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エピソード 3ー4 ダンジョン攻略

 クラウディアを生き返らせるためには、クラウディアの死亡時刻から24時間以内にSPを2,000稼ぐ必要がある。という訳で、急いでバンドールのダンジョンにやって来た。


「そう言えば、自己紹介がまだだったな。俺はグレイだ」

 俺の案内役を買ってくれた、元冒険者にして、ダンジョンの入り口の見張りをしていたおじさんが名乗りを上げた。


「グレイさんですね。俺はユズキです。案内役を引き受けてくれてありがとうございます」

「さっきも言ったが気にするな。さっそくだが一階層のボスを目指そう」

「ボス、ですか?」

「階層を降りるには、ボスを倒す必要があるからな」

「俺は倒してないですが、誰か一人が倒したことがあるだけじゃダメなんですか?」


 もしそれが可能なら、一気に下の階層まで飛ばしてもらって……なんて淡い期待を抱いたんだけど、首を横に振られてしまった。


「ボスを倒したときに称号が手に入るんだ。で、それがないヤツは飛べない。戻る方は、称号がなくても問題ないんだけどな」

「なるほど、分かりました。それじゃ、ボスまで案内よろしくお願いします」

「おう、任せておけ。ただし、俺がするのは基本的に案内だけだ。敵を倒すのはユズキ、お前の仕事だからな」

「はい、分かってます!」



 そしてグレイさんの案内どおりに進むこと小一時間。大きなフロアへと到着した。

「ここが一層のボス部屋だ」

「……ボス部屋って、部屋じゃないんですね」


 こう、なんと言うか、扉があって――見たいなタイプではないらしい。なにもない大きなフロアがぽつんと存在しているだけだ。


「階層の浅いところは大体こんな感じだな。もっとも、難易度の高いダンジョンだと、ボスを倒すまで出られない。見たいな仕掛けのある部屋もあるそうだが」

「なるほど……って、なんか出現しましたね」


 大きなフロアの中心、虚空が滲み、そこから魔物が出現した。


「あれが一階層のボスだ」

「……ボス、なんですか?」


 部屋の中心に現れたのは、ホーンラビットより優に二回りはデカい――体長50センチくらいのホーンラビットが一体。


 そいつは俺達に気付くと、頭の角で突き刺そうと飛び掛かってくる。

 俺は慌てず騒がず突撃を回避して、昼に購入した剣を抜刀。すれ違いざまに、ホーンラビットの親玉を切り伏せた。


「――って、むちゃくちゃ弱いんですが」

「一層のボスだからな」

「なるほど……」


 たしかにホーンラビットの親玉と考えれば、そんなものかもしれない。


 ともあれ、一階層のボスを撃破――と、ステータスウィンドウを確認。時間は21時を廻った辺りで、タイムリミットはあと23時間弱。そして、SPは53増えて59になった。


 どうやら、ボス撃破が1SPで、初回撃破の称号によってSPが50増えたみたいだ。


 もちろん、このペースだと間に合わない。けど、階層が深くなればなるほど、もらえるSPも増えて、効率も上がるはずだ。と言うか、上がらないと困る。



「ちなみに、これで入り口にある魔法陣から二層の入り口に飛べるようになった。それに、二層の魔法陣から、入り口へと戻ることも可能だ」

「おぉ、それは便利ですね」

「だろ? 忘れ物があれば、一度戻ることも可能だぞ?」

「いえ、問題ありません。このまま二層のボスを目指しましょう」

「まあ当然だな。それじゃ、行くか」

 俺達は次の階層へと向かった。



 それから、二層、三層と、なんの問題もなく突破。

 そして――さびた鉄の剣を振り上げ――まっすぐ向かってくる。そんなゴブリンリーダーの攻撃を剣で逸らし、返す刀でその首をはねた。


「よっし、これで四階層のボスも撃破だ!」


 血塗られた剣をそのまま鞘に収めた。

 そんなことをしたら錆びる――って思うかもしれないけど、倒した敵はほどなく、魔石を残してその痕跡を消す。血や脂を拭う必要がないのだ。


 そんなわけで、俺は一息ついて、ログウィンドウに視線を向けた。ボス撃破でSPが50、初撃破称号で200SPが加算されている。


 合計SPは823となり、残りは1,177SP。ダンジョンに入ってからおよそ5時間。あと18時間残っているので、かなりの楽勝ペースである。


「このまま五層に付き合ってもらっても良いですか?」

「もちろん、24時間が勝負だからな。仲間のことを思えば、無茶をするのは当然だろう。案内だけならいくらでもしてやるから、仲間のために頑張れ!」

「ありがとうございます」


 と言うことで、ボス部屋の奥にある通路。五層へと続く階段を下る。この先に五層の入り口――一層との行き来を可能とする祭壇のあるフロアがある。


「ちなみに、今のうちに言っておくが、五層のボスはかなり強いぞ」

「そう、なんですか?」

「五層のボスは強さが跳ね上がるようでな。俺が現役時代にPTで挑んでも勝てなかった相手だ。ユズキは新人とは思えない動きをしているが……挑むのは止めた方が良い」

「そこまでですか……」


 俺は称号と才能スキルのおかげで、一般的な新米冒険者より37%能力が高い。けど、グレイさんが戦ったところをちらっと見た限り、彼より優れているとは言えない。

 そのグレイさんがPTで勝てなかったというのなら、挑むのは止めた方が良いだろう。


「もっとも、自分より強い敵と戦った方が、新しいスキルも覚えやすい。仲間のために無茶をするというのなら……止めはしない。ボス部屋の前までは案内しよう」

「……えっと、そうですね。取りあえずはしばらく五層の敵と戦ってから考えます」


 本来であれば、不老不死のスキルで復活出来るから死を恐れる必要はないんだけど……俺が前回復活を使ったのは、クラウディアが死ぬ直前。

 もし俺が死んでしまったら、クラウディアの復活限界の直前まで復活できない。そうして、SPを稼ぐ機会を失うことだけは避けなくてはいけない。


 だから、今の俺がするのは無茶をすることじゃない。

 堅実に、確実に、時間以内に必要なSPを稼ぐことだと思っている。


 とは言え、今のところ楽勝ペースなのは、ボス初撃破称号によるSP増加があるからだ。


 五層の雑魚がりでどれだけ稼げるか分からないからな。場合によっては徹夜。もしくは五層のボスに挑む必要も出てくるかもしれない。


 なんにしても、その辺は五層の雑魚でどれくらい稼げるか確認してから、だな。


 そうしてたどり着いた五層。

 敵はガルムと呼ばれる、オオカミのような敵ばっかりだった。

 他のダンジョンの場合、敵が混成だったり強さに村があったりするそうだけど、このダンジョンは非常に安定しているとのこと。さすが初心者用ダンジョンと言ったところだろう。


 なお、オオカミのような見た目だけあって、動きが素早く、その噛みつき攻撃にもそれなりの攻撃力があった。

 とはいえ、剣で一撃なのは変わりないし、少し噛まれたくらいなら、ヒーリング:Fで十分に回復が出来る。落ち着いて戦えば対処できない敵じゃないと、順調に屠っていく。


 肝心のSPだけど、なんと一体で10SP。1時間ほどで200SPを稼ぐことが出来た。


 この時点で、残り977SP、あと5時間ほどで目標を達成することが出来る計算。そして、残り時間は17時間、余裕を持ってクラウディアの復活が可能だ。


「ユズキ。お前はどうしてそんなに希望に満ちた顔が出来るんだ?」

「それは……えっと、クラウディアを生き返らせるめどが立ったから、ですかね」

「――なっ!? リザレクションを覚えたのか!?」

「いえ、まだ覚えてはいません。でも、覚えるめどは立ちました」

「……なにを、なにを言っているんだ?」


 大事になるのは分かりきっているので、SPでのスキル習得が出来る事実を、身内以外に話すつもりはない。だけど……このままでは納得してもらえないのも事実。

 はてさてどうしたものかと考える。


「上手く説明は出来ないんですが、このまま順調に進めばクラウディアを生き返らせることが出来るって確信しています」

「……本気で言っているのか? それとも、プレッシャーで気が触れたか?」

「本気です。ただ……ヒーリングを多用しているので、精神的に厳しくなってきました。凡ミスをするのは嫌なので、もう少ししたら一度街に戻ろうと思います」


 俺がそう続けると、グレイさんは信じられないと言わんばかりに俺を見た。実際、信じられないんだろう。普通に考えたら、リザレクションを覚えるのは低確率の運次第。

 スキルを覚えるまでのペースを計画的に――なんて、出来るはずがない。


「精神力が心許ないとは言え、仲間の命が掛かっているんだ。ここは無理をしてでも頑張るところではないのか? それとも、命をかけるほどの相手じゃないと思っているのか?」

「それは絶対にありません!」


 思わず声を荒げ、少しだけ恥ずかしくなる。俺はコホンと咳払いをして取り繕い、あらためてグレイさんに説明をする。


「クラウディアとは出会ったばかりですけど、俺にとっては掛け替えのない相手です。だから、絶対に助けたい。見捨てるつもりなんてありません」

「……なら、どうして休憩などと言うんだ?」

「俺が死んでしまったら、元も子もないからです。クラウディアを助けるには、絶対に俺が死ぬわけにはいかない。焦っていても、ちゃんと休憩は必要なんです」

「…………けるな」


 グレイさんがぽつりと呟く。その声は小さくて、ちゃんと聞き取ることが出来なかった。そして俺がなんですかと聞き返した瞬間――


「ふざけるなと言っているんだ!」


 突然、グレイさんが剣を引き抜きざまに振るった。俺はとっさに身体をひねるが、避け損ねて左肩を切られてしまう。


「なにをするんですか!?」

「それはこっちのセリフだ! 無茶をしたら危ない? そんなのは分かってる。だけど、それでも、希望があるのなら無理をするしかないだろ!?」

「……なにを?」


 グレイさんの変貌っぷりが理解できなくて戸惑う。

 そんな俺に向かって、グレイさんは言いようのない表情でまくし立てる。


「みんな、俺の大切な仲間達だった! だから、必死に可能性に縋ったんだ! その結果、他の仲間まで失うなんて、想像できるわけないだろ!?」

「……それは、もしかして、グレイさんの過去、なんですか?」


 入り口で、もう一人の兵士がそんなことを言っていたのを思い出す。


「あぁそうだ。俺は一人の仲間を救おうとして、他の仲間まで死なせた愚か者だ! でも、仕方がないだろ!? 大切な仲間を生き返らせる可能性があったんだから!」

「そう、ですね。可能性が少しでもあれば、それに賭ける気持ちは分かります」

「そうだ! 他のヤツだってそうする。お前だってそうするべきだ! 必死に、必死に必死に必死に頑張って、それでも助けられなくて、絶望するべきなんだよ――っ!」


 再び剣が振るわれる。それを予想していた俺は、飛び下がることで回避した。


「俺と同じ道をたどって絶望するお前を慰めることで、俺は自分が間違ってなかったって納得できる。なのに、なのになのになのに、なんでっ、お前はそんなに冷静なんだ!?」


 まともじゃない。自分の選択によって多くの仲間を死なせたことで、精神が病んでしまったのかもしれない――と、そこまで考えたとき、ある可能性に思い至った。

 ヤンデレは、女性限定のスキルじゃないのかもしれない――と。


 闇堕ちしてもおかしくないようなトラウマを抱えた状態で、ヤンデレ女神の力が強くなるヤンデレタイムに、ヤンデレを引き出すスキルを持つ俺と行動を共にした。

 グレイさんが豹変した理由である可能性は否定できない。


 とは言え、今はそんな理由はどうでも良い。

 理由がなんであれ、グレイさん――いや、グレイはクラウディアを救うための障害だ。


 まずはこの状況から抜け出し、左肩を治療しない――と、俺は牽制に剣を振るう。だが、その一撃は驚くほどあっさりと受け流された。


「無駄だ! お前はたしかに新人とは思えないほどに強いが、技術自体は素人同然だ。いくら現役を退いたとは言え、手負いのお前に負けるほど落ちぶれてはねぇ!」

「――くっ」


 たしかにその通りのようだ。反応速度でも、速度自体でも勝っているという感覚があるのに、結果的に俺の方が遅れている。

 身体能力の差を、技術で埋められているのだろう。


 加えて、今の俺は左腕が上手く使えず、満足に剣も振るえない。グレイを無力化するのは無理そうだ――と理解した瞬間、俺は全力で逃げ出した。


「なっ!? 逃げるつもりか!」


 その通りだけど、答える義理も余裕もない――と、俺は全力で逃走を開始。途中でガルムと出くわすけど、俺はそれでも止まらない。


 出来れば、ガルムがグレイに向かってくれたらありがたい――なんて淡い期待を抱いたんだけど、ガルムは迷わず俺を追いかけてくる。


「ああああもう! なんでこっちに来るんだよ!」

「無駄だ! ガルムは血の臭いに釣られるからな!」

「――くっ、そういうことかよ!」


 最初の不意打ちを避けられなかった時点で、形勢は決まっていたと言うこと。これ以上逃げ回れば、追いかけてくるガルムが増えて取り返しが付かなくなる。


 覚悟を決めた俺は、大きなフロアで足を止めて反転。真後ろに迫っていたガルムが飛び掛かってくるのにあわせ、右手だけで剣で一閃。ガルムの身体を真っ二つに切り裂いた。

 たが――


「隙だらけだな!」


 片手で剣を振るったことで、その遠心力を抑えきれなくて体勢を崩す。その瞬間に、グレイが斬り掛かってきた。


 俺はとっさに剣を捨て、その場から飛び下がる。寸前まで自分のいた空間を、グレイの放った一撃が切り裂いた。


「くくっ、なかなか思いっきりが良いじゃないか。だが、剣を失った状態でどうする?」


 グレイはいたぶるような口調で聞いてくる。たぶん、俺が絶望することを期待しているのだろう。けど、こんなところで絶望なんてしてやらない。


 ……なにか、なにか武器は?

 そうだ! アイテムボックスに、剣と一緒に買った短剣が入ってる! あれがあれば……いや、慣れない短剣で普通に戦っても厳しいか。


 なんとかして、グレイの不意を突かないとダメだな。


「悪いことは言わん。そのまま大人しくしてな。24時間経つまで大人しくているなら……そうして絶望するのなら、その後は慰めてやるからよ」


 むちゃくちゃである。そもそも俺を生きて帰せばグレイは犯罪者だ。


 実際には生きて帰すつもりがないのか、それともそんなことも考えられないほどヤンデレ化してしまったのか。どっちにしても、クラウディアのためには従えない。


 俺は従うフリをしつつ――アイテムボックスからいつでも短剣を取り出せるようにする。そして……無詠唱でファイア・ボルトを起動した。


 だけど、無詠唱でも変わらず、光の魔法陣が展開される。


 ――しまったっ。これじゃ無詠唱の意味がない。しかも、普通に魔法を使ったときよりも、魔法陣の展開速度が遅い。


「魔法は撃たせんっ!」

 グレイが斬り掛かってくる。それを横っ飛びで回避――した瞬間、魔法陣が霧散した。


 あああああ、そうだった! Fランクでは、魔法陣を展開しながら別のことは出来ない。なにか行動をした場合は、魔法陣が霧散する。一度体験したはずなのに忘れていた。


 そうして動揺。攻撃手段を失った俺に、グレイが剣を振るう。俺はとっさにアイテムボックスから短剣を引き抜き、その一撃を受け止めた。


「……短剣だと? どこに隠し持っていた?」

「教えるかよ!」


 鍔迫り合いの状況。俺は右腕一本で耐えしのぐが、両手を使うグレイの方が圧倒的に有利だ。俺はじりじりと押し込まれてしまう。


「これで終わりだな。いいかげん諦めろ!」

「誰が、諦めるか!」


 必死に押し返すが、びくともしない。

 けど、ここで押し負けたら、クラウディアを救えない。俺は歯を食いしばって、クラウディアの命をかけた鍔迫り合いを繰り広げる。


 だけど――突然グレイから押し込まれる力が何倍にも膨れあがり、俺はなすすべもなく吹き飛ばされた。あまりの勢いに、フロアの硬い土の上をごろごろと転がる。


「~~~~っ。一体、なにが……?」


 痛みに顔をしかめながら、辛うじて上半身を起こす。そして、そこに広がる光景を目の当たりに、俺は思わず目を見開いた。

 直ぐ目の前、熊と見まがうほどに巨体のガルムが、悠然と俺を見下ろしていたからだ。


「なっ、五層のボスだと!? ――くっ、ここは五層のボス部屋か!」


 同じく大型のガルムを見たグレイが叫ぶ。そして、恐れをなしたように回れ右をして逃げようとする――が、ボスガルムはそんなグレイに肉薄して右前足を振るう。


 それをまともに食らったグレイは凄まじい勢いで吹き飛ばされた。

 よほどの威力だったんだろう。グレイはピクリとも動かない。


 そうして、俺を襲ったヤンデレ男は自滅した訳だけど……俺の状況はむしろ最悪へと向かっている。剣を落とし、短剣しかない状況。しかも左腕は負傷して動かない。

 そして目の前にいるのは五層のボスガルム。


 俺はボスガルムがグレイに気を取られているあいだに離脱を決意。一歩を踏み出した瞬間、いつの間にか俺の行く手を阻むようにボスガルムが立ちはだかっていた。


「はや――っ!?」


 驚く暇もなく、振るわれたボスガルムの前足を食らって吹き飛ばされる。――が、グレイが同じ攻撃を食らうのを見ていた俺は、自分から飛び下がることでダメージを軽減した。


 それでも、背中から落ちた俺は激しく咳き込む。


 けど、ここでくじけたらクラウディアを救えないと、気力を振り絞って跳ね起きた。そこに、ボスガルムが飛び掛かって――っ。


「ああああああああああああああっ!」


 回避を諦めた俺は、奇跡的に手の内に残っていた短剣をカウンターで突き出す。それはボスガルムの額に突き刺さった――が、硬い毛並みや頭蓋骨に防がれたのか深くは刺さらない。


 そして――続けて襲い来る衝撃に、俺は再び吹き飛ばされた。


 直ぐに起きなきゃいけない。そうしなければ俺は殺され、クラウディアが本当に死んでしまう。そう理解しているのに、身体が動かない。


「ちく、しょう……なにか、なにか方法は」


 短剣で致命傷を与えるのは難しい。だとしたらファイア・ボルトか? いや、その前に回復するべきだろうと、ヒーリングの魔法陣を展開する。

 だけど、魔法陣の展開が終わる直前、ボスガルムが雄叫びを上げた。


 ――そして、俺は絶望を目の当たりにする。


 ボスガルムの両脇に四つの魔法陣が出現し、四体のガルムが召喚されたのだ。


「……嘘、だろ」


 今までの階層と、難易度が違いすぎる。


 こんなのどうしようもない――と、頭の片隅に諦めの言葉が浮かぶ。だけど、ここで諦めることなんて出来ない。クラウディアを救うには、こいつらをなんとかするしかない。


 俺は諦めてたまるかと飛び掛かってくるガルムの攻撃を避け、ボスガルムの懐へ――入ろうとしたところで、その巨体によるぶちかましをくらって跳ね飛ばされた。


 その凄まじい衝撃に、意識が遠くなる。


「ちく、しょう……ここで、ここで死ぬわけには、いかないのに……」


 起き上がろうと考えるが、身体が言うことを聞いてくれない。そして、そんな俺にボスガルムと、取り巻きのガルムが群がり――俺は食い殺された。

 

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