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そして再び立ち上がる

「待ってろ。今、出してやるからな」


 ロイは右手を腰に吊るした片手剣に伸ばすと、セシリアとの間にある檻を一閃する。

 

 障害物を排除したロイは、呆然とこちらを見つめるセシリアのすぐ脇に膝をつき、身に着けたマントを外して一糸まとわぬ彼女へとかけてやる。


「……セシリア?」


 ロイは固まったまま自分を見つめるセシリアの肩を掴むと、少し強めに話しかける。


「しっかりしろ! まさか、俺のことがわからないとか言うんじゃないよな?」

「ロ、ロイ……本当に…………ロイ…………なのですか?」

「ああ、待たせて悪かったが助けに来た。もう、安心していいぞ」

「あん…………しん?」

「そうだ。俺が来たからには、セシリアのことは全力で守るから」

「――っ!?」


 助かった。その報せを聞いたセシリアは、体を震わせると弾けるようにロイに抱きつく。


「ロイ! ロイ! 怖かった! 私、怖かったの」

「ああ……」

「もう絶対に助からないと……死ぬしかないのだと思っていた。ここに入れられてから、人々の苦しげな悲鳴が絶える時がなくて……もう、気が狂ってしまいそうだった!」

「ああ……」

「ロイが来てくれなかったら今頃きっと私も……う、うう……うわあああああああああああああん!!」


 セシリアはロイの胸に顔を押し当てると、堰を切ったかのように大声で泣き続けた。



 敵に見つかる危険はあったが、それでもロイはセシリアが泣き止むまで、文句ひとつ言わず彼女の背中を擦り続けた。


 どうせここにいる全ての施設を破壊するのだ。別に今更誰かに見つかったところで、自分のやるべきことを変えるつもりはない。ロイはそう固く決めていた。

 そう思いながらセシリアの背中を優しく擦っていると、突如としてけたたましい音が響き渡る。


「うわっ、な、何だ?」

「どうやら私たちの存在が連中にバレたみたいね」


 耳障りな音に顔をしかめながら、エーデルが辺りを注視しながら話しかけてくる。


「じきに追手がここまで来るわ。悪いけど、泣くのはそこまでにしてもらえるかしら?」

「おい、エーデル。そんな言い方……」

「い、いえ……エーデルさんの言う通りです。早くここを出ましょう」


 気持ちの整理がついたのか、セシリアは目に堪った涙を拭うと、ニコッと笑ってみせる。


「さあ、ロイ。早く行きましょう」

「……わかった。行こう」


 ロイは手を伸ばしてセシリアを立たせてやると、腹に力を籠めて力強く話す。


「だけど、ただ逃げるんじゃない。全てを壊して脱出するんだ……手伝ってくれるか?」

「ええ、勿論です。私もこの研究所は潰してしまわなければ、と思っていました」

「なら、話は早い」


 そう言うと、ロイは殺した兵士から奪っておいた槍をセシリアに差し出す。


「セシリアが使っていた武器ほどではないが、ないよりましだろう。それと、エーデル?」

「はいはい、わかってますよ」


 エーデルは杖を構えると、セシリアが手にした槍に強化魔法、ハルトをかける。

 同時に、セシリアが手にした槍がぽわっと淡い光を放ったと思うと、まるで新品同様になったかのように鈍い光を放つ。

 それを見たエーデルは「上手くいってよかった」と言って小さく嘆息すると、自信なさげに笑う。


「生憎と私は、補助魔法は専門外であまり得意じゃないの。だから、効果のほどは期待しないで頂戴」

「いえ、助かります。それでは少し失礼して……」


 セシリアは小さく息を吐くと、調子を確かめるように勢いよく槍を振り回す。


「…………」


 ビュンビュンと小気味のいい音を立てながら槍を振り回すセシリアを見て、ロイは微笑を浮かべる。

 この様子なら、もうセシリアは問題なさそうだった。


 自分の調子を確かめるように槍を振り回したセシリアは、大きく息を吐き出した後、納得がいったように頷く。


「うん、この槍であれば、自分が使っていた槍と遜色なく戦えるでしょう」

「そう……なら、何よりだわ。それじゃあ、反撃といきましょう」


 そう言うと、エーデルは杖を高々と振り上げ、杖の先に煌々と光る玉を生み出すと、


「さっきから、ブーブー煩いのよ!」


 鬱憤を晴らすように叫びながら杖を振り下ろした。

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