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次の土曜日の出勤は朝の九時半だった。家からバイト先までなんと一時間半もかかるから用意も含めて七時くらいに起きなくてはいけない。一時間半もかかるならバイトかえた方がいいのではないかと思うことも多々あるが、新しいのを探すのはなんか面倒くさく感じられるし、前にも言った通り仕事が合っていないわけではないので続けることにしている。
今日も昼の一時から一件、披露宴があるだけだった。今日も八時くらいに帰れる。明日も出勤だしラッキーだ。色々と披露宴の準備をしていたら、もう一時間もたっていた。仕事をあまり知らないメンバーは十時半に来ることになっている。おはようございますと挨拶を交わすうちに、先週粗相をした彼女が出勤してきた。
「おはようございます、結さん。先週は粗相してしまってすみませんでした!今日もよろしくお願いします!」
と元気よく挨拶をしてきた。おはようと返事をするが、実は僕は彼女の名前を知らない。というかこの間の土曜日、覚えようとしなかっただけ。理由は簡単、すぐに辞めるんじゃないかと思ったから。結婚式のバイトはお上品な人、、、よりも体育会系の人が残りやすい。「ドンデン」の話を思い出してもらえればわかるだろう。彼女はお上品な感じというか、物静かな人というイメージが大きくて、今日もまた出勤してくるものだとは思いもしなかった。
披露宴のミーティングを入内島さんを交え行い、三十分の休憩に向かうことになった。この休憩の時間というのは食事をすることはもちろんのこと、会場のサービススタッフとのコミュニケーションの場となる。大学どこ?とか何年生?というのを皮切りに、会話をし始める。
彼女の名前は山内里香。大学一年で、なんと大学の学科が同じだった。このバイトをし始めたのは前からここで働いている僕のタメの紹介らしい。で、なんとなく先週粗相もしたことだし、こんな質問をしてみた。
「この仕事どう?きつくない?」と。
すると彼女は
「そうですね、たしかにプレッシャーすごいし、普通に体力的にもきついです。でもいいですよね、一生に一度の結婚式に私たちも出られるんだから!毎週毎週そんな幸せな人たちの笑顔にお供できるし、感謝してもらえる。先週粗相してしまいましたけど、来週こそはしっかりやるぞって思って、今日も来ました!」
なんという満点回答。つっこみどころがない。その通り。結婚式なんて一人一回というのが一般的で、笑いあり涙ありの人間ドラマが生まれる場所だ。でもねぇ、それだけじゃ仕事にはならないんだよと思ってしまう。それでもとりあえずは
「その想いを持ってれば、きっとお客さんにも感謝されるようになるよ」
と言っておいた。
その後はとりとめのない話が続いたが、彼女の答えはいちいち純粋なのだった。まるで冬に別れてしまった元カノのように。