる算段である。
色んな意味でヤバイとは思うけど、この状況を誰かに見られるとか、実際にリスティスちゃんといたしてしまうよりはマシだと思うのだ。
「頼む、リスティスちゃんのステータスウィンドウを俺に見せてくれ」
「えっと、じゃあ……ステータス、オープン」
リスティスちゃんが、俺に馬乗りになったままステータスウィンドウを開いた。馬乗りになられている俺の正面に、リスティスちゃんの胸の前で、こちら向きに表示される。
と言うことで、俺に馬乗りになっているリスティスちゃんの胸の前に両手を伸ばした。
「――な、なに!? なんか、ゾクってしたよ?」
「ステータスウィンドウを触っただけだぞ?」
「そ、そうなの? でもなんかっ、くすぐったいような……、ゾクゾクって、なんか、へん。ボク、なんか変だよぅ」
ステータスウィンドウ――つまりは、自分の本質を撫で回される感覚に戸惑っているのだろう。リスティスちゃんは、その感覚に戸惑うようにその身をくねらせる。そんなリスティスちゃんを追い詰めるべく、俺は更にステータスウィンドウを弄り倒していく。
「な、なんか。はぁ……っ」
徐々に甘い声が混じり始め、ぷるぷると震え始める。
そしてほどなく、未知の感覚に耐えきれなくなったリスティスちゃんは、くたりと倒れ込んできた。俺はそんなリスティアちゃんの両脇を掴んで支えた。
よし。これで、リスティスちゃんをどかすことが出来る。
そう思って、リスティスちゃんを横に転がそうとした俺は――リスティスちゃんは倒れ込んで開けた視界の向こう側、こちらを無表情で見つめるクラウディアと――
その父親の姿を目にして凍り付いた。
「……ク、クラウディア、どうしてここに?」
「どうしてもなにも、妹の甲高い悲鳴が聞こえたからとんできたんですが」
「そ、そうなんだ」
そう言えば、ステータスウィンドウを弄られる感覚に、リスティスちゃんはかなり、甘い声を上げてた気がする。
「それで、ご主人様は、一体、なにを、して、いたんですか?」
「なにって……」
逃げるためにステータスウィンドウを弄っていたと、説明しようとした俺ははたと気付く。
リスティスちゃんは上半身が下着姿で、下はスカートで俺に馬乗り。
そして、俺はそんなリスティスちゃんが倒れないように、突き出した手で両脇を支えているる。つまりは、両胸を揉んでいるようにも見える構図。
どう見ても、これ絶対入ってるよね。とか言われそうな状況。それどころか、俺の手の感じからノリノリだよね。いや、乗られてるのは俺だけど、見たいな。
「えへへ、お兄ちゃん、ボク、気持ちよかったよぅ」
「……へぇ」
リスティスちゃんの無意識っぽい呟きに、クラウディアの声が一段と低くなった。
「い、いや、誤解するなよ」
「誤解なんてしていません。浮気、ですよね? あたしの妹と、浮気、したんですよね?」
「いや、違うって!」
「……へぇ。なら、本気だって言うんですか? それなら、節操のないご主人様の分身を切り落とすしかないですね」
「だああああっ、待った! ちょっと俺の話を聞いてくれ」
「――ユズキくん」
クラウディアに事情を説明しようとする。だけど、そんな俺のセリフを遮って、ウェルズさんが少しこわばった表情で口を開いた。
「これは、一体どういうことですかな? クラウディアのことは、奴隷になったという事情も理解していますから、外やアトリエでの行為も黙認していましたが……」
「――ぶはっ!?」
ま、まさか、ウェルズさんにまで見られてた!?
「まだ幼いリスティスにまで手を出すとは」
「いや、その……」
「……いや、分かってます。リスティスが、ユズキくんに迫ったのでしょう。それは分かっています。だから、ユズキくんが姉妹共々受け入れてくれるつもりなのならなにも言いません」
いやぁ……そこは色々言うべきじゃないかなぁ。なんて思うのだけど、言われて困るのは俺だから、もちろん無言を貫く。
「だが、もしユズキくんが、リスティスを一夜限りのつもりで弄んだというのなら、俺はユズキくんを許すことが出来ません」
「えっと、いや、その……」
誤解だって言いたいのだけど、行為に及んでいないとしても、ステータスウィンドウを弄り倒したのは事実。
加えて、女神メディアの祝福の効果により、クラウディアはもちろん、ウェルズさんにも精神高揚の効果が発動している可能性は非常に高い。
――つまり、逃げるためだったなんて言えば、ウェルズさんに殺される。だけど、本気だってなんて言えば、クラウディアに切り落とされる。
なのに、リスティスちゃんに組み敷かれていて、この場から逃げることも出来ない。
「ご主人様、説明、してください」
「ユズキくん、説明、してください」
「ええっと、ええっと……ふぁ、ファイア・ボルト」
――俺は爆発した。
お読み頂きありがとうございました。
ヤンデレ女神の箱庭、第二章はこれで終了となります。
次回はキャラ紹介と、もしかしたら閑話を入れるかもしれません。
ちょっとリアルでバタバタしているので、今月中を目処にキャラ紹介と、ノクタ版や三章のスケジュール。あれこれお知らせ。新作連載開始の告知をおこないます。





