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休憩はもう終わりだ。たいして仕事もしていないのに、このタイミングで休憩をとらせられることにはいつも疑問を感じるが、まあ休憩があるだけで良しとしよう。
準備を済ませ、ゲストが会場に入ってくる時間になった。
「いらっしゃいませ、おめでとうございます。」と僕たちは言いながらチェアサービスをする。新人にもこの仕事はしてもらうが、やはり敬語を使うと言葉がつまるようだ。こればっかしは、慣れと練習なので仕方がない。ゲストと会話をするというのが重要なことだ。距離感というのはとても難しい。もちろん敬語を使うが、その中でも笑いや安心、そして涙を引き出さなければならない。何を欲しているかに気づくことも大切である。だからこそ僕たちの属するセクションはサービスと呼ばれている。
今日の披露宴の特徴は新婦のお父様がすでに他界しており、それでも参加してほしいしという想いから、席とシルバーセットはついているということだった。たまにこうゆう形の参加は見かけるが、まあそれはただの影膳として扱って、特にこれといったことはしない。サービスのしょうがないのだから、これで良いのだ。僕はいつもこう思っていたし、先輩たちもそう思っているに違いなかった。
ところが乾杯のときに
「あの、お父様の席にスパークリングワイン、お持ちしても大丈夫ですか?」
と誰かが僕に声をかけてきた。それは紛れもない里香だった。
どうも新婦のお母様とお話しをして、生前お酒が好きだったこと、そしてなにより娘の花嫁姿を見たかったことを聞いたようが。こんな話を引き出せるだけでもすごいのに、その話から、スパークリングワインを提供するというのは良いサービスだとしか言いようがない。先輩たちも驚いて、特に久次米先輩は
「私いままでそうゆう気の配りかたできなかったや。お客さんに参加したい想いがあれば、その人もゲストだもんね。」
と絶賛した。
お母様は泣きながら誰も持ち上げることがない、そのスパークリングワインのグラスにカチンと、天にも届くような高い、心地良い音が響くように乾杯したのだった。