エピソード 3ー5 タイムリミット
モノクロになった世界。
俺は俯瞰で自分の遺体を見つめつつ、茫然自失となっていた。あれほど死ぬ訳にはいかないと理解していたはずなのに、自分が死んでしまったからだ。
残りSPは……と祈るような気持ちでステータスウィンドウを開く。けど、そこに表示されているのは1,033と言う無慈悲な数字。
俺は目の前が真っ暗になるような錯覚を抱いた。
……いや、分かっている。少し前に確認したときに1,023だったのだから、ガルムを一体倒して、+10SP。なにもおかしいところはない。
むしろ、死亡によるペナルティー、デスペナが存在しなかっただけでもマシな方だ。
でも1,033SPでは、リザレクションの習得まで、967SP足りない。
そして、現在の時刻は深夜2:16。クラウディアの死後、24時間以内なら復活が出来ると聞いて、時間を確認したときは20:06だった。
つまり、クラウディアが死んだのは20時くらいで、残りの猶予は17時間と44分ほど。
前回不老不死のスキルで復活したのは、クラウディアを連れて逃げていた最中。
つまり――とステータスウィンドウの端っこを見ると、デフォルメぇが『復活可能まで残り17:34』と表示されたパネルを持っていた。
クラウディアのタイムリミットより復活が早いのは確実。だけど、その猶予は恐らく10分くらいだろう。その10分前後で1,033SPを稼ぐ。どうやっても不可能だ。
いや、目の前にボスと取り巻きがいる。こいつらを倒したとしたら……ダメだな。今までの増加量から考えて、良くて400くらい。仮に二倍入ったとしても、2,000SPには届かない。
それ以前、五体満足だからって、ボスを撃破できるかどうか分からない。
どう考えても、クラウディアの復活は絶望的で……結果的に言えば、残り時間なにも出来ずに絶望しろという、グレイの思惑どおりだ。
――ふざけるな! そんな風に諦めるなんて絶対に嫌だ!
なにか、なにか他の手段はないかと、俺はステータスウィンドウを操り、様々なスキルの詳細を確認していく。
最初に目を付けたのはアイテムボックスだ。
物語に出てくるアイテムボックスの定番に、中に入っているものは、時間が経過しないという能力があるからだ。
この世界のアイテムボックスにも、もしかしたらと詳細を開くと――あった。けど、Sランクで時間の流れが半分。SSSでようやく時間の流れが停止するようだ。
基本値が200SPなので、Sに上げるだけで必要SPは10,000を超える。これが習得出来るくらいのSPがあるなら、素直にリザレクションを習得する。
他になにか使えるスキルは――と、俺は必死に色々なスキルを確認していく。
これは……ダメ。こっちはSPが足りない。
ない、ない、ない。なにも方法がない。このままじゃクラウディアを救えない!
………………ダメ、なのか? 俺はクラウディアを救えないのか? ……畜生。せっかく、せっかく希望を見つけたと思ったのに。最後まで、ヤンデレに邪魔をされて終わるのか……
なにか、なにか他に可能性は……と、視線を巡らせた俺はデフォルメぇを見つける。
そうだ。メディアねぇ。この世界を創造した女神様。俺にステータスを弄る能力を与え、SPもプレゼンとしてくれた。そのメディアねぇが手を貸してくれれば!
――メディアねぇ、どうせ見てるんだろ?
頼む、クラウディアを救うのに手を貸してくれ!
願いを込めて心の中で叫ぶ。
するとメディアねぇが手に持っているパネルをクルリとひっくり返した。
わたくしは、頑張るユズキくんを見るのが大好きです。
だから、自力で頑張ってください。
――いや、自分ではどうにもならないから助けを求めてるんだってば!
心の中で叫ぶけれど、デフォルメぇは答えない。
……メディアねぇのケチ。もうメディアねぇって呼ばないからな。
――お姉ちゃんにそんなこと……女神メディアに見初められたの称号を没収しますよ?
あああぁぁぁ、ごめんなさい!
嘘です、メディアねぇ様、それだけは許してください!
ステータスウィンドウを弄る能力を失ったら全て終わると、俺は必死に謝罪する。
そして……ふと気がついた。
本当にクラウディアを救う手段がないのなら、ステータスウィンドウ操作できなくされたって関係ない。いまこの瞬間に、そんな脅しをすると言うことは……
――クラウディアを救う方法がある?
……そう、かもしれない。
それに、頑張る俺を見るのが好きだと言った、メディアねぇの言葉も気に掛かる。
ローズに慰められたときと同じだ。
俺は、もうクラウディアを救えないのだと絶望していた。そんな俺を見て楽しむとすれば、それは絶望する俺を見るのが好きってことになるはずだ。
なのに、メディアねぇは、頑張る俺が好きだと言った。それはつまり、俺がここからどうにかして、クラウディアを救うのを期待していると言うこと。
だとすれば、やっぱり方法はスキル関連のはず。
そう考えて、必死にステータスやヘルプを片っ端から調べた俺は……バッドステータス:フェミニストのランクを上げられることに気がついた。
フェミニストの基準値が-200なので、SからSSに上げれば4,000SP手に入る。つまり、フェミニストのランクを上げれば、リザレクションを習得してもお釣りが来ると言うこと。
だけど……と、俺はフェミニストの詳細をもう一度表示する。
【フェミニスト】基準値-200SP
このバッドステータスを持つ者は、親しい女性に対して危害を及ぼしにくくなる。
Eで知り合いにまで範囲が拡大。Aで全ての女性が対象。Sで絶対に危害を加えられない。SSSで危害を及ぼそうという考えすらなくなる。
このスキルをSからSSへ上げることは、一見なんの問題もないように思える。
……だけど、SSの次はSSS。女性に危害を及ぼす考えすらなくなる。それはつまり、全てのヤンデレに対して言いなりになるも同然だ。
しかも、俺には不老不死があるから、未来永劫にその状態が続くと言うこと。
スキルがSPによってのみ上昇するのならなんの問題もないけど……この世界の法則はそうじゃない。SPによる上昇が例外であり、スキルは自然に上昇するのが普通。
つまり、フェミニストをSSにしたら、いつなんどき自然にSSSになって、俺が俺でなくなるか分からないと言うこと。
もちろん、それはSのままでも同じだけど……SからSSへと一度猶予があるのと、ある日突然SSSになるのではだいぶ違う。
だからフェミニストをSからSSに上げるのは、自分の命を賭けるよりも危険な行為。
危険な行為なんだけど……と、俺は苦笑いを浮かべた。自分の命よりも大切なモノと引き換えにしても、クラウディアを救いたいと思ってしまったからだ。
……まあ、そう思ってしまったからには仕方がない。
他に方法があればそっちを選びたいところだけど……と、バッドステータスを確認するけど、他に習得出来るバッドステータスがない。
クラウディアが持っていた押しに弱いと言ったバッドステータスすらなかった。
先天性スキルと同じで、最初しか習得出来ないのか、なにか条件があるのか、はたまたメディアねぇのイジワルなのか。
イジワルではありません。わたくしは基本、見ているだけですから。
……らしい。
なんにしても、イジワルじゃないのなら、条件があるのか、最初しか無理なのか、どのみち他に方法はなさそうだ。と言うことで、俺はフェミニストをランクアップした。
……これで、4,000SPゲット。合計は5,033SPとなった。
まずはリザレクションをゲットするんだけど……と詳細を確認。
【リザレクション】2,000SP
24時間以内に死んだ人間を復活させる。
詠唱時間は2分で、クールタイムは24時間。ランクが上がるごとに詠唱時間が短縮。また、E、S、SSSでクールタイムが4時間減少。
Aランクでは、使用回数が2回に増加。個別にクールタイムが発生する。
……ふむふむ。取りあえずFあれば問題ないな。なんて、もし問題があったとしても、Eを取るSPはないんだけど。
ともあれ、リザレクション:Fをゲット。これで残り3,033SPだ。
これで、不老不死のクールタイムを消化したら復活して、クラウディアを生き返らせることが出来る……と言いたいところなんだけど――と、俺は周囲に目を向ける。
この状態では音が聞こえないようで凄く静かだけど……食い荒らされた俺の遺体と、俺を食い殺したボスガルムと、ガルム四体が残っている。
……グレイの遺体が見当たらないけど、どさくさで逃げたんだろうか?
分からないけど……グレイはもういないと考えても、ボスとガルム四体が残っている。
俺が復活してから、クラウディアが復活できる限界までおよそ10分前後で、詠唱時間は2分。つまり、8分でボス達を倒すなり、ここから離脱するなりしなくちゃいけない。
いや、残された時間はおよそ8分。確実な時間は分かっていないから、最悪を考えたら5分くらいしか余裕がない可能性もある。
逃げるにしても、倒すにしても、どちらにしても大きな危険が伴う。
迷うけど……復活が可能になるまでまだまだ時間がある。そのあいだにボスが消えるなんてこともあるかもしれないし、誰かが来て倒してくれるかもしれない。
スキルでも確認しながら、もう少し様子を見ることにしよう。
――と言うことで、15時間以上が経過。不老不死のクールタイムが終わるまでは、残り1時間を切った……が、ボスと取り巻きは健在だ。
考えてみたら、このダンジョンは一度行った階層にはワープできる仕様だからな。新たに五層のボスを倒そうと言う連中が現れない限りは誰も通らない。
よほど運が良くなければ、誰も通りかかったりはしないだろう。
この様子だと、倒さないと無理かなぁ……
逃げて追いかけてこなければそれが一番だけど、追いかけられて他のガルムまで巻き込んだら詰みかねないし……取りあえずは倒す方向で。
どうしても無理なら、一か八かで逃げよう。
そうなると、今のままじゃ倒すのは厳しい。今後なにがあるか分からないから、SPは温存しておきたかったんだけど、そんなことは言ってられない。
3,033SPを全部使ってでも、戦闘力を強化するべきだろう。
どれを習得するかは、待ってるあいだに考えたので――と、俺はさくさく習得する。
という訳で、習得後のステータスはこんな感じだ。
【名前】:水瀬 柚希 【総合評価】:109,400
【通常スキル】
筋力:D / 耐久力:C / 敏捷度:E / 器用度:D
魔力:F / 精神力:AAA / 幸運:A
【耐性スキル】
斬撃耐性:D / 睡眠耐性:C / 毒耐性:D
呪い耐性:F / 恐怖耐性:A / 混乱耐性:E / 快楽耐性:E
【戦闘スキル】
New長剣:E(0SP) / New近接戦闘マスタリー:E(900SP)
【魔法スキル】
ファイア・ボルト:F
ヒーリング:F>E(200SP) / キュア・ポイズン:F / キュア・ディズィーズ:F
Newリザレクション:F(2,000SP) / Newサンダーバースト:E(900SP)
New攻撃魔法マスタリー:E(900SP)
【技能スキル】
裁縫:E / 型紙:F / デザイン:E / 紡織:F / 木工:F
【先天性スキル】
武術の才能 / 攻撃魔法の才能 / 回復魔法の才能 / 補助魔法の才能
服飾の才能 / 騎乗の才能 / 交渉の才能 / 生産の才能 / 演技の才能
【特殊スキル】
鑑定:F / アイテムボックス:F / 気配察知:F / 無詠唱:F
【レアスキル】
不老不死:F
ヤンデレに死ぬほど愛される:SSS
New女神メディアの祝福:F(300SP)
【バッドステータス】
フェミニスト:SS
【称号】
女神メディアに見初められた
女神メディアの寵愛を受けた
異世界からの旅人
ヤンデレに死ぬほど愛された
【SP】残り138SP
新たに習得したのはリザレクション:Fに、サンダーバースト:E、攻撃魔法マスタリー:E、近接戦闘マスタリー:E、女神メディアの祝福:F。
それに、ヒーリングをFからEに上げた。
ちなみに長剣のスキルはSPで上げた訳じゃなくて、いつの間にか習得していた。この層に来るまで、ずっと長剣で戦っていたのが理由だと思う。
まずは取り巻きを倒すための範囲魔法。炎系、氷系、雷系と色々あったんだけど、俺はサンダーバーストという雷系の範囲魔法を選択した。
威力が若干低い代わりに詠唱時間が短くて、自分を中心に発動。敵対関係にある対象だけが範囲に含まれる仕様で、乱戦で使いやすそうだったからだ。
ちなみにランクをEまで上げたのは、動きながらでも魔法陣の構築が可能になり、範囲が倍の4メートルまで広がるからだ。
後は、攻撃力を上げるマスタリー系のスキルを習得。更にはヒーリングをFからEに上げて、動きながらでも使用できるようにした。
どうやら魔法全般は、Eランクになると、動きながらでも魔法陣構築が出来るようになるのがデフォルトみたいだ。
でもって最後は――女神メディアの祝福。
持続時間は30分で、クールタイムは3時間だが、アクティブにしているあいだは、使用者が仲間だと思っている者と自身の精神が高揚。
さらに使用者の能力全てに30%のプラス補正と言うぶっ壊れ性能である。
習得SPが300と以上に低かったので、迷わず飛びついた。
……いや、嘘だ。
じつはというと、習得はかなりためらった。スキル説明に『メディアお姉ちゃんのオススメのスキル。超お得ですわよ!』とか書かれていたからだ。
なんと言うか……壮絶に、罠っぽい。
だけどまあ、発動が30分とは言え、上昇値が非常に高い。どう考えても有効なスキルなので、習得しないという選択はなかったのだけど。
ともあれ、スキルも習得して準備は万端。俺は手順を再確認しつつ、不老不死のクールタイムが終わるまでの残り時間を過ごした。
そして――19:50。
不老不死のクールタイムが終了。俺は即座に不老不死による復活を選択。虚空より舞い降りたメディアねぇに、すぐに復活させてくれと叫ぶ。
「ええ、もちろんですわ。……頑張ってくださいね、柚希くん」
メディアねぇが呪文を詠唱。
淡い光と共に俺の肉体が修復され――俺の意識はその肉体へと引き寄せられた。
そして――現在は19:51。
クラウディアの復活限界まで残り9分前後。リザレクションの魔法陣展開に2分かかることを考えれば、7分ほどしか残っていない。
つまりは、そのわずかな時間で、ボスガルムと取り巻きのガルム四体を撃破する必要がある。――と言うことで、復活した俺は跳ね起き、女神メディアの祝福をアクティブに。
続けてサンダーバーストの魔法陣展開を開始する。
その直後、ボスガルム達が俺に気付き、即座に襲いかかってきた。
――だけど、ここまではシミュレート済みだ。
斜め後ろに飛んで、ボスガルム達の攻撃圏内から離脱。そのまま大きく飛び下がり、俺が死亡前に取り落とした長剣を即座に拾い上げた。
これで体感5秒ほど。サンダーバーストの魔法陣の展開に必要な半分の時間を消化したことになるのだけど……魔法陣の展開は半分に届いていない。
もしかして、魔法から意識を逸らすと展開速度が落ちるのか? ヘルプには、それらしいことは書いてなかったけど――っ。
俺に考える暇を与えず、ガルムが飛び掛かってくる。俺はとっさに回避して、反撃を加えようと剣を振り上げるが、それは別のガルムによって阻まれた。
――あぁ、もうっ!
展開速度が遅れている原因は分からないけど、展開がキャンセルされたり、止まったりする訳じゃない。まずはサンダーバーストを完成させて、取り巻きを始末するべきだ。
そんな考えに至った俺は反撃を諦め、完全に逃げに徹する。
二十秒か、三十秒か。結局、本来の二、三倍の構築時間を使って魔法陣が完成。俺はボスと取り巻きが、纏めて接近するタイミングに合わせ――
「――打ち抜けっ!」
サンダーバーストを発動。自分を中心に、放電現象が巻き起こる。それらは迫り来るボスガルムとガルム四体に突き刺さり――ガルム四体が倒れ伏した。
まさかの一撃。スキル詳細に載っていた威力が、ファイア・ボルト同じだったので、一撃は難しいと思ってたんだけど、嬉しい誤算だ。
攻撃魔法マスタリーと、女神メディアの祝福によるブーストのおかげだろう。
それはともかく――と、俺はボスガルムに目を向ける。さすがに五層のボスだけあって、まだまだ平気そうだ。
もっとダメージを蓄積しないと倒せそうにない。
時間は――と視界の片隅に表示される時計を見れば、表示は19:51のまま。まだ1分経っていない。これなら、いける!
俺はたたみかけるように、ファイア・ボルトの魔法陣展開を開始。展開が終わるなり即座に放って、襲いかかってくるボスガルムの鼻っ面に直撃させた。
ボスガルムが痛みからか咆哮を上げる。
俺はその隙を逃さず距離を詰め、柔らかそうな喉元めがけて、長剣を突き出す――寸前、何者かに吹き飛ばされた。
「~~~っ。一体、なにが――っ!」
痛みに耐えながら顔を上げた俺は、飛び掛かってくる巨体が目前に迫っているのを見て、とっさに身体を投げ出して回避。
だけど、起き上がったところに、別のガルムが襲いかかってきた。
「――まさかっ、また取り巻きを呼んだのか!?」
早すぎると愚痴る暇もなく、俺は膝立ちの状態で剣を振るう。二番目に飛び掛かってきたガルムを両断――だが、続けて襲ってきたガルムの攻撃には対応できない。
回避を諦めた俺は、とっさに左腕でその噛みつきを受け止める。左腕に激痛が走るが――俺は気合いで耐えて、右腕に持つ剣でそのガルムの首をはねた。
残りの二体とボスは――と、視線を向けるが、ボスはまだ怯んだ状態で、残りの取り巻きは、そのボスを守るように立っている。
ひとまず追撃は免れた。それを確認した俺は、腕に噛みついていたまま事切れているガルムの首を引き離して立ち上がった。
ただ、思ったよりもガルムの牙は鋭かったようで、左腕の感覚が麻痺している。
奇しくも、俺が殺されたときと似たような状況。あのときよりは取り巻きが二体少ないけど、右腕一本で剣を振るうのが厳しいのは実証済み。
俺は迷わず、ヒーリングの魔法陣を展開した。
だけど、ボスガルムはサンダーバーストで取り巻きを一掃された印象が残っているのだろう。魔法陣を見た瞬間に雄叫びを上げ――ガルム二体が襲いかかってくる。
俺は無理せず後退して、敵の攻撃をしのぐ。一度避けきれない攻撃があったが、それは右手一本で持つ剣で防いだ。
正直、片腕では無理だと思ってたんだけど……女神メディアの祝福のおかげだろう。思ったよりも敵の攻撃が軽く感じられる。
という訳で、敵の攻撃をあしらって完成させたヒーリングで傷を処置。
一度では完治しなかったけど、剣を振るえないほどじゃない。俺は、ボスガルムとガルム二体との戦闘を再開した。
――一体目の攻撃を避け、二体目のガルムを剣で牽制。身をひねって、ボスガルムの攻撃をかわす。そうして、確実にボスガルムやその取り巻きにダメージを蓄積していく。
落ち着いて対処すれば勝てると、俺は勝利を確信した。だけど――気がつけば、時間は19:54と表示されている。
つまり、後4分弱――いや、それはあくまで推定時刻。最悪は、既にクラウディアの復活限界を迎えている可能性もある。
このままじっくり倒すというわけにはいかない。
俺は再び展開していたサンダーバーストを発動。取り巻き二体を一掃。
「がああああああああああああっ!」
再びボスガルムは雄叫びを上げるが――
「させるかあああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!」
俺は既に突撃をかけている。雄叫びを上げて無防備に晒されたボスガルムの首めがけて長剣を突き出し――その喉を刺し貫いた。
即座に剣を抜き、返す刀で血をまき散らすボスガルムの首をはねる。
視界の隅に映るログにいくつかのメッセージが流れるが、それらは全て無視。俺はアイテムボックスを開いて、クラウディアの遺体を取り出した。
24時間を過ぎると、遺体が消滅してタグだけが残されるという話なので、少なくともまだ24時間は経っていない。
俺は即座にリザレクションを使用、魔法陣の展開を開始した。
だけど――遅い。ひたすら遅い。
巨大な光の魔法陣の展開速度が遅すぎて気が狂いそうだ。
焦れながら今の時間を確認すれば、19:57と表示されている。
予測時間まで、魔法陣展開速度を抜いても1分ほど余裕がある。これなら間に合う――と、そう思ったそのとき、俺は視界の隅にそれを見てしまった。
先ほど始末したボスガルムは、光の粒子となって消滅。その痕跡として魔石だけが落ちている。にもかかわらず、視界の隅に、ガルムの遺体が一つだけ残っているのだ。
――否、遺体であれば、ボスガルムより先に消滅してなきゃおかしい。つまり、あのガルムはまだ生きている。
それを理解するより早く、ガルムが起き上がった。そして、こちらに敵意を向けてくる。どうやら、ボスを倒せば取り巻きは消えるなんて親切設計ではないらしい。
「――ちくしょうっ!」
俺は剣を拾い上げて、飛び掛かってくるガルムを串刺しにした。だけど、その行動によって、半分ほど展開されていたリザレクションの魔法陣が霧散してしまう。
「他に敵はいないな!? ――リザレクション!」
再び魔法陣の展開を開始。だけど当然ながら、魔法陣の展開は最初から。祈るような気持ちで時間を確認すると19:58と表示されていた。
リザレクションの魔法陣展開に2分で、残り時間も約2分。
――だけど、クラウディアの推定時刻はおよそ20時。時計を確認したのはクラウディアがなくなったショックで放心した後だ。
数分の余裕がある可能性もあれば、もう既に間に合わない可能性もある。頼むから間に合ってくれと、俺は祈るような気持ちで魔法陣の展開を続ける。
だけど、俺の祈りに反して、クラウディアの身体が淡い光となっていく。それは緩やかだが、倒した魔物が光の粒子となって消えるときとそっくりな現象。
このままじゃ、クラウディアが消滅してしまう。
そんなのは嫌だ。出会ってたったの一日だけど、クラウディアは俺にとって掛け替えのない存在になっていた。そんなクラウディアを失うなんて、絶対に耐えられない。
だから――間に合ってくれと必死に魔法陣の展開を続ける。
円の中心に六芒星。続けて複数の円が描かれ、そのあいだに文字が浮かび上がっていく。そして最後の文字が浮かび上がり――
「戻ってこいっ、クラウディア!」
俺は願いを込めてリザレクションを発動した。





