激高の闘士
カサムが今にも斬りかかろうとした時、
「…………………………さい」
これまで沈黙を貫いていたキリンが何かを呟く。
「えっ、何です?」
すると、カサムが律儀にもキリンが何と言ったのか聞いてくる。
「何をボソボソを呟いているのですか? 負けるのが悔しくてやさぐれる気持ちもわかりますが、そういう態度は……」
「煩いって言ってるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」
我慢の限界に達したキリンは、突然、狂ったように喚き散らすと、鬱憤を晴らすように床を踏み抜く勢いで地団駄を踏む。
「こんな! クソみたいな! 試合展開! 俺様は! 絶対に認めないからな!」
血涙華で強化された体でキリンが地団駄を踏む度に、舞台上に放射状にヒビが入る。
「俺様だって! 好きでこんなザコに苦戦してんじゃねえよ!」
「お、おいおい……ちょっと待て」
会場全体が揺れ出すほどの地団駄に、カサムが焦ったように声を上げるが、キリンの耳には届かない。
「客も! 好き勝手に言いやがって! 俺様はな……」
キリンは大きく足を振り上げると、会場全体を揺るがさんばかりの勢いで叫ぶ。
「最強なんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
魂の絶叫を響かせながらキリンが足を振り下ろすと、とうとう舞台がその衝撃に耐えきれなくなったのか、キリンを中心に大きくひび割れて崩壊してしまう。
「ああっ!! キリン選手、何と舞台を破壊してしまいました! 尚、舞台を破壊しても試合を中断することはありませんので、両選手はそのまま試合を続行してください」
「どうわっ!? マ、マジかよ」
マシューの発言にカサムもかなり驚いたようで、崩れる舞台から転げ落ちないように必死にバランスを取る。
しかも、このキリンの行動がカサムに取って予想外の展開となる。
一つは、必死の形相のカサムとは対照的に、派手な展開にこれまで罵倒の言葉を発していた観客たちが一気に沸き立ったこと。
そして、もう一つは……、
「捉えたぜ!」
「なっ!?」
額に青筋を浮かべたキリンが、目の前に迫っていたことだった。
力場によってまともに動くことができないはずのキリンが、足場に気を取られたとはいえ、ここまでの接近を許したことにカサムは混乱しそうになる頭を必死に働かせて打開策を練る。
(いや、待てよ?)
思い返せば、力場の恩恵は能力向上、低下だけではなく、カサムに強力な防壁を張ってくれていた。
ならばここで慌てて対処しなくても、最低限の防御行動を取るだけで、力場がキリン攻撃を跳ね返してくれる。その後、無防備になったキリンの生意気な顔に、容赦ない一撃を加えてこの勝負を決することができるはずだ。
別に慌てる必要はない。僅かな時間でそう結論付けたカサムは、不敵な笑みを浮かべてキリンの攻撃に備えた。
迎撃態勢を取るカサムに、キリンは真っ正面から全体重を乗せた突きを放つ。
後先何て考えない無謀な攻撃に、カサムの顔に余裕の笑みが浮かぶ。
しかし、
「だらぁっ!!」
「ががっ?」
力場によって守られるはずのキリンの攻撃が、カサムの左頬を捉えたのだ。
何故? どうして? 咄嗟に首を捻ってダメージを軽減させたものの、カサムは驚きを隠せないでいた。
そんな混乱した様子のカサムに、血走った目のキリンがさらなる追い打ちをかける。
地面に激突したカサムに強烈なかかと落としを喰らわせると、その反動で浮いた体を上空へと蹴り飛ばす。
「まだまだぁ!」
上空へと飛ばされたカサムを追いかけるように、キリンも地を蹴って飛ぶ。
そのままキリンはカサムを飛び越し、武道場の天井付近まで到達する。
「今度こそ決める! 必殺、ダイナミックボンバー!!」
技の発生と共に、キリンの足先が赤く光り出し、一筋の流星となってカサムへと襲い掛かる。
「ううわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
空中で回避できないカサムは、迫るキリンを前に叫ぶことしかできなかった。
次の瞬間、キリンの必殺技がカサムへと直撃し、凄まじい轟音と共に地面へと激突した。




