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路地裏の小さな反抗

「はぁ……はぁ……はぁ……くそっ、まさか先手を打たれるなんてな……」


 真っ暗な裏道を、荒い息を吐きながらインは必死の形相で駆けながら、ここに至るまでの経緯を思い出していた。

 


 報告のためにオニキスの店に向かったインを待っていたのは、何者かの襲撃に遭い、火が放たれた酒場だった。

 火の勢いは凄まじく、随分と離れたところにいるインにもその熱気が伝わって来るほどだった。

 労働者たちの憩いの場である酒場の火を消そうと、周辺の住民が総出で火消しに当たっていたが、桶に水を汲んだ程度の火消しでは、夜の闇を赤々と照らす炎を消すには到底足りなかった。


 この家事は間違いなく放火であり、近くに行くのは危険とわかっていたが、オニキスの安否を確認しようとインは気配を殺しながら酒場に近付く。


 すると、


「――クッ!?」


 突如として背中に鋭い痛みを感じ、インは前へ倒れ込むように逃げる。


 炎に気を取られて周りへの警戒を怠ったことを悔やみながらインが後ろを振り返ると、全身黒ずくめの男か女かもわからない何者かが、ナイフ片手に立っていた。


「チッ、浅かったか」


 その者は、黒く塗りつぶしたナイフについた血をちろりと舐めながらくぐもった声で告げると、そのままインに襲い掛かってくる。


「じょ、冗談じゃない!」


 インは背中に走る痛みを食いしばって耐えると、必死の形相で逃げ出した。


 果たしてオニキスたちは無事なのだろうか? そんな心配をする余裕などインにはなかった。

 誰に襲われたかなど確認する暇もない。インにできたのは、襲撃者に無様に背中を晒して逃げることだった。

 背中の傷は決して浅くなく、走る度に背中から流れた血が点々と残り、襲撃者にインの居場所を教えてしまっていた。

 インの能力は、意識されていない状況でしか効力を発揮できないので、こうして目的をもって追いかけられては成す術はなく、しかも急速に血を失って意識が朦朧としているインに、何か打開策を考える余裕はなかった。

 襲撃者も遠くないうちにインが倒れることをわかっているのか、決して無理に深追いしようとはせず、見失わない程度の距離でインを追跡していた。



 ――そして現在へと至り、追跡劇を繰り広げながら右へ左へ折り返すこと数度、襲撃者の方が痺れを切らしたのか、距離を詰め始める。


「はぁ……くそっ、ここまで……なのか?」


 もう足を上げるのも辛い。このままここで倒れたら、一思いに殺してもらえるだろうか? そんな弱気な考えが頭をよぎり始める。

 そんな時、ロイとの約束がインの頭によぎる。


「………………諦めて…………たまるか」


 オニキスたちも、まだ死んだと決まったわけではないのだ。この国で何年も裏家業を担って来たオニキスだ。きっと襲撃される前に自分でも知らない様な秘密の抜け穴から脱出しているに違いない。ならば、自分も簡単に命をくれてやるわけにはいかなかった。


 だが、現実はそう甘くはない。後ろを振り向けば、襲撃者がすぐ後ろまで迫っていた。


「く、来るならこい!」


 インは覚悟を決め、襲撃者に対峙するために腰を落として構えると、


「う、うわあああああああああああああっ!!」


 叫び声を上げながら、襲撃者に向かって突進していった。

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