戦士の矜持
その後、二人の姿が舞台から消えたところで、
「ロイ、聞いてくれ」
神妙な顔のキリンが話を切り出す。
「こっから先、俺様は一切の手加減なく、全力で戦うことを誓うぜ」
「キリン?」
「今まで俺様は、この大会を斜に構えて挑んでいた……まあ、竜王討伐と比べたら、この程度の大会は全然たいしたことはないし、命の危機もない。それでも、この大会は自分の力を……日頃の鍛錬の成果を挑む場としては最高の場だと敬意を持っていた。だが、実際はどうだ? 実力者だと思っていた連中は、密かに魔法を使って自分の力を底上げして、さらには普通の武器屋では用意できない様な特別な武器まで使っていた。俺様は、そんな平然と不正行為をするような連中を許すことはできない」
キリンは犬歯を剥き出しにして獰猛に笑うと、自分の中でたぎる思いを爆発させる様に激しく拳を打ち鳴らす。
「だからよ。俺様は無影流の真髄をもって不正行為野郎共に一泡吹かせてやろうと思うんだ。勇者のパーティーは、そんな力を使わなくてもお前等なんかに負けるはずがないっていう証明をみせてやるよ」
「ああ、信じているぞ」
「おうよ、大船に乗った気でいてくれよな」
ロイとキリンは互いの拳を合わせると、力強く頷いた。
そして、ライジェルたちの試合から一時間後――
「皆様、大変長らくお待たせ致しました。会場の準備が整いましたので、まもなく準決勝第二試合を始めたいと思います!」
舞台とサンの砲撃によって壊れた観客席を突貫で修復したが、実況席までは手が回らなかったようで、半壊した実況席でマシューが声を張り上げていた。
「次に戦うのは、これまでも圧倒的な強さを見せつけてくれ、救世の勇者をも倒した武道家、実力はあるが人気はないキリン・サイフウガ選手と、過酷な特訓を経て、我がガトーショコラ王国軍でも指折りの実力者となったハルバード使い、カサム・フラメント選手です。圧倒的な力を見せつけて勝ち上がってきた両者なだけに、この二人が激突すれば激戦は必至でしょう……」
その後も続くアナウンスを耳にしながら、キリンとカサムの二人が入場してくる。
――マズイな。
キリンに案内された選手用の観客席で、引き続き観戦をしていたロイの耳に、デュランダルの緊迫した声が聞こえる。
――キリンの対戦相手、カサムと言ったか? あの男もこの力場の恩恵を受けているようだな。
「そうか……ちなみにキリンは?」
――当然ながら、恩恵は受けていないな。どうやらこの大会を運営している者は、キリンにはここで負けてもらうつもりなのだろう。先程より力場の力が強まっているようだ。
「…………」
デュランダルの呟きを耳にしながら、ロイは歯を食いしばって耐えるように拳を握る。
その話が事実なら、この武道大会を運営する人間は、この大会の組み合わせから勝利者まで、全て自分たちの思い通りにしようとしているといっても過言ではない。
それに、ここまで残っている選手、全員が力の増幅する力場の恩恵を受けているということは、彼等も運営側とグルということだろう。
世界中の猛者を集めて競わせると謳いながら、その実は、決まった人間だけが勝つシステムを裏でひっそりと構築していたという事実は、実直勇者と呼ばれるほど真っ直ぐなロイにとって許せないことだった。
「だけど、キリンは……俺たちの頼りになる仲間は、こんな卑劣な手に屈することはない」
――ふむ、見たところカサムの力は、キリンと遜色ないほど底上げされているようだが……もしこれ以上、力場から得られる力が増すようであれば、勝つのは難しいのではないのか?
「……それでも、キリンが勝つよ」
ロイは顎を引いて声を押し殺してそう告げると、祈るような気持ちで舞台に立つキリンに目を向けた。




