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エピソード 4ー3 自業自得の四面楚歌

 大陸へと向かう船の中にローズが乗船していた時点で、俺の命運は決まった。このまま、ブラッド家のお屋敷にお持ち帰りされるのだろう。


 ……いや、諦めずに逃げてみるか?


 クローズドサークルである船の上。目的地に到着するまでに捕まったら人生即終了のオワタ式鬼ごっこ。どう考えてもクリアできる難易度じゃないけど。


 まあ……ここで諦めても、結果は同じだ。どうせなら、あがけるだけあがいてみよう――と言うことで、俺はローズをまっすぐに見つめる。


「ローズ」

「うん? 急に真剣な表情をして、どうかしたの?」

「ステータスウィンドウを見せてくれ」

「……え? ステータスウィンドウ? それくらい別にかまわないけど……」


 前にも似たようなことがあったからだろう。ローズは特に警戒もせず、俺にも見えるようにステータスウィンドウを開いてくれた。


 俺は素早く、ローズとステータスウィンドウのあいだに身体を割り込ませ、そのウィンドウをツツツと撫でた。

 瞬間、ローズが「ひゃうんっ!?」と身体を跳ねさせる。


「ユ、ユズキお兄さん、い今、私になにをしたの!?」

「別に、なにもしてないぞ?」

「嘘っ、だって、なんか、身体の中がゾクゾクって……」


 その言葉がだんだん小さくなっていく。実際、俺はローズに背を向けているので、ローズの身体にイタズラするなんて不可能だからな。


 ……まあ、ステータスウィンドウを弄ぶことは可能なんだけどな。ローズはまだそのことを知らないから今のうち。


 ってな訳で、俺は再びステータスウィンドウに触れる。

 今度はローズを驚かさないようにふっくりと触れ……そして、徐々にステータスウィンドウ全体を撫で回すように手を動かす。


「ひぅ……ぁん。うく……っ。……はぁっ」


 ローズが背後で甘い声を漏らす。

 だから、俺は片手でステータスウィンドウを撫でつつ、何食わぬ顔で振り返った。


「……ローズ、なんだか顔が赤いけど……どうかしたのか?」

「ふぇっ!? そ、それは――ぁん、な、なんでも、んくっ、ない、よっ?」


 今のローズは、心の中をいじり回されるような感覚に襲われている。


 でも、俺にステータスウィンドウを操作されているのが原因だと知らないローズは、そんな状態にあることを、俺に知られるのが恥ずかしいと思っているのだろう

 甘い吐息を隠そうと唇を噛み、身体を時折ピクンと震わせている。


「ひゃ――んくっ、どう、して……はぁっ。こんな、こんなのっ。まるで、ユズキお兄さんに撫で回されてるみたいな……ひゃんっ」


 ……鋭いな。

 まあ、そうかもとは思っても、確信に至ほどの余裕はないだろう。と言うか、そんな余裕は与えないと、俺は後ろ手でウィンドウを弄る速さを上げていく。


「ひゃ――っ。ふぅ、ふぅ。と、とにかく、ユズキお兄さんは、もう。にげ、逃げられないから、ね……っ?」

「……ふむ。ローズは、いかないのか?」

「ふぇっ!? い、いいいくって、な、なんのこと!?」

「いや、船で島の外には行かないのかなって」

「あ、あぁ。船ね。私は伯爵令嬢だかっ、ら、そう簡単に、いったりは、はぁ。しない、よ」


 かなり追い詰められているのだろう。ローズは膝を震わせ、しきりにフトモモを擦りあわせている。もう、今にも膝から崩れ落ちてしまいそうだ。


「ふむふむ。簡単にはいかないのか。でも、俺がいこうって言ったら、いったりする?」

「それは、ユズキお兄さんのお誘いなら……ぁん、――って、っやっぱり、お兄さんがなにかしてるよね!? もしかして、そのステータスウィンドウが――」


 よくこの状況で、ウィンドウだと気付く余裕があったなと感心する。


 でもって、それに気付いたローズがウィンドウを閉じようとするけど……遅い。俺は、今までにないほど、一気にウィンドウをスクロールさせた。


「な、なにっ、ひゃう、そ、それ、ダ、ダメ。こんな、お外、なのに――っ。んんんっ!」


 ローズがくぐもった悲鳴を上げ――へなへなと崩れ落ちた。恐らくは腰が抜けてしまったのだろう。それを横目に、俺は無言でクラウディアの手を取った。


「……え?」


 戸惑うクラウディアが口を開きかけるが、俺はそれより遮り、手を引いて走り出した。


「ちょ、ちょっと、ご主人様! ローズ様をあのまま置いていくんですか? いくらなんでも酷すぎですよ!?」

「自覚はあるが、他に方法はない!」


 走りながら振り返れば、へたり込んだローズのもとに赤毛の女性剣士――たしかリリアとか言った女性が駆け寄っている。


 なので、ローズは大丈夫。大丈夫じゃないのは俺達の方――と言うことで、徐々に速度を上げて、船内へと逃げ込んだ。


「どこか隠れる場所を探すぞ!」


 廊下を進み、曲がり角へ。そこには下へ降りる階段と、客室が並ぶ廊下があった。


 まずは……船室に。いや、一般客が立ち入れる部屋じゃ、しらみつぶしにされて終わる。


 だとすれば、逃げ込むのは……貨物室か? もしくはラングさんを見つけ出して、事情を話して匿ってもらうか。

 なんて考えていると、角の向こう、入り口の方から、扉がバーンと開く音が響いてきた。


「もうっ、ユズキお兄さんのばかばかっ! すっごく恥ずかしかったんだからね!?」


 なんか廊下の向こうからローズのぷんすかと怒った声が響く。怒り方が可愛いけど、捕まったらバッドエンド確定なので、俺は逃げることだけを考える。


 少し考えた俺は、持っていたタオルを客室が並ぶ廊下の奥へと投げ捨て、クラウディアと一緒に階段の踊り場へと身を隠した。


 これで、俺が客室のどこかに隠れたとローズが誤解して、どこかの部屋に入った隙に、俺達はこっそり階段を上がって、甲板へと逃げもどる作戦である。

 息を潜めていると、コツコツとローズの足音が少しずつ近づいてくる。


「あれ、このタオルは……すんすん、ユズキお兄さんのタオルだね」


 なんで匂いで分かるんですかね!?


 いや、落ち着け。ローズが俺のタオルと気付かずに、階段の方へ来る可能性もあったんだ。タオルが俺のだと気付いてくれたら、間違いなく客室に行ってくれるだろう。


「……ん~でも、ユズキお兄さんの新鮮な匂いは、階段の方から匂ってくるね。と言うことは、ユズキお兄さんは階段の方――いたっ!」


 びくりと、俺は思わず身を震わせた。階段の上から、ローズが顔を覗かせてきたからだ。


「なんで分かるんだよ!」

「ふふっ、自分の匂いが染みこんだタオルで、匂いの痕跡を誤魔化そうとしたみたいだけど無駄だよ。私にはお兄さんの匂いの鮮度だって嗅ぎ分けられるんだからね?」

「そんな斜め上のフェイントは考えてねぇよ!」


 単純に、廊下の奥へ行く途中で落としたと思わせたかっただけである。と言うか、匂いの鮮度ってなんだよ。時間が経ったら発酵したりするのか? なんか嫌だなっ。


 いやそれはともかく――と、俺は階段を降り、廊下の奥へと身を隠す。そんな俺達の背後から「リリア達は入り口を封鎖。外に逃がさないようにしなさい!」とローズの声。


 あぁぁ……ただでさえ狭いクローズド・サークルが更に狭くなった。

 更に――


「ふふっ、今度はこっちからお兄さんの匂いがするよ?」

「だーかーらー、なんで俺の匂いが分かるんだよ!?」


 闇雲に走って逃げても、こっちの体力が先に尽きる。そう思った俺は、なんとか隙を作れないかと、足を止めてローズに話しかけたのだけど……


「なんで……って、私がユズキお兄さんの匂いを忘れると思うの? あんなにベッドで一緒に汗を掻いた仲なのに?」

「――ぶっ」


 思わず吹いた。そしてそれと同時――


「ご主人様、今のって……どういう意味、ですか?」


 直ぐ隣から冷たい声が響き、言いようのないプレッシャーが飛んでくる。俺は思わず沈黙。だらだらと冷や汗を流した。

 だけど、俺が無言を貫いていると、クラウディアはローズへと視線を向けてしまう。


「ローズ様、さっきのはどういう意味なんですか?」

「あら、貴方にも想像がついているでしょう? 私とユズキお兄さんは、何度も何度も、愛を確かめ合った仲なのよ?」

「……そうなんですか、ご主人様?」


 うぐぐ。クラウディアのジト目が凄く痛い。

 いつの間にか、ローズだけじゃなくて、クラウディアまで敵に回ってるような状況に。


 大丈夫だよな? クラウディアはヤンデレ化したりしないよな? いきなり、ご主人様の浮気者――ぐさっ! とか、ないよな?


「……ご主人様?」

「いや、その、えっと……ご、誤解だ。たしかに、いたしたのは事実だけど」

「……事実、なんですね?」

「いい、いやその、一回だけだぞ!?」

「……一回したのは、事実なんですよね?」

「ちちちっ違うんだって! 言っただろ、部屋に監禁されてたって! しかも、俺は手足をもがれて動けなくて、一方的に陵辱されたんだって!」


 だから、俺は悪くない。一方的な被害者なんです! と、クラウディアに慈悲を請う。


「――でも、ユズキお兄さん。自分が動けないから、私にもっと動いて欲しいって、何度も何度も、私に求めてくれたよね?」


 絶妙なタイミングで。今まで黙っていたローズが艶っぽい表情で言い放った。


 あの日のことを思い出しているのだろう。ちょっと口が半開きにして、開いた手のひらを頬に押し当て、ちょっと歪んだ微笑みを浮かべる。

 ヤンデレを極めた女の子の笑顔である。


 そして――


「へぇ……そぅなんです、かぁ~」


 俺の隣には、表面上は笑顔の、だけどどう見ても怒り狂っている女の子。


 ……これは、ヤバイ。本気でヤバイ。完全に、言い訳のしようもなくヤバイ。と言うか事実なので、言い訳のしようがない。


「いや、その、な? 俺の話を聞いてくれないか?」

「大丈夫ですよ、あたしはご主人様のこと、理解してますから」

「ほ、本当か?」

「ええ。動けない状態で、女の子に一方的に陵辱されるのが好きなんですよね?」

「違うからな!?」

「隠さなくても大丈夫ですよ。あたしが、その願いを叶えてあげます」

「だから違うって! ……って、叶える?」

「ただ、あたしには手足を落とす技術がないので……自分で落として頂けますか? そうしたら、達磨になったご主人様のこと、たくさん。たぁくさん、可愛がって、あげます、よ?」

「いや、だから……その……ええっと、えっと……」

 ――俺は逃げ出した。

 

 

 ユズキの株がストップ安の予感。

 いやでも、ユズキが頑張ったらから、えっちぃろーずが……いえ、なんでもないです。

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