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折れない剣と折れない心

「なるほどな」


 ロイの話を聞いたカインは、気難しい顔を浮かべて唸る。


「しかし、その条件の武器を作る阿呆は先ずいないだろうな」

「……ここに来るまでに散々言われたよ」


 流石に疲れた様子のロイが肩を落とすと、カインが堪らず苦笑する。


「それにしても、どうしてそんな使えもしない武器が必要なんだ?」

「どうしてって。そりゃ、武道大会に出る為だよ。武道大会では基本的に殺傷は認められていないんだろ?」

「そうだな。だけど絶対じゃない。むしろ勝利条件が相手の降参か戦闘不能なのだから、手っ取り早く勝つ為には、相手を殺すのが一番だ。まあ、それ以外にも、武器破壊でも勝ちとなるから、効率よく相手の武器を破壊できる武器が必要という意味でも、強力な武器は必須なんだ」

「そうか、武器破壊でも勝ちになるのか……」


 そう言う意味では、武器屋の主人たちが強力な武器を用意した理由がわかる。

 もし自分の店の、自分が作った武器があっさりと破壊されてしまっては、看板に泥を塗ることになってしまうからだ。


 しかし、それでもロイは自分の信念を曲げるつもりはなかった。


「武器屋の人たちの気持ちもわかるけど、俺はこの大会に名声を得る為でも、人を殺す為に来たんじゃない。純粋に自分の力を試しに来たんだ。敵わないとわかった時は、あっさりと負けを認めようと思ってる。だから、そんな大層な武器は必要ないんだ」

「…………」

「だからお願いだ。見ず知らずのあなたにこんなことを頼むのは筋違いかもしれない。決して誰から武器を譲ってもらったとは言わない。だから、俺に譲ってもいいような失敗作の剣があったら貸してもらえないだろうか?」


 頭を下げるロイを見てカインは、


「…………そうか」


 そうとだけ告げるとロイに背中を向ける。そのまま部屋の隅まで移動したカインは、何やら棚をごそごそあさり始める。


「……君は運がいいな」

「え?」

「それとも勇者という人物は、自分の願いを叶える力でも備えているのか?」

「え、ええ?」


 訳が分からないといった風に混乱しているロイを無視して、カインは戸棚の奥から一振りの剣を持ってくると、ロイへと差し出す。


「ほら、君の望みの品だ」

「え?」


 剣を渡されたロイは、呆気にとられながらも鞘から剣を引き抜いてみる。

 その剣は刃のついていない、ハッキリ言ってしまえば剣というよりただの棒だった。しかし、手にした時のずっしりとくる重さや、鈍く光る刀身の輝きは、この剣がただのなまくらでないことを示していた。


「この剣は……」

「それは、昔、武道大会に挑んだ者が使った剣を鍛錬し直したものだ」

「昔……」

「そう、この国で開かれる武道大会を甘く見ていた実に馬鹿な男がいたのさ」


 カインは諦観したように嘆息すると、武器の逸話を話し始める。


 あるところに、自分の実力に絶対的な自信を持つ青年剣士がいた。

 幼い頃から剣の才能に恵まれた青年は、生まれてから敗北の味というものを知らず、勇者として託宣を受けることはなかったが、いずれは自分がは勇者の仲間となって、竜王討伐を成すものだと信じて疑わなかった。

 そんな最強と言う名をほしいままにしていた青年は十八の時、自身の実力を確かめる為、ガトーショコラ王国で開かれている武道大会への出場を決めた。

 自分の実力に絶対に自信を持っていた青年は、圧倒的実力をもって相手を殺さないようにと、特注の刃を潰した剣で参加した。

 予選では絶対的な強さを誇り、周囲の者も突如として現れた新星に、青年を優勝候補として推す者も少なくなかった。


「だが、結果は散々なものだった」


 本戦に出場した青年の剣は、相手の体に一度も触れることなく、たった一度、相手と切り結んだだけであっさりと折られ、使い手は瀕死の重傷を負う羽目になる。

 青年は一命を取り留めたものの、二度と剣を持てない体となってしまった。


 話を終えたカインは、何処か懐かしむように相貌を細めながらロイの持つ剣を見やる。


「僕が一度折れたこれを鍛えたのは、その剣士の無念を晴らす為さ」

「無念……だって?」

「そうだ。剣が折れなければ、彼は武道大会で優勝できる実力を持っていた。しかし、武器の差でそれが果たせなかった。武道大会は、冒険者の実力を確かめる場で、武器の性能を試す場じゃない。ましてや人を殺す場でない。君もそう思うだろう?」

「ああ」


 その言葉には全く異論がないので、ロイは力強く頷く。


「だろう? だから僕は、いつの日かそれを証明してくれる者が現れると信じて、ひたすらこいつを鍛えてきたんだ。世界を救った勇者ならば申し分ない。必ずや、彼の無念を晴らしてやってくれ」

「…………」


 カインからの熱い思いを受け取ったロイは、暫し黙考する。


 話に出て来た青年は、まずカインとみて間違いないだろう。つまり彼は、過去に果たせなかった自分の無念をロイに果たしてもらいたいのだろう。

 その思いを受けるのは、これまでの旅で何度も経験してきたことだから抵抗はない。だが、それを受ける前に、ロイにはどうしてもカインに言っておかなければならないことがあった。


 ロイは胸に手を当てて姿勢を正すと、真摯な態度で話し始める。


「精一杯努力してみせるよ……ただ」

「ただ?」

「世界を救った勇者などと呼ばれているが、俺はそこまで強くない。当然、持てる力の全てをもって挑むが、優勝できるかどうかは未知数だ。そこだけは理解してほしい」

「心配するな。別にそこまで期待していない。ただ、武器の性能が全てではないということを証明してくれれば、それ以上は望まない」

「わかった。そういうことなら任せてくれ」


 ロイは力強く頷くと同時に、遠くから鐘の音が聞こえてくる。

 その音を聞いたカインが、慌てたようにロイに話しかける。


「あれは武道大会の開催を知らせる鐘の音だ。もう間もなく予選が始まるぞ」

「ほ、本当か。それじゃあ、こいつを借りていくよ」

「ああ、健闘を祈ってる」


 カインが拳を差し出してくるので、ロイはそれに拳を合わせる。


「行ってくる」


 ロイは剣を鞘にしまい、デュランダルと交差するように背中に括り付け、一気に駆け出した。

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