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その理由とは

 ロイがマレクの謎の攻撃に恐怖し、パニックになりかけた、戦慄を覚えたのはロイだけではなかった。


「何故だ……何故お前は平然と立っているのだ!」


 エーデルを安全な場所まで運んでいるロイを見て、マレクが口角から泡を飛ばしながら捲し立てる。


「私の魔法陣は確実に発動した。あの天才とまで謳われたエーデル・ワイス・リベルテを行動不能に出来たのだから間違いない。残りの二人も、行動不能になるほどの魔力を奪われたはずなのに、どうしてお前だけは無傷でいられるのだ!?」

「魔力を奪う……そういうことか」


 マレクの独白に、ようやく合点がいったロイが深く頷く。

 どうやらマレクが放った魔法は、魔法陣の効力から逃れた人間を対象に、行動不能に陥るほどの魔力を奪う魔法のようだった。

 この手の魔法は、魔力の総量が多い者ほど被害が大きくなる。つまり、女性たちの被害の差は、各々の内包している魔力の総量に応じた被害という訳だった。


 ならば、どうしてロイだけ被害を受けなかったか? その理由は、ロイ自身がよく知っていた。


「俺が被害を受けなかった理由は単純だ。俺には魔力が一切ないからだ」

「何……だと。そんな馬鹿な話があるか」


 ロイの告白に、マレクは驚愕に目を見開く。


「この世に生きるあらゆるものは……人は当然、動物から植物、果ては魔物までも魔力を帯びているはずだ。それが一片の魔力も持ち合わせていないなんて……そんな人間、いるはずが……」


 唾をまき散らしながら喚くマレクに、ロイはゆっくりとかぶりを振って否定する。


「いるんだよ。ごく稀にそういう人間が生まれることがな……だから俺は勇者なんだって言われた」


 誰もが持っているはずのものを持って生まれない。この魔力を持たずに生まれた子供は、百万人に一人の割合で生まれ来ると言われ、世間では神からの祝福が得られなかった忌み子と揶揄する声もあるが、それ以上に世界の理から外れた存在、世界を変革する勇者の素養として扱われることが多かった。

 だが、魔力がないことの苦労は凡人では到底理解できなかった。魔力を持たないということは、魔力を感知されないので、隠密行動に長け、呪いや魔力簒奪などの各人が持つ魔力に作用するような魔法の対象にならないというメリットがあるが、魔法防御力が普通の人より著しく弱く、魔法攻撃の直撃を受ければ、それだけで致命傷になりかねない危険を孕んでいた。これは攻撃魔法だけでなく補助魔法や回復魔法も対象で、ちょっとした怪我を回復魔法で治療しようとしたら、効き過ぎて患部が健康な部位と癒着してしまったり、関係ない骨同士がひっついてしまったりと、常人では到底起こりえないような大惨事に繋がる危険性があった。

 このロイの弱点を、普段はエーデルが補助魔法をかけることや、専用装備であるデュランダルやラピス・ラズリの特性によって相殺してきたが、近くにこういったフォローをしてくれる存在がいない者は、その殆どがなんてことない魔法攻撃によって命を落としていた。


「だから、俺を殺したかったら、それなりの魔法攻撃を当てればいい。もっとも……」


 ロイは腰の剣に手をかけ、腰を落として戦闘態勢を取る。


「魔法陣の力が効かない以上、そう簡単に上手くいくと思うなよ」


 そう言うと、ロイはシニカルな笑みを浮かべた。

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