天才たる所以
「力場は未だに稼働し続けている。先程僅かな揺らぎ感じはしたが、それでも力場を打ち消すほどの力はなかった……一体、貴様は何をしたんだ」
「フフン、簡単よ」
マレクの質問に、エーデルは胸を揺らしながら答える。
「その答えは、私自身を力場に干渉されないようにしたの」
「馬鹿な! そんなことできるはずがない!」
「そうね。この研究所内にいる限り、それは難しかったわ。だからこう言った方がわかりやすいかしら? あんたが作ったご自慢の魔法陣の深部に侵入して、私を除外するようにしたの」
「なん……だと!?」
エーデルの答えを聞いたマレクの顔が驚愕に歪む。
「この私が……魔法研究に全ての心血を注ぎ、十年以上かけて完成したこの魔法陣の仕組みに僅か数分で辿り着いたばかりか、管理者権限にまでアクセスしたとでも言うのか!?」
「悪いわね。私ってばほら、天才だから? それにしてもこんな悪趣味で無駄に規模の大きい魔法、よくもまあ思いついたものね」
エーデルは大袈裟に肩を竦めると、自身の辿り着いた答えを語り始める。
「正直呆れたわ……まさかこの研究所そのものが一つの巨大な魔法陣になっていて、中にいる者から無差別に魔力を吸収する仕組みになっているなんてね。しかも、予め対象を絞り込んでおけば、力を底上げする魔法も、対象から外れた人間に枷をはめるような魔法も術者であるあんたがスイッチを入れ替えるだけで、溜めに溜めた魔力で魔法を自由に発動できる。ホント、良くできた魔法陣だと思うわ……」
そこで一度言葉を区切ると、エーデルは「ただ」と付け加えて嗜虐的な笑みを浮かべる。
「発想自体は悪くないけど、発動できる魔法は精々数種類、しかも動力が自信ではなくて、他者から無理矢理搾り取った魔力なんて魔法使いとしての矜持はないのかしら? あんたがどれだけ時間をかけて研究したか知らないけど、辿り着いた答えが決まった空間で決まった魔法しか使えない籠城戦を前提とした魔法……まさに自分の醜さに卑屈になって碌に素顔を晒すこともできずにいるあんたにはお似合いの魔法ね」
「うぐっ……」
「しかも、自分の力に酔っているのか、魔法陣の構造を複雑にし過ぎね。常に魔法陣と接続者の間で絶えず情報の交換なんかしているもんだから、こうやって……」
エーデルは杖をくるりと回すと、先程兵士たちの間を駆け抜けた光の玉を発生させる。
「こんな魔法の体も成していないただの魔力の塊をかき混ぜるように放るだけで、接続されている人間に過干渉を起こし、頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられちゃって魔力酔いで意識を奪われてしまう。可哀想に、重度の魔力酔いって本当に辛いのよね……あっ、ちなみにそれがどれだけ辛いか体験したかったら、その辺の倒れている人に触ればわかるわよ」
エーデルは「説明終わり」と言うと、杖をくるりと回して魔法を撃つ構えを取る。
「さて、これで形勢逆転ってところかしら? 少しでも怪しい動きをしたら、消し炭にしてやるからね」
「クッ、マ……マレク様」
「…………」
アベルは縋るようにマレクを見やるが、マレクは下唇を噛み、血が滲むほどに手を握って屈辱に耐えるようにしていた。




