願い
「…………クッ」
傷口からの鋭い痛みに、セシリアは再び意識を覚醒させる。
もう何度、痛みで意識を失っては目を覚ますという行動を繰り返したのだろうか。意識を取り戻しても、辺りは視界が全く利かない暗闇なので、あれからどれだけの時間が経過して、自分が実験道具にされて無残に殺されるまでどれぐらいの時間が残されているのか、全くわからなかった。
これから自分はどうなってしまうのだろうか。気を失う前に聞いた断末魔を思い出すと、今も震えが止まらない。
きっと、大の大人が声の限り喚き散らすのだから、想像を絶する痛みと苦痛が待ち受けているのだろう。
「……私にそんな苦痛が耐えられるのだろうか?」
いや、自分ならきっと痛みに耐えられず、滂沱の涙を流しながら命乞いをするのだろう。その後は恥も外聞も捨て、全力で命乞いをするのだろう。
「だったらいっそのこと、女であることを全面に押し出して……奴隷になると誓えば……」
アベルは筋肉質な自分の体には魅力はないと言っていたが、これでも女性として出ているところは出ている。やったことはないが、娼婦のように妖艶に迫れば……
「――っ!?」
そこまで考えたところでセシリアは、いつの間にかこの理不尽な状況を受け入れていることに、それを踏まえたうえで、醜く生き抜く方法を模索していることに気付き、言いしれない恐怖を感じて思わず身震いをする。
このままでは、女がてらに騎士として生きてきたセシリア・マグノリアという尊厳が生きたまま死んでしまうように思えたのだ。
「嫌だ……私はまだ死にたくない。でも、騎士としての誇りを捨ててまで生きたいとは思わない。私はただ、真実が知りたかっただけなのだ」
セシリアは、このまま暗闇に溶けて消えてしまわないように自分をしっかりと抱くと、涙を流しながら嗚咽を漏らす。
「誰か……助けて…………誰か………………」
自分がここに囚われていることを知っている人間が殆どいないとわかってはいるが、
「助けて……ロイ…………」
世界を救ったという救世の勇者……ロイならば、絶望的な状況から救い出してくれるかもしれない。そう思わずにはいられなかった。
だが、わかっている。そんな都合のいい話なんてない。現実は、常に非情で残酷なのだ。
「だったらせめて、灯りだけでも……これ以上、暗いところにいると、本当にどうにかなってしまいそうなんだ。これ以上、私は自分を汚したくないのだ」
そんなセシリアの願いが届いたのか、遠くに方で小さな灯りが生まれる。
「あ、ああ……」
それを見たセシリアは、震えながら光へと手を伸ばす。
それはひょっとしたら、自分を破滅へと追い込む死神かもしれないのだが、自分の尊厳を失いたくない一心のセシリアには、関係なかった。
どうせ死ぬのならば、潔く……心が壊れてしまう前に死にたい。
その決意が鈍る前に、と思うセシリアであったが、現れた光は生憎と死神などではなかった。
「セシリア、大丈夫か?」
それは死神とは真逆、希望の光ともいえる救世の勇者だった。




