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この異世界でも、ヤンデレに死ぬほど愛される なろう版  作者: 緋色の雨
第二章

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エピソード 3ー5 ヤンデレだから

 そんなこんなで、シルフィーとともに、リスティスちゃんの捜索を開始することに。やって来たのは、港町に乱立している倉庫のある一角だった。


「……ここにリスティスちゃんが捕らえられているのか?」

 シルフィーさんに案内された建物を物陰から監視しながら問いかける。


「あくまで可能性の話よ。他にもいくつか候補があって、そっちは他のメンバーに調べさせているから、ここがアタリとは限らないわ」

「……そうか」


 出来れば自分の手でリスティスちゃんを救いたいけど、最悪はリスティスちゃんが見つからないこと。候補地のどこかにいてくれればと願う。


「……ただまぁ、ここはレニス洋服店の倉庫の一つで、ケイオス伯爵の人間が出入りしているところを目撃されているの。だから、アタリである可能性は、決して低くはないわ」


 俺の不安を感じ取ったのだろう。シルフィーがフォローを入れてくれる。


 ともあれ、今の俺じゃギルド以上の情報は集められないし、話を聞いた限りここが怪しいのも事実。まずはこの倉庫を探ることにする。



 そうして、目的の倉庫がある斜め向かいの建物を陣取って張り込むこと丸一日。

 リスティスちゃんが連れ込まれたという証拠は見つからず、こうなったら忍び込むかと考えていると、一台の馬車が倉庫の前で止まった。


 俺はその様子をうかがいながら、横で仮眠を取っているシルフィーを揺り起こす。


「うぅん……どうしたんですか? またエッチなことをして欲しくなったの?」

「人聞きの悪いことを言うな。倉庫の前に馬車が止まっている」

「――馬車、ですか?」


 寝ぼけ眼から一転、ズバッと飛び起きたシルフィーが俺の隣に陣取って、木枠で作られた窓の隙間から見える倉庫の様子をうかがう。


「あの馬車は……怪しいわね」

「そうか? 普通の馬車に見えるけど」

「いいえ。一見普通に見えるけど、車輪や窓枠なんかが強化されている。あれはたぶん、身分を偽った人間が乗るための馬車よ」

「……ふむ」


 俺には判別が出来ない――と言うか、そもそもここからじゃ、そんな細かいところまで分からないのだけど……シルフィーには見えてるみたいだな。

 総合評価が高いみたいだし、それ系のスキルがあるのかもしれない。


 ともかく、少し近づいて確認しようと言うことで、俺達は部屋から出て、連中に見つからないように倉庫へと近づいた。


「リスティスちゃんの姿は……見えないな」

「……そうね。馬車にそれらしき女の子は乗ってないわ。と言うか、馬車は御者しかいないわ。誰かを向かいに来たのかもしれないわね――っと、出てきた」


 ひそひそ話を続けていると、倉庫から柄の悪い男達が姿を現した。そんな男の一人に、猿ぐつわをされて両手を縛られている女の子がに引きずられている。

 よほど恐い目に遭ったのだろう。その顔は憔悴している……けど、間違いない。


「見つけた、クラウディアの妹だ。助けに行く」

「――待って」


 とっさに飛び出そうとした俺を、シルフィーが引き留めた。


「敵の数も分からないのにどうするつもり? せめてこの街のギルドに応援を求めましょう」

「俺もそうしたいけど、そんな時間はない。馬車で走り去られたら今度こそ救えなくなる」


 馬車から、倉庫に連れ込まれる方であれば、大急ぎで応援をと言う選択もあったかもしれない。でも、実際には逆。この期を逃せば見失ってしまう。


 こちらに馬があれば、馬車を追跡してという手段を取ることも出来るけど、俺達は馬の類いを用意していない。リスティスちゃんを救うには、今しかない。


「それは……たしかにその通りだけど……いえ、そうね。その通りだわ」


 シルフィーはなにやら遠くの方に視線を巡らせ、おもむろに意見をひるがえした。その理由は分からなかったけど、言及している時間はない。


「それじゃ、俺が突っ込むからサポートを頼む」

「ええ、任されたわ。私はユズキくんの専属受付嬢だからね」


 どう考えても受付嬢の仕事じゃないと思うけどスルー。


 ――サンダーバースト。


 無詠唱で魔法陣が見えないように、範囲魔法の展開を開始。展開が終わる少し前に物陰から飛び出し、リスティスちゃんを拘束している男のもとへと駆け寄った。


「なんだお前はっ!」

「ん――っ! んんんんっ!」


 俺に気付いた男が二人、リスティスちゃんを隠すようにこちらに立ち塞がる。

 俺はその二人に思いっきり距離をつめ――


「その子を返してもらうぞ!」


 俺は展開の終わったサンダーバーストを起動する。

 自分を中心に、敵だけを巻き込む、雷系の範囲魔法が発動。周囲に電撃を撒き散らし、その二人とリスティスを拘束している男の意識を一瞬で奪い去った。


 一瞬だけ、ローズ達が対象に入って魔法を使えたなかったときの悪夢がよぎったけど、無事に発動できてなによりだ。


「リスティスちゃん、大丈夫か!」


 俺は素早くリスティスちゃんのもとに駆け寄って猿ぐつわを外し、アイテムボックスから短剣を取り出し、手を拘束するヒモを切断した。


「ユズキお兄ちゃん!」


 よほど恐かったのだろう。俺に抱きついてくる。

 そんなリスティスちゃんを慰めてあげたいのはやまやまだけど、ここは敵地のまっただ中で、周囲にはまだ敵が残っている。


 俺はリスティスちゃんを小脇に抱えて離脱しようとしたのだけど、少しだけ遅かった。騒ぎを聞きつけた連中が十数名、倉庫からわらわらと姿を現したのだ。


「どうした、なにがあった!」

「襲撃だ! 範囲魔法を使ってくるぞ、固まらないようにして、飛び道具で応戦しろ! 娘を巻き込んでもかまわん!」


 ――ちょ、マジかよ!?


 敵の思いっきりの良さは予想外だ。弓をつがえたり、魔法を詠唱する敵を見て、俺はとっさにリスティスちゃんを庇うように抱きしめる。


「――いまだ、撃て!」


 放たれた敵の攻撃は――一つとして俺達に届かなかった。一体なにがと顔を上げた俺の視界に映ったのは、俺を庇うようにたたずむシルフィーさんの後ろ姿。


「シルフィー!?」

「ユズキくん、大丈夫?」


 肩越しに振り返り、俺の心配をする。


「俺より、シルフィーは大丈夫なのか!?」

「魔法で全て弾いたから大丈夫よ」

「……魔法? あぁ、これか」


 言われて気付く。俺達を取り巻くように、光の膜が覆っていた。


「それより……敵のまっただ中に飛び出すなら、敵の攻撃を防ぐ手段くらい考えておかないとダメじゃない」

「うくっ。ごめん」


 反射的に謝ると、シルフィーはクスクスと笑い、右手を差し出してきた。


「……なんだ?」

「リスティスちゃんは私が守ってあげるから、ユズキくんは敵をなんとかして」

「――了解」


 リスティスちゃんをシルフィーに預け、俺はアイテムボックスから長剣を取り出した。

 そして――女神メディアの祝福を起動。更には無詠唱でファイア・ボルトを起動。いまだ遠距離攻撃を全て防がれた動揺から立ち直れていない敵の一人に斬り掛かった。


「なっ!」

「――遅いっ!」


 とっさに剣で受けようとする。そんな男の脇腹を剣の腹で殴りつけて無力化。崩れ落ちる敵の脇を駆け抜け、近くの男もたたき伏せる。


「調子に乗りやがって! 撃てっ、撃て!」


 隊長らしき男の命令に、残った敵が魔法や弓を準備する――が、今度は予想済みだ。


 俺は命令を下した隊長らしき男に向かって走りつつ、魔法陣を展開中の無防備な敵に向かって、展開の終わったファイア・ボルトを放って無力化。

 隊長を盾に、弓の攻撃を回避。そのまま隊長の横を駆け抜け、敵の弓の弦を切り飛ばす。


 そうしてわずか十数秒。俺は敵の大半を無力化した。


「――つ、強いっ」


 まだ残っていた、隊長とおぼしき男がうめき声を上げる。


 以前の俺なら、こんな風に対処は出来なかったけど……クラウディアのSP稼ぎで、ダンジョンで結構な数の敵を倒したからな。


 戦闘にも少しは慣れたし、スキル自体もそれなりに上昇しているのだ。


「さて、黒幕を教えてもらおうか」

「……くっ。誰が教える――っ!?」


 男が悪態をついて俺から視線を外した一瞬で距離をつめ、その喉元に剣を突きつける。


「嫌なら、かよわい女の子を攫って怯えさせ罪、ここで精算してもらう」

「くっ、こ、この……俺達が誰に使えているのか分かっているのか?」

「知らないから聞いてるんだろ?」


 だから教えてくれと迫る。そんなとき、倉庫の方が騒がしくなった。そうして、ゾロゾロと追加で十数人の武装した男達が姿を現す。

 そして――


「これはなんの騒ぎだ!」

 金髪碧眼。やたら煌びやかな服に身を包んだ青年が姿を現した。そして、隊長に剣を突きつけている俺を見て、表情を険しくした。


「貴様、俺の部下になにをやっている?」

「アレス様!」


 俺に剣を突きつけられていた隊長が、逃げるようにアレスと呼んだ男のもとへ駆け寄った。


「アレス様っ、こいつらが突然襲撃してきたんです!」

「ほう。俺の部下を襲撃するとは、覚悟は出来ているんだろうな?」

「それはこっちのセリフだ。こいつらが部下ってことは、あんたがリスティスちゃんを攫った黒幕だってことだな?」

「……なに?」

「俺は何者かに攫われた女の子を救いに来たんだ。そして、ここにいる連中が、彼女を拘束していた。その連中を部下だと呼んだ。つまり、お前が黒幕だってことだろ?」


 どこの誰かは知らないけど、証拠はあがっているんだと睨みつける――が、金髪の青年は、俺に対して嘲笑を浮かべた。


「なにを勘違いしているか知らんが、俺は賊に攫われた娘を保護していただけだ。それを犯人のように言われるとは心外だな」

「なに……?」


 事実なのか――と、リスティスちゃんに視線を向ける。


「違うよ! この人がボクを捕まえて、ここまで連れてきたんだよ!」

「……彼女はこう言っているが?」


 俺は再び青年に視線を戻す。


「ふっ、幼い子供だから、勘違いしているのだろう」

「そんな言い訳を俺が信じると?」

「誤解しているようだな。ケイオス伯爵家の長男である俺が、彼女を保護したと言っているのだ。兵士にでも報告すれば、捕まるのはお前の方だぞ」


 ケイオス伯爵?

 ……そうか、こいつが、この島で暗躍している連中の黒幕。


 ローズが手を焼いていたみたいだけど、こんな現場を押さえられたらお終いだろう――と、俺は思ったのだけど、シルフィーさんに袖を引かれた。


「ユズキくん、まずいわ」

「まずいって、なにが? この人数のことならなんとかなると思うけど」

「ダメよ。伯爵家の人間がこの場にいる以上、手を出せばこちらが犯罪者よ」

「なにを言ってるんだ? 実際に、リスティスちゃんが誘拐されていたんだぞ?」

「だとしても、平民である私達の訴えなんて、貴族相手には通用しないもの」

「……マジか」


 驚きながらも、あり得る話だと思った。

 国や時代によっては、貴族と平民のあいだには圧倒的な隔たりがある。平民の訴えが、貴族の権力に握りつぶされるなんて珍しい話じゃない。


「ふむ。そっちのエルフは、多少は物事を分かっているようだな。自分達の置かれている状況が分かったのなら、その娘を返してもらおうか?」

「――なっ!? なにを言ってるんだ。俺達は、彼女を助けに来たって言ってるだろ!」

「それは、お前達が勝手に言っているだけだ。こっちは、その娘を助け出し、家に送り届けると言っているのだ。それを邪魔するというのなら、罪人として扱うぞ」

「この――っ」


 アレスのあまりの言い分に、拳をぎゅっと握りしめる。そんな俺の袖を、再びシルフィーさんが引っ張った。


「ダメよ。手を出したら絶対にダメ。たとえローズ様でもかばえなくなるわ」

「それは……でも、だったらどうしろって言うんだ。リスティスちゃんを差し出すなんて絶対に却下だぞ?」


 彼が無事に送り届けてくれる保証なんてどこにもない。

 理由をつけて、社交界が終わるまで返してくれない――程度ならまだしも、途中で何者かに攫われた。なんて言い逃れをされる可能性だってある。


「そうね……だから、方法は二つよ。一つは……彼らを皆殺しにすることね。そうすれば、証拠はなにも残らないから」

「……え、いや、さすがにそれは避けたいんだけど」

「でも、専属受付嬢として、ユズキくんを犯罪者にするわけにはいかないわ。それを防ぐためには、多少の犠牲は仕方ないと思うのよね」

「いやいやいや、多少じゃないからな?」


 シルフィーさんがヤンデレなのをあらためて実感した。

 

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