受付での一幕
「おうよ。兄ちゃんたちで最後か?」
受付に辿り着くと、禿頭の偉丈夫が二カッ、と白い歯を見せながら一枚の紙を差し出して来た。
「先ずはここに書いてある注意事項をよ~く読んでくれよ」
「あ、ああ……」
禿頭の偉丈夫の迫力に、ロイたちは少し後ずさりながら注意事項に目を通す。
そこには、武道大会における細かな概要が書かれていた。
ガトーショコラ王国が主催する武道大会、正式名称を武闘覇王祭というそうだが、この大会での優勝で得られるものは、名誉と二~三年は遊んで暮らせる程度の賞金、そしてガトーショコラ王に拝謁し、実現可能な願い事を叶えてくれる権利が与えられるという。
この大会では、基本的に殺生を禁じてはいるが、毎年死亡、もしくはそこまで至らなくとも、一生残る傷を負うことが決して珍しくない。そこで、例え一生残るような怪我、もしくは死亡してしまっても、その保証は一切ないことを了承するというもの。
他にも、細々とした説明が延々と書いてあったが、要はこの大会に出る人間は、純粋に強さを求めている人間だから、余計な下心がある者の出場はお勧めしない。それを理解した上で参加すること、とあった。
ロイたちが注意事項を読んだところで、偉丈夫が改めて名簿と思しきものを差し出してくる。
「まあ、そういうわけだ。覚悟が出来た者からこの名簿に記名して、名前の下に拇印を押してくれ。ちなみに、それをした時点でこちらの要求に全て応えたとされ、その後の文句は一切受け付けないからそのつもりでいてくれ」
「だってさ。どうする?」
念のためにと、キリンが尋ねてくるが、
「問題ない。魔物と対峙することに比べれば、たいしたことじゃない」
「私もです。それぐらいで辞めるくらいなら、わざわざこんなところまで来ないですよ」
ロイもセシルも全く臆することなく頷くと、名簿にサインをして拇印を押した。
三人分の名前を確認した偉丈夫は、大きく頷くとこれからの予定について告げる。
「よし、確かに。それじゃあ、今から二時間後に城内で予選が始まるから、それまでに準備を整えておいてくれ。一応言っておくが、遅れたら失格になるからな……っと、そのれとだな」
すると、何かに気付いた偉丈夫がロイの背中を刺しながら口を開く。
「実直勇者さんよ。まさか、背中の剣を使ったりなんてしないよな」
「え? あっ、流石にこれを使うつもりはありませんけど」
「そうか、それならいいんだが……なら、勇者さんはどの武器で戦うつもりだ?」
「どの武器って、ここで何か貸してもらえたりしないのですか?」
「残念ながら、武器は自前で用意してもらうことになっている。ちなみに、城の中に一歩でも足を踏み入れたら試合で負けるか、大会が終わるまで城の外へは出られないから、武器が必要なら、それまでに用意してくれ」
大抵の武器ならこの街で揃うから時間には遅れないように。と釘を刺すと、偉丈夫は受付用の机を片手に担いで城の中へと消えて行った。
残されたロイは、困ったように眉を顰める。
「……どうしよう」
「どうするって、一時間以内に武器を用意するしかないだろう」
「そうなんだけど……」
「けど?」
首を傾げるキリンに、ロイがお手上げといった風にもろ手を上げる。
「金がない。俺たちの金は、全てエーデルが管理しているからな」
「なっ!? そいつはやべぇだろ。エーデルちゃんたちが泊まる予定の宿の場所とかわかるのか?」
「わからない。だから、先ずは宿から探さないと……」
「その心配はありませんよ」
焦って今すぐにでも走り出しそうなロイに、セシルが待ったをかける。
「ロイは武道大会へ出るのです。でしたら、武器屋の方から協力を申し出てくれると思いますよ」
「……どういう意味だ?」
頭に疑問符を浮かべているロイに、セシルがその理由を教えてくれる。
この街の武器屋は、武道大会の参加者の為にあるといっても過言ではなく、選手であるとわかれば、店の武器を無償で貸してくるという。
「ただ、貸してもらえる武器は店が選ぶことになっています。つまり、その者が店の期待に応えてくれる者ならば、より上質な武器を無償貸与してもらえます。そう言う意味では、ロイならばどの店でも最高の武器を用意してくれるはずですよ」
「そう……なのか?」
「当然です。何せ、世界を救った勇者様が自分の店の武器を使ってくれるとなれば、宣伝効果はバッチリですからね。かくいう私の武器も、この街の武器屋から貸してもらった業物なのです」
そう言うセシルの背中には、折りたたまれた長槍が括り付けられていた。眩い光を放つ白銀の槍は見るからに業物で、購入するとなるとかなりの覚悟が必要に思われた。
「そういうわけです。良い武器に巡り合えるかどうかは、ロイ次第だから行くなら早い方がいいですよ」
「わかった。アドバイスありがとう」
ロイはセシルにお礼を言うと、武器屋が集まる通り目掛けて駆け出した。