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この異世界でも、ヤンデレに死ぬほど愛される なろう版  作者: 緋色の雨
第二章

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エピソード 1ー3 スローライフへの第一歩

 ウェルズ洋服店に戻ってくると、店番っぽい女の子が出迎えた。

「いらっしゃいませ――お、お嬢様!」

「久しぶりね、サーシャ」

「お嬢様、お嬢様! さっき、旦那様から、お嬢様が帰ってきたって聞いて、半信半疑だったんですが、お嬢様、本当にお嬢様なんですねっ!」

 サーシャと呼ばれた店番っぽい女の子は、クラウディアに抱きついた。


「サ、サーシャ!?」

「ふああああっ、お嬢様お嬢様お嬢様! 本当にお嬢様です!」

「ちょっ、離れて! ひゃん、どこを触って――あぁもう、離れなさい! サーシャ!」

「――も、申し訳ありません、お嬢様!」


 我に返ったのだろうか? サーシャさんは、クラウディアからバッと離れて頭を下げた。

 そんなサーシャさんを目の当たりに、クラウディアは深々とため息をつく。


「ただいま、サーシャ。心配してくれるのは嬉しいけど、あたしはもうお嬢様じゃないわよ」

「いいえ。私にとってお嬢様は、いつまでも愛すべきお嬢様です。はぁ……素敵ですぅ」


 この、人の話を聞かずに、自分の愛情を垂れ流してる感じ……ヤンデレだな。

 というか最近、ヤンデレを見るくらいじゃ動揺しなくなってきたな。


「……あの、お嬢様。そちらの殿方は?」

「紹介がまだだったわね。あたしのご主人様よ」

「……………………そうですか」


 うわぁ。物凄く分かりやすい感じで「死ねば良いのに」と言いたげな目で見られた。

 でもまぁ……スルーだ。サーシャさんがヤンデレなら、間違いなく俺のヤンデレに死ぬほど愛される:SSSの効果で、サーシャさんのヤンデレ度は上がっている。


 というか、ヤンデレに死ぬほど愛されるの効果で、ヤンデレに嫌われるとか。いやまぁ、好かれて追い回されるよりはマシだけど。


「サーシャ、お母さんとお父さんは?」

「リビングで待っていると言ってましたよ」

「ん、ありがとう」


 俺だったら、ヤンデレに好かれることで腰が引けたりするんだけど……クラウディアはまるで気にした風もなく、無邪気に微笑んだ。


「それじゃ、リビングへ……ご主人様? どうかしましたか?」

「あぁ、いや。クラウディアが年相応の表情だったから、ちょっと新鮮で」

「懐かしいのは事実ですけどね。今はこっちが本当のあたしですよ?」

「……奴隷であることが、か?」

「ご主人様の奴隷であることが、です」


 俺に仕えることを誇りに思ってくれてるなら悪い気はしないけど……どうなんだろう?

 まぁ……ともかく、クラウディアの両親に会うか。



 ――という訳で、やって来たのはリビング。品の良い木製のテーブルを挟んで、クラウディアの両親と向き合っていた。

 俺とクラウディアが隣同士。そして俺の向かいがクラウディアの父親で、斜め向かいがクラウディアの母親という位置関係。


「本日はよくお越しくださいました。私はクラウディアの父親で、ウェルズ洋服店三代目のウェルズです。そして――」

「私がクラウディアの母親のアーシアと申します」

「ご丁寧にありがとうございます。俺はユズキと申します」


 挨拶を返しつつ、なんだか娘をもらいに来た彼氏みたいな状況だなぁなんて考える。けど、クラウディアが事前に説明をしてくれているから、誤解をされることはないだろう。


 ……でも、借金の形に奴隷として売り飛ばした娘を、購入して連れてきた俺は……どういう風に見られているんだろうな。


 娘と再会させてくれた恩人? それとも……娘を奴隷として弄ぶ敵?


 しまったなぁ……ここに来る前に、クラウディアの両親が俺に対してどんな印象を抱いているか、前もって聞いておくべきだった。


 と、取りあえず、出されたお茶を飲んで、気持ちを落ち着けよう。

 あぁいや、でも、お茶って勧められるまで飲んじゃダメなんだっけ? いや、それは日本での礼儀作法だ。ここでも同じとは限らないな。


「ユズキくんには感謝の言葉もない。本当にありがとう」

 俺がテンパっていると、クラウディアの父親――ウェルズさんが頭を下げた。


 これは……あれか。クラウディアが上手く説明してくれた感じか? 罵倒されたときの対応まで考えてたけど、杞憂だったみたいだな。


「頭を上げてください。ただの偶然ですから、感謝されるようなことじゃありません」


 少し安心した俺は、ホッと一息ついてお茶に口を付ける。


「いえ、娘から聞きました。不幸な人生をたどるはずだった娘を買い取って、性奴隷として毎晩愛してくださっていると」

「――ぶほっ!? ごほっ、げほっ」

 思わずお茶を吹きそうになって咳き込んだ。


「な、なななっ、な!?」

 クラウディアに、なにを言ってるんだこのアホっ! と、視線を向ける。するとアイコンタクトで「事実ですよね?」と返してきた。


 いや、たしかに船での一件以来、なんだかんだと毎晩……いや、そういう問題じゃない。

 問題じゃないと思う――が、ここで口にするわけにもいかず、ぐぬぬと、クラウディアの両親から見えないところで拳を握りしめて震えた。


「誤解なさらないでくださいね、ユズキさん」

 なにやら穏やかな顔で、クラウディアの母親――アーシアさんが口を開いた。


「ふがいない私達のせいで、クラウディアは娼婦としての一生を送る予定でした。それが、ユズキさんのおかげで救われた。だから、感謝しているんです」

「そ、そうですか……」


 不幸な運命を定められていた娘が、その運命から逃れることができた。それを感謝するというのは分かるんだけど……性奴隷で良いのか?

 正直、どこから突っ込めば良いのか分からない。


 おかしいのは俺か、それともこの二人か、はたまた……この世界そのものなのか。

 メディアねぇの作った世界だからなぁ……


 ――あら、わたくしはわりと常識的な女神ですわよ?


 ……常識的な女神様は、一人の人間をずっと観察したりしないと思う。と言うか、ナチュラルにメッセージログに書き込んでくるなぁ。

 なんて考えていると、アーシアさんに名前を呼ばれた。


「これからも娘を、クラウディアを、性奴隷として、一生、可愛がってあげてくださいね」

「え? それは……ええっと。……はい」


 ここで断ったら、性奴隷として弄んだだけとか言われるかも、とか。一生性奴隷としてってどういうことなのさ、とか。

 なにやら色々考えた結果、訳が分からなくなって思わず頷いた。


 クラウディアがなんか、既成事実ゲットだよ。とか呟いてるけど……それで良いのか?


「そんなことよりもユズキくん、少し聞きたいことがあるのですが!」

 クラウディアの父がテーブルに手をついて立ち上がり、俺にぐぐぐと迫ってきた。


 この人、自分の娘が性奴隷云々の話を、そんなことよりもで流したぞ。

 大丈夫なのか? なんて思っていると、アーシアさんが「貴方……?」と少し咎めるような視線を夫に向けた。


「恩人にものを尋ねるのに、そんなえらそうな態度で失礼でしょ?」


 ……え、そっち?


「あぁ、すまない。たしかに妻の言うとおりだ。許してください、ユズキくん」

「いえ、別にかまいませんが……聞きたいことと言うのは?」

「うん。それは他でもありません。娘の着ている服のことです」

「あ、あぁ……あの服ですか」


 メディアねぇからもらった、肩だしのブラウスに、俺が改造してアシンメトリーにしたミニスカートのセット。要するに……さっき商売女に間違えられた服装である。


「すみません、着替えを買う余裕がなかったので、後で何着か買わせて頂きます」

「いや、そうではなくて。娘の着ている服は、ユズキくんが作ったと聞いたのですが」

「え? あぁ……スカートは俺が手を加えましたけど、ブラウスはなにもしていませんよ」

「……そう、なんですか?」


 クラウディアの両親は揃って、がっかりと言った面持ちで項垂れた。


「えっと……あの服がどうかしましたか?」

「いえ、画期的で素晴らしいデザインだと思いまして。分解して型紙を作らせて欲しいと娘に土下座したら、ご主人様から頂いたものだからダメだと言われてしまいまして」

「あぁ……なるほど」


 ……って、今、土下座したって言わなかったか? もしかして……あれか。いわゆる、服飾のことしか考えてない人種なのかな。


「わざわざ分解しなくても、これくらいの型紙なら、たぶん引けると思うので……後で作りましょうか?」


「「「――本当ですか!?」」」


 なんかハモった。

 ……って言うか、なんでクラウディアまで。


「本当ですか? 本当の本当に、この神のごとき服の型紙を引けると!?」

「はい……って言うか、神のごときって、ちょっと露出過多らしいんですが」

「たしかに、娘が来ているデザインそのままではエロすぎですが、立体的で斬新なデザイン。露出を抑えれば、素晴らしいデザインになること間違いなしです!」


 なるほどと思ったけど……実の父にエロすぎと評価された服を着てるクラウディアが真っ赤になってるけど、放っておいて良いのだろうか?

 ま、まあ、俺から言うのもやぶ蛇になりそうだし、今は型紙の話を優先しよう。


「つまり、大衆受けするようなデザインに改造すると言うことですね」

「ええ、ダメでしょうか?」

「いえ、かまいませんよ」

「ではお願いします! 今はまだ、たいしたお礼は出来ませんが、店を建て直した暁には全力で恩に報いると誓います。だから、お願いします。その型紙を譲ってください!」


 机の上に手をついて身を乗り出していたウェルズさんは、今はテーブルの上に乗っかるほどの勢いで俺に迫っている。

 と言うか、顔が近い。

 美少女ならともかく、おじさんにそんなに迫られても嬉しくないから止めて欲しい。


「と、取りあえず、離れてください。型紙くらいなら協力します。だから、先に俺の話を聞いてもらえませんか? たぶん、貴方が型紙を欲しがっている理由とも無関係じゃないので」

「……それは、どういうことでしょう?」

「レニス洋服店をご存じですか?」


 俺がその名を口にした瞬間、夫婦揃って苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた、


「よく知っています。最近この島で急速に勢力を伸ばしている洋服店ですね」

「品質のわりに、安い値段で提供しているのでは?」

「その通りです。普通に考えたら元を取れるはずがないのですが……なにかご存じなので?」


 俺は実はと切り出し、他領の人間がグラン島の経済を掌握しようとしていること。その過程で、この島の商人を買収したり、邪魔な店を潰そうとしていることを伝えた。


「つまり、レニス洋服店はうちを潰すために、採算度外視で商売をしていると?」

「ええ。恐らくは他領の支援を受けて、原価割れの価格で売ってるんでしょうね」

「……そういうこと、ですか」


 腑に落ちることがあったのだろう。ウェルズさんは拳を握りしめ、わなわなと震え始めた。


 いつから妨害が始まっていたのかは分からないけど……愛娘を奴隷として売らなくてはいけないほど、煮え湯を飲まされてきたんだ。

 技術で負けたのではなく、陰謀に巻き込まれただけだと知ったショックは大きいだろう。


「それと……ウェルズさんとクラウディアが受けた、衰弱の呪いですが……」

「――まさかっ、あの呪いも関係しているというのですか!?」

「証拠はありませんが、恐らくは間違いありません」

「なんてことだ……っ」


 ウェルズさんが下を向き、アーシアさんが「貴方……」と、その手を握った。


 クラウディアも衰弱の呪いを受けていたあいだは、ずいぶんと非力だった。と言っても、その時点では元の能力を知らなかったから、ピンとこなかったんだけどな。


 衰弱の呪いが消えたクラウディアは、それ以前と動きが見違えた。ウェルズさんの服飾関係の能力が同じくらい低下しているとすれば、苦戦は免れないだろう。


「話を戻しますね。俺がクラウディアを連れてここに来たのは、そんな現状を知って手助けをしたいと思ったからです」

「手助け……ですか?」

「ええ。さっきも言いましたが、俺はクラウディアが着ているような服の型紙を引くことが出来ますし、そのほかの知識もそれなりに知っています。お役に立てると思うんです」


 まず、服飾の知識自体は申し分がないと自信を持って言える。これは俺が凄いというわけではなく、元いた世界とこの世界で、服飾の技術が違いすぎるせいだ。


 そして、それはデザインに関しても同じことが言える。

 既に出尽くしたと言われるほど、地球には様々なデザインが存在している。


 本来であれば、そこからオリジナリティのある服を生み出さなくてはいけないんだけど……この世界には、そもそもそういったデザインの服が存在していない。

 この世界の嗜好に合わせて、軽くアレンジを加えれば、十分に通用するだろう。


「申し出はありがたいのですが……」

「俺ではお役に立てませんか?」

「いえ、そんなことは。ただ、うちは多額の借金を抱えていまして。さきほどは型紙を売って欲しいと言いましたが、実際には明日にも店をたたまなくてはいけないような状況なんです」

「借金、ですか。失礼ですが……どれくらいでしょう?」


 俺の問いかけに、答えて良いものかと、ウェルズ夫妻が顔を見合わせ、最終的にクラウディアが促すことで、金額を教えてくれた。

 それによる借金は……全部で金貨100枚。


 高価な奴隷が金貨10枚からなことを考えると、相当な金額だ。


「もし金貨15枚ほどあれば、再起を図ることが出来ますか?」

「15枚、ですか? それだけあれば、はい。もちろん当分はなんとかなると思いますが?」

「だったら……」


 俺はそう言って、クラウディアに視線で確認を取る。

 金貨15枚のうち、10枚はラングを捕らえた報酬で、そういった収入はクラウディアと折半するという約束だったからだ。


 ただまぁ、クラウディアは迷うことなく頷いた。自分を売った両親を恨んで……なんてことは全くないみたいだ。


 という訳で、俺はテーブルの上に金貨を15枚並べた。


「このお金を使ってください。そして、ウェルズ洋服店を建て直しましょう」

「そ、それは……願ってもないことですが、よろしいのですか?」


 あまりにも話がうますぎて、なにか裏があるのではと疑っているのだろう。その表情は真剣で――少しだけ警戒の色が見える。


「実は俺、将来は服飾の仕事をしたいと思っていまして」

「はい?」

「ですから、ウェルズ洋服店の経営を立て直した暁には、俺を雇ってください」

「えっと……それは、こちらからお願いしたいほどですが……それだけ、ですか?」

「ええ、他にはなにもありません。俺の望みは、穏やかなスローライフを送ることですから」

 

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