エピソード 3ー2 スキルを習得しよう
わりと殴る用の壁が必要な感じの内容です、ご注意ください。
……まあ、いつものことな気もしますが。
バンドールの街に滞在しているあいだ借りている宿屋の部屋。三人部屋にある大きなベッドの上で、俺はクラウディアとローズの二人に組み敷かれていた。
「……なぁ、なんで俺は押し倒されてるんだ?」
「それは、ユズキお兄さんが聞き捨てのならいことを言ってたからだよ?」
「……なんか言ったっけ?」
ギルドから帰る道すがらには既に様子がおかしかったから、シルフィーさんと話していたことが原因だと思うんだけど、咎められるような記憶がない。
「ご主人様、言ったじゃないですか。シルフィーさんの処女を散らした方が良いかもって」
クラウディアが拗ねるような口調で言い放った。
「あ、あぁ……あれか」
「あれかじゃありません。あたしとローズ様で毎日お世話してるのに、浮気とかしたら……」
「……したら?」
「切り落としますよ?」
「それだけは止めてください、お願いしますっ。なんでもしますからっ!」
恥も外聞もなく懇願した。
恐怖耐性やら精神力補正が高いけど、それだけは無理。想像するだけで無理だからぁ!
だいたい、だ。クラウディアはヤンデレじゃない――はずなんだけど、どう考えても大人しい女の子ではない。そしてローズに関しては問答無用にヤンデレだ。
加えて、この世界では、手足やらなんやらを切り落としたとしても、あとで気軽に生やすことが出来る魔法が存在している。
つまり、つまり――だ。
逃亡しようとした俺の手足を、おしおきで切り落とす二人なら、浮気をしそうという理由だけで、一時的に第三の足を切り落とすこともやりかねない。
「と、取りあえず誤解だから」
俺は誤解を解くために、純潔の糸を使えるようにするために処女の血が必要で、シルフィーさんがいきなり手首を切ったことを、クラウディア達に向かって説明する。
「なるほど。シルフィーさんがいきなり腕を切ったのって、そういう理由だったんですね」
「……そういう理由だったんですねって、知らないのにあの光景を見て平然としてたのか?」
まわりの人は、シルフィーさんがいきなり腕を切ったからドン引きしてたのに。
「なにを言うんですか、ご主人様。シルフィーさんはヤンデレなんですから、なんらかの切っ掛けで腕を切るくらい、普通にあるに決まってるじゃないですか」
「いやまぁ、そうだけども」
最近思うんだけど、俺よりもクラウディアやローズの方が精神力が高い気がする。
まあ、精神力のランクはあくまで補正が掛かるだけ。基礎となる精神力は数値化されていないから、俺より二人の方が高くてもおかしくはないんだけどな。
「なんにしても、誤解が解けたのなら放してくれないか?」
「あたしとしては、このままご主人様にご奉仕しても良いんですけど」
「いやいや、俺達がこの街になにをしに来たか忘れたのか?」
「少なくとも、シルフィーさんとの浮気を許すためじゃありませんけど」
「浮気はしないから」
二人とはなし崩し的にいたしてしまった訳だけど、俺はあくまで平和で穏やかな生活を望んでいる。見境なく手を出して、修羅場だらけな人生を送るつもりはない。
そもそも、ウェルズ洋服店の建て直しを失敗したら、最悪はクラウディアはドナドナされてしまうまであり得るのだ。快楽にうつつを抜かしている場合でもない。
という訳で、俺はクラウィデアを説得する。
「さっきのダンジョンで魔物を倒したから、SPが増えてるはずだ。服飾のスキルとか習得出来ないか確認するのが先だろ?」
「つまり、ステータスを弄って虐めてから、息も絶え絶えになったあたしと本番に及ぼうと言うんですね。ご主人様のエッチ!」
「……まあ、取りあえずステータスを見せてくれ」
言及は避けて、ステータスの閲覧を求める。
ともあれ、クラウディアがベッドの上に座ってステータスウィンドウを開き、ローズも俺の上から退いてくれた。
拘束を解かれた俺は起き上がり、クラウディアとステータスウィンドウのあいだに身体を割り込ませ、ウィンドウに表示されている数値に目を向ける。
【SP】残り976sp
「SPが976あるな。取りあえず、裁縫のランクをCからBに上げて良いか?」
「はい。それでご主人様のお役に立てるのなら、ぜひ習得させてください」
「ん、分かった。それじゃ、ランクをBに上げるな」
俺は断りを入れて、クラウディアのステータスウィンドウを操作してスキルを習得する。
「ん。また、この感覚ぅ。ご主人様、あたしの中に、なにかが入って、入ってきますぅ」
俺の背中に寄りかかって甘い声を漏らす。
「ほい、これで裁縫ランクがBになったぞ」
「……え? もう、習得しちゃったんですか?」
「うん。今回はなにを習得するか決まってたからな」
「ええっと……その、もう少し確認作業をしたりとかは?」
「今のところ特には」
「じゃ、じゃあ、裁縫ランクをAに上げるとか!」
「Aにするには600SP必要で、残り476しかないから無理だな」
「そんなぁ……」
切なげな声。人のことエッチとか言ってたけど、わりとクラウディアの方がエッチになっている気がする。
まあ……気がするもなにも、快楽に弱いを習得している時点で、それは明らかなんだけど。
「……えっと、二人ともなんの話をしているの?」
横で大人しく話を聞いていたローズが、不思議そうに尋ねてきた。金髪のサイドツインを揺らして小首をかしげる姿が可愛いぞ。
「ローズにはまだ話してなかったな。実は俺は自分や親しい人間のステータスウィンドを操作して、SPを消費してスキルを習得することが出来るんだ」
「……へぇ。その能力で、リザレクションを習得したんだ?」
「正解。なんとなくは……予想してたか?」
あまり意外そうにしてないなと思って尋ねると、ローズはふふっと微笑んだ。
「それはね。狙ってリザレクションを覚えるなんて普通は不可能だし。それに以前、私のステータスウィンドウを触ったこともあったよね?」
「あぁ……あのときは、えっと。ごめん?」
船でローズから逃げようとして、公衆の面前でステータスウィンドウを弄り倒した。あのときのことを謝っていないことを思い出して、今更ながらに謝罪した。
「良いよ、許してあげる。と言うか、ユズキお兄さんがしたいのなら、いつでも、どんなところでも、私に好きなことをして良いんだよ?」
「お、おぅ」
俺が望んでいたのは、普通の女の子とのスローライフ。だったんだけど……最近は、今の生活も悪くないと、ちょっとだけ思うようになってきた。
……流されてるなぁ、俺。
「ところで、そのステータスウィンドウを操作して、好きなスキルを習得……って、私が覚えたいスキルも覚えることが出来るの?」
「俺が見て、ローズの代わりに習得することは出来るぞ?」
「だったら、お願いして良いかな?」
「それはかまわないけど……ちょっと待ってな」
俺は裁縫の腕を試してもらおうと振り返ると、クラウディアはなにやらもじもじしていた。
「うぅ……こんな中途半端なままで放置だなんて、ご主人様のいじわるぅ……」
「うん。一人で悶えてるところ悪いんだが、ちょっと良いか?」
「ふえ? なんですか? もしかして、その気になってくれたんですか?」
「いや、裁縫ランクBの腕前を確認したいから、ちょっとなにか縫ってみてくれないか?」
「……ええっと。はい、分かりました」
クラウディアは「ご主人様は鬼畜ですぅ」とか、失礼なことを言いながら、俺から裁縫道具一式を受け取り、ベッドサイドにあるテーブルに移動した。
「ええっと、お待たせ、ローズ」
「……ユズキお兄さんって、普段は優しいのに、時々鬼畜だよね」
「まあ……否定はしないけど。優先順位は重要だと思うぞ?」
俺だってなにも思わないわけじゃないけど、クラウディアやウェルズ洋服店を救うためには、クラウディアの裁縫の腕が必須なのだ。ここで欲望に負けるわけにはいかない。
「私としては、スキルを習得してもらうのに興味があるから良いんだけどね。と言うことで、さっそくお願いしたいんだけど……どうしたら良いの?」
「まずはステータスウィンドウを見せてくれ」
「ん。それじゃ……ステータスオープン」
ローズが宣言すると、その目の前にステータスウィンドウが表示された。
操作をするために、ローズとステータスウィンドウのあいだに身体を割り込ませ――ようとしたら、ローズが俺の膝の上に後ろ向きに座ってきた。
「……ローズ?」
「この状態でも操作できるよね?」
「まあ、問題はないけど……」
後ろから抱きしめているような状況。俺がステータスウィンドウを弄って、ローズが腕の中で甘い声を漏らすとか、絶対に我慢できる気がしないんですけど。
……ま、まあ良いや。取りあえずステータスを見せてもらおう。
【名前】:ローズ【総合評価】:84,200
【通常スキル】
筋力:F / 耐久力:E / 敏捷度:C / 器用度:A
魔力:AA / 精神力:A / 幸運:B
【耐性スキル】
呪い耐性:D / 毒耐性:C / 気絶耐性:D / 睡眠耐性:C
【戦闘スキル】なし
【魔法スキル】
攻撃魔法マスタリー:B / 回復魔法マスタリー:C / エア・シュート:AA
エア・スラッシュ:A / テンペスト:A / ヒーリング:C
リジェネーション:D / キュア・ポイズン:C / デスペル:C
スリープ:B
【技能スキル】
礼儀作法:B / 領地経営:E / 性技:A / 嗅覚:AA
【先天性スキル】
攻撃魔法の才能 / 回復魔法の才能 / 応用の才能
【特殊スキル】
魔法威力増加:C / 魔法範囲増加:E / 高速詠唱:B
魔力自然回復増加:A
【レアスキル】
契約の魔眼:B
【バッドステータス】
ヤンデレ:A
【称号】
伯爵令嬢
ユズキの性奴隷
【SP】残り1828sp
……やだ、この子恐い。
総合力だけなら、俺の方が圧倒的に高いけど……能力的になんの利点もない『ヤンデレに死ぬほど愛される』などで底上げされていることを考えると、既に負けている気がする。
と言うか……なにこの、とんでもない魔法の数々は。どうりで、平気で魔法を連発して、ボスガルムを一撃で沈めたはずだ。魔法適性高すぎだろ。
前見たときは、ここまでとんでもない能力じゃなかったぞ。
……と言うことは、ここ最近に成長したってことだよな。原因は……夜のあれこれ以外思い浮かばないんだけど。いくらなんでも成長しすぎじゃないですかね。
「ユズキお兄さん、ユズキお兄さん、スキル習得出来そう?」
「あぁ……えっと、1828SPあるから、習得だけなら大抵のスキルは覚えられると思う。必要条件のあるスキルや、リザレクションみたいな消費SPの大きいのは無理だけどな」
「そっか。じゃあ、格闘技と柔術。それに紋様魔術を習得したいんだけど」
「……一応聞いておくけど、格闘技と柔術はなにに使うつもりなんだ?」
もしかしなくても、俺を押し倒すために使うつもりじゃないよな? と、ジト目で見る。
「ほら、このあいだ、後ろから羽交い締めにされてなにも出来なかったでしょ? あんな風に、お兄さんの足手まといになりたくないから、対応出来るスキルを手に入れようと思って」
「あ、あぁ……そういう意味か」
誤解だったかと、ホッと一息つく。
だけど、そんな態度を不審に思ったのだろう。ローズはどうしたのと俺の方を振り返った。
「……もしかしてユズキお兄さん」
「いや、誤解だから」
「まだなにも言ってないよぉ」
「うぐ」
「やっぱり。私がユズキお兄さんを押し倒すために、覚えようとしてると思ったでしょ?」
唇をとがらせ、瞳を三角にして俺を見る。
「いやその……ごめん」
「謝らなくて良いよ。それも理由の一つだから」
「だと思ったよっ!」
謝って損した。
でも……後者だけなら、習得を拒否するところだけど……不測の事態に備えるというのも事実だろう。だから……押し倒されるのが分かってても、断れるわけ……ないよなぁ。
「分かったよ。それじゃ、格闘技と柔術は習得することにしよう」
と言っても、今は習得しない。と言うか、ステータスを触らない。
俺がローズのステータスウィンドウに触れると、ローズに快楽が伴う。その状況で話し合いなんて出来るとは思えないからな。なにを習得するかは、先に決めるつもりだ。
……いや、先に決めておいて、あとでゆっくり、ステータスウィンドウを弄り倒して楽しもうとか思ってるわけではなく。
「……ユズキお兄さん。私に押し倒されるって分かってるのに、格闘技や柔術を習得させてくれるなんて……実は、私に押し倒されるのが好きなのかな?」
「そんな訳ないだろう」
きっぱりと断言する。その視線が明後日の方を向いていたのは……まあ、ご愛敬である。
「それで、紋様魔術はどうして習得したいんだ?」
またなにか企んでいるのかと、疑惑の視線を向ける。だけどローズは、そんな俺を肩越しに見上げると、真剣な眼差しを向けてきた。
「紋様魔術を習得したいのは、ユズキお兄さんと一緒にいたいから、だよ」
「……どういう意味だ? 今だって、こうして一緒にいるだろ?」
最初の頃の俺は、ヤンデレであるローズからずっと逃げ続けていた。
でも色々(、、)あって、今の俺はローズと一緒にいることを受け入れている。一緒にいたいからなんて今更なこと、言われると思っていなかった。
「ユズキお兄さんが、私を受け入れてくれてるのは知ってるよ。でも……それは一緒にいることだけ、だよね。クラウディアさんみたいに、一緒に歩こうとはしてくれてないでしょ?」
「……服飾のことを言ってるのか?」
俺が前世では諦めた服飾の道へ進むという夢。それを叶えるために、クラウディアと一緒に、ローズのドレスを作ろうと歩み始めた。
それがローズにとっては羨ましい……ってことかな?
「私もユズキお兄さんやクラウディアさんと一緒が良いの」
「ローズも服飾がしたいってことか?」
「うん、そうだよ――って言いたいけど、私は服を作るのにはあんまり興味がないんだよね。だから、そんなユズキお兄さんの側にいたいって理由で始めるのは違うかなって」
「……なるほど」
それはなんとなく分からないでもない。
誰かと一緒にいたいから、なにかを頑張る。それ自体は素晴らしいことだと思う。けど、一緒にいるために、やりたくもないことをやるのは違うとも思う。
頑張った結果、嫌いなことを好きになる。なんてこともあるから一概には言えないけどな。
俺としても、ローズが俺と一緒にいたいと言ってくれるのは嬉しいけど、その手段として、やりたくもない服飾を手伝う。なんてことはして欲しくない。
そんなことをしてもらうくらいなら、完成した服を喜んできてもらう方が良い。
「言いたいことは分かったけど、それでどうして紋様魔術なんだ?」
「純粋に魔術に興味があるのが一つ。そしてもう一つは……ユズキお兄さんは、紋様魔術を洋服に取り入れようとしているでしょ? それだったら、私もお手伝いできるかなぁって」
「ローズが、俺の代わりに紋様魔術を覚えてくれるってこと?」
「ダメ、かな? クラウディアさんのこともあるし、私も手伝いたいと思ってるんだけど」
少し照れくさそうに付け加える。
なんとなく、だけど、それがローズの本音のような気がした。
「それじゃ、紋様魔術はローズに任せるよ」
「……良いの?」
「良いもなにも、ローズから言い出したんだろ?」
「そうだけど……ね。私が服飾のお手伝いをするってことは、ユズキお兄さんから見て、私と服飾を切り離せなくなるってことでしょ? そう言うの、嫌かな……って」
俺に背中を預けていたローズは、下を向いて不安そうに呟く。俺は「ばかだなぁ」と、腕の中にある小さな身体をぎゅっと抱きしめた。
「……ユズキお兄さん?」
「俺は、ヤンデレが嫌いだ。でもそれは、ヤンデレはみんな、自分勝手なんだって思い込んでいたからだ。だけど……ローズはそうじゃなかった」
まあ……暴走とかは凄いし、自分勝手ではなくても、決して奥ゆかしい性格とかではない。目的を達成するためなら手段を選ばない。
そう言うのに困らないって言えば嘘になるけど……
「俺はローズのことが嫌いじゃない。ずっと一緒にいたいと思ってるよ」
俺はそこで一度言葉を切り、テーブルの前に座っているクラウディアに視線を向ける。
裁縫をしていたはずだけど、その手はすっかり止まってしまっている。ピクリとも動かないところを見ると、こちらのやりとりに聞き耳を立てているのだろう。
「もちろん、クラウディアも一緒にな。絶対、借金のかたに渡したりなんてしないから。心配しなくて大丈夫だぞ」
俺がそう続けると、クラウディアはバッと振り返って俺を見て――「ご主人様ぁ……」と、幸せそうに表情をとろけさせた。
……ちょろい。
いやまぁ……ここで対応を誤ると、一気に暴走クラウディアにクラスチェンジするから、ちょろいというのは少し違うかもしれない。
取り扱いを間違えなければ大丈夫だけど、間違えたら大変なことになる、みたいな。
「とにかく、ローズのスキルを習得するな」
基礎ポイントは、柔術と格闘技が100で、紋様魔術が500。ローズの残りSPが1828。基本的にスキルはEランクから本番だから……
「柔術と格闘技はFで、紋様魔術がEで良いか?」
「うん、柔術と格闘技は、スキルを習得出来たら、あとは実戦でランクを上げていくからそれで大丈夫だよ。お願いするね」
「分かった。それじゃ……」
ローズを後ろから抱きしめるような体勢で手を伸ばし、ステータスウィンドウに触れる。
「んぁ……、この感じ、あのときと同じ、だぁ……」
腕の中でローズがピクリと身を震わせる。それを出来るだけ意識しないようにしながら、まずは……柔術を習得、と。
「凄い。あのときは訳も分からずに頭が真っ白になっちゃったけど、これ、ユズキお兄さんにしてもらってるのと、似てるけど、ちょっとだけ違って……ん」
続いて、格闘技の項目を開いてFランクを習得。
「なんか、凄いよぅ。身体の中に、熱い感覚が流れ込んでくるの」
「……いや、あの……スキルを習得しにくいから、実況するの止めてくれませんかね?」
思わず苦言を口にする。
いや、俺だって堪能したいよ? でも、今はローズが膝の上に座っているのだ。変な気持ちになったら、すぐにバレちゃうじゃないか。
「私は、ただ感じてることを、口にしてるだけだよ。ステータスウィンドウを触られる感覚なんて、凄く不思議だから、ね」
「……まあ、とにかく紋様魔術を習得するな」
俺は変な気持ちになる前にと――既になっているという突っ込みはなしで、紋様魔術を習得。更にEランクへとランクアップさせる。
「……ふぅ、ふぅ。これ、凄いよぅ」
「はい、習得終わったぞ」
「……え?」
「だから、スキルの習得が終わったって。ほら、どいたどいた」
きょとんとして振り返る。そんなローズの脇の下に手を差し入れて持ち上げ、膝の上からベッドの上へと撤去する。ローズが物凄く切なそうな表情を浮かべた。
「……ユズキお兄さぁん。もっと、ステータスウィンドウを触ってよぉ」
「もうスキルは習得しただろ」
「そうだけど……」
ローズはそこで一度言葉を切ると、俺の耳に唇を触れさせた。
「……ねぇ、ステータスウィンドウを触りながら、私のこと可愛がってみない? きっと私、凄く、すっごく乱れちゃうと思うよ?」
「~~~っ」
耳の側で囁かれて、俺はぞくりと身を震わせた。だから、その内容にぞくりとしたわけではない。ないったらない。
いやでも、両方一度にと言うのは、想像するだけでも凄いことになりそうな……ひぅ!?
俺はぞくりとして身を震わせた。クラウディアが、無言で俺達を見つめていたからだ。
「いや、誤解だからな? 俺はちゃんと、服飾に全力を注ごうとしてるからな」
「――ご主人様!」
「は、はい、なんでしょう?」
「あたしにも、ステータスウィンドウを弄りながらして欲しいです!」
「――そっち!?」
突っ込まずにはいられない。
いや、性的な意味ではなく、クラウディアの発言に対してだ。
なにしろ、次の社交界で着るローズの服を作って、それをみんなに評価してもらわなければ借金を返せなくなって、クラウディアが奴隷として売られてしまうのだ。
だから、そんなことを言ってる場合ではないと思うのだ。本気でないと思うのだ。だというのに、クラウディアは俺の側までにじり寄ってきた。
「……ご主人様ぁ。さっき、ステータスウィンドウを弄られて、しかもローズ様の甘い声を聞かされて、もう我慢できないんです」
「私も、ステータスウィンドウと同時に攻められるのを想像したら、もう。だから……ね」
「「……二人纏めて、可愛がってください。えっちな、ご しゅ じ ん さ ま」」





