一矢
――次の瞬間、一条の光が兵士たちの間を駆け抜けた。
その光は、音もなく視認することすら難しい速度で通り過ぎたかと思うと、あっという間に彼方まで消えて行ってしまった。
「な、何だ?」
突如として現れた謎の光に、アベルが思わず光の消えて行った方向へ顔を向ける。
しかし、光が消えて行った方向からは空気の音が聞こえてくるだけで、何かしらの変化が起きた様子はない。
ならば一体何が? アベルが首を傾げながら再びロイたちへと目を向けると、
「な、何だと!?」
そこには、倒れている兵士たちの姿があった。
見たところ目立った外傷はない。
まさかロイたちが何かしたのか? そう思ったが、全員が床に這いつくばった姿勢のままでおり、何か特別なことをしたようには見えなかった。
どうやら力場は問題なく作用しているようだ。
しかし、現実は倒れている兵士たちは一様にピクリとも動かない。呻き声一つ上げることもなければ、呼吸を示すような胸の上下運動すらない。
「まさか……死んでいるのか?」
自分で言っていて馬鹿馬鹿しいと思ったが、アベルはおそるおそる手を伸ばして近くの兵士の首元を触ろうとする。
「触るな!」
「――っ!?」
兵士の首元に触れるか触れないかの直前で、鋭い声が響いてアベルはビクッ、と体を震わせると、慌てたように手を引っ込める。
「マ……マレク様?」
おずおずと立ち上がりながら、アベルは背後に控えるマレクへと声をかける。
「い、一体何が起こったのかご存知なのですか?」
「………………」
「マ、マレク様?」
しかし、アベルの問いには答えず、マレクは一点を睨んだまま顔を真っ赤にして怒りで震えていた。
歯を食いしばり、唇の端から血を流すほど怒りを露わにするマレクを見て、アベルが恐怖に打ち震えていると、
「フフッ、どうしたの? 触らないのかしら?」
場の空気を一変させるようなソプラノボイスが響く。
余裕を含んだその声に、アベルは弾けるように声の方へと顔を向ける。
するとそこには、力場が働いているにも係わらず、泰然とした様子で立つ一人の少女がいた。
かつて天才と呼ばれ、今も進化し続ける稀代の天才魔法使い、エーデル・ワイス・リベルテが不敵な笑みを浮かべていた。
「そこで触っておけば、そこにいる兵士たちと同じように全てが終わるまで眠っていられたのにね」
「なっ……」
ゾッとするような笑みを浮かべたエーデルの言葉に、アベルは顔を青くしながら後退る。
「あだっ!?」
そのまま尻もちをついたアベルを見て、エーデルは口元に手を当ててクスクスと笑う。
「フフッ、どうやら上手くいったようね
「……何故だ。何故、お前は動ける」
すると、これまで黙っていたマレクが絞り出すように声を出した。




