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結婚披露宴で泣くな!  作者: 餃子ぱふぇ
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 「あっ。申し訳ございません。。。」

 また新人がやらかした。披露宴中に粗相を起こすことほど僕らが嫌がっていることはない。新人は何に注意すればいいのか、きっとわからないだろう。スパークリングワインの入ったフルートグラス、というのは背の高い細いグラスのことで、あれは倒れやすいし、割れやすい。テーブルに手を伸ばして僕らが何かサービスをしたいと思うなら、フルートに注意しながら、というのは当然のことなんだ。でも彼女はパンを配る際に誤ってトングをグラスにあててしまったようだった。先輩たちは披露宴中も彼女の面倒をみようとしていたのだが、予定していた時間より遅く披露宴が始まったため、その時間をまくために自分たちの仕事で手一杯になっていた。カバーの薄さから起きてしまった粗相だろうなあと僕は思った。

 問題は近くのお客様のお召し物にドリンクがかかってしまっていないかどうかだ。すぐさま先輩がその事態に気づいて確認に向かっていた。もしドレスが汚れて怒ったりしたら、、、大変なことになることは明らかだ。幸いなことに少し離れた距離にいた僕はこの件と関わらなくて済む。面倒なことはぜひとも避けたいのは皆一緒だろう。児島先輩はそのカバー、僕から言わせれば尻拭いに向かわなければいけないのだから本当に気の毒だと思う。

 お客様はお怒りにはなっていないし、ドリンクはテーブルにこぼれただけであったようだ。彼女はほっとした様子で先輩から注意を受けていた。もし大事になっていれば会場責任者の入内島さんにも報告が行ったし、その上のサービス統括の大田さんにも報告が行って、、、まあそれは当然のことでどんなマニュアルになっているのか知らないけど、大変なことになっていたに違いない。

 僕はお客様に謝るような粗相をしたことは一度もない。大学二年の今まで、一年バイトをしてきたが、そんなナンセンスなことはしたことがない。だから、拘束時間は長いし時給は平均賃金のつり上げでそんなに珍しいものではなくなったけど、合っているバイトなのかと思って今も続けている。バイトだし、そんなに気を張ってやるもんじゃないだろうというのが僕の持論だ。

 この日の披露宴は彼女の粗相を除いて問題なく進んだ。あの粗相も大した問題にはならなかったので、おおむね良好という感じで、最後は新婦の涙の手紙、新郎父の言葉、新郎の一言で幕を閉じた。全員のお客様を会場から外へとお送りしてから、式場見学のお客様がいらっしゃるまでに披露宴の片づけ、テーブルのセットをしなければならない。この作業は「ドンデン」と呼ばれていて、おそらくサービスをしている僕らが最も辛く感じる仕事だ。働いている結婚式場「マリクス」の中で最も多くのお客様をお迎えすることができるこの会場「アース」はドンデンのとき走らないと仕事が終わらないくらい大きな会場で、だからほかの会場のメンバーにも特にこの時のアースは嫌われている。でもまあこれが終われば家に八時くらいに帰れるだろうからと思って、サービスをして疲れた体に鞭をうつことにした。児島先輩が仕事を手際よく振っていったから予想よりはやくドンデンが終わった。無事新規のお客様にもいい状態の会場を見せられる。

 仕事が終わって出勤簿を書こうと思ったとき、児島先輩と入内島さんがサービススタッフ全員に集合の合図を出した。こうゆう終礼じみたことはめったにやらないのでなんだろうと思ったが、まあ今日の粗相のことを話すというのが妥当だろうなあと予測した。やはりあの粗相に関連したことで、みんなの前で棚に上げられて彼女は泣きそうな顔をしていた。彼女が帰ってから先輩たちだけで話せばいいのになあと、少しあわれんだ。で、重要な先輩たちの話というのは、俺らは四年で、こうして毎週バイトに来られるわけじゃない。残念ながら三年はいないから、二年の結や佐藤が引っ張っていかなきゃいけないのはわかるか。一年生がせっかく入ってきたんなら、お前らも目を配れるように成長していかなきゃいけないんだ。ということのようだった。確かに今までの新人全員に優しく面倒をみてみようと思うことはなかったからこの時は、はいと答えるしかなかった。

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