プロローグ
お待たせしました。
ヤンデレ女神の箱庭、第二章開幕です。
ヤンデレに死ぬほど愛される体質の俺はある日、ヤンデレの幼馴染みに刺し殺された――はずだったが、女神様の作ったゲームのような世界に転生することになった。
目指すは普通の女の子とのスローライフ!
そんな目標を掲げて頑張った結果――俺は船にある一室で両手両足を切り落とされ、ローズとクラウディアの抱き枕になっていた。
……どうしてこうなった。
二人とも美少女だし、自分ではなにもしなくても良い(出来ない)状況ではあるけど……これは違う。俺の望んでいたスローライフとは違う。
そう思わずにはいられない。
ただまぁ……どうしてこうなったって言ったけど、理由は分かっている。
女神メディアの祝福効果で精神が高揚した二人に襲われて、隙を見て逃げようとしたら捕まって、逃げた罰に手足を切り落とされたのだ。
いくら魔法で生やせるからって、おしおき感覚で手足を切り落とすのは止めて欲しい。
そして、達磨になって動けない俺を陵辱するのも止めて欲しい。こっちが思うように動けなくて、なんかこう……もどかしくなるから。
「ふみゅ……ユズキお兄さん、おはよぅ……ふわぁ~」
ゴシックドレスを身につけたまま寝ていたローズが伸びをする。
その姿は可愛い。可愛いんだけど……
「そろそろ、手足を生やしてくれないか?」
「そう言えば……そうだったね。リジェネーション」
ローズが呟くと、俺達が寝っ転がるベッドの上に魔法陣が広がって行く。そしてほどなく、比較的大きな魔法陣の展開が終了した。
「じゃあ、手足を再生するね~」
間延びした声を切っ掛けに、魔法陣が輝きを増し――俺の手足が徐々に生えていった。軽く熱を帯びる程度で痛みとかはないんだけど……なんだか不気味だ。
「これでよし……っと。どうかな? ちゃんと生えてる?」
「えっと……うん。大丈夫そうだ。ありがとう、ローズ」
手足が問題なく動くことを確認した俺は、いまだ眠っているクラウディアの腕から抜け出してベッドから起き上がった。そうしてベッドサイドに落ちていた服を着用していく。
「……しかし、クラウディアは起きないな?」
「それは、ね。朝方まであんなに頑張ってたら、当分は起きられないと思うよ?」
「あぁ……そういやそうだったな。まったく、初めてのくせに無理しすぎだ」
俺はシーツの赤いシミに視線を向けつつ苦笑いを浮かべた。だけどそんな俺に対し、ローズはなぜかジト目を向けてくる。
「私の記憶だと、頑張りすぎてろれつの回らなくなったクラウディアさんに、もう一回、もう一回って、なんども無理させてた気がするんだけど?」
「……そうだっけ?」
俺は明後日の方を向いた。
「そうだよ。と言うか、クラウディアさんが気絶した後は、私にご主人様命令だって言って、なんどもなんども……ユズキお兄さんって、すっごくエッチだよね?」
「まぁ……それは否定しない」
最近――と言うか、この世界に転生してから、なぜだか性欲が強くなっている。
あくまで予想だけど、各種称号の全能力に+補正や、なんらかのスキルによる補正が、そっち系統にも掛かっているのだと思う。
……もしくは、俺の身体を作り直したメディアねぇがなんらかの小細工をしたか。
理由はともかく、性欲が強くなっているのは事実。
だけど――
「俺の性欲が強いのは否定しないけど、二人にも原因があるんだぞ?」
「……どういうこと?」
「俺の手足をポンポン切り落とすからだよ。自分では一切動けなくて、一方的にされるのって物凄くもどかしくなるんだよ」
だから、焦らされる俺が求めてしまうのは仕方がないことなのである。
「ふぅん。ユズキお兄さんは、手足がある方が良いんだね」
「……普通、そうだと思うんだが」
どこの世界に、好き好んで両手両足を切り落とされてのプレイを好む男がいるというのか。
……いや、たまぁになら、ありだとは思うけどさ。
なんて心の中で浮かんだ感情を、かぶりを振って払う。そんな俺に対して、ローズはベッドの上で膝立ちになり「じゃぁ……いまは?」と微笑んだ。
「……いま?」
「今のユズキお兄さんは手足があるでしょ? だぁかぁらぁ、自由に動くことが出来るよ?」
スカートの裾をゆっくりをまくり上げる。
徐々にあらわになっていく太もも。スカートの上昇は途中で止まってしまったけど、その奥にはなにも履いてないことを、俺は知っている。
「ねぇ、ユズキお兄さん。お願いだから、どうしたいか教えて?」
「それは――」
魔眼の契約で嘘をつけない俺は、自分の本能を曝け出し――途中で目覚めたクラウディアが嫉妬して参戦する――までいった。
な~んか、最近流されてきてる気がするなぁ。
――その後。船室でまったりとした時間を過ごしていると、ローズの護衛であるリリアさんが話があると訪ねてきた。
「……それで、話というのはなにかしら?」
ベッドサイドに俺と並んで座るローズが尋ねる。
さっきまでは、俺に可愛く甘えていたのに、今は態度を一変。伯爵令嬢としてふさわしいたたずまいをしている。
なお、クラウディアはまたベッドで眠っている。
起こさないように部屋を変えることも考えたんだけど、起きたときに俺達がいない方が色々と問題になりそうな気がしたので、同じ部屋で話を聞くことにしたのだ。
……クラウディアはヤンデレじゃないのに、ローズよりやらかしそうな怖さがあるのはなんでなんだろうなぁ。
まぁそれはともかく――と、俺はローズとリリアさんの話に耳をかたむける。
「ラングを尋問した結果、様々なことが分かったのですが……その中に、お嬢様や、クラウディアさんに関係するお話がありましたので、先にご報告しておこうと思いまして」
「私や、クラウディアさんに関係のあるお話? 詳しく話なさい」
「実は……奴隷商のラングは、ケイオス伯爵と繋がっているようです。どうやらケイオス伯爵は、ブラッド伯爵家の弱体化を狙っているようですね」
「うちの弱体化? それは……グラン島の実権を握ろうということかしら? たしかにうちの領地は、他の伯爵家と比べて大きいけど……」
憶測を口にする。そんなローズに対して、リリアはそうではないようですと否定した。
「目的はどうやら……お嬢様のようです」
「……私? あぁ……もしかして」
「ええ。アレス様のわがままかと」
話がよく分からない。
込み入った話で、俺とは直接関係なさそうだという理由で黙って聞いていたんだけど……狙いがローズと聞いて、俺にも説明してくれないかと口を出した。
「あぁ、ごめんね、ユズキお兄さん。どこから説明したら良い?」
「えっと……それじゃ、ケイオス伯爵って言うのは?」
「ケイオス伯爵は、この船が向かってる先にある領地を収める貴族だね」
「ほむほむ」
「そのケイオス家の長男がアレスって言うんだけど……私の婚約者なんだよね」
「――えっ?」
俺は驚いて、まじまじとローズの顔を見る。そんな俺の視線を受けたローズは……クスクスと笑っていた。
「ごめん、嘘だよ。そういう話が合っただけで、ご破算になってるから」
どうやらからかわれたらしい。それを理解して、俺はホッとため息をつく。
「……趣味が悪いぞ?」
「えへへ、ごめんね。……心配してくれた?」
「……まあ、色々な意味で心配はしたな」
婚約者のいる貴族の娘を、何度も何度も召し上がったなんてことが発覚したら、相手の男に八つ裂きにされても文句は言えない。
……まあ、その場合は、ほとぼりが冷めてから生き返って逃げるけどな。
「でも、ご破算ってなにがあったんだ?」
「アレスが重度のヤンデレスキルを発症させたの」
「……ヤンデレスキルが発症したら、婚約がご破算になるのか?」
貴族の結婚と言えば、政略結婚が普通というイメージ。
だから、必要なのは互いの領地にとって利益があるかどうかで、互いの相性なんて考慮されないと思ったんだけど……実は政略結婚じゃなかったんだろうか?
なんて思ったんだけど、ローズがその疑問に答えてくれた。
「スキルは遺伝しやすいから、ヤンデレ同士の婚姻は避けるのが普通なんだよね」
「……遺伝するんだ?」
それはつまり、俺とローズのあいだに子供が生まれた場合、重度のヤンデレで、ヤンデレに死ぬほど愛される体質である可能性が高いと言うこと。
男の子でも女の子でも、波瀾万丈な人生になりそうな気がする。
「……あれ? でもさ。ローズがヤンデレスキルを発現させたのって、俺と出会ったときだって言ってたよな? 当時は、相手だけがヤンデレだったんじゃないのか?」
「そうなんだけど、私のお母さんがヤンデレなんだよね。で、私も発現はしてなかったけど、潜在的にヤンデレな可能性は高いって言われたたから」
「なるほど……」
と言うか、マジでヤンデレが社会問題になってるんだな。
色々と大変そうだ。
「まあ、良いや。ローズとそのアレスってやつが婚約する可能性があったって言うのは分かった。けど、ラングってローズを誘拐しようとしてたよな?」
俺がローズと出会う切っ掛けとなった襲撃。あれは、ケイオス伯爵の手下が、ローズを誘拐しようとしていたと言うことになる。
「どうやら、お嬢様を奴隷として、ケイオス伯爵に献上する予定だったそうです」
ローズの代わりにリリアさんが答える。
「んな、無茶な……」
貴族の娘を誘拐して、自分の奴隷にする。
そんな無謀なことが出来るはずないと思ったんだけど……リリアさん曰く、奴隷契約で素性を明かせないようにしてしまえば、なんとでもなるとのこと。
まあ……考えてみれば、写真とかがない世界だしな。社交界の場に出さずに、屋敷に閉じ込めておけば、誰に咎められることもない、か。
……俺も、うっかり監禁されないように気をつけよう。
「ところでリリア。私が狙われているというのは分かりましたけど、クラウディアさんに関係があるというのはどういうことかしら?」
「はい。そのことなんですが……」
リリアさんは、いまだベッドで眠っているクラウディアに視線を向けた。
「必要なら、後で私が伝えます。だから、まずは私に報告なさい」
「かしこまりました。これもラングを尋問して聞き出したことなのですが……」
リリアから聞かされたのは驚きの事実だった。
ケイオス伯爵は、ブラッド家を弱体化させる目的で、グラン島に活動拠点を置く商人達を取り込もうとしているそうだ。
そして、従わなかった者には嫌がらせをしたりして、潰そうとしている。
そんな対象の一つが、クラウディアの実家、ウェルズ洋服店。
ケイオス伯爵はクラウディアの父とクラウディア自身に衰弱の呪いをかけた。
そして更には、ケイオス領に展開しているレニス洋服店に過剰な支援をおこない、グラン島に展開させているそうだ。
つまり、クラウディアの実家が借金を負ったのは、ケイオス伯爵によって仕組まれたこと。
「クラウディアが奴隷に売られたのは、ケイオス伯爵のせい、なんだな?」
「告発できるような証拠はありませんが、間違いはありません。そして、そればかりではなく、クラウディアさんが火傷を負ったのも、どうやら関係しているようです」
「火傷? たしか、クラウディアを最初に買い取った奴隷の店が火事になったんだよな?」
俺の中で、もしかしてという仮説が浮かび上がる。そして、リリアから聞かされた話はおおむね俺の予想どおりだった。
レニス洋服店の企みは、ウェルズ洋服店に借金を負わせ、その肩代わりの条件として、自分の息子とクラウディアを結婚させて、ウェルズ洋服店を乗っ取るつもりだったらしい。
だけど、クラウディアは器量よしで、まれに見るヤンデレ化耐性の持ち主。奴隷商に身請けしたことで予定が狂った。
しかも、クラウディアが売られる予定だったのは、最高級の娼館。将来的に、クラウディアがお金持ちの愛人となって、家を支援するなんて展開までありえる。
その可能性を潰すために、クラウディアをその奴隷商から奪おうとした過程で、クラウディアが火傷を負ってしまったらしい。
そこまで話を聞き終え、俺は拳をぎゅっと握りしめた。
「なあ、ローズはそのケイオス家に対抗するつもりなんだよな?」
「それはもちろん。ブラッド家の領地で好き放題された借りは返すよ」
「なら、俺にも手伝わせてくれ」
クラウディアに降りかかった不幸全部が、ケイオス伯爵が発端。それを知って、黙っているなんて出来ない。
だって俺は、クラウディアのご主人様、だからな。
第二章は、2~3日に一話くらいのペースを予定しています。





