表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この異世界でも、ヤンデレに死ぬほど愛される なろう版  作者: 緋色の雨
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/63

エピソード 2ー3 ローズの採寸

 数日経ったある日。俺は単独でブラッド家にやって来た。

「ユズキお兄さん、久しぶりだよぉ~」

「久しぶりって、まだ一週間くらいしか経ってないだろ?」

「それでも、寂しかったんだよ。……ところで、クラウディアさんは?」

「あぁ、クラウディアは……色々あって実家で留守番してる」


 前回の、人様の倉庫でことに及んだのを目撃されて拗ねている――とは、口が裂けても言えないので、俺は全力で誤魔化した。

 バレたら絶対、猫なで声でおねだりされるに決まってるからな。


「ふぅん? それで、ユズキお兄さんは、私に会いに来てくれたの?」

「いや、実はクラウディアの実家のことで、少し相談があってな」

「……むぅ。そこは嘘でも、ローズに逢いたかったんだって言うところでしょ?」


 唇を尖らせるローズが、年相応に可愛い。


「はは、ごめんごめん。用事出来たのは事実だけど、逢いたくないなんて思ってないよ」

「ホント――って、それ、逢いたいとも言ってないよね?」

「バレたか」

「もぅ、ユズキお兄さんっ!」


 ぷんすか怒るローズの頭を撫でつけ、俺は苦笑いを浮かべた。


 前世でヤンデレに殺された俺は、病的なまでにヤンデレを嫌っていた。それはもう、ヤンデレだと言うだけで、避けるくらいには嫌っていた。


 そんな俺が、ヤンデレのローズに逢うのを嫌とは思わなかった。俺にとっては、わりと凄いことだったんだけど……ローズは気付かなかったみたいだ。


 でも……まあ良いだろう。

 俺がヤンデレを苦手としていることには変わりなし、ローズも手綱を握っておかないと暴走しかねないヤンデレだというのも変わらない。

 少しずつ慣れていこう。



 ――という訳で、ローズの部屋。俺はベッドの上に押し倒されていた。

 いや、なにが“という訳”なのか分からないと思うけど、俺にもよく分からない。


「……なんで俺は押し倒されてるんだ?」

「え? 私の身体を隅から隅まで測りたいって、エッチな意味だよね?」

「いや、違うから。ローズの服を作りたいんだ」

「……ふえ? 私の服?」


 興味を引かれたのだろう。

 俺を組み伏せていたローズは上半身を起こし、膝の上にちょこんと座り直した。


「俺が服飾の仕事をしたいって言ってたの、覚えてるか?」

「もちろん、私がユズキお兄さんの言ったことを忘れるはずないじゃない」

「それは頼もしいような、恐いような……ま、まあいいや。実は、クラウディアの実家の洋服店を建て直すために、協力することにしたんだよ」

「ユズキお兄さんが?」


 ローズはちょこんと可愛らしく小首をかしげる。


「ウェルズさんの店は、どうやら色々な妨害を受けてるみたいでな。レニス洋服店の安売りに対抗できないのが現実で……このままじゃ潰れるのは時間の問題なんだ」

「それは分かるけど……それで、ユズキお兄さんが介入してなんとかなるの? 私はてっきり、ブラッド家に資金援助をして欲しいって言いに来たんだと思ってたんだけど」


 俺は苦笑いを浮かべる。

 ローズはさっき、『私に会いに来てくれたの?』 なんて言ってたけど、本当はそうでないことを予測していた。


 つまりは、さっきの『そこは嘘でも会いに来たと言って欲しい』っていうのが、嘘で騙して欲しかったという意味ではなく、言葉どおりの意味だと気付いたからだ。


 嘘でもかまわないなんて、ローズは可愛いなぁと目の前にある華奢な身体を軽く抱きしめる。柔らかくて暖かい。更には甘い匂いが鼻腔をくすぐった。


「……ユズキお兄さん、するの?」


 すぐにそっちに話が行くとか、迂闊に愛情表現できないじゃないかと、無言でその身を離す。そうして、会話の軌道修正をおこなった。


「資金援助は考えなかったって言ったら嘘になるけどな。でも、ローズは情だけじゃ、首を縦に振ってくれないんじゃないかなって思って」

「そう、だね……ユズキお兄さんのお願いなら、私に出来る範囲のことはなんだってしてあげるけど……ブラッド家からの資金援助となると、私が決められることじゃないからね」

「やっぱりそうだよなぁ」

「うん。勝ち目があるのなら、お母さんを説得くらいはしてあげられるけど……」


 なにか策はあるの? と、ローズが俺を見る。


「状況を覆す策ならある。そこで、ローズの服を作りたいんだ。ローズが愛用している服のお店。貴族御用達となれば、高価な服の販売で盛り返すことが出来ると思って」


 俺の言葉に、けれどローズは難しそうな顔をした。


「……なにか、問題があるか?」

「えっと……あのね? 私は、ユズキお兄さんが作ってくれた服なら、たとえどんな出来の服でも喜んで着るよ? でも、よほどの出来じゃなければ、えっと……」


 ローズがなにを言いたいのか理解して、俺は「それなら大丈夫だ」と笑った。


「……大丈夫ってユズキお兄さん、服飾は初めて、なんだよね?」

「その辺、ちょっと説明が難しいんだけど、初めてってわけじゃないよ。という訳で、ローズに作る服は、もうデザイン済みなんだ」


 俺は前置きを一つ、アイテムボックスからゴスロリのイラストを取り出した。


「……え? 嘘、絵が上手だね。それにこのデザイン……凄く、すっごく可愛いよ!?」


 ローズが万年筆で書かれた線画のデザインに目を白黒させる。


「ふわぁ……ユズキお兄さんが強いのは知ってたけど、服飾も才能があるんだね――って、うわっ! ユ、ユズキお兄さん?」


 おっと、ローズがあまりにも嬉しいことを言ってくれるから、思わず思いっきり抱きしめてしまった。


 さっきも思ったけど、腕の中にすっぽり収まって、すごく抱き心地がいい。

 ……いや、抱き心地というのは、抱きしめたときの心地がいいと言う意味で、隠喩的な意味での抱き心地ではない。……そっちも最高だけども。

 思い出したらムラムラしてきた。


「ユ、ユズキお兄さん?」

「ごめんごめん。認められて嬉しかったからつい。まだまだ勉強中だけど、ローズが気に入ってくれたのなら嬉しいな」

「それは、これだけのデザインを見せられて気に入らないはずないよ。ただ……こんなに、ふんわりしたデザインの服、本当に作ることが出来るの?」

「あぁ、それは問題ないよ」


 クラウディアはふんわりしたデザインと言ったけど、ゴスロリとしては至ってシンプルなデザイン。型紙もそこまで複雑にはならないと予想している。


 認識の違いは、服飾の技術の差によるところが大きいのだろう。


「それじゃ……本当にこのイラストの服を、私に作ってくれるの?」

「うん。ただ……申し訳ないけどプレゼントは出来ない。生地がかなり稀少だから、どうしても買い取ってもらう形になるんだけど……」


 それでも大丈夫かと、目で尋ねると、ローズはもちろんだよと頷いてくれた。


「言ったでしょ、私はユズキお兄さんのことが大好きだって。そのユズキお兄さんが、私のために服を作ってくれた服なら、どんな出来でも、ちゃんと買わせてもらうよ」

「ありがたいけど……そこは服の出来を見て、ぜひ買いたいと思って欲しいところだな」

「ふふっ。それは……ユズキお兄さんの頑張り次第だよ?」


 挑戦的な瞳で見られてしまった。

 服飾を目指すものとして、この挑戦を受けないわけにはいかないな。


「分かった。俺が作ったとか関係なしに、ローズが着たいと思うような服を作ってみせるよ」

「うん。楽しみにしてる。それで、この服を作るのに、どれくらいの期間が必要なの?」

「えっと……そうだな」


 量産品ではなく、一から作るゴシック系のドレス。

 ミシンなんてものはないから、縫うだけでも一ヶ月以上は掛かるし……それに、型紙の製作に、まずはボディを作るところから。そう考えると……


「そうだなぁ……2、3ヶ月は欲しいかな」

「2、3ヶ月かぁ。2ヶ月半で完成させることは出来そう?」

「頑張ればなんとかなると思うけど……なにかあるのか?」

「うん。その頃に、ブラッド家が主催の社交界がこの島でおこなわれるの。そのときまでにドレスを作ってくれたら、私が来て大々的に宣伝してあげるよ」

「それは願ってもないことだけど……良いのか?」

「良いも悪いも、完成度が高い服を作れるお店なら、支援をするのは当然だよ。好評なら、ウェルズ洋服店に支援をするように、お母さんに頼んであげる!」


 お兄さんのためなら頑張るよ――と、微笑むローズが可愛すぎる。

 最近、ローズがヤンデレじゃなくて、少しだけ行動が過激な普通の女の子に見えてきた。ちょっと、毒されてきてるんだろうか?


 まあ……その検証は後回しだ。


「話を戻すけど、服を作るためには、ローズの精巧な胴体の模型が必要なんだ。だから、隅々まで採寸させて欲しい」

「えっと……ユズキお兄さんに採寸されるのはかまわないというか、むしろご褒美だけど、模型を作るってどういうこと?」

「普通に服を作る場合は平面裁断だと思うんだけど、俺は立体裁断で作るつもりなんだ。そして、そのためにローズの胴体の模型がいるってこと」

「……立体裁断?」


 ローズが興味を示したので、立体裁断について軽く注釈をした。


「ふぇえ。そんな方法、私も聞いたことないよ?」

「そうだろうなぁ」


 この世界の服飾は、平面裁断のみ。

 立体裁断が普及するのは、本当ならもっと先の話だろう。


「そんな手段を知ってるんて……ユズキお兄さんって、何者なの?」

「それは……」


 異世界からの転生者。

 教えても良いとは思うんだけど……わりととんでもない秘密だからな。ローズの態度が変わるかもしれないと恐くて、秘密を打ち明けるか否か、少し躊躇ってしまった。


 その直後、ローズが俺の唇にちょんとキスをする。


「……ローズ?」

「そんな顔しないで。ユズキお兄さんが言いたくなければ、無理に言う必要はないんだよ。私は、ユズキお兄さんが教えても良いって思ってくれるまで、ずっと待ってるから」

「ありがと。気持ちの整理がついたら、色々と教えるよ。だから、それまでもう少しだけ待っててくれな」


 ローズは少しだけ驚いたような表情を浮かべ――それから嬉しそうに微笑んだ。


「うん。それじゃ待ってる。――と、い う こと、でぇ……まずは私の身体を隅から隅まで、採寸……だね」


 俺はローズに、ドン――と、押し倒された。

 

 

 この後、むちゃくちゃ採寸した。

 そして、なぜかユズキも採寸されたもよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
klp6jzq5g74k5ceb3da3aycplvoe_14ct_15o_dw

2018年 7月、8月の緋色の雨の新刊三冊です。
画像をクリックで、緋色の雨のツイッター、該当のツイートに飛びます。
新着情報を呟いたりもします。よろしければ、リツイートやフォローをしていただけると嬉しいです。

上記を含めた他の作品もよろしくお願いします。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ