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劇薬

 任せて。と言ったエーデルの作戦が功を奏したのか、敵の猛攻は止まったが、力場がまだ働いていて動けないロイは、どうにか首を動かしてエーデルへと話しかける。


「エ、エーデル、動けるようになったのなら、早くこちらもどうにかしてくれないか?」

「あっ、ごめんロイ。そうね。早く助けてあげないとね……決して忘れていたわけじゃないのよ?」

「そ、それはいいから早くしてくれ。それと……」


 ロイは震える手でリリィとセシリアを指差すと、


「俺より先に彼女たちを助けてやってくれ」

「え~、でも……」

「いいから! どうやらリリィの限界が近いようだ」


 その言葉にエーデルがリリィへと顔を向けると、地面に突っ伏したままのリリィがいた。顔中に脂汗をかき、浅い呼吸を繰り返す様は見るからに辛そうだった。


「ふぅ、やれやれ仕方ないわね」


 リリィの喋る余裕すらなさそうな様子を見て、エーデルは小さく嘆息すると、杖を振りかざして高速で魔法を詠唱する。


「ブリッツ・ボルト!」


 すると、杖の先から辺りを眩く照らす電撃の塊が三つ生まれ、空中で制止する。

 三つの魔法を身に纏いながら、エーデルはマレクたちへと警告を飛ばす。


「さて、と。一応、親切で言ってあげるけど、魔法の詠唱をしようものなら、容赦なくこいつをぶつけるからね?」

「クッ、情けをかけるつもりか?」

「はぁっ? そんなわけないでしょう」


 悔しがるアベルに、侮蔑の視線を向けながらエーデルがマレクたちを殺さない理由を話す。


「魔法使いの研究所でその責任者を殺そうものなら、その瞬間に施設そのものが崩壊し始めるなんてどんな三流魔法使いでもやってる当然の処置よ。ましてやここは地下なんだから、全員で仲良く生き埋めなんて私はまっぴらごめんよ。だからこれは、死なないギリギリのところで出力を調整しているの……正直、これでも何が起こるかわからないから、あんたも死にたくなかったら余計なことはしないことね」

「あっ、うっ……」


 絶句するアベルが目で本当かどうかをマレクへと問いかけるが、マレクは未だに舌を向いたまま震えていた。


「マ、マレクさまぁ……」


 自分の魔法を見破られたのがそれほどショックだったのか、まるで使い物にならなくなった主の姿に、アベルはどうすることもできずにいた。


「……フン、まあ後でガトーショコラ王にそこの主共々突き出してやるから覚悟することね。さて、それより……」


 エーデルは興味を失ったかのようにアベルたちから視線を外すと、もはや虫の息になっているリリィへと近づいて手を伸ばす。


「やれやれ、粋がっていた割にはたいしたこのないのね。だから、あなたは小娘なのよまったく……」


 口では文句を言いながらも、エーデルの表情は真剣そのもので、杖を振りかぶり、暫くの間黙ったかと思うと、


「フンッ!」


 気合の掛け声と共に、リリィの背中に杖を叩きつける。


 すると、


「いっ、たああああああああああああああああああぁぁぁい!!」


 可愛らしい悲鳴と共に、リリィが飛び起きる。

 その大声に、エーデルは顔をしかめながらもう一度杖を振り下ろす。


「煩い!」

「イタッ! えっ、あ、あれ? 体が軽い?」


 突然力場から解放され、自由になった体を確かめるように手を握ったり開いたりを繰り返すリリィを尻目に、エーデルはセシリアの下へと向かう。

 再び杖を振りかぶり、セシリアの背中に杖を叩きつけた。


「あぐっ!?」


 前例を見たからか、セシリアはリリィのように大声を出すことはなかったが、それでも苦しそうに歯を食いしばって痛みに耐える。

 やがて、大きく息を吐くと、地面に手をついてゆっくりと立ち上がると、目に堪った涙を拭いながらエーデルへと頭を下げる。


「………………くぅ、あ、ありがとうございます」

「いいのよ。礼はいいから、今後私のロイに色目を使わないでね?」

「えっ? あっ、は、はい……」


 セシリア本人はそのつもりは毛頭なかったが、エーデルの迫力に押され、思わず頷いてしまう。

 それを見てエーデルは満足そうに頷くと、最後にロイの下までやって来る。


 しかし、二人の痛がり様を見ていただけに、ロイの顔は引き攣っていた。


「お、お手柔らかに頼むぞ?」

「いくらロイの頼みでもそれは無理。この魔法陣が生み出す力場の干渉から無理矢理引き剥がすわけだから、それなりの衝撃が必要なの。後で優しくねっとりと薬を塗ってあげるからそれで許してね」

「うう、そういうことなら……」


 ロイは覚悟を決めると、目を閉じて来るべき衝撃に備える。

 時間にして数秒であったが、ロイにとっては長い長い沈黙の後、


「フンっ!」

「――っ!?」


 文字通り、電撃が走ったかのような衝撃が背中に襲い掛かる。

 余りの痛みに思わず叫びたくなったが、それよりも――


「……………………動ける」


 今までのしかかっていた圧力が嘘のように去っているのをロイは自覚し、おそるおそる立ち上がる。

 そのまま立ち上がったロイが体の調子を確かめるようにしていると、


「…………かかったな?」


 獲物が罠にかかったのが嬉しくてしょうがないといった調子の声が響き渡った。

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