表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/114

一矢

 ――次の瞬間、一条の光が兵士たちの間を駆け抜けた。


 その光は、音もなく視認することすら難しい速度で通り過ぎたかと思うと、あっという間に彼方まで消えて行ってしまった。


「な、何だ?」


 突如として現れた謎の光に、アベルが思わず光の消えて行った方向へ顔を向ける。

 しかし、光が消えて行った方向からは空気の音が聞こえてくるだけで、何かしらの変化が起きた様子はない。

 ならば一体何が? アベルが首を傾げながら再びロイたちへと目を向けると、


「な、何だと!?」


 そこには、倒れている兵士たちの姿があった。

 見たところ目立った外傷はない。

 まさかロイたちが何かしたのか? そう思ったが、全員が床に這いつくばった姿勢のままでおり、何か特別なことをしたようには見えなかった。

 どうやら力場は問題なく作用しているようだ。

 しかし、現実は倒れている兵士たちは一様にピクリとも動かない。呻き声一つ上げることもなければ、呼吸を示すような胸の上下運動すらない。


「まさか……死んでいるのか?」


 自分で言っていて馬鹿馬鹿しいと思ったが、アベルはおそるおそる手を伸ばして近くの兵士の首元を触ろうとする。


「触るな!」

「――っ!?」


 兵士の首元に触れるか触れないかの直前で、鋭い声が響いてアベルはビクッ、と体を震わせると、慌てたように手を引っ込める。


「マ……マレク様?」


 おずおずと立ち上がりながら、アベルは背後に控えるマレクへと声をかける。


「い、一体何が起こったのかご存知なのですか?」

「………………」

「マ、マレク様?」


 しかし、アベルの問いには答えず、マレクは一点を睨んだまま顔を真っ赤にして怒りで震えていた。


 歯を食いしばり、唇の端から血を流すほど怒りを露わにするマレクを見て、アベルが恐怖に打ち震えていると、


「フフッ、どうしたの? 触らないのかしら?」


 場の空気を一変させるようなソプラノボイスが響く。

 余裕を含んだその声に、アベルは弾けるように声の方へと顔を向ける。


 するとそこには、力場が働いているにも係わらず、泰然とした様子で立つ一人の少女がいた。

 かつて天才と呼ばれ、今も進化し続ける稀代の天才魔法使い、エーデル・ワイス・リベルテが不敵な笑みを浮かべていた。


「そこで触っておけば、そこにいる兵士たちと同じように全てが終わるまで眠っていられたのにね」

「なっ……」


 ゾッとするような笑みを浮かべたエーデルの言葉に、アベルは顔を青くしながら後退る。


「あだっ!?」


 そのまま尻もちをついたアベルを見て、エーデルは口元に手を当ててクスクスと笑う。


「フフッ、どうやら上手くいったようね

「……何故だ。何故、お前は動ける」


 すると、これまで黙っていたマレクが絞り出すように声を出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ