利根おろし 学級委員を巡る泥沼の戦い
私、利根由香里は何故か学級委員をしていた。
特に成績が良い訳でもない。
そして知らない間に信頼されいつもゴリ押しで学級委員に決められた。
ところが私を脅かす存在がやって来た。
神谷香奈子。
一年生の冬に引っ越してきた彼女は瞬く間にクラスの人気者になった。
その上私より頭が良く可愛い子だ。
私と香奈子はすぐに仲良くなり二年生では一緒のクラスになった。
そして三年生も同じB組になった。
三年生の委員は票で決めることになった。
私は入学以来ずっと学級委員だったのできっと票が入るだろうと思っていた。
しかし期待は裏切られた。
「それでは委員を発表します。学級委員は阿部君と神谷さんです。」
「えー私、信じられない。他の委員やりたかったよ。」
「続いて風紀委員は坂本君と利根さんです。」
私はこの時の香奈子の顔を忘れなかった。
ざまあみろと言っているような笑顔は悪意しか感じられなかった。
風紀委員は週に一回、校門の前で挨拶をする。
学級委員の時は毎日早く登校するので生活習慣が狂ってしまった。
ある朝のことだ。
私が風紀委員で挨拶をしていたら香奈子がやってきた。
「あら、風紀委員の利根さんじゃない。
校門の前で挨拶するだけなんて番犬以下の存在ね。」
私はとっさに言い返した。
「何よ、とっと仕事しなさいよ。」
「あら、あなたみたいな低レベルな風紀委員に注意される筋合いはないわよ。」
「それに学級委員様に喧嘩を売っている間に5人も通り過ぎたわよ。」
「挨拶のできない出来の悪いワンコは風紀委員なんてやめなさい。」
「まああなたはどうせ今年も学級委員だろうって過信してたのね。」
「その幻想をぶち殺す!!、のが私の役目だからね。」
もはやこの香奈子は以前の香奈子ではなかった。
私は涙を必死にこらえた。
しかし災難は続く。
「おい、番犬利根が挨拶してるぞ。」
「犬にスカートなんていらないよな。」
「うわー番犬のパンツはピンクか。犬の癖に生意気な。」
同じクラスの男子達が私のことをからかってきたのだ。
しかも犬という言葉はさっき香奈子に言われただけ。
つまり香奈子は男子達を操っていたことになる。
屈辱に耐え教室に入った。
私の荷物はゴミ箱に捨てられていた。
机の上には落書き、中には鶏肉の骨が入っていた。
荷物を元に戻していると香奈子がやってきた。
「あらワンコじゃないの。」
「ワンコは勉強なんてする必要がないから羨ましいわ。」
「机の中に好物を入れておいたから感謝しなさい。」
「まあ学校はあんたみたいな番犬のためにあるんじゃなくて可愛い私の時代のために学校があるってこと忘れるな!番犬のためにだけ学校があるんじゃないのよ。」
「何が感謝だ。バカにするな。」
「うるさいワンコですねー、そんなに躾されたいのかしら。」
まもなく教師がやってきた。
「利根、風紀委員なのに机が汚いぞ。しっかりしろ。」
「はい。」
私はしぶしぶ答えた。しかし。
「ですよね。利根さんは風紀委員としてろくに挨拶もしていなかったです。」
「こんな委員辞めさせるべきです。」
「そうだ、いいぞ学級委員。」
周りから次々に賛同の声が上がる。
もはやこのクラスに正義はないのか。
「先生、違います。」
「挨拶できなかったのは男子に絡まれていたからで机の上も神谷さんに荒らされました。」
「じゃあ私が荒らしたという証拠はあるの?」
「証拠がないのに疑うなんて風紀委員失格よ!」
「全くその通りだ。」
「利根は風紀委員を辞めろ。このクラスの恥だ。」
ホームルームが終わると香奈子が私のところにやってきた。
「番犬から野良犬になっちゃったわね。哀れな姿ね。」
私は俯きながらトイレに逃げた。
もはや私の心はズタズタに引き裂かれた。
しかしそこに追い討ちがはいる。
「シャワーの時間ですよー。」
トイレの上から水が降る。
「神谷!私は怒りのあまり苗字で叫んだ。」
「しかしいくら叫んでも殴っても事態が変わらないことは自分が一番知っていた。」
一時間目は濡れた制服から体育着に着替えていたので遅れてしまった。
机の中の荷物はなくなっていた。
「遅刻の上に忘れ物とは何事だ。」
教室にいる全員がこちらを見る。
惨めになったものだ。
長かった一時間目が終わると再び香奈子がやってきた。
「今から私のことをご主人様と呼びなさい。」
「ご主人様とクラスの人の命令は絶対よ。」
「破ったらお仕置きだから覚悟しなさい。」
「分かったら返事。」
「はい。」
「誰に向かって返事してるんだ?」
「はいご主人様。」
「声が小さい!」
「はいご主人様!」
「クラスの皆、今からこの雌犬は好きに調教してもらって構わないわよ。」
「立派な奴隷にするために協力してね。」
地獄のような授業が終わり給食になった。
この流れからしてされることは予想できていた。
「おい雌犬、給食のワゴン運べ。」
当番の仕事をやらされる。これはまだマシな部類だ。
「床で犬食いしろ。」
「首輪を付けろ。」
もはや私は救いようのない奴隷になっていた。
救ってくれる人なんていない。ご主人様の命令に従うだけの人生。
そう絶望したその時だ。
「神谷!。」
「いきなり何よ、そんな大変なことがあったの?」
A組で香奈子と同じ卓球部の金山がいきなり教室に入ってきた。
「お前始業式の日から利根に何をしていた。」
「人間生活。」
何をしていたと聞かれ自分が不都合になったときに答えるテンプレートが帰ってきた。
「とぼけるな、何が調教だ。今すぐ利根に謝れ!」
私に謝れ!?確かに金山は私に危害を加えていないのに、しかも始業式の日から?
「どうしても言わないなら俺が言ってやるよ。」
「まず始業式の日にクラスの裏サイトを作りそこで自分を学級委員にするように呼びかけた。」
「勿論過半数を集めるために褒美として利根を奴隷にできると書いて釣ったんだな。」
「そんなサイト知らないわ。」
「確かにサイトは昨日閉鎖されたけどバックアップを取ったからね。ほんとどうかしてるよこのクラス。」
「あとこうなることが分かってたから君達が利根の教科書を捨てたとことかは全て撮影してあるよ。」
「つまり女子トイレを盗撮したと。」
香奈子が悪あがきをしている、悪夢の出口は近い。
「流石にそこには置いていないけど、まあ利根を助けるためならカメラを持ってきた罰なんて俺は気にならない。」
「今の話は本当か神谷?」
「はい。」
「神谷と利根と金山は職員室に今すぐこい。」
こうして私の奴隷生活は終わった。
その後香奈子は児童相談所に連れて行かれた。精神に異常があるという。
クラスのは連中もかなりの制裁を受け高校進学は絶望的になった。結局もう一度クラス替えをすることになった。
金山は正義を貫き通したとか何かでチヤホヤされていた。でも撮影するぐらいなら最初から助けてくれたらよかったのに。
ともかく私は新生3年B組で念願の学級委員になることができた。今は期待で溢れている。
話の中の台詞で元ネタが分かる人には分かる。タイトルも。