それぞれの道へ
ロイは神妙な顔をすると、この研究所で犠牲になった人たちがあの壁の向こうに入れられ、おそらく今は、死体を処分するために火を放っているのだろうという話をした。
「そんなことが……」
ロイの話を聞いたリリィは、顔を青くさせて自分を抱くようにして震える。
「これが、本当にひとのやることなの?」
「ああ、しかも犠牲者の中には、城でセシリアを探すのを手伝ってくれた城の兵士がいた」
「えっ、何のために?」
「おそらく、余計な詮索をするなという警告だろうな。彼等がいつか自分たちが同じ目に遭うんじゃないかと怯えていたよ」
「でも、そうなる前にロイによって殺されちゃったんだね……研究所の実験に使われて、ああやって焼かれるよりは、少しはマシだったのかな?」
「……死ぬことに、どちらがマシなんてことはない」
後からやって来たインが、床に転がる死体を見て渋面を浮かべる。
「……やむをえなかったのかもしれないが、マズイことになった」
「マズイ?」
「ここの連中は、余計なことをしないようにと、決められたテーブル通りに動くように徹底されている。それが崩れるということは……」
「そいつが何か不埒な行いを働いたか、侵入者が現れたと判断されるというわけか」
その言葉に、インが静かに頷き、切羽詰まった顔で話す。
「こうなったら一刻の猶予もない。とっととを見つけて脱出するぞ」
「いや、それだけでは駄目だ」
ロイはかぶりを振りながら、仲間たちに自身の考えを話す。
「ガトーショコラ王国がこの研究所のお蔭でどれほど発展したか知らないが、こんな非人道的な研究所の存在は、絶対に許してはいけない」
「ロイ……それは本気なの?」
リリィの質問に、決意の表情を浮かべたロイが話す。
「ああ、エーデルは魔法の発展のためにはある程度の犠牲は必要だと言っていたが、それでもここは行き過ぎだ。こんな人の尊厳を踏みにじられ、無残に殺される人をこれ以上、作ってはいけないんだ。だから、俺はセシリアを助け出した後、この研究所を可能な限り破壊して、ガトーショコラ王に全てを話そうと思っている」
「そう……だね。ボクもそう思うよ。エーデルさんもいいですよね?」
「そうね。ここの連中が何を研究していたのかは気になるけど、それより私は、ロイのやりたいことを尊重するだけだから異論はないわ」
話を聞いたエーデルとリリィの二人も、力強く頷いてロイの作戦に乗り気になる。
だが、
「俺は……反対だ」
ただ一人、インだけがロイの意見に反対する。
「俺はここを調べた時、ここがどれだけヤバイところかを散々思い知らされた。今も状況は最悪だが、連中は連中も国の外までは追っ手を差し向けないはずだ。だから、ここは必要最低限の目的だけを果たして、とっとと逃げるべきだ」
「わかってる。だから、インとはここでお別れだ」
「何だと?」
「ここから先、言うまでもなく荒事が起きる。インは戦闘が得意じゃないらしいから、俺たちの無茶に付き合う必要はないさ。今ならここから脱出のはそう難しくないだろうし、それがイン一人なら尚更だろう。だけど、万が一俺たちが負けて捕まったらインやオニキスさんにまで手が回るかもしれないから、オニキスさんにほとぼりが冷めるまで姿を消すようにお願いしてほしいんだ」
「…………わかった」
まだ納得いかない様子のインだったが、ここで無駄な時間を過ごしている暇はないと判断したからか、すんなりと引き下がる。
「だが、忘れるなよ。お前たちは、俺にまだ金を払っていないんだ。地獄まで取り立てに行くなんて真似したくないから、必ず生きて帰ってこい。いいな?」
「ああ、約束するよ」
ロイはインと固く握手を交わすと、再会を約束して別れた。




