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この異世界でも、ヤンデレに死ぬほど愛される なろう版  作者: 緋色の雨
第二章

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エピソード 1ー1 ヤンデレ達の平常運転

 ケイオス領へ向かっていた船は、ラングを捕まえた時点でローズが徴収していたようで、ケイオス領に向かうことなく引き返し、グラン島へと舞い戻ってきた。


 ……さようなら、俺のスローライフ。


 なんて、今更だ。

 気持ちを切り換えて、クラウディアとローズの問題に取り組もう。


「まずは……どうするかな?」

「そうだねぇ……ラング達をギルドに護送、かな」


 俺が独りごちると、ローズがそんな風に答えた。

 それを聞いた俺は、無言で回れ右して逃げよう――としたところで、クラウディアに服の袖を掴まれてしまった。


「クラウディア、お願いだから放してくれ」


 シルフィーさんには海を見に行くだけだと嘘をついた。そんな俺が、島を騒がせていた犯罪集団を、他領へと向かう船の上で捕まえた。


 ギルドに顔を出したら、俺が嘘をついて島の外へ逃げようとしていたのがバレてしまう。もしそんなことになったら――あぁっ、両手足を切り落としての監禁だけは止めてっ!


「もぅ、ダメですよ、ご主人様。シルフィーさんにちゃんと謝らないと」

「いや、しかしだな。シルフィーさんはヤンデレなんだぞ?」

「ヤンデレだから、謝らなくて良いなんて理由にはなりませんよ?」

「それは、まぁ……そうだけど」


 申し訳ないと謝りたい気持ちはあるけど……下手をしたら、そのまま監禁まである。

 ローズと出会って、ヤンデレだという理由だけで避けることはなくなったけど……そんなローズだって、おしおきで手足を切り落としたりしてくる。


 今の状況でシルフィーさんと会うのは無謀だと思うのだ。


「それに、あたしの実家を救ってくれるって言いましたよね?」

「ぞれは言ったよ。その言葉に嘘はないけど……」


 クラウディアには、ラングから聞いた話を余さず伝えてある。そして、恐らくは今も、クラウディアの実家が狙われているだろうと伝えた。

 そしてその上で、俺はクラウディアの実家を助けに行くと約束したのだ。


 だけど――と言うか、だからこそ、と言うか。シルフィーさんに監禁されるのだけは勘弁してもらいたい。


「ユズキお兄さん。そんなに恐いなら、ユズキお兄さんは逃げようとしてなかったって、口裏を合わせてあげようか?」


 俺が困ってるのを見て、ローズが助け船を出してくれる。けど、俺はそれに対して、やんわりと首を横に振った。


「ありがとう。でもちゃんと謝るよ。正直、監禁されるのが恐かったんだけど……いつまでも後ろめたい気持ちでいるのは嫌だからな」

「なんだ、そんな心配をしてたんだ? それなら大丈夫だよ?」

「……え? 大丈夫って、なんで?」

「ユズキお兄さんが私達以外に監禁されたら、私達が取り返しに行くから」

「……なるほど」


 頼もしい……けど、なんかもう、二人が俺の所有物なのか、俺が二人の所有物なのかわかんないなぁ。なんて、本来は所有物扱いすること自体がおかしいんだけどな。


 なんにしても、自分で蒔いた種だ。シルフィーさんにはちゃんと謝ろう。



 その後、俺達は馬車を手配。

 ローズの護衛を引き連れてラング達をギルドへと護送した。


「――ユズキ、良くやってくれた! これでグラン島を長年悩ましていた人さらい集団を壊滅することが出来る! みんな、今日は祭りだ!」


 グレイブさんが宣言し、言葉どおりギルドの中はお祭り騒ぎになったのだけど――


「――ユズキくん、お話があるの」


 シルフィーさんの一言で、ギルドはシィンと静まりかえった。


「シ、シルフィー? 今日はめでたい日だから、話ならまた今度でも良いんじゃないか?」

 グレイブさんが、声をうわずらせながらも、俺に助け船を出してくれる。


 さすがギルドのマスター、かっこいい! 頑張れマスターっ!


「……マスター、私の邪魔、するんですか?」

「い、いや、それは、その……」

「マスター?」

「…………奥のVIPルームを使うと良い」


 マスターの意気地なし! がっかりだよ!


「さぁ、ユズキくん。奥の部屋でお話しましょうね?」

「にゃああああ……」


 抵抗――はフェミニストの効果ですることが出来ず、クラウディアやローズ。それにギルドにいた人々に見守られる中、俺はvipルームへと連行されてしまった。



 そして連れてこられたvipルーム。ソファに座らされ、シルフィーさんがそんな俺に、膝立ちで跨がっている。

 なんというか……俺のすぐ目の前に、シルフィーの胸の谷間があって目のやり場に困る。

「さて、それじゃあ……言い訳を聞かせてくれる?」

「……はい」


 事情を説明する前に、言い訳だと断じられてしまった。これは、俺がどんな事情を説明しても許さないという宣言なんだろうか?


 うぅ……仕方がない。

 不老不死の復活はいつでも使える状態だし、一度くらいは殺される覚悟をしよう。


「……シルフィーさんはもう知ってると思いますが、俺はローズから逃げていたんです。だから、シルフィーさんには申し訳ないと思ったんですけど……すみません、言い訳ですね」


 これ以上の言い訳は見苦しいと、俺は軽く頭を下げた。

 ちなみに、深く頭を下げなかったのは、目の前にシルフィーさんの胸があるから。これ以上頭を下げると、胸の谷間に突っ込んでしまう。


「……頭を上げて?」

 言われて顔を上げ、そのままシルフィーさんの顔を見上げる。澄んだ蒼い瞳が、俺のことをジーッと見下ろしていた。


「ユズキくんは、ローズ様から逃げようとしてたの?」

「そうです。冒険者になったのも、ランクを上げて、ローズの支配するこの島から逃げるのが目的でした。だから……最初から、シルフィーさんに嘘をついていたんです」


 初めてシルフィーさんに会ったあの日、今後も顔を出してくれるかと聞かれて頷いた。けど……あのときから、その約束が守れなくなると俺は知っていたのだ。


 それを申し訳なく思っていた俺は、ごめんなさいともう一度頭を下げた。


 というか、シルフィーさんはヤンデレだし、ギルドマスターであるグレイブさんをも圧倒する迫力がある。ローズで手足を切り落とされるくらいだし、シルフィーさんのお仕置きはもっとヤバイものだろうと覚悟した。


 だけど――


「……ユズキくんが帰ってきてくれて良かった」

 俺はシルフィーさんに抱きしめられた……って、え?


「シ、シルフィーさん?」

「……なぁに、ユズキくん」

「いや、その……怒ってたんじゃないんですか?」

「違うわ。心配してたのよ」

「心配、ですか?」

「そうよ。海の向こうでユズキくんになにかあったらどうしようとか、ユズキくんに嫌われたのかなとか、私が専属じゃ嫌だったのかなって。そんな心配をしてたの」


 思い出したのは、初めて会ったときに手を握られたこと。シルフィーさんはあのとき、俺の手が綺麗だから冒険者になるのはもったいないとか、そんなことを言っていた。


「もしかして、シルフィーさんって……過保護?」

「違うわ。ただ、心配なだけよ」


 人はそれを過保護と言う。なんて思ったけど、野暮な気がしたので口にしないでおいた。

 というか……ヤンデレだから刺されたりするものだと思ってたんだけど、ひたすらに過保護なら安心――というか、悪い気はしない。


「えっと……その、心配かけてすみません」

「うぅん、良いのよ。でも、もし次に島を出ることがあったら、ちゃんと私に教えてね?」

「それは、かまいませんけど……どうするつもりですか?」

「もちろん、私もついていくのよ? 私はユズキくんの専属だからね。たとえ、地の果てまででもついていくわよ」

「……ええっと。そうですか」


 旅をする相手についていく受付嬢とか聞いたことがない。それじゃまるで、受付嬢ではなくストーカー……なんて、恐ろしくて口に出来ない。


「だから、絶対教えてね? 教えてくれなかったら……」


 シルフィーさんが、少しだけ身体を離して――俺の瞳を覗き込んでくる。その瞳から、完全にハイライトが消えているのを見て息を呑んだ。


 だけど、シルフィーさんが恐かったのは一瞬。すぐにふわりと微笑みを浮かべた。


「ふふっ、なんでもないわ。そんなことを言わなくても、ユズキくんはちゃ~んと、島を出る前に教えてくれるものね?」

「そ、それはもちろん。絶対教えます。今度こそ約束します」


 これ、絶対逆らったらダメなやつだ。扱いさえ間違えなければ大丈夫かもしれないけど、間違ったが最後、バッドエンドルートに入って急展開するやつだ。

 ローズやクラウディアのように、うっかり暴走させないように気をつけよう。



 その後、シルフィーさんに許された俺は、ギルドのホールへと戻ってきた。どうやら、既に宴会が始まっているようだ。


「おぉ、ユズキ。無事だったか!」


 俺を見つけたグレイブさんが駆け寄ってきた。


「えぇ、まぁ……許してもらえました。……次はなさそうな感じでしたか」

「そ、そうか。まぁ……その、なんだ。無事で良かったな」


 なにかを思い出しているのか、グレイブさんは遠い目をする。


「……そんなにヤバイ感じだったんですか?」

「ああ。お前が旅立った後、ユズキくんに嘘をつかれた、ユズキくんに嘘をつかれた……って、繰り返していてな。その後、追いかけるために休暇が欲しいとか言い出して……正直、どうにもならん状態だったんだ」

「ひぃ……」


 そ、そんなヤバいことになってたとは。良く許されたな、俺。


「それはともかく、グラン島を騒がしていた連中の黒幕を、よくぞ捕まえてくれた!」

「あぁ……いえ、それはたまたまなんですが」

「たまたまでもなんでも、二年くらい悩まされていた問題だからな。理由がなんであれ、黒幕を捕まえてくれたこと、ギルドを代表して感謝する」


 グレイブさんがありがとうと右手を差し出してきたので、俺はそれに答えた。


「でも、二年も尻尾を出さなかったって、凄いですね」

「表向きは善良な奴隷商として振る舞っていたからな」

「あぁ、木を隠すなら森の中、みたいな感じですか」


 もちろん、逆に疑われると言うこともあったはずだけど……それだけ隠し方が巧妙だったんだろう。グレイブさんが、オススメの奴隷商だと言ってたくらいだしな。


「末端の襲撃犯はなんども捕まえていたんだが、どうしても黒幕にたどり着けなくてな。もっとも、バックについている者の名前を聞いて納得したが」

「あぁ……ケイオス伯爵がバックにいるらしいですね」


 俺がそう口にすると、グレイブさんは「しっ」と、声を抑えるようなジェスチャーをした。


「そっちはラングの証言だけで、証拠がないからな。貴族相手には下手なことも言えん。しばらくは内密にしておいてくれ」

「……分かりました」


 ラングの証言があれば――なんて、少し考えてたんだけど、やっぱり無理か。時代背景を考えたら、貴族の権力とか強そうだしなぁ。

 平民が口を揃えて黒だと訴えても、貴族が白だと言えば白になりそうな気がする。


「あぁそうだ。これを忘れないうちに渡しておく」


 おもむろに布の巾着袋を手渡される。

 中身を見ると、金貨が十枚ほど入っていた。


「なんですか、このお金は」

「ラングを捕らえたことに対する報酬だ。ローズ様にどうするか聞いたら、全額ユズキに渡して欲しいと頼まれてな」

「ローズが?」

「ああ。なんか、お前がご主人様だからとか言ってたが」

「――ぶっ」

「一体どういうことなんだ?」

「いや、それは……その、色々ありまして」


 大雑把すぎる説明――だけど、俺がヤンデレに死ぬほど愛される:SSSの持ち主であることを思い出したのだろう。グレイブさんは「色々と苦労しているんだな……」と呟いた。


 というか、ローズのやつ。貴族の娘が、平民の奴隷だなんて噂になったら困るだろうに。


 ………………困るよな? まさか、喜んで広めるつもりじゃないよな?

 ありそうな気がする。今のうちに釘を刺しておこう。


 と言うことで、俺はグレイブさんに報酬のお礼を言って、ローズを探すことにした。



 ローズローズ……っと、ゴシック調のドレスを着てるのなんてローズだけだから、目立つはずだけど……と、いた。冒険者の男達に囲まれているな。


 なんか話してるみたいだけど、一体なにを話してるんだ?


「ローズちゃん、凄く可愛い服を着てるけど、どこかのお嬢様なのか?」

「ふふっ、ご想像にお任せいたしますわ」


 ……おぉう。なんか凄くお嬢様オーラを放っている。俺に対して、お兄さんと慕ってくるときとはまた違ったイメージの可愛さがあるな。

 なんて眺めているうちに、ローズと男達との会話は進んでいく。


「それじゃ、ローズちゃんは彼氏とかいるのか?」

「彼氏は残念ながらいませんわ」


 ローズが答えた瞬間、男達から歓声が上がるが――


「ですが、ご主人様ならおりますわ」


 続けられた言葉に、男達は驚きの表情を浮かべた。


「……ご主人様って、ローズちゃんは奴隷なのか?」

「はい。奴隷も奴隷。ご主人様のエッチな要望にお応えする性奴隷――」

「ちょおおおおおおおおおおおおおっ!」


 俺はローズの背後から飛び掛かって羽交い締めに、その口を塞いだ。


「おーまーえーはーっ、一体なにを言ってるんだ!?」

 一時間くらい問い詰めたいけど、今はそれどころじゃない。


 ローズに言い寄っていた男達の前で、性奴隷だなんて告白されてしまった。嫉妬の炎で焼かれても仕方はないと、俺は恐る恐る男達を見る。

 だけど――


「おい、ユズキだぞ」

「ユズキだな」

「ユズキだ」


「「「と言うことは……ヤンデレか」」」


 彼らはローズを一瞥、そそくさと退散してしまった。


 助かった……と言って良いのだろうか? なんか、非常に釈然としない。ローズはヤンデレだけど、そこらのヤンデレと違って思いやりもあるし、可愛いんだぞ?

 ……って、なんでフォローしようと考えてるんだ、俺は。


 ま。まあいいや。


「ローズ、俺の奴隷を名乗るのは禁止だ」

「えぇ? でも、俺のモノになれって言ったよね?」

「言ったけど、外聞が悪いとローズだって困るだろ?」

「私は別に困らないよ?」

「そこは困ろうよ……」


 仮にも、この島を支配する伯爵家の長女だぞ。平民の性奴隷を名乗るとか、大問題だろ。

 ……いや、貴族の娘でなくても大問題な気がするけど。


「取りあえず、奴隷を名乗るのは禁止だ」

「むぅ……」

 口を尖らせて拗ねるローズは可愛いけど……


「なにがそんなに不満なんだ?」

「だって、言い寄られたりしたときに、相手がいるって言えないと不便なんだよ?」

「なるほど」


 ……いや、納得して良いのか? 言い寄られたときに困るというのは分かるけど、ご主人様に使える性奴隷だと名乗るのはどうなんだろうか……?

 いや、どうもなにも、どう考えても良くはない。


「分かったよ。さっきみたいに聞かれたら、俺と付き合ってるって言っても良い」

「……良いの?」


 ローズは意外そうに俺を見上げた。


「男よけに必要なときだけだからな? ホントに付き合うって意味じゃないぞ? それと、クラウディアにも同じことを言うからな?」

「うん、ありがとう。ユズキお兄さん!」


 なし崩しとはいえ、なんども身体を重ねてこの言い草は酷いと思うんだけど……ローズには喜ばれてしまった。それでいいのかと突っ込みたい。


 と言うか、なし崩しとはいえ身体を重ねたのはクラウディアも同じなんだよな。


 どちらか一人なら、俺も男らしく責任を取って……と言うところなんだけどな。この場合の男らしい行動って……どうするべきなんだろうなぁ。


 ……なんか、二人は俺を共有しようとしてるみたいだけどさ。二人纏めて責任とってと言うのが男らしいかというと……ちょっと疑問だ。


 いや、ここは異世界なんだし、別に男らしさにこだわる必要はないと思うけど。なんとなく、ここで流されたら、なし崩しの雪だるま式に増えていきそうで恐い。

 俺の望みはあくまで、可愛い女の子とスローライフを送ることなのだ。


「ところでユズキお兄さん、なんか私を探してるみたいだったけど?」

「ん? あぁ、そうだった。ラングを捕まえた報酬を受け取ったから、分けようと思って」

「なんだ、それなら必要ないよ」

「でも……」

「この島を騒がしている人さらい集団の退治は、ブラッド家が出した依頼。つまり、その報酬の大半は、ブラッド家が出したものなの。だから、私が受け取るわけにはいかない。クラウディアさんと分けると良いと思うよ?」

「……ローズ」


 クラウディアの実家は、ケイオス伯爵家の嫌がらせを受けて資金難に陥っている。報酬の分け前として、クラウディアを通して援助してやれと言うことだろう。


「そういうことなら、ありがたく受け取るよ」

 俺がお礼を言うと、ローズは嬉しそうに微笑んだ。


「それで、ユズキお兄さんはこれから、クラウディアさんの実家にいくの?」

「そのつもりだけど……ローズもついてくるだろ?」


 俺を追いかけて来たくらいだし、当然そのつもりだろうと思ったんだけど、ローズはうぅんと、可愛らしく首を横に振った。


「私も出来ればそうしたいんだけどね。ケイオス伯爵が介入しているのなら、慎重に対策を練らないといけないから。色々とお母さんに相談しようと思って」

「あぁ……そうだよな」


 フットワークやらなにやらが軽すぎて忘れそうになるけど、ローズは伯爵家のご令嬢。考えるまでもなく、ずっと旅をするなんて出来るはずがない。


「なら、俺が逃げないように契約しておくか?」

 ヤンデレは不安がらせるのが一番ヤバイと、シルフィーさんで学んだ俺はそんな風に提案する。だけど、ローズはふるふると首を横に振った。


「必要ないよ。それに、ユズキお兄さんがその気になったら、契約を解除できるじゃない」

「まぁ……そうだけどさ。俺が逃げるとか不安に思わないのか?」

「そんなの、思うわけないよ」

「……どうして?」

「それは、だって……」


 ローズは一度言葉を切ると、俺の耳元で唇を寄せた。


「……ユズキお兄さん、私とするの、好き……でしょ?」


 耳元で囁かれてゾクゾクする。

 でも、素直に認めるのはなんか負けた気がするんだよな。


「そうだなぁ……否定はしないけど、俺はクラウディアと一緒だって忘れてないか?」

「むぅ~。それは、私のこと、忘れちゃうってこと?」

「ああ。忘れる。あんまり長く戻ってこなかったらな」

「……え? それって……」

「俺が忘れる前に、戻ってこいってことだ」


 ローズは目を見開き――次の瞬間、幸せそうに表情をとろけさせた。


「うんっ。すぐにユズキお兄さんのところに戻ってくるね!」


 そんなこんなで、ケイオス伯爵のちょっかいに対抗するべく別行動。

 俺はクラウディアと一緒に、クラウディアの実家へ。ローズはブラッド家へ一時的に帰ることとなったのだけど――


「……そういや、お母さんと相談って、ローズのお父さんは? と言うか、ブラッド家の当主って、ローズのお父さん、なんだよな?」

「うぅん。ブラッド家の当主はお母さんだよ。お父さんは……その、部屋にずっといて、お母さんにお世話してもらってるから」

 ……あ、察し。

 

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