真の力
「貴様……程度…………だと?」
琴線にでも触れたのか、マレクは血色の悪い顔を燃え上がるマグマのように赤くさせると、口角から泡を飛ばしながら大声で喚く。
「勇者よ……貴様は私に言ってはならない言葉を吐いたな? いいだろう。この私を愚弄したことを一生後悔させてやろう」
そう言うと、マレクは杖を地面へと突き刺して声高々に宣言する。
「この私の魔法研究の真髄を見るがいい!」
次の瞬間、マレクの杖の地面に突き刺した部分を中心に衝撃波が走る。
「――っ!?」
また何か魔法陣を使った攻撃なのだろうか。ロイは腰を落として何が来ても対処できるようにデュランダルを強く握るが、自分の体に何か変調をきたした様子はない。
さらに、隠れるように移動しているリリィたちにも変わった様子はない。
では一体、マレクは何をしたのだろうか?
その答えは、予想を遥かに超える最悪なものだった。
「なっ!? おい、何をしている」
その変化に気づいたロイが、恐怖のあまり思わず一歩後退る。
エーデルの気転によって意識を奪われた兵士たちの体が、まるで熱せられた氷のようにドロドロになって溶けだしたのだ。
血が、肉が、骨が、人を形成する全てが一緒くたになって溶けて液体となっていく様は、地獄絵図そのものといっても過言ではないほどおぞましく、辺り一帯にたんぱく質が焦げる臭いと、体液や排泄物の悪臭が漂い、ロイは思わず鼻をつまんで顔をしかめる。
鼻が曲がってしまうのではと思うほどの悪臭が漂う中、マレクは哄笑を響かせながら血走った目で叫ぶ。
「ククク……私が研究してきた魔法は、強化の魔法陣ではない。魔法陣を用いて効率よく贄を管理することが真の目的だったのだ」
「贄……管理?」
「そうだ。魔法使いの力は、魔力の総量で決まる。これは生まれ持った才能に大きく起因し、生涯にわたって大きく変わることはない。そう言われていた……」
だが、マレクは長年にわたる研究の結果、とある方法でその常識を打ち破れることを知る。
「それは他者の魔力を奪い、自分へと取り込むことで一時的にではあるが、魔力の底上げが出来ることがわかったのだ」
それを知ったマレクは、いかに効率よく他者から魔力を奪うかの研究を始める。しかし、他者から魔力を奪う魔法は昔から存在するが、あくまで奪った魔力を別の魔法へ置換する種にしかならなかった。自身の力を底上げするためには、より深く相手と結びつき、より多くの魔力を奪う必要があった。そこでマレクは、能力を底上げできるという名目で魔法陣への契約者を募り、犯罪者や金を使って集めた貧困者から奪った魔力を使って能力を底上げする魔法を彼等に与えた。その効果は確かなものだったので、数年もしないうちに魔法陣の契約者は百を超えた。
マレクはそうして集めた者たちから少しずつ魔力を簒奪し、自身の力とすることでガトーショコラ王国内での地位も確立していった。
「当初、私のこの醜い顔の所為で見下していた者たちも、私の研究のお蔭で力を獲得できた。ガトーショコラ王国の繁栄は約束されたと言って、私に次々と研究資金を提供してくれたよ。それが、こんな風に使われているとは知らずに、ね!」
マレクが叫ぶと同時に、溶けて完全に液体となった元人間だったものがまるで意思があるようもぞもぞと動き出し、マレクの体へと吸い込まれていく。
「うぷっ……」
その想像を絶する醜悪な姿に、ロイは堪らず込み上げてきた吐き気に口を押える。
一方のマレクは、直視するのも憚れる何が何だかわからない物体に足元から侵食するように包まれて尚、まるで気にした様子もなく悦に浸っていた。
「ああ、素晴らしい。力が溢れてくる……」
謎の物体が足から腰、胸元へと至ってもマレクの表情は変わらない。
しかし、
「うぐっ!?」
謎の物体が首へと迫ったところで、マレクの顔色が急に変わった。




