持つ者たちの戦い
その後も、度々観客席へと飛び込む光弾に悲鳴が上がる様子を見ながら、ロイが呆然とした様子で呟く。
「あれは……何だ?」
――あれは雷魔法、ライトニングボルト……のようなものだな。ふむ、面白い。あれも魔法にして魔法に非ずものだ。この国の魔法技術はどうなっているのだ?
驚くロイたちを尻目に、デュランダルが楽しそうに話す。
――術者もいないのに恒久的に発動し続ける魔法など、まるで我のようではないか。人間の魔法技術もとうとうここまで来たのか。実に面白い。
「面白いって……旦那、それどころじゃないんじゃないのか?」
「そうだな。被害がでかくなる前に動いた方がよさそうだ」
ロイたちは頷き合うと、観客たちを助けるために動こうとする。
しかし、
――いや、どうやらその必要ななさそうだ。
デュランダルの冷静な声が、二人に待ったをかける。
「ど、どういう意味だ?」
――どうやらもう一人が本気を出したようだ。奴の持つ剣からただならぬ力を感じるようになった。
「な、何だって!?」
驚いたロイたちが舞台を見やると、そこにはサンが打ち出す光弾を次々と斬り伏せるライジェルの姿があった。
よく見ると、ライジェルの持つ剣で斬られた光弾は、後ろに飛び火することなくその場で消滅していく。しかも、光弾を斬る度にライジェルが持つ赤い剣の刀身がその色を増していくように見えた。
「あれは、まさか……」
――ふむ、そのまさかだ。あの剣は我と同じ魔力を吸収して力を増す魔剣のようだな。今日は本当に驚きの連続だ。この力が魔王討伐当時にあれば、あの日、世界から喝采を浴びたのは主ではなかったかもな。
「おいおい旦那よ。いくらなんでも、そこまではないんじゃないのか? 俺たちが命を賭けて戦ったあの戦いまで否定されちまったら、俺たちの立つ瀬がないじゃないか。
――どうかな? そう思うのであれば、キリンよ。お前があの男に勝って証明するしかないのではないか? 少なくとも我が主では、今のあの二人には到底及ばないからな。
「お、おう。見ているがいいさ。今日の試合にバチーンと勝って、明日の決勝で俺たちが本物の勇者のパーティーだってこと証明してみせるさ……って、ロイ?」
そこでキリンは、ロイの様子がおかしいことに気付く。
「どうした。何だか顔が青くないか? 自分より圧倒的に強い者を見て、怖気づいたのか?」
「えっ? いや、違うけど……」
ロイは即座に否定の言葉を口にするが、それでも相変わらず顔色は優れない。
「キリン、実はだな……」
ロイは声のトーンを落とすと、インから聞いたこの国の王族であるマレクが行っている魔法の研究についての話をした。
マレクの研究は、魔法を使った武器の開発だということ。
それが具体的にどんな研究かは知らないが、目の前で戦っている二人は、この国の魔法使いが開発した武器を使っているようだということ。
つまり、この二人のどちらか……もしくは二人ともマレクと繋がりがあるということだろう。
「な、何だって!? それじゃあ……」
「いや、今は、動くべきじゃない」
本当ならキリンと一緒に今すぐにでも飛び出していきたい衝動に駆られるが、ロイは深く深呼吸してどうにか抑える。
「セシリアについては情報屋が調べてくれているし、下手に動いて連中に嗅ぎ付けられたら彼女の命が危なくなるかもしれない。だから、ここは信じて待つんだ」
「……わかった。ロイが信じるなら、俺も信じよう」
キリンがしぶしぶながら頷いて引き下がると同時に、
「ああっと! ライジェル選手、サン選手の義手を一閃、何と真っ二つにしてみせました。これでサン選手の手持ちの武器は全て破壊されてしまいましたので、ライジェル選手の勝利です!」
決着がついたのか、マシューの興奮した声が場内に響き渡り、観客の歓声に応えるようにライジェルが手を振っている。
敗北したサンは、失ったのは左手の義手の先まで剣で斬られたようで、大量の血を流していたが、命に別条はないようで、治療を受けながらも手を挙げて観客に健在ぶりをアピールしていた。




