仕組まれた罠
「フフッ、救世の勇者のパーティーメンバーと戦えるなんて光栄だね」
割れんばかりの観客の声援を耳にしながら、舞台の上に立つカサムがキリンに話しかける。
「ここまでよく勝ち進んできたと素直に賞賛の言葉を述べさせてもらうけど……残念ながら君では僕には勝てないよ」
「……それは、お前だけが能力を底上げする恩恵を受けているからか?」
「ほう……」
キリンの言葉に、カサムは驚いたように目を見開く。
「君のような脳筋野郎が、まさかそのことに気付いているなんて思わなかったよ。もしかして、誰かから入れ知恵されたのかな?」
「そんなんじゃねえよ。ある程度の実力がある人間ならば、お前等の実力が見立てとは違うことぐらいにはすぐに気付く。次から同じ手を使う時は、もう少し上手くごまかす手を考えとけとお前の飼い主に行っておけ」
「了解。貴重な意見をありがとう。でも、そこまでわかっていながら、運営の方に何も言わずこの場に立つなんて……やっぱり君は馬鹿なのか?」
「ああん、やっぱお前はわかっていないな」
キリンは大袈裟に嘆息してかぶりを振ると、カサムを指差して挑発するように鼻を鳴らす。
「お前みたいな調子に乗っている奴を、圧倒的な力で叩きのめすのが真の強者というものだ。悪いが容赦も手加減もするつもりはないから、首を洗って待っているんだな」
「おおっ、怖い怖い。それは、是非とも肝に命じておきましょう」
カサムは両手を上げて肩を竦めると、キリンに背を向けて自分の立ち位置へと移動する。
その顔は、観客から見えないように手で覆っているものの、隙間から見える口は醜悪に歪んでいた。
「……馬鹿め。この会場に仕掛けられた魔法が、能力上昇だけだと思ったら大間違いだぜ」
そう呟くと、カサムは自分の胸についた汚れを落とすようなジェスチャーをする。
これで舞台上にさらなるしかけが発動するように、運営側へと指示がいったはずだ。
「まあ、せいぜい余裕を見せているといいさ」
発動に少し時間がかかるだろうが、これで自分の勝ちは絶対に揺るがないものになった。カサムは間抜けなキリンの姿に緩みそうになる頬をどうにか引き締めると、ハルバードを構えた。
キリンとカサムの二人が、舞台のそれぞれの端に分かれたところで、
「二人とも、用意はいいか?」
審判の男性が二人に声をかける。
「この準決勝という場に相応しい戦いをしてくれることを切に願う」
「ああ」
「勿論です」
審判の言葉に、キリンとカサムの二人は、それぞれ構えを取ったまま答える。
それを見た審判は、頷くと手を掲げて、
「はじめっ!」
手を振り下ろすと同時に、試合開始を告げた。




